軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十四話 鬼退治に行こう

◎ウィンラードの街 正面門前

「来た! 来たぞぉぉおおお!!」

掛け声とともにカンカンカンと鐘が鳴る。

それは予定されていた通りの狂い鬼率いるオーガ三〇〇匹の行進がウィンラードの街に迫ってきていることを知らせる鐘だった。

もっとも街の中は静かなものだ。

街の住人はみな家の扉も窓も閉めて縮こまり、貴族や上級商人たちも館の奥で護衛とともに固唾を飲んで状況を見守っている。今この街で動いているのは戦うことを選択したものたちだけである。

ミンシアナ兵732名、冒険者ギルドランクC以上155名、ランクD以下88名、合計約1000名。それが正面門にいる戦力だ。そして主力となる戦力は…

「いやー壮観だね」

森の中を石馬ヒッポーくんで走りながら風音はそう口にする。

「オーガ相手じゃ籠城しようにも壁がすぐに壊されちゃうんだって。まあ最終的には狩りきれなければ街中で挑むしかないんだけど」

「人的被害を考えるなら誘い込んで一網打尽が理想なんだけどねえ」

街の被害も多大なものになるということで、貴族などから猛反発を喰らっている。

「しかし、この乗り物はいいな」

横から声がかかる。ニ体目のヒッポーくんに乗るガーラである。裏にはアンナとジローがいる。ジローが涙目なのはもう仕方のないことだ。毎日がクライマックスな気分なのだ。

「乗り心地が素晴らしいわね。一体欲しい」

アンナは上機嫌でヒッポーくんを褒め称える。

その後ろには他に4体のヒッポーくんがついてきていて、それぞれ三人ずつ乗せている。合計18人、カザネとユミカとともにいるのはジンライ。他もランクA、Bの強者たちである。

(はてさて、上手く行けばいいのだけれどね)

風音は街を守る冒険者と兵たち、そして迫り来るオーガの群の両方を見て舌なめずりをした。意識はすでに戦闘モードに。ゲームでのモンスター侵略戦のことを思い出し、熱く冷静に戦場を見守ってた。

そして戦いは目前に迫り、人間対オーガの正面対決はもはや時間の問題となった。しかし風音たちが敢えて街を出て石馬を走らせているのはなぜか?

それを説明するにはわずかばかり時間を巻き戻す必要がある。

◎ウィンラードの街 冒険者の酒場(本作戦本部)二時間前

「さて、斥候からの報告によればあと二時間ほどで鬼どもは街に到達するとのことです」

キンバリーがそう告げる。

この場にいるのはクラスAの冒険者とクラスBの中でも秀でている冒険者、そしてイレギュラー的に参加となった風音と弓花を含む30名だ。ギルドのまとめ役としてキンバリーが選ばれているのでこの場においての指揮官はキンバリーということになる。

「ここにいる皆様は冒険者ギルドでも屈指の実力を持った方々。この後の戦いにおいては主戦力となってもらう予定です」

だがキンバリーは声を留め、風音を見る。

「しかし、現状の戦力を鑑みるに正面からの戦いではこちらが不利なのは明らかです」

周囲が特にざわめく様子はなかった。それは誰の目にも明らかだったのだから。

「街に誘い込んで一網打尽にしたいところですが反対意見が多数ありまして断念せざるをえない状況です」

その言葉に周囲からは苦笑、舌打ちや罵倒の声があがる。

「仕方がありませんので正面門で主力部隊が戦闘を開始しつつ、後退しながら街の中で囲んで仕留めようと考えています」

しかし続くキンバリーの言葉にワッと笑いが起きた。それは主戦力を囮とした包囲戦そのものである。ようするに言い方を変えただけで誘い込んで倒すのには変わらないということになる。

「しかしそれだけでは足りません。連中のボスが狂い鬼である以上、ヤツを早々に倒すことこそが勝利のための必須条件と考えています」

狂い鬼という名前に風音の横にいたガーラを始め、何人かが怒気を高める。

10パーティ壊滅。この街の冒険者である以上は見知った人間が殺されたものも多いのだろう…と風音は考えた。

「だが、狂い鬼の姿は確認されていないと聞いているが」

参加メンバーの一人がそう指摘する。

その指摘にキンバリーも頷く。

「ええ、そこで彼女に頼むことにしました」

キンバリーが指さした先、そこには当然のように風音がいた。

ザワザワと周りが騒ぐ。主に「なんで子供がいるんだ?」という疑問の声だったが。

「お静かに。こちらのカザネはなりはヒューマンですが獣人の血を引いています」

キンバリーは人差し指で自分の鼻を指さす。

「つまり鼻が利きます。彼女に狂い鬼を探してもらい、奇襲部隊で攻撃を仕掛けようと考えています」

キンバリーの言葉に「オオオ」と声が挙がるが、そこに「ちょっと待った」という声も挙がった。

「ふむ、あなたはギャオでしたか」

声を挙げたのは獣人の男だった。

「そうだ」

ギャオはフンっと鼻息荒く風音を睨むとこう言った。

「おれっちも鼻は利く方だがこいつにゃ獣人の臭いがしねえ。本当に鼻が使えるのか信用できねえ」

そう口にするギャオにキンバリーは唸るが、風音が「やれやれ」という顔をして口を開いた。

「ヤンバ鳥の焼き串」

その言葉に一同が「?」となったが「ほら、あなたの番だよ?」と風音が言うとギャオはすぐさま察して返事を返す。

「ジロン酒で煮たホロホロ魚」

「ローリ草のサラダ」

「アニス亭のデニッシュ」

そんなやりとりが10ほど続いた後風音が一言告げる。

「受付のお姉さん。えーとニーナさんだったっけ?」

ギャオの顔が青くなる。

「と、もう一人」

「ま、待て。分かった」

ギャオが両手で風音の口を塞いだ。

「ふぐっ、むぐぐ」

「あーあー、分かった。分かった。おまえの鼻はすごい。いや俺よりも凄いわ」

そのギャオの肩を別の誰かが掴んだ。

「うんうん。ニーナともう一人? 誰かしら?」

それはさきほどまでギャオの横にいた女性。

「いやいや、メロウ。そりゃお前のことに」

「えー別のひひょ…ふふほ」

再度風音の口をふさぐギャオ。だが周囲からの視線も厳しい。受付のニーナはこのギルドでもアイドル的存在だ。それを盗られたというのであれば冒険者たちの怒りを買うのも無理のないことである。

「ま、この作戦が終わってからね。あんたを殺すのは」

「は、ははははは」

メロウの優しい言葉にギャオが力なく笑う。

裏では弓花が「なに?」と首を傾げている。その横にいたジンライは今のやりとりが獣人の間でやる『昨日食べたもの当てクイズ』であることに気付いていたが、今の会話の意味を説明する気にはなれなかった。

「…ハァ」

風音の口を塞ぐのを止めたギャオが力なく自分の席に戻っていく。

「ええと、ギャオも鼻に自信がおありでしたら風音といっしょに狂い鬼を探してもらうよう願います」

あいよ~と力なく返事が返る。ちなみにギャオはレベル30ランクBの拳闘家である。

「すまないが質問はいいか?」

周りが落ち着いたところでガーラが挙手して発言を求めた。

「どうぞ」

「ランクA ガーラ・オルデアだ。今の作戦で確認があるんだが狂い鬼を発見したとして奇襲部隊の移動手段はどうするつもりだ?」

「それはオーガ戦では馬を使用できないという意味ですよね?」

ガーラが頷く。

オーガの気配は馬を怯えさせる。訓練された軍馬でも遠吠えだけで逃げ出してしまう。つまり狂い鬼を発見しても馬での移動はできず、徒歩では他のオーガに囲まれるという問題が発生するのだ。普通ならば。

「それも問題ありません。またまたそちらのカザネの出番ですが彼女のゴーレムで移動します」

その言葉に周囲はまたざわめいたが、風音が実際にヒッポーくんこと石馬を出して周りを納得させた。

そうして狂い鬼奇襲作戦は決定。今の状況へと続いている。

「やっぱり後ろかな。ギャオはどう?」

「おれっちも同じだな。他が駆けてるのにひとり佇んでいるのがいるわ」

石馬を停めて、風音とギャオが群の裏側を眺めている。

「今なら裏から回れば気付かなさそうだね」

「だな」

二人はそう判断すると、後ろにいるガーラに頷いた。

それを見たガーラからは凄惨な笑みが漏れ、手に持つハルバードを振り上げる。

そうして奇襲部隊は、静かに走り出した。