軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百話 試し乗りをしよう

◎東の竜の里ゼーガン 南の封印宮 スザの工房

ガコンッと扉が開いた。

「ふひぃー。外の空気がおいしい」

阿修羅王モードのロクテンくんの胸部装甲が開き、さらに内部のアダマンチウムフレームが開いて風音が出てくる。概ね完成したロクテンくんの慣らし運転が完了したのである。

『母上ー』

「お疲れさまです」

トンッとロクテンくんから床に降りたった風音に付き添っていたスザがタオルを手渡し、タツオは風音の頭の上に止まった。

「思った以上に上手く動いたね」

風音は満足げな顔でタツオの頭をなでながらスザにそう言った。

「ですね。動作の誤差はほとんどないようです。さすがにプレイヤーの起動式は違います」

そう言ってスザが感心する。このプレイヤーの起動式とは風音たちの言うところの『ウィンドウ』のことである。ウィンドウを知る者たちにとってはウィンドウは魔術を制御するための常駐型術式である起動式の発展系であるという認識らしいと風音は少し前に知った。

そしてロクテンくん・阿修羅王モードと風音と風音のスキルをつないで制御しているのは、間違いなくこのウィンドウの制御能力ありきであった。

「文句の付けようがないよね。稼働時間はまあ、抑えれば30分はいけるし、時間を延ばすためにミンシアナの蓄魔器を当てにしようかな」

風音が後ろのロクテンくんを見ながら答える。現在はすでにリビングアーマーとして自律機動に入り、顔のバイザーが降りて角が仕舞われ、マントと背中の4本の腕も収納されている途中である。また表面が黄金から黒色に変わりつつあり、マッスルクレイによる膨張で3.5メートルほどだった姿が今は収縮して3メートルほどへと変わっている。阿修羅王モードから第六天魔王モードへの移行も問題なく動作しているようだった。

「ところでカザネ様、特におかしなことはございませんでしたよね」

スザが若干、気遣わしげな視線で風音に尋ねる。

「うん、特には。それ、なんども聞かれてるけど何か気になることでもあるの?」

この鎧の開発時からスザは風音の体調を妙に気にしていたのを風音は覚えている。

「いえ、どうもあの仮面や鎧自体から呪いにも近い力が放出されてる感じがしましてね。かといってドラゴンである私にはあまりその手のものが効きませんし。まあ仮面の方はカザネ様は以前にも使用されておりますし、鎧も特に問題がないのであれば大丈夫なんでしょうが」

「うん、問題はないよ」

そういって風音は頷いた。実際、特に異常という異常はない。この鎧を使用するのは風音だけで、その風音が問題ないというのであれば、スザとしても特に言うこともなかった。

「そんじゃあロクテンくんは、スザさんの言うこと聞いて、残りの準備に入ってね」

風音の言葉に第六天魔王モードに戻ったロクテンくんは敬礼をする。リビングアーマーは元々が騎士の鎧であるため、性格付けもそうしたものになっているようだった。

「この様子であれば明日の昼前には完成品をお渡しできると思いますよ」

「それじゃあ明日は訓練後にパーティのみんなと朝食を食べる約束してるし、そのままみんなを誘ってお披露目しても大丈夫かな?」

「ええ、問題はありません。それではお待ちしておりますね」

そうしてスザの快い返事をもらった風音はタツオとともに南の封印宮を出て大竜御殿に戻ることにした。

なお、装甲体ロクテンくん以外にもいくつかの装備を風音はスザに依頼している。そのうちのひとつがタツヨシくん・ノーマルをオダノブナガ・アシガルの甲冑に変更するというものである。変形機能も廃し、より頑丈に生まれ変わったタツヨシくん・ノーマルであったが肝心の戦闘力の改善はなされぬままなので基本は盾役のまま。なので実のところ、あまり変わってはいない。

また弓花の白銀の軽装鎧一式にも手が加えられている。白銀の装甲をアダマンチウムを使って補強したのである。神狼化の共鳴強化を損なわせないよう白銀の量は減らさずに対応させたため、それなりに重量が上がっていたが、今の弓花には特に問題のない重さだった。

そして浮遊島で直樹が倒した 雷飛竜(ブリッツワイバーン) の喉袋も既に加工済みで弓花の手袋となっている。これにより弓花はドラゴンがブレスを喉袋で作り出すように、握りしめた手の中から雷属性の竜気を素に雷球を生み出すことが出来るようになったようである。

風音はこれらの作業を当初はゴルド黄金遺跡のあるゴルディアスの街にいるはずの親方に頼もうと考えていたのだが、ここで纏めて対応してもらえたことで予定が大幅に短縮できたことになる。

そして、その日は風音もグッスリと眠り、ついにロクテンくん完成の朝がやってきた。

◎東の竜の里ゼーガン ドラゴニュートシティ近隣 早朝

「ぐあっ」

それは珍しいジンライのうめき声だった。

「ちょっと、師匠。大丈夫ですか!?」

ジンライの叫びに、叫び声を上げさした弓花が逆に慌てている。

その光景にはその場で一緒に修行していたライルやジン・バハル、直樹なども驚きの顔で見ているが、ジンライは「ええい、戦っている途中で気を使う奴がおるか」と怒り、弓花が慌てて構えた。

「カザネ、あれどうしたの?」

「おや、どうして私だと思ったの?」

その様子を見ていた風音にルイーズが声をかける。

「あの様子をひとりだけ、驚きもせずに見てればそりゃなんかあるなーとは思うわよ」

「なるほど、そりゃもっともだね」

風音は頷く。相変わらずルイーズは鋭いようである。

「まあ、これだよ」

そう言って風音は自分の額を指さした。

「なによ。なにもないじゃないって……叡智のサークレットがないわね。あれ、もしかして?」

「そゆこと」

風音がジンライを見た。その額には確かにサークレットがはまっていた。

「ああ、ジンライくんに貸してるんだ。でもどういうこと?」

「ほら、この前にジークと対戦したときに、叡智のサークレットの遠隔視を使って死角をゼロにしてるって聞いたみたいでね」

「自分でもやってみようってこと?」

「そうだね」

その風音の言葉と共に、ドサッと何かが叩きつけられる音がした。勿論ジンライである。

「それであの様ってわけ?」

ルイーズの言葉に風音は「まあね」と返す。

「普段の視点と俯瞰的に上から自分を見ている視点が同時に見えてるんだから、慣れるまではそりゃ辛いよ」

「でも、使えるようになったらどうするの? サークレットを譲るの?」

「それはちょっと勘弁願いたいかなぁ。まあ、直樹の遠見のイヤリングの片方を使ってもらうように交渉かな」

直樹の遠見のイヤリングは左右のそれぞれが左右の目に対応している。

「前衛だと両目つぶってってことも出来ないし、実際片目でしか使ってないみたいだしね」

「なるほど」

とは言ったものの、風音からの貰い物を直樹が素直に渡すかは未知数だとルイーズは考えていた。

「あ、またやられた」

ジンライがまた弓花に一本取られていた。

「でも懐かしいわねえ」

「懐かしい?」

風音の問いにルイーズが頷く。

「メフィルスのパーティの時には、ライノクスが時々バーンズの道場にやってきてね。ジンライくんをああしてノシてたのよねえ」

「そういえば、この間ディアサウスで初めて勝ったって言ってたもんね。大公様って何気に凄い人だよね」

風音個人としての印象は宜しくないが、ライノクスは実力はある人間だ。

「そうねえ。ライノクスは言ってみれば弓花に近い天才肌でね。やればなんでも出来た子だったのよ」

ルイーズが「それがなんであんなこになっちゃったのやら」と肩を落とす。勿論、童貞のことである。

「まあ、ライノクスがバーンズ道場に来てた理由はシンディ目当てでね。ジンライくんを倒して良いところを見せたかったんでしょうけど、そのたびにシンディはブスッとした顔をしていて逆効果だったわね」

幼なじみに良いとこ見せようと頑張ったのに嫌われた挙げ句、親友にゲットされてしまったライノクスのことを思うとさすがの風音も心が痛む。それは別にジンライが意図して寝取ったわけではないにしてもだ。

「シンディさんはブスッとしてたとしてルイーズさんはどうだったの?」

「うふふ、負けた夜のジンライくんって、鬱憤を晴らすかのように、それはもう 獣(けだもの) のように求めてくるから最高に、最高に燃えたわ。ルイーズちゃん大ボーナスタイムだったわよ」

「ルイーズさん、ヨダレ! ヨダレが垂れてる!!」

あらやだと口元をハンカチで拭いているルイーズの横で風音が聞くんじゃなかったという顔をしていた。だが、ルイーズはふと、思ってしまった。

『あれを超える体験をあたしはしている』……と。

「ルイーズさん?」

どうしたのだろうという風音の心配そうな顔にルイーズは「大丈夫よ」と返すものの、だがルイーズの心の奥底で、もやっとした何かがよぎる。

ここ最近の健全な生活を送ってきたルイーズは忘れていたのだ。己が何かに挑もうとしていたことを。それを心の中で封印してしまっていたのだ。

(……タケノコ様?)

わずかによぎる記憶。だがルイーズには分からない。その言葉の意味するところが分からない。己の内から湧き上がる不安と興奮、そして期待。それが一体何を意味するのかをルイーズは思い出せなかった。

そして、ルイーズの口からジローの名が出ることはなかったのだ。