軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百五話 安全を確認しよう

◎東の竜の里ゼーガン 大竜御殿 神竜帝の間

「さて、終わったようですし私も行きますかね」

睨みつけるナーガの前でノーマンがにこやかにそう返した。突如やってきた神の端末。だがナーガはそれに対し憤り、怒気をはらんだ声で尋ねる。紅い殺意の籠もった竜気がその場を覆っている。

『我が后に何をした?』

目の前の人の形をしたモノは神の一部。だが、ナーガは風音を害しようと言うのであれば神をも殺す気でいた。

「何を……と言われれば、やったことは彼女に精神耐性のスキルを神の加護としてつけたぐらいですかね」

『冗談を聞きたいわけではない。大神が降りてきたのだぞ。下手をすればこの地域一帯が崩壊しかねん状況だった』

実際には地域一帯で済むものではなかった……とはノーマンは口には出さなかった。この地に根を下ろす神としても看過できなかったからノーマンも今ここに召喚されたのだ。

「それは仕方がありません。彼女の中には大神が入り込む為の扉があった」

『なんだと?』

「私はソレを塞いだだけです。ご心配せずとも風音さんももう安全でしょう」

『…………』

その言葉にはナーガは沈黙する。その意味するところを考え、触れるべきではないと判断し、口を開いた。

『……カザネはもう安全なのだな?』

「それは保証します。彼女は真っ当な存在です。今後彼女がアレに害されることはないでしょう」

『ならば良い。カザネに害がないのであればな』

その言葉にはノーマンは苦笑する。

「ああ、害という点についてはこれから先に起こることはちょっと保証できないかもしれませんね」

その言葉に訝しむようにナーガはノーマンを見た。

『どういうことだ?』

「神様としてのお仕事ですから。神の目たる私の前で、その力ある者が魔王を宣告したんです。神託は下されるでしょうね。ま、風音さんの名前は伏せるようにしときますが」

その言葉にナーガがため息を吐いた。それに対して目の前の少年を恫喝したとしても、意味はなさない。魔王が現れたことをノーマンのような存在が確認してしまえば本体である神にもその情報は既に送られているという事だ。そしてその情報は各地の神に送られ、神託として神殿に下るのは避けられない。それは身から出た錆でもある。であれば、ナーガに出来ることは風音に害が及ばぬように最大限フォローすることであろうと。

(まったく、そなたと共にいると退屈はせぬようだな、カザネよ)

惚れた弱みだ。ナーガは苦笑することしかできなかった。

◎東の竜の里ゼーガン 南の封印宮前

「すみませんでしたーーーー!!!」

風音、一世一代の大土下座である。いや、一世一代どころかかなりの回数の土下座が行われた気もするが、まあそれはそれである。

風音が正気を取り戻した後、すべての状況を聞いた風音がとった行動はまず土下座であった。土下座多すぎである。

「ドア磨きでも、全裸土下座でも、お尻にネギブッ刺しでもなんでもやります。ごめんなさい」

そして続く言葉に直樹が鼻血を吹き出して倒れた。ティアラは「そんな、駄目ですわ。でも刺すならわたくしが」とドキドキしていた。他のメンバーはさすがにネギは……という顔だった。

「いや、カザネ様。今回の件は私にも責任があります。乗り込む前に気付いていたのだから私がお伝えしておけば」

風音の言葉にはスザも前に出て、そう告げる。スザは朝の段階で覇王の仮面と鎧についての危険性を認識していたのだ。風音が普段大丈夫であったからといって問題ないと考えるべきではなかったのは確かではある。

「いや、ワシこそ叡智のサークレットを借りていなければ」

ジンライは正直なところ、このようなことが予想できるはずもなかったので責任ということはないのだが、原因の一因ではあるには違いなく、反省しているようであった。

「ううん。やっぱり私の不注意がいけないんだよ」

これはその通りであろう。風音はゼクシアハーツ内で、性格が変更されることは知っていたのだ。普段大丈夫だからと言って、油断しておくべきではなかったのだ。

「まあ、幸い、被害はこの荒れ果てた地面ってだけだからね」

ルイーズがそういって周囲を見回す。ストーンミノタウロスや蹴りで破壊された地面が放置されている。文字通り、荒れ果てた大地がそこにはあった。

「それは……魔力が戻ったらゴーレムメーカーで直せるけど」

そう風音は言う。

「であれば私からはそれだけで何も言うことはございません」

スザはそう返した。もう少し慎重に事を進めていればこんなことにはならなかったのは間違いないだろう。風音の頼んだモノがあまりにも好奇心をくすぐる提案だったので浮かれ過ぎていたのだろうと自分を心の中で戒める。

「スザさんはああ言ってるけど。風音、アンタはアンタでちゃんと反省しなさいよ」

「うん。みんなにも迷惑かけちゃったもんね」

風音がショボンとしていると、弓花がため息を付く。

「迷惑なんていくらかけたっていいわよ、友達なんだから。そうじゃなくってね。あんたが危ない目にあったら私たちが悲しむの」

「……弓花」

「だからね。私を泣かせないように気を付けなさいって言ってるのよ」

そう言って弓花は親友の頭をポンと叩いて、風音も「弓花、ありがとう」と小さく返した。

「ま、まあ、そういうことよ。ねえ、師匠?」

そして弓花は照れ隠しにジンライに話を振る。ジンライはそれに神妙に頷き、口を開いた。

「うむ。ところでな、カザネよ」

「ん、なに?」

「あのロクテンくんを使った訓練を明日から行いたい。どうだろうか?」

「師匠!?」

弓花の良い話が、台無しであった。

「いや、ワシとお前が同時に戦っても対等にやれたんだぞ。アレと毎日やり合えるんなら、それは最高ではないか!!」

俄然張り切るジンライである。その場の何人かが頭を抱えている。

「うーん、魔力消費激しいから、何にもない日の夕方の訓練とかなら行けると思うけど」

「よし、じゃあやるか。今日から」

「師匠。拙速すぎますよ!?」

そう言う弓花だが、ジンライはどうやらアドレナリンをグツグツとたぎらせ、再戦のことを考えているようだった。相変わらずバトル脳、さすが家庭を顧みないで最強を目指す男である。

「いや、今日はもう無理だけどね」

とはいえ風音も調子悪そうな顔でそう告げる。もう完全に魔力切れで、風音は風音で身体がかなりだるい状態だった。魔力も自分の身を全快させるだけでなく紅の聖柩や蓄魔器にも貯めないといけない。この後、ゴーレムメーカーで整地するにしても1日以上は貯めておかないとフルで回復は出来ないようだった。

そしてその横で「あれ、お尻は?」と口にしている直樹がいた。その後ろから弓花がガッシリと直樹の肩をつかむ。

「あ、そうだ。あんたは別でお説教だから」

「え?」

「さすがに独断専行で突っ込んだのはいけないものねえ」

ルイーズもそう言って笑った。目は笑っていない。

「今回のお前の行動は命に関わる可能性があったのだからな。反省はしてもらうぞ」

ジンライの言葉に直樹は「うっ」という顔をしたが、その場で俯いて頷いた。今回の直樹の行動は非常に危険をはらんだモノだった。気が触れた相手に対しては落ち着いた説得こそがまずは先であろうというのに、さっさと飛び出してしまったのだ。捨て置くには大きい問題だ。

そして直樹は当面はコッテリと絞られることとなる。まあ、それが本人にとっても血肉となるのであるのだから、無駄にはならないのだが。

また今回、魔王の威圧にやられてまともに動けなかったライルとエミリィも自己反省をし、よりいっそうの特訓に励もうと誓いあっていた。

『母上、スゴかったです』

「うん。ありがとうタツオ」

この反省会の雰囲気の中で唯一普段と変わらないタツオが風音の頭の上に乗りながら目を輝かせてそう言う。単純に母を賞賛したいという気持ちもあるだろうが、やはりドラゴンであるので強いことこそに重きを置いているようである。

『あ、父上ーー』

そしてタツオが上を見て手を振る。見上げれば赤い水晶の身体となった神竜帝ナーガが飛んできていた。そのままナーガは、スザや一緒にいた竜人の鍛冶師などが頭を下げる中でバサァッと降りたった。

「旦那様、どうしてここに?」

『夫が妻を心配するのは当然であろうよ』

そういうナーガに風音は申し訳なさそうに言葉を返す。

「うん、でも悪いのは私だし。なんか、失敗しちゃって」

『ああ、反省するが良い。汝はまだ若い。間違いを犯すこともあるだろう」

ナーガはそう言って頷く。

『だがいつでも我は汝の味方だ。それを忘れるな』

「うん、ありがとう旦那様」

弱々しくではあるが、えへへと笑う風音である。

「あーお熱いのは結構ですが、下りますよっと」

ナーガの背から突然声が聞こえたかと思えば、颯爽と少年が飛び降りた。それは勿論神様ことノーマンである。

「あれ、ノーマンさん?」

風音だけでなく、ナーガを除くその場の全員が驚きの顔でノーマンを見る。特に風音は何かさきほども見たような不思議な気持ちでノーマンを見ていたのだが、見られている本人は特に気にせず口を開いた。

「さて、風音さん。魔王認定おめでとうございます」

「え?」

風音は首を傾げた。無論、それはさきほどのことであろう。

風音自身には記憶にないが、どうやら自分は魔王を名乗っていたらしい。しかし所詮魔王ごっこである。いきなり何を言ってるのだこのお子さまは?という感じだったのだが、続くノーマンの言葉を聞くうちに風音の目は次第に丸くなっていった。