軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十九話 進化を見せよう

薄暗い竜船のドックの中で火花が散った。光の神気と荒々しき竜気の激突が魔力光を飛び散らせている。

『ぬぅ、なんだその腕は!?』

「はっ、ジン殿こそ随分と人間離れした力をお持ちのようだ!」

まずは初手の一撃。両者がともに相手の槍の先、点と点をぶつけ合う。そしてそのどちらもが、その一撃で相手の槍を弾けると考えていた。

ジンライ・バーンズはその義手の膂力故に。

ジン・バハルは人を超えた魔物の力を持つが故に。

だが相打ち。両者の槍は共に弾かれる。

ジンライは魔物の力を侮ってはいなかったが、だが相打ちとは予想外だった。どうやら目の前の敵は魔物としての格も相当に高いらしいと理解する。

対してジン・バハルは完全に予想を覆された形だ。相手のパワーもそうだが、槍の性能もグングニルには引けを取らない。だから、驚いた差により次の一撃はジンライの方が早い。その二撃目は閃光のように走った。

『チッ!?』

ジン・バハルが続けての左からの槍の攻撃をバックステップでかわす。二槍故に次の攻撃への流れが速い。だがジン・バハルもその程度は予想が付いていた。なので左手のライトシールドでその攻撃を弾き、さらに後ろへと下がる。が、その代償には舌打ちをする。

(ヒビが入ったか。あれは高位の竜素材の槍だな)

200年も手入れのないということを差し引いてもその盾が一撃で損傷するという事実がジン・バハルには予想外だった。多少、体勢は崩しても受け流すべきだったと反省する。

ジンライの槍は、黒岩竜の牙をミンシアナの『匠』であるジョーンズ・バトロアが加工し造り上げた竜牙槍である。ライルの竜牙槍も相当に強力なモノだが、ジンライのソレはランクがさらに上に当たる。それはグングニルにも引けを取るものではないのだ。

「フンヌゥッ!!」

そして距離を取ったジン・バハルにジンライは自らの闘気を練った槍を再び突き出す。それは対竜技である『雷神槍』の雷の気だけを飛ばす『雷走り』と呼ばれる技。雷神槍のように遠い敵まで届くものではないが、だが僅かに下がった程度であるならば牽制には十分。そのまま針のように圧縮された雷の気の固まりがジン・バハルを襲うが、だがその攻撃を彼は『知っている』。そしてチャンスだと感じ突撃する。

「何っ!?」

それに驚いたのはジンライの方だ。ジンライの放った雷の気をジン・バハルはすり抜けた。それは『森羅万象』と呼ばれる、今は失われたバーンズ流槍術の前身たるバハル流槍術の奥義である。あらゆる気や魔力などと同化し無力化する技をバハルは使ったのだ。

だがジンライもバーンズ流槍術の『柳』を用いてジン・バハルの突きを避ける。

『それを避けるか! ッなに!?』

「『破』ッ!!」

唐突にジン・バハルがその場で吹き飛んだ。それはジンライがジン・バハルの攻撃を避けた直後、ほぼゼロ距離の位置から放った『生身の左腕』の『掌底打ち』によるものだった。

勢いよくその場から弾かれたジン・バハルが床をゴロゴロと転がりながらも、どうにか体勢を整え直す。

(槍使いが、槍を手放して素手で挑むか!?)

ジン・バハルは、闘いの前にジンライが自身を常道から外れた邪道と口にしていたのを思い出す。

そもそもジンライは強くあることを求めて槍を取ったのであって、槍によってのみ強者であろうと考えたことはない。それ故にかつての仲間のイリアに忍術を習い、義手やレールガンなども受け入れている。ジンライの引き出しは実のところ多い。

(まったく、『今時』の若造はこれだからな)

ジン・バハルは気合いを入れて構え直す。魔物としての本能による人間への敵意よりも己の闘争本能の方が勝っているのを感じる。血など疾うの昔に流れきったが、血がたぎると感じていた。

そしてジンライをにらみ付ける。まだ30を超えた程度に見えるジンライは、当時であっても齢50を超えていたジン・バハルにとっては若造にしか見えない。

実際の両者の現時点での生きてきた時間を考えればそれはそれで正しい。だが、ジン・バハルは見た目からの認識からそう感じていた。つまりはジン・バハルはジンライを30年の経験しかない者として捉えているのだから、その認識の間違いは闘いの上ではかなり危険な誤りであった。

(しかし、今のは効いたな。聖なる属性を気に練り込んで打ってくるか。どこでそんなものを覚えたのやら)

ただの掌底打ちならば、ジン・バハルもここまで芯に響くことはなかっただろう。だが、ジンライの掌底打ちはかつてのメフィルスパーティでの仲間、武装神官であったレゾン・ヴァンターから教わったものである。拳で邪悪を払うという、神と肉体を信仰する 戦闘僧侶(モンク) の常套手段。そう、筋肉への信仰は邪悪をも退かせる力を持つ。健全なる肉体は退魔となり得るのだ。

「筋肉への尊い信仰が時には神をも凌駕する。それが人間だけが持つ可能性……筋肉を愛でることで人はどこまでも強くなれる……そういうことなんだね」

風音が闘いのさなか、まるで熱に浮かされたようにそう口にする。モチロン全員スルーであった。戯れ言に付き合う空気ではない。

そしてジンライは再び駆ける。機をここだと見たのだろう。

瞬時に繰り出される両腕からの同時攻撃『双牙』。それはジンライの『牙の槍兵』の二つ名を盤石のものとしたバーンズ流槍術最速の技『閃』の同時攻撃。

それをジン・バハルはグングニルと盾で受ける。そして盾が砕け、諸共、左腕も飛ばされる。

『クゥッ!?』

ジン・バハルが唸る。だが、動きを止めた敵を待つジンライではない。さらなる追撃を行い、そしてジン・バハルはもはやそれを止めるすべを持たない。

そこで決着が付いた。

『見事!』

「……恐れ入ります」

左の槍でグングニルを抑え、右の槍でジン・バハルのコアを突き刺しながらジンライはジン・バハルの言葉に応える。その姿を満足そうにジン・バハルは頷く。

『良し、グングニル、お前の次の主だ。行け』

そしてジン・バハルの言葉に、グングニルが光り出し、そしてジンライの左の竜牙槍と接触していた部分が融合していく。

「これは?」

ソレにはさすがにジンライも驚いた。

『こやつはこの200年、新たなる主を欲していた。もらってやれ』

そう言って笑うジン・バハルは、だが、少し驚いたように自らのコアと突き刺さる竜牙槍を見る。

『ふむ。そちらも褒美が欲しいか。まあ良い。もう尽きる筈だった我が命だ。くれてやろう』

そしてジン・バハルのコアに突き刺さった右の竜牙槍も、そのコアから魔力を吸収し、姿を変えていく。

「ジン殿、これは?」

再度のジンライの驚きの顔にジン・バハルは笑みを浮かべる。

『主たるお前に応えようと武器たちが進化を望んだ。左の槍は神槍を喰らい、右の槍は魔物たる私を喰らってな』

その言葉にジンライの目が見開く。

『それにしても槍を通して見えたぞジンライ。『 一角獣(ユニコーン) 』か。まだ先があったとはな』

その言葉にジンライがばつの悪そうな顔をする。確かに今の戦いでジンライは本当の全力を出してはいない。ジン・バハルはそれを引き出すまでに届かなかった。それは事実だ。

『まあ、お前の本当の力も引き出せなかったのは我が技量のなさ故よ。そんな私がどの程度の力となるかしれぬが、我が命は勝者たる汝のモノ』

そう口にしながらジン・バハルの身体が光り出す。

『ふむ。神の槍を喰らったそれは『神喰』、私を喰らったモノは『悪食』とでも名付けようか』

「その名、承りました」

ジンライはそう応える。

『それではよろしく頼もう『主殿』よ。我が名はジン・バハル。神の槍とともに、主であるジンライ・バーンズに仕えることをここに誓おう』

そして一帯に光が満ちあふれ、そしてそれが消えたとき、神槍グングニルもジン・バハルの骸骨の姿もなく、そこには白き神々しき神気を纏う槍と、黒き荒々しき竜気を纏う槍が存在していた。

白の竜牙槍『神喰』、黒の竜牙槍『悪食』。それがジンライの成長に呼応し、新たなる力を取り入れた相棒たちの姿であった。