軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十八話 旅に出よう

風音は結界内に残った魔物を倒す為に山狩りに一日は参加したが、だがそれ以外では旅立ちの前まではタツオとナーガと3人で過ごしていた。互いに発する言葉は少ないが、しかし風音とナーガの間は終始穏やかで、タツオを交えたときだけ、その場に花が咲いたように賑わった。

そして、決めていた旅立ちの日が訪れる。ビャクが途中までは乗せていこうかと提案したが、風音はコンロン山の麓のドラムスの街の温泉にも入りたかった。なので倒したドラゴンイーター憑きの雷竜の心臓に動力を代えたヒポ丸くんが引くサンダーチャリオットで旅立つこととなった。

なおヒポ丸くんの現在の出力は動力球(小)よりも若干低い。だが元が雷竜であったためかサンダーチャリオットとの相性は良く、 衝角(ラム) が戦闘用に制作されたこともあって『這い寄る稲妻』の威力は以前よりも上昇しているようだった。

そしてナーガをはじめとする主だった竜族の面々が見送る中、風音たちは大竜御殿を後にしようとしたのだが、直前にアオが風音に声をかけた。

「レベル40です。お分かりですか?」

唐突なアオの言葉に一同が首を傾げたが、風音にはすぐさまその意味は飲み込めた。

「それはプレイヤーのスペリオル化のこと……かな?」

風音がそう返すとアオが頷いた。

「はい。スペリオル化はプレイヤーに対しゲームと同様に起こります。ユウコ女王からは聞いているかも知れませんが」

騎士ならば暗黒騎士や聖騎士に、魔術師ならば賢者や大魔導師に、現状の風音のシステム的な職業は不明だが、ゲーム中ではレベル40にその時の能力に応じてスペリオル化と呼ばれる上位職業が選べる仕様が存在していた。場合によっては魂にあった形へと……という名目で種族すらも変動する。そしてアオはそれが現実にも起こるのだと告げていた。

「私が竜となったのはその時です」

そのアオの言葉に風音と直樹と弓花が目を丸くした。他の仲間たちも意味は分からぬも驚いているようだった。

「ゲーム中にドラゴンになるなんて選択肢が出たなんて聞いたことないけどね」

でしょうね……とアオは風音の言葉に返した。

「『竜身の体現者』というのが私のユニークスキルでした。これもゲーム中では聞いたことがありませんでしたが、その能力は人の身で竜の力を体現するもの。ブレスや矢除けの加護などを出せるのですね。人の身で」

「それは強そうだねえ」

風音の素直な感想にアオは苦い笑みを浮かべた。

「ええ、かなりの能力でしたが、当時はそれで差別を受けましてね。どうしようもなくなって竜の里の庇護を受けてたんですよ」

そうアオが口にする。風音たちの表情が曇るが、だがアオはそのまま笑って言葉を続けた。

「もっとも竜人のなかにいれば私も普通に暮らせましたし、そしてレベル40でドラゴンそのものにスペリオル化が出来たのです。あとはみなさんも知っての通りですね」

(スペリオル化によって変わるのはステータス上昇ぐらいだと思ってたんだけどね)

ゲームとは違い、この世界では職業は自分で記入できる。ゆっこ姉に尋ねたときには大魔導師一択だと聞いていた。なので似たような状況になると考えていたのだが、しかし目の前に実際にドラゴンへと変わったプレイヤーがいるという事実は重要だった。

そして風音が思案しているとアオが風音を見た。

「まあ、必ずそうなるとは限りませんが、しかし竜体化のスキル持ちであるあなたならば、私と同じ選択肢が出るかもしれません」

なるほどと風音は頷いた。確かにその可能性はある。

「このまま竜体化のレベルが上がっても竜になっちゃう気もするけどね」

そして風音はもう一つの可能性も口にした。それは確かにあり得る話だとアオも頷いた。

「まあ、確かにそうかもしれません。ともあれ、そういう選択もあるのだと覚えておいて欲しい……私が言いたいのはそれだけです」

「うん。覚えておくよ」

風音が今後どういった道を歩むかは未だ不明だが、竜として生きるという選択肢も存在していると示せればアオとしては今は十分だった。

そして風音以外の、直樹と弓花もそれぞれ、スペリオル化について考えていた。直樹は基本的には魔剣の操者より続くものだろうと考えていたが、弓花はどうだろうか。

(神狼族とか……可能性あるかも)

そう軽くは頭の中で考えてはみたが、しかし『人間を止める』という選択肢があるかもしれないという事実。それは恐らく未だに諦めきれない元の世界との関係性が完全に断ち切れてしまう道だろうと、弓花の脳裏に少なくない動揺を与えていた。

『これでしばらくは会えなくなってしまうな』

そしてアオの話も終わり、ナーガが風音に声をかける。

「うん。でもメールは送るし、もしかすると結構頻繁に戻れるようになるかも?」

その風音の言葉にはナーガだけではなく全員が首を傾げたが、コーラル神殿には 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) がある。それを手に入れられればここまでの道のりもそう難しくはなくなるだろうと風音は考えていた。

「メドが立ったら報告するよ」

『うむ。楽しみにしている。タツオも達者でな』

『はい父上。立派なドラゴンとなるよう日々努力いたします』

タツオが風音にへばりついたままそう口にする。言っていることと行動があっていないように思えるが生後半月である。まだまだ母親に甘えたい年頃だ。

そして一行は霧の結界を抜け、コンロン山の麓にあるドラムスの街へと向かう。風音とタツオはナーガの身内であるため、結界は作用しない。なので実際に霧が避けてゆき、ヒポ丸くんとサンダーチャリオットの通る先には見晴らしの良い道しか存在していなかった。

◎コンロン山 ドラゴンロード ドラムスの街方面

「あー、この中も久しぶりだねえ」

とは風音の言葉。サンダーチャリオットのフカフカ座席は一行にとって確かに久方ぶりの感触だった。

『母上、ふわっふわですね』

タツオも大喜びであった。現在のサンダーチャリオットはドラゴンベア討伐戦によるレベルアップでサイズも大きくなったので8人乗りとなっている。とはいえ、馬車の中は女子ルームであり、男はタツオとメフィルスのみだ。男子立ち入るべからず。実際にはなんとなくジンライは許されているのでダメなのはライルと直樹だけである。差別であった。

そして御者席にはいつも通りジンライが座り、ライルと直樹はヒッポーくんハイとクリアで駆け馬をしている。またサンダーチャリオットの屋根の上にはユッコネエが「にゃー」とお昼寝タイムであった。

これは馬車の護衛と、ドラゴンイーターのコアを食べて得たスキル『光合成』により、風音の魔力補充に努めているためである。

とはいえ、ユッコネエも気張ることは特にないので、お昼寝中。時々ふにゃーとか寝言が聞こえる。

「サンダーチャリオットも半月ぶりだけど、レベルアップしたから色々と中も豪華になったんだよね」

風音の言葉にエミリィが「なぜシャンデリア?」と呆気にとられていた。山中なので寒いはずなのだがそよ風のような暖かい風も室内を流れている。これは冷暖房をかねた魔法具が設置されているためのようである。

「ツヴァーラでもこんな豪華な馬車はございませんわ。ねえお爺さま」

『であるな。まあ外見も大概ではあるが』

ティアラとメフィルスがそう言い合う。レベルアップしたサンダーチャリオットは車輪が巨大になり、流線型に姿を変えていた。またヒポ丸くんが以前よりもさらに凶悪なデザインとなっている。全身がベアードドラゴンの素材などを利用し強化され、頭部から首にかけて漆黒のヘアーが追加されていた。また元々設置されていた黒岩竜の角はスザの手によって戦闘用の 衝角(ラム) へと形を変えている。

そんな漆黒の戦闘馬車は今日も絶好調で走り続けている。

「それにしてもカザネは結局旅に戻ることを決めたのね」

そしてフワフワを堪能してそのまま眠りについてしまったタツオと、それを温かい目で見守る女子組の横でルイーズがカザネに尋ねる。

「ん? 残ると思ってた?」

「うーん。三割ぐらいの確率であるかもとは」

カザネの問いにルイーズはそう返した。

「神竜帝ナーガ様。種族は違えど、良い男ランキングの中ではトップクラスの良い男だと思うわよ」

「まあ私の旦那様だしねえ」

風音がにへらと笑う。我がことのように嬉しいらしい。

「それにタツオくんのこともあるから、ここで皇后様になっちゃう選択肢もあると思ってた」

そのルイーズの言葉に風音は「うーん」と言う。

「タツオのこともあるから尚更今かなって、思ったんだよね」

そういってタツオを見る風音の目は慈愛に満ちたモノだった。

「この子は竜族としても恐ろしく稀少な種だからね」

今もタツオはかつてのレインボーハートほどではないが輝きを放っている。それは人の心を動かす輝きだ。だが、それは人の心を惑わす輝きでもあった。

「旦那様の子という立場もあるし、大きくなったらそれこそ外に出るのは難しいかもしれない。そう思ったら、旦那様も賛成してくれたけど、広い世界……見せてあげたいでしょ?」

その風音の言葉にルイーズも「あはは」と笑う。まあなんだかんだいってもリーダー様なのだなと、ルイーズは頷いた。

「おみそれしました」

「良きに計らえ」

素直に立派と思うルイーズと、調子に乗るチンチクリン。もっともその場にいる誰しもが優しい笑みを浮かべていた。

そして馬車の先には街の姿が見え始めていた。

ドラムスの街。そこは行きはショートカットして通らなかったが、竜に馴染みの深いと言われる温泉街である。