軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十六話 例のモノを見よう

「銀狼ッ!!」

逃げるドラゴンイーターを追いながら神狼化弓花は自分の眷属を召喚する。

神狼化の時間はもう残りわずか。であれば、早々にけりをつけるべきと弓花は銀狼を先行させ、足止めを頼んだ。

そして銀色の狼たちが風のように特攻し襲いかかり、ドラゴンイーターはその逃げる足を止めざるを得なくなる。それを見て弓花が一気に加速した。すでにドラゴンイーターはドラゴンから分離し、強固な肉体もないただの巨大植物の魔物でしかない。

「ま、要するに雑魚ってことかな」

そう他愛もない風に言いながら弓花は突進する。神狼化に伴う直感と、眷属の銀狼たちの牽制により、弓花は迫る蔓や蔦、枝の攻撃をなんなく交わし、切り裂き、突き崩し、そしてラッシュ攻撃によってその身を削り取って、最後にはコア部分を切り取って危なげなく勝利した。

「んーメロンっぽい?」

神狼化の追加スキル『犬の嗅覚』『超聴覚』『直感』の3種のスキルにより、コアの移動に伴うわずかな音と、匂い、それらを弓花は感覚的に把握していた。とはいえ、コア部分の位置を分かっていたとしても、まるで事も無げにコアを狙って切り落とすなど、今の弓花の技量が相当高いレベルにあるのは違いなかった。

そして神狼化が解ける頃合いとなったので、弓花はコアだけを手にその場からすぐに離れた。周辺にはドラゴンイーターの種子が散らばっている。神狼化が解けてしまえば、弓花は寄生されるかも知れない。故に全速力でその場を離れて、仲間たちと合流した。

なお、今回の戦闘では、寄生された雷の成竜から取り出した70階層クラスの竜の心臓をはじめとする竜素材に、ドラゴンイーターコアひとつ、そして竜喰木と呼ばれるものを始めとするドラゴンイーター素材が手に入った。大収穫である。

◎大竜御殿 神竜帝の間

『母上ーー!!』

タツオが戻ってきた風音の絶壁にピトッとくっついた。まるで弾力がないが、比較するものを知らないタツオはそれを自然と受け止めていた。

「ただいまータツオ。旦那様もごめんね、心配かけて」

『うむ、肝が冷えたぞ。汝の身は汝だけのものではない。それを忘れないでくれ』

「うん、そうだね」

そう言って風音はタツオを抱き寄せる。ナーガも別に独占欲を出して今の言葉を述べたわけではない。タツオは今、風音の竜気だけを吸って成長している。今風音が死ねば、タツオは死んでしまう可能性があるのだ。

『あれ、母上。良い匂いがしますね』

そして抱きついていたタツオは、風音からわずかに甘い匂いが漂っていることに気付く。

「うーん、スキルは切ってある筈だけど、少し残っちゃうみたいだねえ」

タツオの言葉に風音はそう返した。確かに僅かに香る匂いにナーガも首を傾げた。

『その匂い、ドラゴンイーターのものか。どういうことなのだ?』

「風音さんが新たに得たスキルですよナーガ様。ドラゴンフェロモンというらしいですけどね」

ナーガの問いに、風音の後ろにいたアオが一歩前に出て答える。

『ふむ。それはつまりドラゴンイーターから手に入れたもの……ということか』

「ええ、なかなかの効果のようです。甘い匂いだけでなくドラゴンの意識を昂揚させたり、回復効果を高めたり、冷静さを戻すような、香木としての効果をもたらすようですね。竜限定ですが」

『ふむ。相変わらず我が后は規格外だな』

そういってナーガは笑った。ちなみに風音たちが手に入れた竜喰木はドラゴンイーターの甘い匂いを出す香木であり、竜たちの嗜好品でもあり、その匂いを自然に出せる風音は危険な香りを放つ女であった。竜限定だが。

『しかし他の竜族にはあまりその匂いを出さぬようにな。この里の竜ならば自制も効こうが、外では連れ去られかねぬ』

ドラゴンイーターの甘い匂いはドラゴンにとっては抗いがたい匂いなのだ。手元に置いて独占したいと思う竜が出ても可笑しくはない。

「了解だよ」

「しかしあの匂いがあれば、風音さんならば知性を確立していない竜たちをも従えることが出来るかもしれませんね。あなたが神竜皇后としてあるようになれば、竜族もずいぶんと変わるかも知れません」

「む、変な勧誘禁止ですわ」

そのアオの言葉に一緒に来ていた白き一団のティアラがプイっとした顔で、風音を抱きしめた。そして風音は息子とおっぱいのサンドイッチとなっていた。

「すみません。そのようなつもりはないのですが」

アオの苦笑に、一同も苦笑いをする。

「ともあれ、ドラゴンイーターの討伐は完了いたしましたナーガ様」

『うむ、ご苦労であった』

「また今朝方に寄生されたヴァラオンも風音さんたちの力で救出に成功。現在治療中ですが、どうにか持ち直しています。その後は体力回復に努め、腕の再生治療も終えれば元気な姿にはなるでしょうが」

『なにか問題が?』

ナーガがその言葉に含みがあることを察し尋ねる。

「問題というか、どうやらこちらの風音さん同様にドラゴンイーターの性質を手に入れた可能性があります。東洋にいる木竜に近い能力だとは思うのですが」

『なるほどな。それは状況経過を見て考えるとしようか』

ナーガはアオの報告に頷いた。

「それとやはり種子はドラゴンイーターの侵攻ルートにばらまかれているようです。東地区への立ち入りは当面閉鎖し、森は焼くべきかと考えます」

続くアオの言葉にナーガは眉をひそめるが、これも仕方のないことではある。あれが残ったままではまたいつドラゴンイーターに寄生されるドラゴンや竜人が出るか分かったものではないのだ。

『良かろう。スザを先頭に浄火を任せるとしよう』

やむを得ぬとはいえ、自分たちの土地を焼くのにはナーガも渋い顔をした。だが、その気持ちを切り替えてナーガは風音の方を向いた。

『そうであった。スザで思い出したのだがカザネよ。あやつが例のものを完成させたと言っておったのでな。後で顔を見せておくが良かろう』

そのナーガの言葉に風音は「マジで」と返す。

それを聞いてしまってはこの少女の意識はそちらに集中してしまう。その後の報告中でもずっとそわそわしっぱなしだったので途中でナーガから「行ってきたらどうだ」と言われたことで、風音はタツオをくっつけたまま部屋を飛び出していってしまった。目の前においしいご飯があったら食いつかずにはいられない、風音はそんな少女なのだ。

◎東の竜の里ゼーガン 南の封印宮 朱雀の間

「スザさん、あれ出来たって本当!!」

風音はタツオを抱きしめたまま、ダッシュで大竜御殿からこの南の封印宮までやってきて、護衛竜に通されてスザのいる朱雀の間へと入っていった。

「おや、カザネ様にタツオ様、お早かったですね」

そして、そこにいたのは人化したスザであった。

このスザは東の竜の里の護剣の四竜と呼ばれる神竜帝ナーガの次の地位にあるドラゴンの一体で、アオを親とする転生竜でもある。また性格も風音が会った四竜のなかでは一番アオに近いドラゴンであるようだった。

「うん、例のヤツが出来たって聞いたんで飛んできたよ」

『母上、飛んだのではなく走ってきたのですよ』

風音に抱きついたままのタツオの言葉に「うぬぅ」と風音はうなったが、息子に大人げなく反論はしない。そしてそれよりも風音はそのスザの手にあるものを見てウズウズしていた。

「それが黒岩竜の角で出来たトンファーだね」

そう、スザの持っていたのは、あの誰一人として加工が出来ないと匙を投げていた黒岩竜の角から作られたトンファーであった。スザは炎を操るドラゴンであり、その高熱で黒岩竜ほどの硬度の角を加工できる数少ない鍛冶師でもあった。そしてスザが人化していたのは、そのトンファーの確認のためであるようだった。

「はい、そうです。もっとも予定していた魔鋼の設置穴は入っておりませんが」

そう言ってスザは風音にそのトンファーを渡す。風音はタツオをおろすとグリップを握って、フンッと振りかぶる。

形は棒と言うよりは横広の板という感じであった。これは変形した黒岩竜の横広くなった刃のような部分を削って利用しているためである。グリップに近い先は丸く打撃用だが、反対の先は鋭く尖った角の先のような形となっていた。

なお、トンファー入門書には残念ながらトンファーの扱い方は書いていないが、風音の利用目的は拳の代わりの打撃武器メインなので使用についてはそこまでの問題はないと考えていた。だが肝心の魔鋼がはめ込めないのではファイアブーストを使用する本来の用途には使えない。その意味も込めて風音がスザに視線を送るが、スザはそれも折り込み済みと言葉を続けた。

「やはり魔鋼をはめ込むほどに穴を開けてしまうと強度の方に問題が生じますので。まあ黒岩竜の角を破壊するということが果たしてあるのかという気もしますが、ともかくこれ以上の設置はドルムーの街でやってもらう方がよろしいかと」

「ドルムーで?」

「はい。カザネ様の魔法短剣を見させていただきましたが、量産品とはいえ、よくできた構造をしております。であれば何も構成素材を黒岩竜の角だけにする必要はないのです。留め具用の穴は開けてありますので、このトンファーに魔鋼を設置したパーツをはめ込むことで当初予定していた機能は十分に発揮できるかと」

その言葉に風音と、意味は分からないが母親につられてタツオが「おおっ」と声を上げた。

「まあ、そちらはあくまで余りもので作ったもの。そして肝心のシロモノはこちらです」

スザがそう言って風音を案内する。そしてその先にあった工房で風音は目撃する。恐るべき殺傷兵器を。

「ごっついねえ」

「色々と足しましたので。もっとも当然黒岩竜の角をメインフレームとしていますので頑丈さは以前通りですよ」

そういって見た目が赤い色をしたアオといった感じのスザが笑う。

「しかし、驚きましたよ。まさか加工もされていない素のままの角が進化してるんですから。どれだけ無茶な使い方をしたんですかね」

「まあ、ちょっと巨大悪魔に突っ込んだり、地竜の群れに突っ込んだり、クリスタルドラゴンに突っ込んだり、コボルトライダーの群れに突っ込んだり、ドラゴンベアの群れに突っ込んだりしただけだよ」

その言葉にスザが呆れた顔をしたが、だが納得もいったようだった。そしてそこにあったものは、黒岩竜の角をベースにさらに禍々しく、刺々しく、鋭利で破壊的な 衝角(ラム) を装備し全体的に凶暴なデザインにパワーアップしたヒポ丸くんであった。