軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百一話 魔王を新生しよう

それはもはや完全な化け物であった。

その鎧は内部から膨れ上がった何かに圧迫され、その全長は当初の3メートルを超えて今は3.5メートルほどになっていた。光に反射するメタリックな黒だった甲冑も黄金の輝きを帯びていき、ひるがえる赤いマントは真っ赤な炎を出して燃えている。

頭部の兜からは黒い角が突き出し、兜の隙間からはマグマのような紅色の髪が流れ出ていた。そして悪鬼の王が如き仮面は酷く恐ろしい気配を放ち、周囲を圧迫している。

両の手には3メートルはある巨大な二本の刀を持ち、背より生えた4本の腕にもそれぞれ1.5メートルはあろう紅の太刀が握られている。

そんな恐るべき化け物が、虹色のオーロラを周囲に纏わせ、巨大な漆黒の翼を羽ばたかせて宙に浮かんでいた。さらにはその巨体から発せられるプレッシャーは、周囲の空間を歪め、大地を圧迫して砕き、荒々しい魔力風を生んでいた。

その威容を前にすれば並の人間では近付くことどころか直視することすら困難であろう。下手をすれば精神を破壊されて即死しかねない。そして、すべてが極まったとき、それは口を開いたのだった。

『我は魔王、アシュラ……いや、魔王アスラ・カザネリアン。魔王カザネリアンは死に、そして真なる魔王として我、ここに新生せり!』

そう、その化け物は巨大な刀を持つ両手を広げ、自らを魔王と宣告した。その声には人間の本能の中にある恐怖という感情を刺激する力があった。それはまさしく魔王の言葉にふさわしいものだ。

「ティアラたちは下がって。目を見ちゃダメよ」

弓花が歯をガチガチと震わせながら、そう口にする。

「ぬうぅ。ワシが気圧されるだと」

ジンライが呻く。今のジンライには魔王の威圧は通用しない。しかし、その額には玉のような汗が出ていた。

「こうなった責任は私にもあります。15分堪えていただければ、止まるはずです」

スザもそう言って、炎の剣を取り出す。周囲の仲間たちもみな、その表情は険しく、目の前の魔王を名乗る化け物に後ずさりしている。

南赤候スザの住まう南の封印宮の前に突如出現した魔王の存在。その悲劇が何故に起きたのか、それを知るには少しばかり時を巻き戻す必要があった。

◎東の竜の里ゼーガン 南の封印宮前

「うぬれ」

ジンライがヨタヨタと歩いている。

全身土まみれで青あざも多くできていた。

「師匠、いい加減、そのサークレット外したらどうですか?」

弓花の心配そうな顔にジンライが首を横に振る。

「いや、あの英霊殿はこれを完全に使いこなしておったのだぞ。何もかも劣っているワシがこれぐらいで音を上げていられるか」

そう意気込むジンライであったが、慣れるには相当に時間がかかりそうだった。またヨタヨタと歩いていく。

「自分が二人いると思えば結構なんとかなるものですよ」

10もの召喚騎士を同時操作するティアラの助言にはジンライは「そういうものですか」と返すが、やはり上手くはいかない。才のないジンライでは早々に覚えられるものではないようだった。

「ま、とりあえずは封印宮の前まで来たんだしジンライさんももうそこに座って落ち着いてみててよ。ほら、ロクテンくん、来てー」

そう口にした風音の言葉に従って、封印宮の入り口から3メートルはある黒い甲冑巨人がやってくる。それはかなり迫力がある姿だったが、4メートルクラスの狂い鬼を見ている面々にはそこまでの驚きはないようだった。

「やっぱりキング・オダノブナガに近い姿なのね」

弓花の言葉に風音が返事をする。

「そりゃあ、あれの甲殻を使ってるからね」

とはいえアダマンチウムによって補強もされ、その姿は既に人の纏う全身甲冑として完成されていた。もっともその大きさは人が纏うには大きすぎるし、実際にその手足にはアダマンチウムの骨格と筋肉を模した配置のマッスルクレイで詰まっているため、身に着けることは出来ないが。

「中々厳つくて良いな」

「でしょう?」

ジンライの感想に風音は満足そうに頷く。

「手に持っているのは刀か。やけに大きいが」

「3メートルの魔剣『断頭』を斬馬刀に仕立て直してね。今はソレに第六天魔王の大太刀を収納して合わせている状態だね。スザさんは重斬馬刀って呼んでるけど。まあロクテンくんは二刀流は出来ないし、両手持ちで威力上げた方が良さげかなってスザさんが作ってくれたみたい」

その風音の後ろではスザが頭をかいている。完全に趣味である。そしてジンライも理解のある男である。

「なるほど、素晴らしい」

ともかくゴツいのが大好きなジンライであった。

「それじゃあカザネ様、外装もすべて付け終わりましたし、阿修羅王モードへも問題なく移行可能ですので」

「オッケー。そんじゃあ、準備しちゃおっか」

そう言って風音はロクテンくんの前へ歩いていく。ついにロクテンくんのお披露目の時が来たのである。

「しかしまたカブいたものを作ったものですな」

風音がロクテンくんに向かった後、その場に残ったスザにジンライが賞賛の言葉を贈る。

「いえいえ、すべてはカザネ様の発想によるもの。一体、あのような仕組みをどこから考えてくるのやら」

ジンライといっしょにいた弓花は(アニメとかゲームとかかなあぁ)と頭の中で呟きながら黙って聞いていた。

「それにあれはカザネ様の持つスキルあってのシロモノですしな」

「六刀流か。あれは確かに腕がなければ使えんしなぁ」

ジンライは己の義手『シンディ』を見る。目の前のロクテンくんは基本的にジンライの義手と同じ仕組みで動いている。この風音の作った義手は自分で実際に動かせる部位でなければ、操作は出来ないのだ。

「はい。それにカザネ様くらいの精神耐性がなければ、乗った途端に正常にものを考えることも出来なくなるようなシロモノですしね」

「精神耐性?」

ジンライが首を傾げる。

「はい。調べてみて知ったのですが、あの覇王の仮面も、第六天魔王の鎧も、第六天魔王の大太刀も、支配欲などに精神を植え付けられる呪いの武具のようでして。とても普通の人間には扱えないものなのですよね」

「それにカザネが耐えられると?」

「ええ、実際何度乗られても問題はないようですし。このこともつい今朝方、書物で確認できまして。正直、知らずに使っていたと思うと肝が冷えましたよ」

スザがそう言って笑うが、ジンライは首を傾げて弓花に尋ねる。

「はて、ワシはカザネは精神耐性のスキルを持っていたと聞いたことがないのだが」

「えーと、確か叡智のサークレットが精神耐性があったはずですし、それじゃないですかね?」

弓花がそう答える。ジンライの頭を見て「うん?」という顔をしながら。

「ああ、そうか。スキルではなかったのだな。なるほどな」

ジンライも得心がいったという顔だが、若干の疑問符が表情によぎる。

「そんじゃあ、阿修羅王モード起動ーー!!」

風音の呑気な声と共に胸部装甲が閉まっていく。

「あ!」「ああ!?」

そしてジンライと弓花の声が響いた。スザが何事かと二人の様子を見たが、

「ちょっと風音。叡智のサークレット忘れてる!?」

「いかん。降りろカザネッ!」

その言葉を聞いて、スザもどういう状況かを理解する。精神耐性のある叡智のサークレットは今ジンライの額に収まっているのだ。それはつまり、現在の風音には精神耐性がないということである。それを常時サークレットを身に着けていた風音は気付いていない。

そしてスザがロクテンくんを見たのと同時にとてつもない威圧感が場を支配した。すべては手遅れだったのだ。

『ォォオオオオオオオオオオオオオンンン』

まるで叫び声のような音がロクテンくんから響きわたる。

そして、まずは風音の命令通りにマッスルクレイがその起動を開始した。そのまま内部で膨張して盛り上がり、鎧が併せて形を変え、その姿をより巨大なものへと変形させていく。

メタルブラックの甲冑は内部の風音の魔力を吸い上げ、次第に黄金の輝きへと変化しているようだった。首元からバサッと出てきた紅蓮のマントはヴォード遺跡で手に入れたシロモノである。それは、その身を燃やし対象者を護る魔法具で、それもまた風音の魔力を受けて名の通り紅蓮の炎を巻き上げていた。

そうしている間にも頭部の兜はバイザーをせり上がらせ、中からは覇王の仮面が出てくる。それは禍々しいオーラを放っており、その存在感だけで周囲を圧迫するほどである。兜の両側からは黒岩竜の牙を加工した角が突き出し、また覇王の仮面に魔力が注がれたことでマグマのような紅色の髪が仮面から飛び出てきて、兜の外にまで延びていった。

そして背中から出ている赤い飾り翼は太刀であった。アダマンチウム製の太刀とオダノブナガ・ブレード素材の太刀を『第六天魔王の血珠』を得たことで手に入れたナーガの新たなる力『紅水晶化』を施して強化したのだ。それが収納されていた4本の腕と共にガチャガチャと外へと出てくる。また両の手には重斬馬刀から既に分離させた第六天魔王の大太刀と斬馬刀『断頭』が握らされていた。

さらに内部では風音自身が変化を開始していた。天使の腕輪を使用しての『天使化』を行ったのである。全状態異常無効化という強力な能力を持つ『天使化』だが、変化時の状態を基準とするため、既に精神汚染された現在の風音を回復させるということはないようだ。そして義手までを含めて風音であると認識した天使の腕輪が、ロクテンくんに合わせた翼を顕現させる。それは第六天魔王の鎧や覇王の仮面、魔王の威圧などの禍々しき気に感応し、その色を本来の白から漆黒へと変えて、バサァッと広げて宙に浮かび上がった。

風音はそこまでの状況を完了させると最後に虹のネックレスに竜気を注ぎ込み、魔法防御の行うレインボーカーテンを出現させる。虹色のオーロラがロクテンくんの周囲を覆う。魔王の威圧も全開で放出中だ。すでにプレッシャーだけで物理の域にまで影響を及ぼしているようで、空間を歪め、大地を割り、魔力の暴風を生み出していた。

そして風音の乗るロクテンくんから声が響いた。

『我は魔王、アシュラ……いや、魔王アスラ・カザネリアン。魔王カザネリアンは死に、そして真なる魔王として我、ここに新生せり!』

それは己を魔王と宣告する声。フィアボイスに乗せた、内より恐怖を呼び起こす言葉だ。

魔王アスラ・カザネリアン。その名が世界に示された、それが最初の時であった。