軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十七話 目的地を決めよう

その日、ハイヴァーンの首都ディアサウスからでも感知できたであろうほどの巨大な魔力のうねりがコンロン山を覆っていた。あまりにも大きなその魔力量に周囲の動物たちはおびえて辺り一帯が緊迫した空気に包まれていたが、しかしそれは非常事態というわけではない。

これは寧ろ、ようやくの日常の復活といったものであった。つまりは東の竜の里ゼーガンを守る大結界が再び生み出されたのである。

中央の大竜御殿を中心とし四方の封印宮を結界の区切りとした霧の結界、それがその地のナーガラインのマナを吸収しながら霧を発生させ完成されていく。その様子を風音たちは大竜御殿の前の広間で眺めていた。次第に空が若干緑色がかっていくのが見物だと言われたのだが、確かにそれは見栄えのある光景であった。

「おおー、絶景かな絶景かな」

風音は感嘆の声を上げながら山の周囲が霧に覆われていくのを見ている。そして、それは他の仲間も同様だった。

「なんという範囲の結界であろうな」

「正直、とんでもないわね」

多くの冒険をしてきたジンライとルイーズでさえ、ここまで大規模な結界は初めて見る。ただ、風音はその光景に既視感を感じていた。

(あーなるほど。これは見たことあるなあ)

実はアオから聞いたことだが、この霧の結界というのはいわゆるボス空間そのものであるらしい。

つまり霧の結界とはゼクシアハーツのボスキャラであったナーガが己の眷属を含めた魔物とプレイヤーを戦わすために生み出す離脱不可能な戦闘空間の応用なのである。そして四方にある封印宮とは戦闘範囲はここまでですよと示すターゲットポイントのようなものらしい。

(ま、結局旦那様ありきな結界ではあるんだよね。タツオに引き継がれてるのかな、それって?)

と、タツオを見た風音にタツオがくわっ?と首を傾げた。

『どうしましたか母上?』

「うん。いよいよこの里とも当面お別れだからね。タツオもこの光景をよく見ておくんだよ。これがタツオの生まれ故郷の本来の姿、これが旦那様の護ってる世界なんだから」

『はい、母上。父上は偉大です』

くわっと答えるタツオに風音も「そうだね」とタツオをなでた。

そう口にする風音だが、これから旦那様をおいて出て行くことに風音も抵抗がないわけではなかった。元の世界のことは忘れて、ここで旦那様とタツオと三人で暮らしていくのも悪くはない。それもひとつの選択だ。

だが風音はその思いを振り払う。いずれはそうするかもしれない。だがそれは今じゃない。彼女はまだこの世界を味わい尽くしていない。元の世界に戻る夢も捨ててはいない。それにタツオのこともあった。タツオは恐らく大きくなればその希少性から外に出ることが難しくなるだろう。ならば今は外を見せてあげたい。広い世界を体験して欲しい……と、そうした思いもある。それはナーガも同じ意見だった。

そして旅立ちは霧の結界の復活の3日後と決めた。その間に風音たちは旅の準備を整えることになっている。

また旅に先立つものと言えば金である。風音たちはここまでに様々な敵と戦い依頼を達成してきた。その報酬であるが……

元々ここに来た目的はハガスの心臓の移送であった。そしてその後に奪われたとはいえ、それは風音たちが渡して依頼達成後のこと。つまり依頼自体は成功であり、そして想定された難易度を大きく上回る状況にあったため、風音たちの報酬もまたそれに併せて上乗せされることとなっている。

とはいえ、それは依頼を受けた大元であるミンシアナの冒険者ギルドに報酬を経由させることになるので、受け取りもミンシアナでとなっていた。

なお直樹の魔剣『牙炎』もこの報酬としてカウントされている。

続いてベアードドラゴン、及びドラゴンベア討伐の報酬についてはハイヴァーンの冒険者ギルド管轄となり、これはデイドナの街で受け取ることとなっている。またベアードドラゴンの素材に関しては、素材取りはギルド委託で対応してもらい、すでに里に運ばれてジンライの義手やライルの鎧などにすでに使われていた。なおドラゴンベアの素材は数が多すぎることもあり、一括換金での対応となっていた。

そしてミンシアナの女王を目覚めさせた件については、すべては秘密裏の行動であり、何かもらえるにしてもゆっこ姉のさじ加減次第と行ったところである。もっともメールについての小言がもらえるのは確実である。それはある意味では風音の成長にもっとも助けとなる報酬かもしれない。

最後に山狩り及びドラゴンイーター討伐であるが、これは東の竜の里から冒険者ギルドを通した依頼なので、その場での受け取りとなった。かなり高額の報酬ではあったがドラゴンイーターの被害規模を考えれば里を救ったともいえるだろうし、必ずしも多いとはいえない額である。

もっとも、損傷しているとはいえ、ドラゴン二体にドラゴンイーターの素材も手に入ったのだから、風音たちの懐はさらに潤っている。エミリィが頭がおかしくなりそうだと言っていたが、金銭感覚が狂う気持ちになるのも無理はない。ついでにパーティ内に王族が増えて、色々と政治的にもヒドくヤバいのも問題だった。

なお、実はドラゴンイーター討伐の途中で風音は『情報連携』がLv2になっていた。どうやら情報の制限を風音からかけられるようになったようだ。これにより、以前より問題となっていた情報量過多による集中力の低下を防ぐことが可能となった。通常は会話だけで十分であり、必要に応じて視覚情報などをやりとりすれば良いだろうというのが、パーティ内での統一した意見である。

◎神竜皇后の間

『そんなわけでパーティ会議だよ』

白き一団勢ぞろいでの今後のルートを決める会議である。場所は風音の部屋であった。

そして、風音はいつもの姿ではなく、竜体化で竜に変化して、自らの座に座っていた。その風音の頭にはタツオがちょこんと座っている。

「どうしたの。その格好?」

とりあえず弓花が代表して、風音に尋ねた。

『タツオが私が竜になった姿を見たことないって言うので、ちょっとなってみた。後、なんかこっちだと護衛竜のみなさんとかの受けがよい。美形だからかな?美形だからかな?』

美形と二回強調して言う風音に弓花はイラッとするものを感じた。だが今は別の問題を指摘する。

「多分、あんたの身体からドラゴンイーターのあの匂いが染み出てるからだと思う。私も若干甘い香りがするもの」

『マジで?』

マジである。

ドラゴンイーターから手に入れた『ドラゴンフェロモン』とは実は竜系統のスキルである。その出自をたどれば東洋にいる木竜という特殊なドラゴンを寄生植物が乗っ取ったところからドラゴンイーターという新種の魔物が生まれたと考えられている。

なので風音が竜となった後でもスキルが使えても不思議ではなかった。

なお、風音の竜体化時のスキル行使はウィンドウの機能ではなく、タツオ同様に己自身でスキルを制御する必要がある。風音が匂いを止めるよう意識することでソレはようやく収まった。

『ふう、いけないいけない。私、魔性の女過ぎる』

(竜限定だけどね)

風音の言葉に、弓花は心の中でツッコミを入れる。あの姿でツッコミ返しがくると命に関わりそうなので口には出さなかった。

『そんで、これから進むルートだけど』

風音が爪を器用に動かして、地図を広げる。

『ディアサウスまでは基本行きと同じルートだね。別の街に泊まってもいいけどデイドナの街で換金したお金を受け取らないといけないからそこは寄る予定。それとドルムーの街で直樹の武器を受け取るのと、私のトンファーを作成してもらう予定だから』

「例の黒岩竜の角のヤツか」

ジンライが興味深そうに尋ねる。それに風音も頷く。

『そう。魔法短剣からトンファーへと変わることで私はついに魔法剣士であることを捨てる決意をしたんだよ』

まともに魔法剣士であったことなどないだろうに……という全員の心の中のツッコミは捨て置いて、風音は話を続ける。

『ああ、そういえばさ。私の魔剣のひとつ、ジンライさんの義手の中にも入れてるよね。そっちはどうなったの?』

「うむ。あれはさすがに慣れんのでまだ外したままだ」

結局風音は使用しなかった粘着剣ガムのことである。実は226話の段階で風音の装備から外され、ジンライの義手のアタッチメント用装備となっていたのだが、ジンライもまた扱いに苦慮しているようであった。

『むう、残念。後は一旦ディアサウスに戻って、シンディさんに報告してから、続いてはジンライさんの故郷のソラエの村にいくで良いんだよね?』

「うむ。久方ぶりの帰郷になる。寄ってもらえると助かる」

風音の問いにジンライが頷く。

『そして、そこからはエルスタの浮遊王国だね』

続いての風音の言葉に、弓花をのぞくその場の全員が息を飲んだ。

「???」

そういうものがあると話には聞いていた程度の認識の弓花が周囲の反応にあれーという顔をするが、エルスタの浮遊王国とは竜にでも乗って訪れなければたどり着けない浮遊島であり、ハイヴァーンで生きる冒険者にとってはいつの日か自分が攻略を……と考えている秘境だ。

当然ジンライやルイーズ、そしてメフィルスには馴染みの名であるし、ティアラも話は聞いたことがあった。ハイヴァーンで冒険者をしている直樹やライルたちも当然そこに行くことを夢見ていた。

「竜船経由ではなく、そのまま島に向かうつもりか?」

『うん、私が竜になって、サンダーチャリオットに乗ったみんなを抱えて飛んでいく予定かな』

「周辺にグリフォンがいる。かなり厄介だと聞いているが」

浮遊島の周囲にはグリフォンの群れがいるらしいというのは有名な話で、例え飛竜使いでも迂闊には近づけない理由でもあった。

「ブレスで追い払うつもりだけど、あのティアラの有翼騎士とルイーズさんにエミリィもいるし、なんとかなるんじゃないかな」

ティアラを筆頭に名を呼ばれた女性陣が、緊張感のある顔で頷いた。空を飛ぶ相手では前衛職のジンライたちの出来ることは少ない。レールガンなど撃とうものなら反動でサンダーチャリオットごと風音の腕から落ちてしまうだろう。

『ふ、まさかこの姿になってからかつて夢見た場所にたどり着けることになろうとはの』

メフィルスの言葉にジンライが深く頷いた。かつてのメフィルスが組んでいたパーティは結局エルスタの浮遊王国を目標に掲げながら、ついにはたどり着くことは出来なかった。それが長い年月を経て、これから叶うかも知れないのだ。

だからジンライたちの気持ちが盛り上がるのは風音にも分かる。だが、風音にはひとつ疑問があった。

(あれがゲーム中の鳥人族の浮遊島『フルミエルシェ』だとして、なんでハイヴァーンにあるんだろうね)

それは以前にも疑問に思ったこと。ゲームの中では、浮遊島はハイヴァーンよりも北の、今は滅びたらしいレイヴェル王国よりもさらに先のミルガ氷山の頂上に隣接していたはずだった。

それが今はハイヴァーンの地にある。それが意味するところはなんなのか。或いは千年の間に自然と流れてきただけなのか。それが風音は気にかかっていた。