軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百十話 怒りをぶつけよう

風音の足を覆っていた装甲は今や無機物でありながら筋肉のような形状へと変わっていた。竜爪は伸びて、より禍々しい形態を取った。風音の意志を受けてより殺傷力の高い形へと変化していた。

そして風音の横に並ぶのはユッコネエだけではない。もう一体、黒い筋肉で覆われた、まるで竜のような爪を手の甲や足から生やした巨大なオーガが立っていた。それはかつて風音が倒した『狂い鬼』が黒岩竜の力を得て生まれ変わった存在。風音の装具となっていたそれが、遂には自らも戦場に出てくるまでに成長し、召喚という形で顕現したものだった。

対する雪人とエイジの顔には余裕がない。

風音のスキルが自分たちにとって天敵であることを悟ったのだ。ナーガと戦った雪人は多少消耗している程度だが、ジンライによって相当の損傷を受けているエイジにとってはあと一撃でも命にかかわる危険がある。であれば、エイジは下がらせて雪人が挑むのみ。

『スキル・ 軍勢(レギオン) 』

雪人がそうスキルを発動させ、マントの内側から黒い軍勢を呼び出す。

「邪魔だよ!来てジーク!!」

それに対し風音は英霊召喚の指輪をかざした。そして最強の戦士がそこに顕現する。

『ゼクシア・レイッ!!』

飛び出したジークはまったく躊躇いなく己が最強の技を振るう。大翼の剣から膨大な量のエネルギーが発せられ、飛び出した軍勢を蒸発させる。さきほどのナーガの黄金の黄昏のような一属性の攻撃ではないのだ。八属性すべてを内包したゼクシア・レイを防ぐ手段は完全魔法防御以外にはない。

しかし英霊召喚は風音だけのものではないのだ。

「攻め返せスノードロップ!!」

雪人が指輪をかざす。それが英霊召喚の指輪だと気付いた風音がジークを前に立たせる。

「グォォオオオオオ!!」

突如、炎を纏う大層な髭を生やした筋肉の塊のような老人が飛び出してくる。そして手に持つのは灼熱のハンマー。まるで名前と真逆のその英霊の姿に風音は見覚えがあった。

「ジーク、全員守って!」

「天鏡の大盾『ゼガイ』よ!我らを守れッ!!」

『爆炎獄界』

ハンマーが叩きつけられた地面から凄まじい熱量の炎が吹き出る。

だがジークの持つ盾の文様が巨大化し、炎の一切を遮断する。

「全軍、弓を構えぇええい!!」

「「「「サーイエッサー」」」」

「チッ」

ジークが舌打ちをする。

(乗せられたみたいだね)

風音も苛立つ顔を隠そうともしない。相手がプレイヤーであることも驚きだが、まさか知っている顔だったとは思わなかった。いっそセカンドキャラクターで圧殺しようかとも考えていた。だが、スノードロップの今の技を喰らえば全体防御のないセカンドキャラでは自分や直樹とジンライを守ることは出来ず死んでいただろうと考え、風音は冷や汗をかいた。

しかしスノードロップと呼ばれた英霊が仕掛けた攻撃を防いだまでは良かったが、その間に雪人のスキルの 軍勢(レギオン) が周囲を固めたようだ。ナーガをも退けた軍勢が、風音たちを囲むように陣形をとっている。

「ゼクシアハーツの頃の決着をつけようかジーク!!」

「抜かせ、名前狂いのスノードロップが!」

どこか精神的におかしい雪人と違い英霊であるスノードロップは正常に思考できるようだった。そして風音はそのスノードロップというキャラクターに覚えがある。リアルでこそ出会ったことはないが、ゼクシアハーツのチーム戦などでは何度か戦いあった仲だ。名前に似合わず炎の攻撃に特化している筋肉老人はトップランカーと呼ばれる存在だ。

もっともあれだけならば、ジークで抗せる。しかし後ろにいる雪人の 軍勢(レギオン) の弓兵部隊、続いて巨大な弩を使うバリスタ部隊も並び立たれては分が悪い。あれが狙っているのは見る限り風音、ジーク……だけでなく、ジンライと直樹もだ。

風音がふたりを守ることを選択するのを承知で狙っているのが分かる。怒りで気が狂いそうだったが、だからこそ有効なのだ。しかし、守りに入っていてはジークはいずれ消える。ジークが消えればセカンドキャラを呼べるが単体で敵を殲滅するのには特化していてもジークのような全体防御がない。守るものが多い場合にはセカンドキャラクターは出し辛いし、それを出さざるを得ない状況になる前には決着をつけたい。

だからこそ、迷わずに突き進む。

風音はユッコネエに直樹とジンライを回収させ、一旦『狂い鬼』の召喚を解いた。そしてアイテムボックスからマナポーションを出してひと飲みしてから3メートル魔剣を突き立て、杖『白炎』を使ってストーンミノタウロスを発動させる。大理石の床からメキメキと石像が出来上がっていく。

「ああ、あのドラゴンベアの時の……」

そうエイジは口にするが、だが余裕の顔だ。たかだか魔物を一体呼んだからといって……とでも思っているのだろう。

「行け、ミノくん!ジークも前へ!!」

風音がかけ声を駆けてストーンミノタウロスが走り出す。それにジークが続き、その後ろをユッコネエが追う。

「射てぇえええ!!」

弓兵部隊とバリスタ部隊から雨のような矢が放たれる。

同時に風音も走り出した。スキルの『ダッシュ』に『インビジブル』と『光学迷彩』を使って姿を隠し、流れ矢をマテリアルシールドで打ち落としながら突き進む。

(盾役ごめんねミノくん)

練習台になったり盾になったりと不遇な立場のストーンミノタウロスに心の中で謝罪しながら風音は先へと進む。

「ゆきと兄ちゃん、風音が向かってる!」

エイジが風音のスキルを見破るが、雪人はともかく、彼の部隊ではすぐには対処が出来ない。

「偵察部隊……見ろ」

雪人の言葉のままに軽装装備の部隊が走り出し、索敵魔術と魔術破りを放って風音を捉える。

「もう遅いよ!」

光学迷彩が消えたが、だが竜専用で広いとは云え室内では雪人の部隊は実力を発揮し辛く、風音はすでに敵の部隊の間近に接近している。ならばファイアブーストで急加速すれば十分な届く距離だ。

「出番だよ『狂い鬼』!」

そして風音は大盾を以て防御していた敵の集団の中心に『狂い鬼』を召喚し、その爪にもアイムの腕輪を通して『魂を砕く刃』を付与する。そしてオーガの拳と蹴りが吹き荒れ、周囲の軍勢がまるで豆腐のように砕け散る。全身これ凶器なり。あまりの破壊にそこがまるで竜巻に巻き込まれたかのような状態になっている。その上をファイアブーストで飛び越えた風音はここで切り札の一つを使う。

「スキル・竜体化」

そして敵の部隊の真ん前で8メートルはあろう巨大な虹色の竜気を帯びた青竜が顕現すると、敵の集団の中心へとクリスタルブレスを降り注いだ。狙いは弓兵たちだ。まずは遠距離攻撃を止めるために風音はここまで接近していた。

敵もこちらが青竜であることに気付き魔術師部隊を前に出してファイアを集団で放つが、風音の周囲にあるレインボーカーテンによって無効化される。弓兵たちは風音が近すぎて狙いを定める前に水晶漬けになってしまう。そして槍兵部隊などが接近しようにも黒いオーガがそれを阻止する。

もっとも敵も黙ってやられるわけもない。

「巨人部隊、前へ!!」

ズンっと5メートルはあろう巨大な甲冑が10体、雪人のマントから出てくる。

(クリスタルブレスで固めるには数と量が多いか)

風音が思案していると、

『受けとれっ!』

とナーガの声とともに、ズシャンと風音の前に黄金の剣が突き立てられた。

『これは?』

風音がナーガを見ると、すでに虫の息のナーガが剣を投げたポーズで声を出した。

『婚姻の証みたいなものだ。我が愛剣よ』

『了ッ解!いただきますっ!!』

青竜風音が黄金剣を握るとその手に黄金色の文様が浮かび上がる。

(馴染むねッ!)

一振り、二振りとふるって巨人兵を切り裂いていく。その剣は竜族専用の武器なのだろう。風音の竜気を喰らって、光の風を起こし、周囲を薙ぎ倒す。

もっとも快進撃もここまでだった。

「バリスタ部隊、射てぇええ!!」

『クッ』

竜となった風音に次々と丸太のような巨大な矢が突き刺さった。

(うるさいっ!!)

風音は黄金剣を横に切りつけ光の刃を放ってバリスタ部隊の一部を破壊する。だが直後に手足を捕縛用拘束鎖で巻き付けられた。

『うぁああッ』

無理矢理引きちぎろうとするが、だが出来ない。当然だろう。これは竜を縛るための鎖だ。風音の力では引きちぎれない。もっともそれを上回る硬さの獲物を風音は持っている。

「鎖が噛み砕かれた!?」

「なんて頑丈な歯なんだぁああ!!?」

兵たちが叫ぶが、しかし風音も忘れていたもう一つの武器があったのだ。スキル『より頑丈な歯』、レベルが2になったその歯はもはやダイヤモンドのような硬度を誇り黄金の剣とともに風音の強力な武器になるのだ。今の今まで忘れていたのだが。すっかり忘れていたのだが。

そして風音はドラゴンらしく四つん這いになってバリスタの攻撃を受け流しながら部隊へと進撃を開始する。

それに狂い鬼も追走する。その身体はかなりダメージを受けているようだが、久方ぶりの戦いにその顔は愉悦に満ちていた。

しかしストーンミノタウロスはすでに崩れ落ち、ジークはスノードロップと一騎打ちで、こちらを助ける余裕はない。

(ここであいつらを倒せればッ!)

風音は突進しながら、雪人とエイジの元に向かう。まるでラッセル車のように周囲の兵を噛み砕きながら全力で走る。

「怖いな……あのこ」

「うん、人間じゃないね」

それを風音が聞いたら「悪魔に言われてはお終いだ」と嘆いたかも知れないが、しかしふたりにとってはその言葉はただの事実だ。元小さな女の子が四つん這いになって兵たちを噛み砕きながらこちらに向かってくるのである。普通に怖かった。

「それにしてもあれだけのこだからね。殺した場合がちょっと怖いかも」

「乗っ取られる……かもしれない」

悪魔にとっての天敵であるプレイヤー。どれだけ契約で魂を縛ろうともその支配力を奪われてしまう絶対的魂の強者。エイジと雪人のふたりもプレイヤーで、そうして悪魔を乗っ取って現在に至るのだがプレイヤー同士となると条件は五分五分だ。

そして一番の問題はプレイヤーは経験値と称して『魂を吸収する仕様』なのだ。故に倒してしまえば魂の吸収を余儀なくされる。

「エイジ……目的は達した」

「うん。逃げ時かな」

雪人の言葉にエイジが頷く。彼らにとっての目的の品はすでに手に入っている。魔軍の試運転も概ね順調のようだ。もはやここで無理に戦う意味はない。だが風音にとっては違う。

(ここでしとめるっ)

風音は雪人とエイジの間近まで接近すると竜体化を解いた。そして『狂い鬼』に護られながら、準備を整え、ファイアブーストをかける。

「スキル・チャージ・キリングレッェエエエエグ!!」

そして怒号のような声とともにカザネ・ネオバズーカを雪人たちにぶち込もうとして、

「残念……逃げる」

雪人はその言葉と共にアイテムボックスから宝石まみれの長い剣を取り出してそのまま目の前を切り裂いた。

「それは 時空の覇剣(ディメンジョンソード) !?」

風音はそれを知っている。その剣は8つのアーティファクトのひとつ。移動と切断の二つをこなす玄人好みの長剣。そして風音に向かって切り裂いた空間が開いて、風音が飲み込まれたと思えば、直樹やジークたちよりも後方に突然出現した。

「チッィイイ」

風音はファイアブーストを使って、威力を殺し、ギュルギュルと大理石を抉りながらなんとか、威力を殺しきった。大理石が削られ周囲に砂埃が待っている。

「アンタらっ!?」

風音が吠えるが、だが軍勢が消滅し、スノードロップも一歩引いている。ジークも牽制しつつも深追いはしない。それは背後のユッコネエの背にいる直樹とジンライを護るためだ。

そして雪人とエイジが神竜帝の間の前に立ち、エイジが口を開いた。

「さてと、ここらで僕らは撤収するよ。ねえ、ゆきと兄さん」

「ああ……もう十分」

ふたりのその身勝手な言葉に風音は激昂しかけるが、だが言葉を飲み込んだ。自分の怒りよりも優先すべきことがある。直樹を、ジンライを護ることが第一だと堪える。それを見てエイジは笑う。

「あーまあ、君はそうだね。見た目は僕と同じくらいの年なのにひどく冷静だ。愚鈍な弟とはえらい違いだね」

「直樹の悪口を言うなッ!!」

直樹の頭の悪さは事実だが何も知らないヤツに言われるのは腹が立つのだ。というか同じくらいの年にも文句は言いたいがそれも堪えた。

「ともあれ、僕らもここで撤収する。そうすれば君の弟も仲間も助かる。そちらの君の旦那様は別だがね」

ナーガの心臓はすでに破壊されている。もはや死を待つのみである。その言葉にナーガが呻くが、だがどうしようもない事実だ。それを風音は見て、ギリギリと歯軋りをしているが、だがここは退かせるのが正解だ。

彼らに一番近い狂い鬼がうなり声を上げて雪人たちをみているが、だが風音は手を下ろして狂い鬼に命じる。

「ごめん、戻って『狂い鬼』」

そして消失する鬼を見てエイジが頷き、

「うん。ありがとう。そして、これから僕たちが描く世界を見て君たちも楽しんでくれるといい」

「どういうこと?」

「確かに君もなかなかの強さだけど、所詮は脇役みたいなものだってことだよ。そしてこの世界の主役は僕らだ」

その言葉の意味に風音の顔が険しくなる。確かに自分が主役などと感じたことはないが、脇役と呼ばれていい気がする訳もない。だが風音が声を出そうとする前に、

「エイジ、帰る」

「それじゃ、ばいばーい」

ふたりはその場から姿を消してしまった。それは転移術という、単一の属性持ちのみの技。悪魔のユニークスキル。元より複数の属性を保つ人間には扱えない類のものだった。

「くぅっ」

残された風音がうなった。敵は逃した。いや逃してもらったと言うべきだろう。本気だったとは思えない。そして怒りが治まらないが、そこは堪えるしかない。

ジークとスノードロップも消えていく。

しかし敵がいなくなったからといって、この場で風音がふてくされたり、叫んだりするわけにはいかない。目の前にいるナーガの元に風音は行かなければならない。もうじき命の尽きる自分の旦那様の下に。