軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百九十一話 天使になろう

『天使の腕輪』というアイテムは、イシュタリア古代文明が自身を高等種族へと進化するためのアプローチのひとつとして生み出したものだと言われている。ベースが鳥人族であるのは間違いないが、変化後の姿は天使族という新種の種族であり、鳥人族とは異なるものとのことである。

その主な能力は『飛行』と『防御力上昇』と『全状態異常無効』。そしてスキルは狂い鬼と同じ加速用の『暴風の翼』と物理・魔法を防ぐ障壁『イージスシールド』であり、天使族とは飛行と防御に特化した種族だと言える。また『天使の腕輪』は神狼化や竜人化と違い、誰でも使用可能で魔力消費をすれば常時変化が続くようであった。

そして、この『天使の腕輪』の装備者については変化系であることから当初は弓花が候補にあげられていた。弓花の職業である『化生の巫女』であれば、スキル『深化』によって更なる力も引き出せるということもあった。

しかし、すでに両腕に神狼の腕輪と竜結の腕輪を装備している弓花は『天使の腕輪』とそのどちらかとを入れ替える気にはならなかったようである。また地面がない空中では踏み込むことも出来ず槍もうまく振るえない。だったら雷神槍で地上から迎撃した方が遙かに良いと弓花は口にした。

ならばエミリィを飛ばして矢で打つのは?……という案も出たが、飛んでるところを狙い撃ちされたら死ぬということでエミリィが拒絶。これは他の後衛組も同様である。

さらに前衛組のジンライも弓花同様に地に足がつかんのは好かんなと言って拒否し、ライルも同じ理由で断った。常時魔力を消費するという点も難ありとも感じたようである。残ったのは風音と直樹だが、

「俺の姉貴がマジ天使」

直樹の鋼鉄の意志により、最終的に天使の腕輪は風音が装備することになった。そもそも直樹はいかなる犠牲を払おうともこの結果にたどり着かせる所存であったので、むしろ平和的に決まって良かったとも言える。

そして肝心の風音だが、実は試しに腕輪をはめた時点でスキルの上書きが発生しスキル『イージスシールド』を手に入れていた。

魔術などによる対空攻撃が存在している以上、戦闘時に空を飛ぶことは、メリットよりもデメリットの方があるとは風音も感じていたのだが、部分的に使用することでカザネバズーカ系の強化に利用可能かも……と考え直し、とりあえず装備してみることにした。

なお、今回風音が上書きしたスキルは『突進』である。『イージスシールド』は魔法防御を追加した『マテリアルシールド』の上位スキルとも言えるが、物理防御だけなら『マテリアルシールド』の方が高く必要魔力も低い。何より全方位放射が可能という点もあり、どちらかといえば使い勝手は『マテリアルシールド』の方が高そうだった。

また風音は『オッパイプラス』も手放さなかった。もしかしたらレベルアップでサイズアップもあるのではないかと望みを持っているためだ。まあ、夢を持つことはよいことだ。人の夢と書いて儚いと読むのだとしても。

ともあれ、それはそれとしても『天使の腕輪』は誰にでも扱えるという利点はある。そしてパーティメンバーも戦闘時に天使化が使用し辛いとは思っているが、空を飛ぶということに関しては全員興味津々でもあった。なので必要に応じてパーティで共同で使おうということで話は落ち着いたのである。

「高く飛びすぎると 飛竜(ワイバーン) に食われるから気をつけろ」

そして天使の腕輪入手後、空を飛ぶ際の注意点をモーフィアに聞いた風音が聞いたのがその言葉だった。

なんでも、この辺りはそこそこ高いところまで飛ぶとすぐさま 飛竜(ワイバーン) が飛んできてパックンチョされてしまうらしいのだ。なので鳥人族は普段は低空飛行で移動するらしく、高く飛ぶのは自殺行為なのだと力説された。なお、島の外に 飛竜(ワイバーン) なんてほとんどいないよと風音が伝えたところモーフィアが「マジで?」という顔をしていた。人間、自分にとっての常識が世界の常識と思いがちだがそんなことはないのである。

ちなみに余談ではあるが風音の常識ではキャビア=海ブドウとなっている。風音のお父さんが海ブドウはグリーンキャビアとも呼ばれてるんだよーと口にしたのを風音はそのまま海ブドウ=キャビアだと勘違いしてしまったようなのだ。故に風音の常識では今でも海ブドウ=キャビアとなっていた。実にどうでもいい話だが。

そんなやりとりの後、風音は浮遊島の今後と天帝の塔の探索のことを書いたメールをアオへと送り付けた。実は、この浮遊島落下については風音もアオとはメールで何度もやりとりをしていたのだ。

その後、風音のメールへの返信が30分後くらいには返ってきたのだが、そこには詳しい事情を聞くために一度東の竜の里ゼーガンへと戻ってきて欲しいと書かれていた。

そして風音は仲間たちに次の目的地が東の竜の里ゼーガンであることを告げ、是か否かの確認をとる。当面は戻らないと全員が思っていたが、事情が事情だけに誰からも文句は上がらなかった。そして風音は了解とアオに返信をして、バットラー13号へとそのことを報告し、遺跡から出た。

その後、遺跡の外で一夜を明かした一行は、翌日の朝にはエンジェリートの街へと戻り「まずは温泉だ!」と叫んで浴場へと向かうことになったのである。

◎エンジェリートの街 公衆大浴場 女湯

「くぅ、やっぱり温泉だねえ」

スッポンポーン!!!……と勢いよく温泉に入った風音だったが、やや熱風呂に思わず声をあげた。

『なかなか良いお湯ですね母上』

くえーと鳴いてその横で一緒に浸かっているのはタツオであった。生まれてまだ一ヶ月ちょいのタツオは当然女湯フリーパスである。まあ、そもそもドラゴンであるので関係はないのだが。

そのタツオはクルリンと回転しておなかを上にしながらプカーと浮いていた。そしてくわーと鳴いた。気持ちが良いらしい。ユッコネエも一緒ににゃーと鳴いて浸かっていた。

「でも不思議だよねえ。ここ浮遊島なんだし火山の地熱ってわけじゃあないよね?」

そう言ったのは弓花である。しかし風音は弓花の言葉に返答せず、成長期によりサイズも増したソレに視線を釘付けにしていた。そして「こんにゃろっ」とボムボムとジャブを食らわせる。途中、敏感な部分に当たって弓花の口から艶っぽい声が漏れたりもしたが百合属性のない風音には知ったことではない。憎い。憎い。その無駄な肉が憎い。そんな気持ちでいっぱいであったのだ。

「ちっ、揺れおるわ」

「いや、叩かないでよ。痛いから」

風音がさらに忌々しげにその震えるモノを見ながらグヌヌとなっていた。同じ成長期でありながら何故こうも差が生まれるのかと怒り心頭だが完全な八つ当たりである。そしてボヨンボヨンと震わせても空しくなるだけだと気付いた風音は気を取り直して弓花の質問に答える。まるで今までのことがなかったかのように。

「この島自体がバイオスフィア的なもので、水もそれなりに循環してるらしいんだよね。多分、島の中にある浮遊するためのなんかの熱でお湯になってるんじゃないのかなー」

「ま、身体に害があるものではないらしいわよ。鳥人族さんのお墨付きよ」

ルイーズが聞いたところによると鳥人族がこのエンジェリートの街で暮らしていた頃からこの温泉は名物であったらしい。

そのルイーズの言葉に風音は「もしかして人工温泉なのかなあ」と口にした。島自体が人工的なのだからこの温泉も保養施設として最初から設置されたのかもしれないと考えたわけだ。バットラー13号なら知ってるかもしれないがそれを聞きに遺跡まで行くほどのことでもなかった。

「そういえば、エミリィは結局どうだったの? 修行上手く行った?」

そうして話題を切り替えた風音の問いにエミリィは「思ったよりもいろんなことを教えてもらえたかな」と笑いながら返す。どうやら上手くいっていたようである。

「モーフィアさんのマンツーマン指導だったんだよね。教え方が上手かったのかな?」

弓花の問いにエミリィは頷いて肯定する。

「 村長(むらおさ) だしねえ。お子さんも7人もいたし、村の若い人への指導もしているらしいわよ」

「7人ですの?」

その言葉にはティアラが目を丸くする。モーフィアは30前半ぐらいの年齢のようだから、毎年のように生まれているのだろうかとティアラが考えているとエミリィが「奥さん4人いるんだよね、あの人」と口にした。

「本当に? あ、そういえばモーフィアさん家に入ったときに何人かの女性がいたけど」

弓花が最初に鳥人族の村に寄ったときのことを思い出してそう口にする。

「あれ、全部奥さんだったんだ。私もお手伝いさんかと思ってたんだけどさ」

「意外にやる人だったんだねえ」

風音がうんうんと頷いている。知ったかさんである。

「ま、モーフィアさん良い男だものね」

どうやらルイーズのお眼鏡にもかなっていたようである。

「世の中にはああやってひとりの男の人と複数の奥さんっていう関係もあるんだね。初めて見たけど上手くやってるみたいだったわ」

実はハイヴァーン公国では一夫多妻は禁止されてはいない。しかし以前に大暴れしたエルフの女性がいたせいで、貞淑を重んじるようにとのお触れが出てしまい、現在では一夫多妻の家というのはほとんどないのだ。そのため、エミリィはそうした家庭を見るのは初めてでカルチャーショックを受けたようだった。

そしてエミリィは弓花とティアラを見る。

「ああいう、幸せの形もあるんだなって、ちょっと思ったんだよね」

その言葉と視線にティアラはきょとんとしていたが、弓花は(ゲッ!?)と心の中で呻いた。弓花は直樹ハーレムルートなどまっぴらゴメンなのだが、それを口にするとそれはそれでこじれそうな気がしたので首まで温泉に浸かってスルーすることにした。

その横ではルイーズが(やっぱりあたしの血を引いているのねえ)と思いながら満足そうに頷いていた。みんなで楽しく幸せに。それがルイーズのモットーであるのだ。