軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七話 その腕をもらおう

◎大竜御殿 神竜帝の間

「ハガスの心臓、もらいにきましたよ?」

そうハッキリと三体の竜に声が響いた。神竜帝ナーガは目を細めて、その言葉を放った男を睨む。

『礼儀を知らぬヤツだな。偽りの姿でもって我に接するか?』

その言葉にベンゼルは笑った。そしてズクズクとベンゼルは黒く染まり、ゆっくりと形が少年のものへと変わっていく。

「ごめんなさい。スキルが発動すると自己暗示が働くんだよね。本人になりきりすぎてたかも」

そういって黒髪、黒目の少年は頭を下げた。

『殺れッ』

突如として巨大な槍が振り下ろされ、大理石の床を破壊した。

『チッ、避けたか』

そう東青候セイが口にした。ナーガの率直な命令を実行しようとしたが、上手く行かなかったようだ。目標はわずかばかり後ろへと下がって避けていた。

「危ないなあ。もっとおしゃべりを楽しもうよ」

『盗人相手になぜ我が会話を楽しむ? 悪魔風情が図に乗るなよ』

ナーガはそう吠えた。左腕の転生竜の卵を守護の結界を張って守ると、右腕に巨大な黄金の剣を召喚した。

「あは、それ『黄金の黄昏』だよね。千年経ってるのにゲームのときとあまり変わらないみたいだね」

その言葉にセイとスザは意味が分からず眉をひそめる。ナーガはその言葉の意味を理解しているが、だがそれに答える舌は持たない。

『下がれ、スザにセイよ』

ナーガの命に従ってスザとセイが跳び下がり、剣より発せられた黄金の風が黒い少年めがけて放たれ神竜帝の間を光で埋めた。

『光となって散るが良い』

ナーガがそう口にするが、だが黒い光の奔流が黄金と拮抗する。

『ぬ?』

それにナーガは目を見開く。

『なんだ、あれは?』

『黒い光だと?』

セイとスザが驚きの声をあげる。『黄金の黄昏』は光の属性を帯びた魔剣。それを反属性である闇の力で抗せるなど尋常ではない。

「悪魔には天敵みたいな剣だね、それ」

黄金と暗黒の光がぶつかり合う中、のんきな声が聞こえてくる。

「けどこちらにおりますスペシャルゲストには少々物足りないみたい」

そして黄金と暗黒の光が弾けた後、そこにはさきほどの少年の他にもう一人いた。それは黒の少年とは同じ漆黒の出で立ち。だが、その瞳は違った。そこに宿るのはただの暗黒。何もかも飲み込む漆黒の闇。

「悪魔王 白井(しろい) 雪人(ゆきと) 様のおなーりー」

それを黒の少年はさも楽しそうに笑って紹介する。

「エイジ、ドラゴン……だ。喰う?」

「ゆきと兄ちゃんは相変わらず食い意地張ってるねえ」

スザはその雪人と呼ばれた男を見てゾッとする。知性はほとんどないのだろう。しかし、その瞳に宿るどす黒い悪意は隠しようがなかった。そしてナーガはその悪魔王と呼ばれる男に見覚えがあった。

『……貴様、北のレイヴェル王国を治めていた白王ユキトだったか』

雪人はどこまでも深い闇の色を宿した目でナーガを見ながら首肯した。その顔にかつてナーガが見た知性ある王の顔は見れない。

『亡国の王が今更、世に戻ってきて何とする? 貴様の民はみな貴様が喰らってしまっただろうに』

それは吐き捨てるような軽蔑の言葉。目の前の存在は竜たちを率いる長であるナーガのような、何かしらの上に立つものにとっては唾棄すべき存在であった。

「いや、いるよ」

だが雪人はナーガの言葉を否定する。そしてマントを広げ、声をあげた。

『スキル・ 軍勢(レギオン) 』

「ここに……確かに……」

途端、千を超える漆黒の軍勢が顕現した。

◎大竜御殿 神竜帝の間 正面通路

ジンライと直樹がまず最初に行ったのは御殿の入り口だったが、それは黒い壁によって閉じられていた。そして彼らが次に向かったのは、警備室などに該当するいくつかの部屋であったが、そこにも誰もおらず、途中で感じた血臭を追って今は神竜帝の間の前にいた。

「なんだよ、これ?」

直樹がそう口にしたのも無理はない。死屍累々とはこのことか。

何体ものドラゴン、それもこの御殿に入ることを許された成竜たちが屍となって倒れていたのである。そしてその先にある光景を見て愕然とした。

『ウォォオオオオオオオ!!』

ナーガの叫び声と、

「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」

怨念のごとく、叫ぶ大勢の人の声。幾人もの水晶化した黒い兵たちの姿もあり、ナーガも決してやられてばかりではないことは分かる。だがセイやスザは軍勢に圧され、ナーガの元に向かうことが出来ない。それどころか致命傷こそ受けていないがほとんど死に体であった。そしてナーガに至っては全身がひび割れ、その巨体を気力だけで保たせて剣を振るっていた。

「魔剣来ます!」

「盾の部隊、防げぇええええ!!」

黒の軍勢はまるで一個の生き物のように体勢を整え、ナーガの魔剣の光の攻撃を盾で防ぐ。そして周囲に展開された弓兵部隊とバリスタ部隊がその間にナーガを激しく撃ち付ける。

『グォォオオオオオ!?』

ナーガが怒号するが、だが状況は変わらない。

「見事なまでの対竜陣形。なんという洗練か」

思わずジンライがそう口にするほどに、それは人という力なき種が竜に対して挑む戦いの理想型のような姿であった。直樹も息を飲んでそれを見る。

(あれが姉貴と結婚したっていう……どうする。どうやって助ければ)

戦力差は絶望的に見えた。少なくともジンライと自分の二人だけであの千の軍勢に立ち向かうのは無謀に過ぎた。だがそれを覆す考えなど浮かぶはずもない。そして目の前のナーガはもはや死ぬ寸前なのだ。

直樹はその死にかけているナーガが風音と婚姻を結んだのは知っている。形式だけのこととはいえ、それが気に入らないという気持ちにも偽りはない。だが、あれが死んだら姉はどう思うだろうかと考え、そして脳裏に泣く姉の姿が浮かび上がり、

(やるしかないか)

魔剣を掴み、走ろうとして

「ああ、君たちいたんだっけ?」

背後から声がかけられた。

「下がれナオキッ!!!」

ジンライが叫ぶ。だが間に合わない。

「あ?」

直樹の視界が一瞬にして変わった。ベキバキと骨の折れる音が己の内側から響き渡る。

(殴られっ?)

自分が殴られたという事実だけは辛うじて理解できた。そして直樹は通路の壁へと激突した。

「ナオキッ!?」

ジンライが直樹の元に駆け寄る。

(む、ヒドい傷だが、だが死ぬほどではないか)

そう判断するとジンライは直樹を襲った人物を見る。

「っと、危ない。確か彼はプレイヤーだったっけ。『殺したら』危ないところだった」

そう口にした少年にジンライが鋭い視線を向ける。突如、背後に現れたということは、悪魔の使う転移術か風音のようなインビジブルが使えるのか。そう考え、最大限に警戒しながら槍を構える。

「なんだ、お前は?」

そして出てきた言葉がそれだった。

ジンライには目の前の少年がただの子供にしか見えない。そこにいたのはただの無邪気な子供だった。いっさいの濁りない、悪意のない、或いは悪意しかない存在。

「おじさんはプレイヤーじゃないよね?」

ジンライは少年の瞳に悪寒を感じた。少年がその言葉を発して頷いたのは、恐らくは自分を殺してもよいのだろうと言う自身への確認だと……ジンライは察した途端に飛び出した。

(こやつは……なんだ?)

ジンライは槍を振るう。少年はナックル付きのナイフをそれぞれ両手に持っている。直樹はナックルでわき腹を殴られたのだ。どうやら直樹は目の前の人物の殺害対象ではないらしいが、

(どうやらワシは殺しても良いらしいな)

その認識はジンライにとっては本来不快ではない。命のやりとりは望むところだ。しかし今のジンライは憤怒の化身のような顔をしているだろう。だが自分をまるで羽虫を潰すかのように殺そうと考える相手に不愉快にならない者などいるわけもない。

ジンライは槍を笑いながら受けるその姿に益々怒りを露わにする。

「マジメにやらんか、貴様!」

「本気なんだけどね」

そのナイフでジンライの攻撃を受けきっているのだ。技術力は確かに高い。だがチグハグだ。それはジンライにある人物を思い起こさせる。

(それならばッ!!)

ジンライは殺気を込めたフェイントを送る。

「っと、危な」

(やはりかッ!)

ジンライのフェイントに下がる少年にジンライがさらに踏み込み、右手の槍でそのままその胸を突き刺した。

「ぐっ!?」

それにはさすがの少年も驚きの顔をするが、だがジンライは左の槍をさらに突き立てようとして、

「ハハハッ、やるねおじさん」

(マズいっ!?)

生存本能が危険信号を発する。それに従いジンライは一気にその場から引いた。少年の身体が崩れ目の前に闇が広がる。

(間にあえっ!!)

だが遅い。ジンライの右腕は根本までそれに喰われた。

そして、肉の引き裂かれる音がした。