軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十八話 昔を語ろう

二百年前、当時のハイヴァーン大公がエルスタの浮遊王国の探索を竜騎士たちに命じ、約100組の竜騎士と騎竜がこの浮遊島へと来たことがあった。

そもそもの遠征の理由は周辺にいたドラゴンや竜騎士たちが戻らず、連絡も取れなくなったことが発端である。そのことから神竜帝ナーガの要請もあり、大公の命により遠征は行われた。

そしてその遠征は、謎の硬質の竜に竜騎士たちが倒され撤退という結果で終わることとなる。以来ハイヴァーン公国が国としてこの浮遊島へ探索を行うことはなくなったのだ……という話を風音たちは聞いていた。もっとも当事者からすれば、それは事実とは異なるらしい。

『この竜を倒したのと引き替えに我々は全滅した。確かに戻った竜騎士もいたが、それは最初のグリフォンとワイヴァーンとの闘いで傷ついた者たちだけであった筈だ。その後の我々はドラゴンイーターに愛竜をすべて奪われて戻る手段も失い、使命感でこの造船所への探索を行ったのだからな』

そう答えたのはすでに白骨となった竜騎士。かつての遠征の指揮を取っていたジン・バハル団長であった。風音たちがこの区画に入って機械竜の前に立ったとき、急に双眸に光を宿し動き出した骸骨が彼だった。

そしてその場で座り込み、その場に来ていた風音たちを呼んで死者としての有り様として自身等のことを語り出したのである。

「ふむ、モーフィア殿の言葉が確かならばハイヴァーン公国が鳥人族と連絡を取りだしたのは遠征失敗後だという話だったな。それ以前よりこの鉄の竜のことは鳥人族に伝わっていたようではあるし、そこに向かって戻ってこなかったのであれば、この鉄の竜にやられたのだと国に伝わったとしても不思議ではない……か」

ドラゴンや竜騎士の失踪、そして神竜帝の要請などは後の世に伝わっていないのは、ドラゴンイーターのことが問題なのだろうとは想像が付いた。

ドラゴンが遠征前に戻らなくなったのであればドラゴンイーターがこの島で繁殖し出したのが恐らくは遠征の少し前のことだったのだろう。そしてこの国ではドラゴンイーターは話に出すことを忌避される。故に遠征の話からその部分がごっそり抜けていても不思議ではなかった。

『まさか我らがこの鉄の竜にやられたことは伝わって、島の落下が忘れられるとは思わなかったが、まあ我々も当時の鳥人族とは折り合いが良いとは言えなかった。一応伝えてはおいたが200年後に島が落ちるなどと言っても世迷い言としてしか取られなかったわけか』

そう言ってジンは苦笑した。

「そしてあなた方は島の維持のためにその動力球を手に入れたというわけですか」

ジンライの問いにジンは『そうだな』と応える。

『6本腕の骸骨も手強くはあったが、しかし我々も竜騎士だ。遺跡のものと違いコアのある相手ならば倒すのは不可能ではなかった。ここまでの間に動力球もいくつも手に入ったが、数があればそれだけ維持も可能だと聞いていたのでね。そのまま奥まで進めていったのだが』

相討ちにまでは持ち込めたものの敢えなく全滅したというわけであった。

「あれ、竜船の中に入れたの? 普通は無理な筈なんだけど?」

風音が手を挙げてそう尋ねた。風音たちは無限の鍵があるから竜船に入ることも苦ではなかったが、そうでなければ破壊するしか手段はなかったはずである。だが竜船が破壊された様子もなかった。その質問にはジンはカードを取り出して見せた。

『それはこれだ。『かーどきー』というものらしいが、これをかざすことで扉が開くのだ。魔法具の一種のようだな』

「そんなもの、私らもらってないんですけど」

ムスッとした顔で風音が言う。風音たちはバットラー13号からは竜船は壊して中に入れと言われていたのだ。

『唯一の最上位権限を持つアイテムだそうだからな。まあ、他になかったのだろう』

風音はジンの言葉に「なるほど」と頷いた。ひとつしかないのであればどうにもならない。それに、それはそれで強力そうなアイテムである。何かに使えそうだと風音は考えた。

『それで、お前たちも浮遊島の落下を食い止めるために、この動力球を手に入れにきたというわけか?』

「うん、そうだよ。ここまでの竜船は全部スカだったけどジンさんたちが持ってったわけだったんだね」

そして手に入れたまま全滅したので竜船では見つからず、ここにゴロゴロと転がっているわけだった。

『そういうことだ。現大公の使いではないようだが、『私』がここから追い出したあの6本腕の骸骨どもも倒してここまで来たのだろう。良い腕なのだろうな』

そう言ってジンは風音たちを見る。

『ひとつ、頼みがある』

「なにさ?」

不穏な予感を感じて風音が眉をひそめる。

『我らはここで死を迎えたが、だが私の意志はここに留まり続けた。それは良い。だが、私はここを出ることはかなわなかった』

「出れたら動力球を持って帰るものね」

風音の言葉にジンが頷く。

『私は取り込まれたのだ。この地を護るあの6本腕の骸骨どもに代わって、ここを護るようにとな』

そう言ってジンが立ち上がる。

「まさか、その胸にあるものって!?」

ティアラが目を見開いて、ジン・バハルの胸を見た。鎧から漏れる光。座っているときには気付かなかったが、その胸には魔物のコアがあった。

『そうだ。私の存在理由はつまりはそういうことだ。動力球を護るという意志がある以上は私も取り込まれざるを得なかった。そしてもう私の意志で留めておくのはそろそろ限界だ。こうしてこれを渡すべき君たちにまで刃を向けなければならないとは皮肉ではあるがね』

そう言って、機械竜の頭部から槍を抜いた。

「グングニル……か?」

ジンライの呟きにはライルが驚愕する。

「それって、神槍って呼ばれるハイヴァーンの守護兵装だろ。なんでここにあるんだよ!?」

その言葉には風音が応える。

「グングニルは、オーディン・ケンタウロスって言う、北にある『闇の森』の魔物から取れる甲殻化した腕を素材としてるからね。別に一本しかないってわけじゃあないんだよ」

もっともそのオーディン・ケンタウロスとはダイロクテン・オダノブナガと同ランクの魔物である。老人の頭部に強靱な肉体の上半身と八本足の馬の下半身を持ち、神気と呼ばれる神々しき気を纏う恐るべき存在で、カンストレベルのプレイヤーでも即死するような突きを繰り出す。当然、普通に手に入る素材ではないからそれで造られるグングニルもこの世界においては数は少ない筈である。

「我が国には2本グングニルがある。ライノクスの持つソレと、守護兵装として保管された二本がな。かつて三本目も存在していたとは聞いていたが、遠征で失われていたとはな」

ジンライが一歩前に出る。

「ジンライさん?」

「手助けは無用だ。相手がひとりならばワシがひとりで挑んでも問題はあるまい」

ジンライが笑っていた。それは完全に『入っている』目であった。

「何、この御仁にワシらが200年護ってきたソレを受け取るにふさわしい存在であると伝えてやるさ。この槍たちでな」

そう言ってジンライは二本の竜牙槍を振り上げ、構える。そして風音はため息を吐いて後ろに下がる。本人がすでに完全にやる気である。風音もジンライの聖域に土足で踏みいるつもりはなかった。

それは他の仲間たちも同様だ。ルイーズが「無理しないでねー」と言って手を振ったぐらいであろう。アクションがあったのは。

『槍を二本持つか。お前もハイヴァーンの人間のようだが、今の世ではそれが常道というわけか?』

ジンライとその仲間たちがまるで話し合いも持たずに一対一の舞台を整えたことに、感嘆しつつもジンはジンライを見て尋ねる。二槍流というものをジンは知らない。

「否。これはワシが才なき身故、常道から外れた結果によるもの。邪道と一笑していただいて結構」

『いや、魔物に墜ちた身の私がそれを笑うことこそ滑稽。そもそも邪道というには堂に入りすぎておるわな』

そういってジンが笑う。

「恐れ入ります。では参りましょうか」

『うむ』

その言葉を合図に両者が駆け出す。そして古き時代の 兵(つわもの) と現代の 兵(つわもの) の刃が激突し、火花が散った。