軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百九十二話 闇の胎動を聞こう

ヴォード遺跡からエンジェリートの街に戻った翌日、風音たちは温泉で羽を伸ばした後に全員でモーフィアに天使の腕輪による飛行術のレクチャーを受けることとなった。

そもそもが鳥人族や竜族、その他諸々のどう考えても翼だけで空を飛ぶのが難しそうな生き物というものは大抵が風の魔法によって空を飛び、翼はその制御として機能していることが多い。それは天使化も同じであるようで、『天使の腕輪』の使用者は生えてきた翼に魔力を乗せて風を操り飛ぶことになるのだ。

「ああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

空から叫び声が木霊する。魔力暴走と魔力切れにより、天使化が解けたライルが落下してくる。

「うわっ!? マテリアルシールド!!」

それには風音が慌ててマテリアルシールドを発動した。そしてマテリアルシールドにボンっと弾かれてライルが落下を免れる。

「ぐえっと!?」

いや、飛び跳ねた後に顔面から落ちたようである。まあ、落下ダメージは小さくはなったので良しとしよう。

「いてててて」

「ちょっと兄さん、危ないからあんまりはしゃがないでよ」

「う、鼻がツーンとくる。ワリィ。カザネもすまねえな」

そう言って声をかけたエミリィと落下を防いだ風音にライルが謝る。

「楽しいのは分かるけどね。魔力消費考えないと危ないからね」

「うぃーっす。リーダー」

ライルが手を挙げて返事をする。

「まったくだな。はしゃぎすぎるのも困りものだぞライル」

「いやジイさん、今回ばかりはジイさんには言われたくねえよ」

そのライルのジト目の先にいる祖父ことジンライは全身が泥まみれであった。勢い余って落下し、ゴロゴロと10メートルは転がってようやく止まったのである。しかし服こそ汚れてしまったが、受け身をとってダメージをほぼ完璧に防いだのだからそれはそれでさすがというべきかもしれない。

「まあ、最初は誰でも制御は難しいものだからな。慣れるまでは特訓あるのみだ」

とはモーフィアの言葉。それは鳥人族の子供たちの飛行訓練時によく口にするセリフであった。

ちなみにだが、もともと竜体化で空を飛ぶ経験があり、空中跳びなどで空中での姿勢制御もお手のものな風音はまったく問題なく飛ぶことが出来ていた。 炎の有翼騎士(フレイムパワー) で飛行には慣れてるティアラもすぐにマスターできたようである。

弓花と直樹はウィンドウの制御機能で飛ぶこと自体は可能だったが使いこなすには至っていない。ルイーズとエミリィはゆっくりと、確実に飛ぶように練習していた。どちらも慣れれば問題なく飛べそうである。

そして問題なのはジンライとライルであった。簡単にいって落ち着きがない。勢い余って暴走する。そして魔力切れで落下する。モーフィアが鳥人族でも男の子には良くあることと言っていたが、口元が若干ひきつっていたのを風音は見逃さなかった。

とはいえ、レクチャー自体はこれで完了である。後は地道に練習あるのみと言うことで解散となった。

「ふむ。これは我ら鳥人族よりも翼の魔力が高いようだな。上手くやれば我々よりも速く動けるようになるだろう」

とはレクチャー終了後のモーフィアの言葉である。モーフィアも腕輪を使って見たのだが、翼から発する風の出力が鳥人族よりも高いとのこと。それだけに魔力消費も激しいようだが、短時間での使用ならば鳥人族を超えた速度と制御が可能なのだそうだ。

そして飛行訓練後に風音たちは浮遊島を旅立つこととなる。

ハイヴァーンの冒険者憧れのエルスタの浮遊王国。

そこは緑溢れる、 飛竜(ワイバーン) とドラゴンイーター、アダマンスカルアシュラ等が襲いかかる秘境であった。その上、落下の危険まであるというのだから風音たちにも色々と予想外のところではあったのだ。

そしてモーフィアや、必死に手を振っているマシューなどに見送りをされながら、風音たちは小型竜船と、竜船に接続されたサンダーチャリオットに乗って、東の竜の里ゼーガンへと向かうこととなる。

◎ハイヴァーン公国上空 サンダーチャリオット内部

「ふんふんふーん」

浮遊島から飛び立って5時間、魔物にも襲われることなく移動は順調のようである。そして小型竜船のアームでくっついて飛んでいるサンダーチャリオットの中で風音は紙にシャカシャカと図面を引いていた。その風音の横ではティアラが風音にピッタリとくっついて至福の顔をしており、

「うわー、たっかいわぁ」

『飛びますねえ』

『凄いものよのぉ』

向かい側の席では弓花とタツオとメフィルスが外をしげしげと眺めていた。なおエミリィは空を飛ぶのが怖いようで外を見ないように真ん中に座っている。さらにその横ではルイーズが小型の『ライトニングスフィア』を呼びだして操作の訓練中であった。もっとも青く放電しながら小さな鳥や蝶へと変わる姿は美しく、実際には訓練と言うよりはそれをエミリィに見せて気を紛らわせるのが目的のようであった。

なお、直樹、ライル、ジンライは馬車の上、小型竜船の操縦席にいる。

ウィンドウの機能により、プレイヤーならばゲームと同じ感覚で操作が可能なようで、今は直樹が操縦していた。最初は風音が操縦しようとしていたのだが、つり下げられるサンダーチャリオットは風音の召喚体である。

万が一、風音が誤って召喚解除しようものならばその場で乗っている人間は空に投げ出されるわけで、竜船の操縦席にいてはそうなっても気付かない可能性もあるし、維持の魔力切れが起こりそうでも離れていては補給も出来ない。なので風音は馬車組に決定となり、自然と女子組と男子組に別れることとなった。

ちなみにジンライとライルはこの小型竜船を操縦したいらしく、直樹の操縦をガン見している。直樹としては気が散って仕方がない。

「シャーシャーッと」

そんな空の旅の中、風音は筆が乗っているようだった。すでに図面は何枚も出来上がって、横に積み重なっている。

「カザネ、随分とノッてるみたいだけど、何を書いてるの?」

それに気になっていたルイーズが声をかける。

「んー、せっかく竜の里に戻るんだからスザさんに素材の加工をお願いしようと思ってさ。ほらオダノブナガ種とかアダマンチウムとかも加工してもらえそうだし」

護剣の四竜の南赤候スザ。炎を操るドラゴンのスザは、自らの発する炎を使って、硬い黒岩竜の角の加工すら可能な鍛治師でもある。

風音はそのスザに望んだ武具を造ってもらおうと、その図面を引いていたのだ。タツヨシくんシリーズを造ったりと図面に起こす作業にも随分となれていた風音の書いているモノは鎧のようであった。

(あのオダノブナガ種の王様の甲殻よねえ、これ。でも背中に腕?)

ルイーズは風音の描いているものを見ながら首をひねる。そして3メートルという身長の鎧と、背中のギミックなどを見て、それがどういうものなのか分からず風音に尋ねる。

「なに、これ?」

「んー、パワードスーツ的なヤツ?」

そう言いながらも風音の筆が進む。当然ルイーズにはその意味が分からないが、集中しているようなのでそれ以上は声をかけなかった。

そして風音はニンマリと気持ち悪い方の笑顔を久々に出しながらも図面を引いていく。

(第六天魔王の鎧に覇王の仮面に紅蓮のマント、マッスルクレイも大量にあるし、補強はアダマンチウムで行けるかな。それにあのスキルもこれなら使えそうだし。ああ、天使化して翼も出すのもアリか)

そんなことを口にしながら、密かに、そして速やかに恐るべき存在が風音の頭の中と紙の上に生まれつつあった。魔王の真なる目覚めは近いようだ。

そして空の旅は続く。夜には地上に降りてコテージでの休みを入れて進んだ結果、二日後には東の竜の里ゼーガンへとたどり着くこととなった。

そして霧の結界も風音とタツオがいるため問題なく解除されて通り抜け、久方振りに東の竜の里ゼーガンの中心である大竜御殿へとたどり着いたのである。

しかし風音たちはまだ知らない。彼女たちのたどり着いた先に意外な人物との再会があることを。

その相手とはハイヴァーン公国の大公ライノクス・クラウ・ハイヴァーン。

槍聖王とまで呼ばれ、ジンライの親友でもあるその彼が土下座でお出迎えして待っているという事実を風音たちはまだ知らなかったのである。