軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百十五話 翼を折ろう

「キモいッ!?」

ゾワゾワとしたものが風音の全身を駆けめぐる。だが、風音が悪魔ヒルコに対抗しようとする前にルイーズが動き出した。

「護りなさいライトニングスフィア!」

飛び出してくる悪魔ヒルコの前に青い雷の壁が広がり、それに触れた途端、ジュッと悪魔ヒルコの触れた部分が蒸発する。だが悪魔ヒルコはそれで下がらず、前へと突き進む。

「くっ、抑えきれない」

「ユッコネエッ!」

ルイーズの表情を見て、風音はすぐさまにユッコネエを呼び出した。いきなりの魔物の登場に局員のクラークが悲鳴を上げたが、今はそんなことに構ってはいられない。

「ユッコネエ、ルイーズさんとクラークさんを安全な場所にッ!」

「にゃーー!」

風音の指示にユッコネエが鳴いて返事をし、尻尾二本でルイーズとクラークをがっちりつかんで、そのまま逃げてゆく。風音もスキル『ハイダッシュ』で離れる。そして同時に、ルイーズのライトニングスフィアが破壊された。

「うわっと!?」

悪魔ヒルコはライトニングスフィアを壊した後、先が尖った触手を風音たちに飛ばしたので、風音はそれをスキル『イージスシールド』で弾いた。

(やっぱり、魔力体か。マテリアルシールドじゃ防げない類かな、こりゃ)

その風音の思考を余所に悪魔ヒルコは風音たちに見向きもせずに貨物室の出口へと走っていった。それは風音にも予想外の行動だった。

「え、こっちに来ない!?」

戦う気概で待ちかまえた風音が、素っ頓狂な声を上げる。ライトニングスフィアの壁にも特攻してきたから攻撃性が高いものだと思っていたのだ。

「まさか、逃げる気じゃあ」

ルイーズの言葉には風音も「しまった!?」という顔をする。だが敵は速い。甲板に出るまでに追いつけそうもなかった。

「くっ、弓花と直樹、気付いてよ!」

であれば、と風音は瞬時にウィンドウを開いて緊急メールを送る。

「カザネ、行くわよ!」

「了解ッ!」

タッーンと送信ボタンを押しながら、風音は二人を乗せたユッコネエと走り出す。

◎ハイヴァーン上空 竜船甲板

「弓花ッ!」

「分かってるわよ、あーもう!?」

直樹の言葉に、弓花がいらだって答える。

『悪魔いた。逃げる』

風音から送られたメールは甲板上で待機していた直樹と弓花にすぐさまに届いた。貨物室への入室を認められたのは風音とルイーズだけであったが、風音の鼻が確かであるならば最悪、悪魔との戦いもある。だから白き一団はすでに武装済みの状態で外で待っていたのである。

「ぬ、何か来るぞ」

貨物室へと続く通路の前に立ち構えているジンライが奥からの気配に反応する。

「なんだぁ?」

「ちょっと、何かあるのか?」

「アレ、白き一団の……」

「武装して、まさか竜船を乗っ取るのか」

今はまだ夕刻。周囲では一緒に竜船に乗り込んだ乗客が何事かと近づいてきている。その様子に弓花は焦る。

「離れてッ!!」

そして弓花の声とともに、ソレはジンライの頭を飛び越えて外へと飛び出した。

「黒い固まり?」

「あれって大闘技会の!?」

「悪魔じゃねーか!」

出てきたのは黒いスライムのような巨体。いくつかの白い仮面に無数の手足が出ている歪な化け物であった。騒ぎに集まった乗客たちの中に大闘技会での悪魔騒動に立ち会った者がいたのだろう。悪魔との声に乗客たちは叫びながら雲霞のように去っていく。だがジンライと神狼化した弓花はその化け物に対し駆けていく。続けて召喚体であるジン・バハル、魔狼クロマル、ティアラの 炎の有翼騎士(フレイムパワー) も二人を追う。

「まずは一矢!」

だが、悪魔に対するファーストアタックはエミリィの矢であった。新たに強化されている『白翼の竜鋼弓』を使って矢を放つ。モーフィアから教わった『牙竜』と呼ばれる竜気を宿した矢は、悪魔ヒルコに見事に命中し、颯爽と逃げ出そうとした悪魔をたじろがせた。

「よくやったぞエミリィ!」

ジンライが孫をほめたたえながら、悪魔ヒルコに突進する。

『ブォォオオ!!』

それに対し悪魔も悲鳴なのだか分からない音を発しながら、ジンライに無数の鋭い触手を突き出していく。

「温いわッ!」

対してジンライはそれをまったく意にも介さぬように、弾いていく。いかに触手の数が多かろうと阿修羅王モードの猛攻を耐えたジンライにはパワーもスピードもない触手攻撃など児戯にも等しいのだ。

だが、攻撃をはじきながらも切りつけるジンライの攻撃もまた悪魔ヒルコへの致命傷は与えられていない。槍で突いて、切り裂いてもダメージの通りが弱い。ジンライの槍は確かに強力だが、スライム状の敵を倒すのには向いているとはいえない。コアを破壊できれば良いのだが、悪魔にはコアがない。また白い仮面も体内に沈んでいるようだった。

「師匠ッ!」

「助太刀する!!」

しかし弓花とジン・バハルが参戦したところで悪魔ヒルコの消耗は加速する。その上に魔狼クロマル、ティアラの 炎の有翼騎士(フレイムパワー) も左右に回り込んで、攻撃を仕掛けようとしている。これならばいずれ削り切れる。

『グッブァ!?』

だが、それに気付いた悪魔ヒルコは瞬時に、再度逃げる準備を行い始めた。

「逃がすと思うか!」

「師匠、ダメ。下がって!?」

ジンライが踏み込んで追いかけるが、だが『直感』で気付いた神狼化弓花の声を聞いて、方向転換をして一気に下がった。そして悪魔ヒルコの身体が分離し、別れた片方がボコボコと膨れ上がる。

(爆発だとッ!?)

ジンライの背筋に冷たいモノが走る。ジンライには防御手段は少ない。特に広範囲系の術への対抗手段を持ち合わせていないのだ。

「ライル、守りはッ!」

「任せろっ!!」

だが、後ろから救いの声が響く。そして七色の閃光が走ったと同時に爆発が起き、ジンライの前に不可視の盾が出現していた。直樹の水晶竜の魔剣によるセブンスレイが爆発を削ぎ、そしてライルの持つ反響の盾章のシールドをジンライの前に張ったのである。

「キャァアアア!!」

だが、ジンライこそ大丈夫だったが、周囲にいた乗客が爆風によって吹き飛ばされていた。

「行って 炎の有翼騎士(フレイムパワー) !」

ティアラが指示を出し 炎の有翼騎士(フレイムパワー) が急ぎ追うが、しかし竜船から投げ出されたのは3人。ティアラで救えるのは一人が限度。そうティアラが思ったとき、閃光のように横からチンチクリンが飛び出していく。

「まーかせてッ!」

貨物室から出てきてすぐさま天使化した風音がハイダッシュとブースト、そして空中跳びを併用して、凄まじい勢いで飛び出していく。さらにはマテリアルシールドで落ちる乗客をトランポリンのように空中で跳ね上がらせて落下を抑え、風音は見事に女の子とお婆さんを、ティアラの 炎の有翼騎士(フレイムパワー) は中年の男を助けることに成功した。

そしてティアラが安堵の表情を浮かべるが、問題が解決した訳じゃない。

「あのヤロウ、翼にとりついてやがる!」

ライルの悲鳴に似た声が響いた。悪魔ヒルコが竜船の翼にとりついていたのだ。

「くっ、離れろっ!」

エミリィが矢を放つが、だが先ほどのように怯ませる効果はない。来ると分かっていれば悪魔とて耐えうることは出来る。そして悪魔ヒルコが逃げ出すには、これは必要な措置であったのだ。

(フレームはアダマンチウム製だから折れることはないけど)

風音が焦りの顔で走り出す。アダマンチウム製の部分は頑丈で問題はない。だが皮膜と人工筋肉部分はマッスルクレイで強度はあまりないのだ。破壊される恐れは十分にある。そう風音が考えたところで、竜船がガコンッと揺れた。

「やってくれるなぁ」

風音が歯軋りしながら苦い笑いを浮かべる。まさしく風音の想像通りに悪魔ヒルコはフレーム以外の翼の部分を破壊したのだ。

「落ちる?」

「嘘でしょう!?」

その様子に乗客が慌てふためくのも無理はない。確実に竜船は傾き、落ちようとしている。

「くぅ、逃げるかッ!?」

ジンライの声が響いた。悪魔ヒルコはそのまま、地上へと落下していったのだ。身体をタコのように広げてゆっくりと降下していく。アレではダメージもなく地上に降りられることだろう。しかし、現状ではソレを追うどころではない。

このままでは竜船が落ちる。そして待っているのは全員の死であった。