軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二話 魔王と戦おう

オーロラを纏わせ、全身を炎のマントで覆い、黒い翼を広げて宙に浮かび、6本腕にそれぞれ大太刀を持つ黄金甲冑の巨人がそこにいた。それはまさしくラスボスといった威容である。どこからかパイプオルガンの荘厳なビージーエムがフェードインして流れてきそうな感じだった。

『人の子らよ。怯えておるな』

魔王アスラ・カザネリアンが眼下を見下ろしながらそう口にする。

叡智のサークレットによる精神耐性のあるジンライと元より竜という強固な存在である南赤候スザ以外はほぼ全員が、そのあまりのプレッシャーに全身が硬直し、顔が強ばっている。弓花はどうにか動けるようだが、それでも尚、その表情は硬かった。

『母上ーカッコいいですーーー』

しかし母への信仰値がマックスのタツオにはまったく効力はないようで、いつも通りの様子であった。魔王も何気に手を振っている。正気を失っていようとも、母として風音は条件反射で手を振っていたのだ。泣ける話だろう。しかし、それは現実として苦しんでいる側には笑い話には出来ない現象だった。

「タツオには効かない?」

その事実は看過できないものがある。そしてその様子を見た弓花が「ああ、そうかっ!」と閃き、周囲を見渡しながら口を開く。

「みんな、目の前の姿に騙されないで。ああ見えて、中身はただの体育座りで納まってるだけのチンチクリンなんだよ。恐れる必要なんてない!!」

弓花の言葉がその場の全員に届く。そして白き一団の心の中にほっこりとしたものが生まれる。

風音の使う『魔王の威圧』も『フィアボイス』も精神に影響を及ぼすスキルではあるが、そうしたスキルの効力というものは元々本人の意思に影響されるものだ。相手を絶対的な恐怖の対象として見てしまえば負の感情のループによって瞬時に死に至ることすらあるが、中身が鎧の中で体育座りでアホなことをブツブツ言ってるだけの 貧乳(つるぺたん) のチンチクリンだと正しく認識することが出来れば、効力も薄まる。タツオのようにスキルの効力も無効化することだって可能なはずなのだ。

その弓花の言葉の意図を理解したルイーズも、まるで何かに押しつけられているかのような重圧を振り切って口を開く。

「そうね。見た目は厳ついけど、あの中にはカザネがいるのですものね。カザネが夜中「大きくなーれー大きくなーれー」と自分で揉んでた姿を思い出せば耐えられるような気がしてきたわ」

ルイーズの言葉に直樹が、俄然力強く立ち上がった。アホである。対して魔王は死にそうだ。心が。頑張れ。

「そういうのネタだと、ひとりで竜船に潜ってきた後にパンツを洗ってたこととかかな。あれって……」

『か、風音ちゃんと魔王アスラ・カザネリアンは別の人物です。違うんだからね!!!』

しかし弓花の言葉を遮って魔王が叫んだ。漏らしてはいない。セーフのはずなのだ。そしてそれ以上語らせるわけにはいかないと魔王は意気込んだ。

「うぉおおおっ、姉貴ぃぃい!目を覚ませぇえええ!!」

そして、何故か元気になった直樹が走り出し、魔王に突進する。元々姉ラヴの直樹には効きが弱かったのだろう。両手には竜炎の魔剣『牙炎』、水晶竜の魔剣『虹角』を握り、それぞれから魔力刃を出している。

(姉貴をあの中から引きずり出す。その役目は俺がもらったぁああ!!)

心の中でそう叫んで突進する。しかし、それはあまりにも甘い考えだ。

『愚かッ!』

「うあっ!?」

たった一喝で直樹は魔王にたどり着くことなく吹き飛び、ジンライ達の元まで転げていった。

「マテリアルシールドか。厄介な」

ジンライはその様子を見てオルドロックの洞窟で対峙したミノタウロスを思い出す。

「物理攻撃はかなり厳しいっぽいですね」

弓花も槍を構えてながら、ジンライに話しかける。先にこちらが仕掛ける形になってしまったが魔王はまだ動かない。

「それだけではありません。レインボーカーテンで囲まれている以上、魔術もほとんど通りません」

弓花の言葉にスザが補足する。

「ああ、そうでしたね。風音にはミラーシールドやイージスシールドもあるし、魔術とか魔法の類は効かなさそうか」

かといって物理攻撃も見ての通りの状況である。魔王は地面に転がっている直樹を睨み付け、口を開いた。

『我のお気に入りの青のストライプを盗んだ咎人に断罪を!』

「くっ、戯れ言をッ!?」

反射的に直樹はそう返す。直樹が持っているのはくまさんの顔が描かれてリボンがワンポイントで付いているものである。なので魔王の言葉はそれ自体は濡れ衣であった。しかし、だからと言って直樹が堂々と反論するのは人としておかしい。

「ちょっと、風音。いい加減、悪ふざけはよしなさい。少し頭がパーになってるからって」

弓花がそう説得する。相変わらず魔王からは凶悪なプレッシャーからは出ているが、さきほど自分が言ったように目の前のでっかいのは風音なのだと考えることで文字通り気を紛らわして、持ち直していた。

『先に仕掛けてきたのはそこの小僧よ』

(ごもっともで!?)

弓花は「直樹ぃぃいい!!」と叫びたくなるのを抑えて、歯ぎしりだけで留める。

「くっ、私が取り押さえる!みんな下がってください!!」

攻撃動作に移ろうとした魔王を止めるべくスザが飛び出す。そしてスザは全身から炎を吹き出しながら、全長15メートルはある赤いドラゴンへと姿を変えた。それこそがスザの本性。

『仮面も魔王装備も装着時に影響を及ぼすものと書かれていた。ならば、鎧から出してしまえば』

神竜の域にまで到達しているスザである。いくら様々な力で強化されていようとその内容はスザ自身が制作者であるから理解しているし、自分が抗せぬものではないだろうとスザは考えていた。そして、その認識は正しい。

『愚か。まことに愚かなり』

正しいがスザは忘れていた。忘れたまま、魔王に対して飛び出していく。そして魔王に慌てる気配はなく、ゆっくりと斬馬刀を突き出し、

『スキル:ドラゴンフェロモン』

ドラゴンの天敵のスキルを発動させた。

『はぅん、カザネ様ぁああああ』

そして突如として目がハートマークになったスザが倒れて魔王の横を転がってゆき、そのまま大地の上で悶えている。とても攻撃できる様子ではないようだ。

『竜族では我を倒すことは叶わぬと知れ』

ドラゴンイーターの匂いは竜族の理性を奪う。それ故にドラゴンイーターはドラゴンにとって天敵なのだ。ソレと同じ匂いを発せられる魔王もまたドラゴンの天敵でもあった。ましてやスザは魔王の中にいる風音に敬意を持っていた。ナーガを幾度となく救った風音を慕っていた。それ故に抵抗力も薄く、あっけなくハート目になった。

「だったらッ」

魔王の頭上から声が上がる。

銀の輝きを纏った神狼化の弓花である。ドラゴンステーキを食した結果、竜気を発生させるに至った弓花にもドラゴンフェロモンは効力を発揮する。だが、変化してしまえば、それも防げる。

「私らが止めればいいってことでしょ、風音ッ!!」

『確かに神狼化となれば、汝にもドラゴンフェロモンは効かなくなるが』

「くっ!?」

魔王の身体が輝きを見せたと同時に弓花が弾かれる。それはマテリアルシールドの全方位放射である。

「師匠ッ!!」

「もらったぁああ!!」

しかし同時にジンライも突進してくる。時間差攻撃はミノタウロス攻略の常套手段である。それを師弟コンビは忠実に実行したのだ。

『ならば、この身体の性能でも確かめさせてもらおうか』

しかし魔王はそれにも焦った様子はない。そして魔王がジンライに向かって飛び出す。スキル『ブースト』による加速がジンライとの差を一気に詰めたのだ。

「ちぃっ!?」

瞬時に3メートル半の巨人を前にすればジンライとて焦る。如何にジンライが卓越した技量を持つ槍使いと言えど6本の刀を相手に同時に受けることは不可能だ。まして相手は3メートルの刀と1.5メートルの刀を易々と振るう。だが、現実にはその動きに実は僅かな差違がある。攻撃動作のその差を突くことはジンライの槍捌きを持ってすれば不可能ではない。

(しかし、重い!?)

そう、対処は出来た。だが、アダマンスカルアシュラのように同サイズの相手ではないのだ。一撃一撃が重すぎる。ロクテンくんの自重、巨大刀の重量、マッスルクレイの腕力、さらにはスキル『猿の剛腕』までもがプラスされた、さながら巨大な掘削機のような斬撃。そのすべてが一撃必殺の攻撃が絶え間なくジンライに迫ってくるのだ。それはジンライでなければ受け流すことすら出来ず、ただの一撃で挽き肉になっていただろう威力。寧ろ、何故ジンライが耐えられているのかが分からぬような状況である。

しかし、どのみちこのまま行けばじり貧。ジンライといえど、いずれどころか数秒先には突破されるだろう。

ジンライがひとりであったならば……だが。

当然の如く、銀の輝きが魔王に迫る。

『ぬうっ!?』

さすがにこの攻防中にマテリアルシールドは出せない。そして背後からの弓花の攻撃にも対応しなければならなくなった魔王は背後の4本腕で弓花の攻撃を防ぐ。

「師匠、コンビネーションでしとめます!!」

「これでも腕の数はまだそちらが2本多い。悪く思うなよ」

そして師弟コンビの攻撃に今度は逆に魔王が追い詰められる。

背後の弓花の攻撃と正面のジンライの攻撃、それを捌ききるだけの技量はスキルで六刀流となった魔王にはない。

『いかんな』

若干の焦りの見えた魔王の声と共に全方位マテリアルシールドが放たれる。それにより魔王は一旦は離れて、態勢を整える。そう考えるが、

「させないっ!」

弓花が確実に狙い澄ました一撃を放つ。バーンズ流槍術『反鏡』。不可視の防壁であるマテリアルシールドが弓花の放った衝撃反射技と接触し、消滅を起こす。

『なん……だと?』

それには魔王も驚きの顔を隠せない。だが弓花がマテリアルシールドを防いだのならば、ジンライは既に魔王を射程にとらえたということ。

「喰らえぃっ!」

ジンライは全身全霊の力を込めた突きを放とうと強く踏み出す。が、そこで踏み留まった。己の生存本能が凄まじいまでの警告を発していたのだ。

そしてあまりにも凄まじい勢いのソレが炎を吹き出しながら大地を抉り、破壊し、ジンライの正面の地面に地割れを生む。

「ぬうっ!?」

ジンライは両腕をクロスしてその風圧に耐えた。

気付くべきであったのだ。魔王は空を飛んでいた。そして魔王の得物はその6本の腕だけではない。寧ろ、中にいる風音の本当の力はもっと別のところにあったはずだ。

『足は飾りなどではない。偉い人はそれを知っていたのだよ』

魔王がそうドヤ顔で口にした。きっとすごく言いたかったに違いないくらい、満足そうに言っていた。

そして、その足には風音が普段装備しているドラグホーントンファーが設置されていることにジンライは気付く。黒岩竜の角と 神聖物質(ホーリークレイ) のパーツが変形し、まるであつらえたように足の先に鳥の鉤爪のようにはまっていたのだ。

「今のはキリングレッグか!?」

ジンライは冷や汗をかいた。それも装填したファイアブーストの魔術を合わせた『キリングレッグ』だった。狂い鬼の角で出来た『竜喰らいし鬼王の脚甲』自体は今は風音と共に胸部の中にあるはずだからキリングレッグの威力はそれによる強化はされてはいない。しかし身軽な風音ではなく、こんな巨大な、まさしくオーガと同サイズの足からファイアブーストで威力をプラスしたキリングレッグを放たれたのだ。威力は推して知るべしである。

そう、魔王の真の切り札は足にあった。そして魔王はものすごくドヤ顔だった。