軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百十四話 発見をしよう

◎ハイヴァーン上空 竜船貨物室

「いきなり押し掛けてすみません」

ルイーズの言葉に竜船管理局の局員の若い方が「いいえ」と照れくさそうに答える。

風音とルイーズは現在、竜船の貨物室の入り口に来ていた。ルイーズが乗船している竜船管理局の人たちに悪魔狩りとして掛け合って、局員の監視の元で荷物の確認を行えるよう交渉したのだ。もっとも貨物室に通されたのは悪魔狩りであるルイーズと、悪魔を判別できる風音だけであった。

「それにしても白き一団の方々と直接お話しできるとは、世の中何があるか分からないものですね」

どうやら付き添った職員二人のうちの片方は先の大闘技会で風音たちの活躍を見ていたらしい。とはいえ、今その若い局員が見ているのはルイーズの暴力的なモノであった。あくまでチラチラとだが、男の欲の混じった視線をごまかすのは難しい。風音も即座に気が付いたが、ルイーズが寧ろ挑発するような姿勢なので何も言う気はない。若い職員をからかって遊んでいるのだろう。もっとも、もう一人の方はそういうのには興味がないようで、貨物室の中を見ている。

「まあ、リーダーさんはともかく、あたしはあまり活躍してるわけではないけどね」

「いえ、大闘技会では悪魔相手にずいぶんとご活躍したと伺っていますよ」

特におべっかでもないような口調で局員はルイーズに返す。そもそも、その腕があるからこそ、ここを通されたわけでもある。

「それでどうしましょうか」

「一応、探索には協力はしますが、さすがに荷物の中を一点一点確認するというのは難しいんですが」

若い局員に続いて、中年の局員がそう告げる。

「そうねえ。カザネ、どうかしら?」

「うん。上にいるときよりも強いね。もう勘違いじゃないって断言できるくらいには臭うよ」

「それじゃあ、ともかく臭いの元にまで案内してもらおうかしら。一応、護衛もつけるわね」

そう言ってルイーズはブォンっと音を発生させながら、ライトニングスフィアを呼び出した。その放電している青い光の固まりに局員たちは驚くが、風音は当然動じることはない。

「手慣れてきたねえ」

「まあね。いざというときに使えないと困るじゃない」

そう言いながら、ルイーズはライトニングスフィアを3つに分離させ、突然の奇襲にも対処できるように自分たちの周りを巡回させる。それを見て風音は「器用なこと出来るなあ」と呟く。

「そんじゃ、頑張って探そうっと」

そして風音はルイーズたちの先頭に立って、鼻を集中させる。

「いろんな臭いが混じってるねえ」

食料品に、武器や資材、区画を分けたエリアには家畜と何かに使うのか魔物等、またそれを管理している人も何人かだがいるようだった。不思議な倉庫や袋を纏めたエリアもあるようだが、臭いの元はそこではない。

「奥かな」

臭いは僅かだが、しかし確かにある。そして先へと進んでいくとソレにルイーズが気付く。

「あら、何かしらこれ?」

それは白い包みに覆われた荷物だった。そのルイーズの指摘するモノを見て、風音が鼻をスンスンとする。

(臭いは……ここから出てるかな)

風音が床に近い位置で白い包みが破れているのを確認する。そして漂ってくる臭いと同じものを風音は知っていた。

(封呪布……悪魔狩りのものと同じ術式か。やってくれるわね)

そしてルイーズはその包みになっている布が自分も使っている悪魔封じのものであると理解し、その瞳に怒りを宿らせていた。だがその気持ちを押さえ込んでルイーズは風音に尋ねる。

「カザネ、嫌な臭いってのはこれから出てるわけ?」

「だねえ。この臭いを封じてる布、鼠にでも食われたっぽいね」

「ああ、時々出るんですよ。いろんなモノが運ばれるから紛れ込んでるんでしょうね」

風音の言葉に若い局員がそう答える。

「一応鼠除けの魔法具も用意してるんですが、あまり効かないんですよ」

局員の言葉に風音は相槌だけを打って、その場で結論を口にする。

「布の中も厳重に木箱で閉じこめられてるみたいだけど、これブラックポーションだね」

「へ? ブラック?……これ、全部ですか?」

若い局員の言葉に風音が頷く。若い局員もすでに冒険者ギルドを通して、ブラックポーションの禁輸の連絡は受けている。であるにも拘わらず、この山のように積まれたものがすべてそうだと目の前のチンチクリンは言うのである。

「そんな。でもここにあるっていうのは、ナザレさん?」

若い局員が同僚である、ナザレという教員を見た。

「問題だな。クラーク、ここは私が見張ってるからそちらの方々と一緒にこの荷物の送り主と届け先を調べてくるんだ」

ナザレは、白い包みの横に張ってある紙をとってクラークという若い局員に渡す。

「あ、はい。分かりました。それじゃあルイーズさんとカザネさんも上に戻ってみてみましょうか」

「カザネ、中が動く気配はある?」

「うんにゃ。静かなもんだよ」

おそらくは悪魔から生まれたであろうブラックポーションではあるが、現時点ではまったく動く様子はなかった。

「それにしてもなんでこれ、竜船で運んでるのかしらね」

「話の通りに薬の出元がソルダードだとすれば、今はミンシアナへ直接輸出するのは難しくなっていますから」

クラークの言葉にルイーズも「ああ、なるほど」と納得した。

「ハイヴァーンと竜船を経由してミンシアナにこれを運ぼうとしたわけだ」

風音もゆっこ姉へのメールに連絡しとかなきゃなぁ……と思いながら、貨物室を出て行こうとした。

そして、パキッという音がした。

それには三人が一斉に、その音の方に振り向いた。

「ナザレさん?」

掠れたようなクラークの声が風音に聞こえた。そして風音の視線の先には、ナザレがいて、その手には白い仮面があった。

「ルイーズさん、あれって?」

風音の声に、ルイーズは返答もせず、宙に浮かんでいたライトニングスフィアをナザレに飛ばす。

「ギャッ!?」

ライトニングスフィアの雷撃にナザレが悲鳴を上げて倒れ、白い仮面が床に転げ落ちる。

「カザネ、仮面をッ!」

「うんッ!!」

ルイーズの言葉に風音が走り出す。

「ははは、もう遅いですよッ」

そんな中でナザレは床に突っ伏しながらも、笑みを浮かべて、そう口にした。そして白い包みの中からバキャバキャと何かが割れていく音がする。

「なんですか、あれ?」

クラークが顔を真っ青にして声を上げる。ルイーズこそ、その疑問の答えを知りたかったが、だがそれはすぐに包みの中から出てきそうだった。

「仮面は呼び水、ただ活性化させるためのもの……そして」

「ぬっ!?」

走り出した風音だが『直感』が働き、その場で止まり、

「ダメか、こりゃっ!」

バキャンと包みの中の木箱が破壊され、黒い何かが飛び出してくる。風音はバックステップでかわすが、ソレの狙いは風音ではなく落ちている白い仮面とその場でうずくまっているナザレだった。

「ぐっ?」

そして信じられないという顔でナザレは自分の胸に突き刺さっているモノを見る。

「わた……しの命……れいを……ゴプッ!?」

落ちていた白い仮面を取り込んだ黒い液体のようなソレはナザレの身体を貫き、そしてナザレの体液を吸い取っていく。そのままナザレがミイラのようになって死ぬまでに数秒と掛からなかった。

「なに、あれ?」

風音がその様子に口を抑える。人の死に直面したことがないわけではないが、目の前であの殺され方はさすがに堪える。

「悪魔ヒルコ……」

横でルイーズが苦々しく口にする。

「ゲンゾーさんのときみたいな?」

「大闘技会みたいに暴走してるわけじゃないみたいね。多分、仮面が制御してるんじゃ」

「だったら仮面を壊せばいいの?」

風音がそう口にするが、悪魔ヒルコの表面にボコボコと大小の仮面が無数出現する。

「なんで、複数?」

風音が悲鳴を上げるが、その顔の一つがさきほどのナザレのものだとルイーズは気付く。

(まさか、あのポーションの正体って……)

おぞましい想像がルイーズの脳裏をよぎる。

「来るよっ!」

しかし、その想像を口にする間もなく、悪魔ヒルコはスライムのような黒い身体から無数の手足を出して、こちらに向かって走り出したのだった。