軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十三話 山を下りよう

◎コーラル神殿 客室

「とんでもないことに気が付いてしまった」

朝起きた風音は愕然としていた。ある事実に気付いたからだ。

「何この布団? モッフモフやん」

洗濯する人もいないのに、虫に食われたりゴワゴワすることもなく、みた目通りの高級ベッドそのままの寝心地に風音は驚愕していた。

「しかもアイテムボックスにも入れられる。持ち帰れる!」

アイテムボックスのリストには不滅の布団と出ている。

「よし弓花の分も持って帰ろう。これは睡眠が捗る」

その朝、嬉々としてアイテムボックスに布団を放り込む風音の姿があったがそれを見て咎めるものはなく、また風音はアーティファクトの部屋にあったトーチ代わりの光る水晶も何個かアイテムボックスに入れていた。ちなみに盗まれたアイテムは販売できないとかそういう制限はない。

こうして風音は自身の魔力がフルに、紅の聖柩の魔力が半分ほど貯まったのを確認するとコーラル神殿を後にした。

◎アルゴ山脈 登山口

「んーー?」

サンガクくんの出来がヤバい。具体的に言うとここまでの道のりがまるで苦でなかったくらいヤバい。あとサイズもケッコウヤバイ。ここらへんのグレイゴーレムより背もかなり高いし杖とか持ってる。なんか強そうで怖い。

そんなわけでちょうど山の登り道の入り口付近にいた人たちがサンガクくんを見て悲鳴を上げていた。風音も『犬の嗅覚』で先に人がいたことは分かっていたが、一般的にはサンガクくんが魔物にしか見えないことを失念していた。

「え? ちょ? うわーー!?」

その結果、先制攻撃で飛んできた矢が何本もサンガクくんに突き立った。

(うわっ、崩れる!?)

そしてサンガクくんは一気に瓦解した。ヒッポーくんよりは防御は高いが戦闘用ではないのでサンガクくんも脆いのだ。

結果、中にいる風音もただの石と土に変わるサンガクくんの中で埋もれつつあり

「スキル・キリングレッグ!」

やむなく一気に蹴りを放って弾き飛ばした。

「うおっ、ゴーレムのなかから女の子が出てきたぞ」

「ゴーレムって人間食うのか?」

二人組が崩れたサンガクくんと「あ〜あ」と残念そうな風音の前に駆け寄ってくる。

「おう、嬢ちゃん。危ないところだったな」

「魔物に食われてよくもまあ無事だったもんだ。運がいいな、嬢ちゃん」

(まあ良かれと思ってしてくれたんだよねえ)

と、風音もさすがに怒るのも理不尽という気がしたので素直に礼を言う。

「まあ、なんというか、ありがとうね。オジサンたち」

「なーに、俺たちも冒険者だしよお」

「ここでちょっと人を待ってたんたんでな。そのついでだ、ついで」

二人がそれぞれ風音のお礼に答えるが、背の低い方が風音を見て微妙に「?」という顔になる。

「なあ、ボブ兄貴。ちょっと気になったんだが」

「なんだキース?」

キースと呼ばれた男が懐の紙を取り出す。

「探している鬼殺し姫ってこの娘さんじゃねえか?」

「鬼殺し姫?」

風音が初耳の言葉に首を傾げる横でボブはキースに返答する。

「何言ってんだキース。鬼殺し姫といえばひとっ飛びでオーガの頭上を越え、ひと蹴りでオーガの首の骨を折り、ひと叫びでオーガ300匹が逃げ出したってえ話だぞ」

(ああ、概ね事実だなあ)

風音は他人事のようにそう思った。

「でもよお、背の低い女の子で剣と杖持ってるゴーレム使いって…む?」

「ゴーレム?」

二人が崩れた土塊を見る。二人とも「あー」という顔をしている。風音も「分かっちゃったかぁ」という意味での「あー」という顔をしていた。

「あの…」

突然キースが低姿勢になり風音に尋ねる。

「なに?」

「もしかしてカザネ・ユイハマさんで?」

「そうですが何か?」

嘘をつく必要も感じないので正直に応える。そして風音は目の前の二人の顔がみるみる青ざめていくのをこれまた他人事のように見ていた。

◎コンラッドの街 冒険者ギルド事務所

「まったく。別に使いなんて出さなくてもいいのに」

「まあ山に入ってから三日降りてこないんだもの。心配にもなるわよ」

膨れ面の風音にプランは苦笑いで応える。もっともプランが心配してたのは事実だとしてもボブとキースを山まで行かせたのは風音が先ほど入り口で見た商人たちである。本当に帰ってくるのか不安になっていたのだろう。

「それと私の変な噂が流れてない? 鬼殺し姫とか?」

風音が不機嫌なのはそれが原因だった。ボブアンドキースは帰りの途中、風音のことを素でビビっていたのである。特に道中の「本当にオーガを蹴り殺したんですか?」というボブの言葉に大木をひと蹴りで破壊するという実演を見せてからはなおさらだった。

というか二人が完全にビビってたのは聞いた噂がありのままの事実だったのを知ったからである。自業自得である。

入り口で風音を見て「この子供が」と不審がった商人たちを「この人こそは」と説得に回っていた例の奴隷商のおじさんが噂の出元という気がしたが、あの戦いを実際に見た人間じゃないと分からないような話もあったのが気にかかった。

「ああ、それなら今も酒場にいるギャオとかいう獣人がペラペラとしゃべってたけど」

「ああ、あの人か。ここに来てるんだ」

風音が眉をひそめる。

「それと彼のつれてきた商人たちもね。あんた、大人気みたいねえ」

「はは…」

娯楽の少ないこの世界では、オーガ三〇〇体が逃げ出した鬼殺し姫の話などは非常に貴重なエンターテイメントだ。もはや風音の望む望まざるに関係なく噂が一人歩きするのは目に見えていた…ということを風音は今悟った。

「ワル目立ちしないように〜なんて思ってウィンラードで心機一転頑張ろうとしてたのにね」

「手遅れもいいところよね」

「そうだねえ。ふぅ」

と、風音がため息を吐いたところで、あることを思い出した。

「そうだ、プラン。これなんだけど」

風音は四枚のギルドカードを取り出す。

「なんだい…ってこれは!?」

そのカードを眺めたプランが目を見開く。

「見つけたときには手遅れだったんだ」

あの護衛放棄の、ルーたちのギルドカード。

「国境を越えようとして失敗したみたい。山の洞穴で亡くなってたよ」

「そう…」

プランは風音から手渡されたそれを受け取る。

「この時期のアルゴ山脈を…」

そしてプランは首をゆっくりと横に振る。何度も。

「ホントバカな子たちだったのね。本当に」

カードを見ながらしばらく呆然としていたプランだが、受け取ったカードを纏めて、机の中にしまい込む。

ギルドカードはドッグタグに近いものであり、僅かばかりだが持ち帰った冒険者には褒賞も出る。プランは努めて事務的にその処理を行う。

そうして風音の前に8キリギアを置くとプランはうつむいていた顔を上げ風音を見る。

「まあ、この稼業で生きていくなら覚悟はできてたはずさ。カザネ、あんたも気をつけるんだよ」

プランは慈愛に満ちた目で風音にそう忠告する。

「どれだけ強くたってね。人は死ぬんだ」

「そうだね」

風音はコーラル神殿のおそらく同じプレイヤーだった白骨死体を思い出す。

「肝に銘じておくよ」

風音は頷き、そしてもう一枚取り出してプランに見せた。

「それは…?」

「ごめん。もうひとつカードあったんだ。こっちは別口だったんで」

「…ヨハン・シンプソン?」

プランはそのギルドカードを受け取り、名前を読んだ。

「その人のこと知ってる?」

「うーん。どこかで聞いたような。ちょっと待ってな」

プランは帳簿を開き、何ページかを確認する。

「ヨハン・ネルマ…ヨハン・ワルシャワ…ああ、あった。一年ぐらい前に登録してる」

「1年…」

風音は弓花よりも随分とまた時間がズレていることを知る。

「ちょっと記憶が曖昧なんだけど一度登録して、多分二度は来なかったような」

「その人って私や弓花みたいに黒髪黒目だった?」

「いんや。金髪で目は…青かったかな? あんま覚えてないけど」

(やっぱり日本人じゃあなかったか)

だがそれが何を示しているのかは分からない。

「で、そいつも亡くなってたわけだ?」

「コーラル神殿の中でね」

プランがあんぐりと口を開けた。

「まさか、あんた入れたの?」

「まあね」

風音はあっさりと頷いた。

「まさか本当に…で、何かあった? お宝は?」

さすがのプランも興奮気味に尋ねる。

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました」

風音はそう言ってアイテムボックスから布団をひとつ取り出した。

「布団?」

プランが拍子抜けの声を出すと風音が猛烈にまくし立てた。

「ただの布団じゃないよ。不滅の布団っていって千年放置しても汚れも虫食いも埃臭くもないんだよ」

「なっ!? それは…凄い…んだよね?」

期待してたのと何か違うとプランは思う。

「勿論、いつでもどこでもモッフモフの布団で寝れるんだよ! 人生の1/3は寝てるわけなんだから、これがあればもう人生の1/3は勝ったも同然じゃないかな!」

「えーと、まあ、必需品ではあるかな」

プランの中では、風音のテンションの高さからコーラル神殿に入ったのは事実だろうとは考えたがコーラル神殿そのものの価値は大幅な下方修正となった。実際にこの布団の生地の性質を理解していればまた別の感想もあったろうが。

「じゃあコーラル神殿はもう解放されたってわけ?」

プランの質問に風音は横に首を振る。

「いや、私ももう入れないだろうねえ。あそこはそういうところみたいだから。持てるだけ布団は取ってきたけどもっと持ってくるべきだったかなあ」

「ああ、そうなんだ」

コーラル神殿・お宝は不滅の布団・まだ存在している…とプランはメモを取る。ギルドに後で報告するためである。

「それと、護衛クエストのほうはどうなってるの?」

風音のここへの元々の用向きは、このクエストの確認である。

「随分と集まってたみたいだけど」

街の正面門にはかなりの商人と馬車が集まっていた。

「予想外に集まってね。ウィンラードからの護衛のギャオたちと一緒に明日にでも出てほしいんだけど、いいかい?」

「問題はないね。私もウィンラードには早く帰りたいしね」

風音がそう言って頷き、プランの出した指名依頼書にサインをした。