軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六話 魔王に認定されよう

「ということで、魔王アスラ・カザネリアンは冒険者である風音さんの名は伏せられますが、公式にここに認定されたわけです。おめでとうございます。ぱちぱちぱちぱち」

そう言ってノーマンは拍手をする。

風音は目が点になっているが要約するとこうである。

現時点において、風音は魔物から拾得したスキルにより支配の力を獲得している。その上で、魔法具に頼っているとは言え、人を凌駕する魔力量を持ち、一定以上の能力を持つ配下も従えて、魔王の装備まで手に入れて使いこなし、さらには自ら魔王宣告まで行った。

基本的にこの世界では自薦であるか他薦であるかは別としても、ノーマンのような神の目を持つ存在の前にそうした条件をクリアした者が現れると周辺の神々に知らされ、神託として告げられてしまうのだという。

ここ最近では二十年近く前に西にある新しく出来た王国の女王が魔王に認定されたことがあったとノーマンは口にしていた。

「マジで?」

風音の問いにノーマンは「はい」と頷いた。

「それって結局どういうことになるんですか?」

横で不安そうな顔で挙手した弓花にノーマンは「まあ、特には」と返す。

「なんにもないんですか?」

「ええ、そうですね。こういうのって大抵は魔王として事をなしたり、なそうとした力ある者が認定されるわけで、そうなれば色々と問題は発生するでしょうけど」

行動に際しての何か対応をされるというのは宣言があろうとなかろうと当然のことではある。

「まさかちょっと頭がパーになってて悪ふざけで宣言しちゃった場合にどうなるかというと、基本どうもならないのではないかと」

そして、現時点で特に害がないのであれば、基本的には何も起こらないというわけである。ノーマンの言葉によれば。

「とりあえずは魔王アスラ・カザネリアンはこの東の竜の里に現れたという事は伝えられますし、警戒はされるでしょうし、何かしら利用しようとしたり、討ち取って名をあげようという者もいるかもしれません」

それで本当に何も起こらないのかと言えるのか……と、聞いている大体の者が思ったが突っ込むには至らなかった。

「けど、一応私が……ってのは知られないんだよね」

「そういうことですね。ま、知られたらさきほど言った問題も出てくるでしょう」

「魔王アスラ・カザネリアンを封印する……しかないのか」

そう深刻そうに口にする風音だが、元々出任せで口にした名前である。惜しがる理由はあまりない。単にもったいぶってるだけである。

『ふむ。カザネよ。汝が国を造り、君臨したいのであれば、我も手伝おう』

「いや、そんな予定はないからね!?」

旦那の配慮が重い。

「うーん。ま、ここでゴチャゴチャ言っても仕方ないし、様子を見ながら考えるしかないかなぁ」

そして風音は風音で一旦保留という結論に落ち着いた。魔王であろうとも、善し悪しは兎も角、実績のない存在の価値というのはどこの世界でもそれほど高くはないものである。現状での魔王アスラ・カザネリアンという存在は魔王という稀少価値があるというだけのものでしかない。勿論、名声を欲してそれを狙うものもいるだろうが国家レベルで動くようなものでは無いのも確かだ。

『それがよかろう。ライノクスには我が話を通しておく。ここで出現したと神託が下るのであれば、それは竜の里とハイヴァーン公国の問題となろう。であれば、当面はおかしなことにはならぬ筈だ』

風音の言葉にナーガはそう返して頷く。頼れる旦那様であった。

ともあれ、魔王の件は一旦置いておくとしても、今回の件で風音が出した被害は大したものではなく、反省する人物は風音だけではなく、ペナルティは特になかった。魔力が回復するまでの間、風音は南の封印宮にいた竜人たちへの土下座行脚を行ったりもしたが、恐れ多いと逆に恐縮されたようである。

そして、当初の予定通り風音の装備も完成し、旅立ちの準備は整った。ロクテンくん完成から二日後、パイモンとヴァラオンがまだ修行から帰ってこないので、結局ヴァラオンへの浮遊島のバットラー13号等の話は伝言として伝えておくに留まり、再び風音たちは旅立つこととなったのである。

◎東の竜の里ゼーガン 上空 小型竜船・サンダーチャリオット内

「旦那様ーー、またねーーー」

『父上ーー、お達者でーーー』

来たときと同様に小型竜船にサンダーチャリオットを繋げて風音たちは大竜御殿より飛び立った。そして風音とタツオは後ろの窓から、ナーガたちに手を振っている。

「あー見えなくなっちゃった」

風音の言葉に隣でタツオがくわーと鳴いた。

「ま、またメールで連絡取ればいいじゃない」

横で弓花がそう言う。

「うん。そうだねえ」

まだ名残惜しそうに後ろを見ながら風音も頷いた。くわっくわっとタツオも頷いている。

「それで、これから向かう先はリザレクトの街で良いのよね?」

ルイーズが地図を広げながら風音にそう尋ねる。

「うん。さすがにこれで国境越えをするのは目立つしね」

小型竜船などを個人で使用していると知れればどこで問題が発生するか分からない。アオと共にソルダードを通ったときもソルダードの竜騎士に忠告を受けていたのだ。ハイヴァーン公国内は兎も角、他では通常のルートでの移動を心掛けようという結論になっていた。なので一旦はリザレクトの街まで行って、そこで来たときと同様に定期便の竜船に乗って、ミンシアナに戻ろうと風音は考えていた。

「ふーむ。移動ルートの間に温泉街はやっぱりないか」

地図を広げながらルイーズがそうつぶやく。どうやらルイーズは進行ルートの途中に温泉街がないかを調べていたようである。

「温泉かあ。ミンシアナに戻ったら、コーラル神殿に行くからコンラッドには行かないといけないし。そしたらまた温泉に行こうよ」

「そうねえ。その後は確かツヴァーラに行くんだったわよね?」

ルイーズの問いに風音が頷く。悪魔と浮遊島の件の書簡を風音たちは預かっており、それをツヴァーラの王都グリフォニアまで行き、アウディーン王へと届けなければならない。

「あたしも久方ぶりに自分の宿へ顔出そうかしらね」

今はこのパーティに参加しているルイーズだが、彼女はツヴァーラのトルダ温泉街で自分のホテルを経営しているのだ。もう半年近くほったらかしではあるが。

『そうよの。それに余とティアラもツヴァーラに戻らねばならぬ用が出来たしの』

ルイーズの腕の中にいるメフィルスがそう口にする。

「なんかあったの?」

首を傾げる風音にティアラが申し訳なさそうに口を開いた。

「お父様の戴冠式が遅れているそうなのです。なのでわたくしも一度国に顔を見せなければいけないようでして」

「?」「?」

それには風音も弓花もさらに首を傾げた。

「アウディーン君にね。ティアラ暗殺の噂が出てるらしいのよねえ」

そうルイーズが切り出した。

「なんで?」

当然の疑問だろう。アウディーンとティアラの仲は風音のことを抜かせば良好で、この旅にも気持ちよく送り出されたはずだった。そもそも目の前でティアラは生きている。暗殺されていない。

「なんでもアウディーン君に紅玉獣召喚の後継者の証である紅玉獣の指輪がないのが問題になっちゃってね」

『継いだのがティアラであることまでは伝えたようなのだが、肝心の本人がここにおるのでな。ではどこに?という話になり、あらぬ噂が流れたようなのだ』

ルイーズに続いてそう口にするメフィルスは、ルビーグリフォンの繋がりを持ってアウディーンと直接やりとりができる。そのため、本人から直接その話を聞いているようだった。

「それってやっぱり急いだ方が良いよね?」

『いや、日程さえ分かればそこに併せて式を挙げようと言う話であったからな。一ヶ月程度あれば賓客を呼ぶことも出来ようし、日にちを決めて貰えれば余はそれをアウディーンに連絡をするつもりよ』

そう言われて風音はウーンと唸って、それから口を開いた。

「うーん、一ヶ月だとちょっと厳しいかも。そしたら今日から一ヶ月半後くらいでいいかな? まあギリギリになったら竜船で飛んでけば良いわけだし」

風音の言葉にティアラとメフィルスも頷く。

そして一ヶ月半の後にツヴァーラのアウディーン王の正式な戴冠式が決定したのであった。果たして風音たちは無事期限までに、ツヴァーラまでたどり着くことが出来るのであろうか。イベントのエンカウント率が減っていることを祈るばかりであった。