軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十六話 撤収をしよう

ズドォオンと大地に狂い鬼が倒れる音がする。

「あ…」

ステータスウィンドウにレベル19の表示がされる。さきほど18に上がったばかりなのに大盤振る舞いだなとは思ったが、それだけネームドモンスターが強敵だったということだろう、と風音は納得する。

(スキルは『フィアボイス』が増えてるか)

それはさきほど狂い鬼が使った、声で相手を恐慌状態にさせるスキルだ。

「やったわね風音」

横から弓花が声をかけてくる。

「うん。ああ、そうだ」

風音は落ちている角を拾うとアイテムボックスの中に投げ入れた。

「とりあえずこれだけはね」

名付きの魔物は同タイプの中でも突出した能力を持つと同時に、手に入る素材がレアものとなる。見逃すには惜しいアイテムだ。

「カザネ、馬を作ってくれ!!」

ギャオが風音に声をかける。現在無事なヒッポーくんは4体。周囲のオーガも群れのリーダーが倒されたことでこちらの様子をうかがっているがいつ動き出すか分からない状況だ。迅速に撤収する必要があった。

「了解。スキル・ゴーレムメーカー・ヒッポーくん及びヒッポーくん!」

風音のスキル発動とともに地面から新たに石馬が二体出来上がる。

「よーし! 撤収! 撤収だぁああ!!!」

ガーラの声と共に全員が馬に乗り走り出す(ジローは気絶しているので風音たちの馬に乗せてある)。

「グガァアアアアアア!!!」

同時にオーガたちがこちらを狙って遂に走り出した。

「うわぁ。走れぇえ」

ギャオが悲鳴を上げて石馬を操る。しかし瞬間速度ではオーガの方が分があるのか距離が徐々に縮まっていく。

「これはマズいか」

ジンライも焦りの声を上げたが風音は後ろを向いたままスキルを使う。

「スキル・フィアボイス!」

そして大きく息を吸い込み叫んだ。

『邪魔すんなぁああああああああああ!!!!』

「うぉぉおお」

ギャオが若干ビビるが他のメンバーもさすがにそれで振り落とされるようなことはなかった。あと意識を失っているジローがビクンッと震えた。

その声は味方であるという認識もあって仲間たちには大して影響はなかったが、追いかけてきたオーガには効果てきめんだった。先程自分たちのボスを殺した相手の恐慌効果のある叫び声である。恐怖を怒りで塗りつぶし迫っていたオーガたちだがここで心のタガを強制的に外されてしまう。その数50。それら恐慌状態に陥ったオーガたちの恐れはボスの死を伝え、群れを瓦解させ、やがて潰走へと向かわせる。

「何が起きているんです?」

キンバリーが呆然と状況を見ている。

戦闘を行なっていたはずのオーガが何か叫び声を上げると突然逃げ出し始めたのだ。

これには街の正面で戦っていた合同戦力も何が起きているのか分からず唖然としていたが、すぐに落ち着きを取り戻した一部の冒険者たちによって逃げ損ねたオーガを仕留めることには成功した。

結果として、混成軍は50を超える犠牲を出し、100近いオーガを下し、200ほどのオーガを逃がしたが、ウィンラードの街は守られた。犠牲はあったがこれは当初の予想を大幅に上回る大戦果であり、街の被害が皆無であったことも有力者たちの胸をなで下ろさせた。

また逃げ出したオーガたちの討伐にウィンラード周辺が多大な労力を割くことになるがそれはまた別の話。

こうして後に『狂鬼群討伐』と呼ばれることになる戦いは終結を迎えることとなる。

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◎ウィンラードの街近辺

「やったな。なあアンナ」

「ええ。ライアもクラウスもきっと喜んでいるわよ」

戦闘終了から数十分後、街に戻りながら周囲では戦いに勝ったことに対する喜びの会話が広がっていた。

中でも狂い鬼に仲間を殺されたガーラとアンナは涙を流しながら喜びを粛々と語っていた。

風音はその二人の横に石馬を併走させる。

「ガーラさん」

「おう、うぐ。いやすまねえ。情けねえところ見せてるな」

涙が止まらないガーラに風音は首を横に振る。

「ううん。ガーラさんがいてこそアレも倒せたんだもの。情けなくなんてないよ」

これは正直な感想だ。ガーラという存在がなければ風音は狂い鬼を倒せたとは思えないし、仮に倒せたとしてもタイムオーバーで囲まれて終わりだったはずだ。

「それでね。あいつを倒したのはガーラさんと私だから、これはガーラさんの戦利品」

風音はアイテムボックスから角を一本取り出す。

「こいつは…狂い鬼の角か」

あの状況でよく持ってこれたな…とジンライが呆れた声で言う。

「まあウチら冒険者ですから」

対する風音の言葉に周囲から笑いが漏れる。ガーラもそれを涙でぬらした顔で笑いながら受け取り掲げてみせる。そして風音は

(よーやくこれで全部片付いたかなぁ)

と人心地ついた。

ちなみにこの時点でジローは目を覚ましていたのだが状況がまったく分からず声をかける空気でもなかったのでとりあえず黙っていた。