軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八話 その先に進もう

◎大竜御殿 上空

「金色の光が一瞬出た!?」

風音の声にビャクが目を細めてる。

『あれはナーガ様の『黄金の黄昏』の光。やはり中で何かしら起こっているのは間違いないようですね』

すでに人化を解いて竜に戻ったビャクとそれに乗っている風音は、ドラゴニュートシティを飛び出し現在は大竜御殿の上空から様子を窺っていた。遠目からは分からなかったが、まるで半球がそのまま大竜御殿を覆っているように闇に包まれていた。

「む、左上空。来るよッ!」

もっともゆっくりと観察している余裕もあまりない。風音の言葉にビャクがわずかに身をひねる。そして黒い氷がさきほどまでビャクのいた空間に飛んでいく。

『小賢しいッ!!』

ビャクが叫び雷を発すると何もない空間に当たり、そして空間が割れたように見えたと思えば、そこにいた黒い鳥、おそらくはヤタガラスと呼ばれる魔物だろうものが地上へと落下していった。

『見事な感知能力ですね』

「臭いんだもの。あれ」

風音がクンクンと鼻を鳴らす。実はつい先ほど空中戦をしている途中に『犬の嗅覚』のレベルが2になっていた。追加されたのは本来臭いのないはずのアストラル体を臭いという概念で以て感知できる能力。

すでに夜空となった闇の中で風音がアストラル体の存在を探れないかと意識を強めた結果のレベルアップである。もっとも今はそれを喜んでいる時間もない。

「敵の数が多いね」

『あの黒い球体、御殿を封じる結界だけでなく転移術のゲートにもなっているようですね』

風音とビャクが大竜御殿のあるはずの場所を睨む。だが中に入る手段がない。次々と転移してくる魔物を集まってきた竜たちも撃退し続けているが、肝心の黒い壁はブレスや爪でも破壊できないでいた。

「ちょっと試してみる!!」

そして風音がトンッとビャクの背から飛び降りる。

『カザネ様?』

ビャクの声を後ろに聞きながら、風音は竜鬼の甲冑靴から竜爪を解放、そのままスキルチャージと魔法短剣を使ったファイアブーストをかけ、高回転しながらキリングレッグを発動させる。そしてカザネ・ネオバズーカが黒い球体に突き刺さった。

(物質系だろうとアストラルだろうと威力だけなら英霊のジークにだって負けてないんだ。それを)

「弾けるかぁああ!」

ボイーンと弾かれた。

(あっかんわー)

そう思いながら風音はクルクルと回転して『身軽』のスキルにより、地面にタンッと降りたった。

『カザネ様、周りをッ!?』

「だいじょーぶっ!!」

ビャクの上空からの声を聞いて風音はそう答える。

黒い魔物たちが襲いかかる。

風音は魔法短剣を鞘に戻し、両手剣である『黒牙』を抜いた。そして竜爪解放状態の竜鬼の甲冑靴と一緒にスキルの『魂を砕く刃』を発動させる。

(やっぱり普通の魔物よりも速いね)

そう風音は観察しながら最初に攻めてきた黒いオーガとトロルの攻撃を飛び越え、回し蹴りを放つ。風音は『直感』により迷いなく首を狙い、竜爪でどちらもの魔物の頭部をはね飛ばす。その二体の魔物が血を吹き出して倒れるのを待たずに飛び込んできた黒い地竜に対し風音は今度は空中跳びで横にそれながら両手剣の『黒牙』を突き立てた。流れるように地竜の身体を横に一直線に切り裂くと傷口から血以外の黒い何かを吹き出して地竜はその場で暴れて倒れてしまった。

『なっ?』

その様子にビャクが目を丸くする。確かに風音の戦闘能力は高いとは聞いていた。だが今のは何かがおかしい。まるで弱点属性を突いたようなクリティカルなダメージのようだった。もっとも風音にしてみれば想定内の状況だ。

(やっぱり『魂を砕く刃』は対悪魔用に特化したスキルみたいだね。経験値とかスキルは手に入らないようだけど)

ゲンゾーの刀から手に入れたスキル『魂を砕く刃』。それは文字通り魂を破壊するスキルだ。物質と霊質を併せ持つ人間や普通の魔物に対してならば効果はあまり見込めない(回復の治りが極端に遅くなるなどの効果はある)が、悪魔のようなアストラル体、つまり魂を中心に魔力のみで構成された存在にとっては天敵となるスキルだと相談したルイーズには聞かされていた。

中でも魔力を吸収する能力のある両手剣『黒牙』に『魂を砕く刃』をかけた場合の効果は見ての通りである。スキルによって魂という構成を破壊された魔力が黒牙によって造られた傷口からまるで風船の中の空気のように吹き出してしまったのだ。

使う機会こそなかったが元より『黒牙』はアストラル体に対して強い効果を持つ武器だ。それが『魂を砕く刃』のスキルによって大きく開花したようだった。

『まったく無茶しないでください』

地上まで降りてきたビャクがそう口にする。周囲はビャクの配下の竜たちによって固められている。現状で竜たちは北の魔物たちとの戦闘とこの大竜御殿の周囲の戦闘に集中されている。ドラゴニュートシティにも少なくない数の魔物が押し寄せているはずだが、そこは竜人や弓花たちの頑張りに期待するしかなかった。

しかしそれだけの竜たちが集まって攻撃しても、この球体は破れない。

「うーん、この結界が破壊できないってことは、少し穴あけて入るしかないないか」

風音がつぶやくとビャクが驚きの顔で訪ねる。

『可能なのですか?』

「うん。多分ね」

風音にはデュラハンロードから手に入れた魔法殺しの剣がある、魔法無効化という希有な能力を持つ剣ならば結界を破壊することは出来なくとも一部を切り裂いて中に入ることは可能だろうと風音は考えている。

出来れば竜たちと一緒に入る方が良かったがさきほどのカザネ・ネオバズーカでも壊せないのでは仕方がない。アーティファクトの『 無限の鍵(インフィニティ・キー) 』も基点となるものがあればそこから解除可能だが、今この場でただの壁に対して仕掛けても解除不可能なのは先ほど試してみて確認している。

「多分人がひとりかふたりくらいならなんとかなると思う」

風音の言葉にビャクが頷く。

『では私が人化して一緒に』

『それは困る』

ドラゴンの一体の悲鳴が響いた。

『グレイファー!?』

悲鳴を上げた竜の名なのだろう。ビャクが叫んだ先には漆黒に染まっていく竜とその頭に大剣を突き刺している黒い全身鎧の姿があった。

(何あれ、リビングアーマー?)

鎧の隙間にはなにもないように見えた。それにあの全身鎧が剣を突き刺した箇所から浸食されて竜のほとんどの部分が黒色に変わっていく。

『我が主には何人足りとて邪魔をさせるなと仰せつかっている』

『抜かせっ!』

ビャクがそう言いながら雷を走らせるが、しかし漆黒のリビングアーマーの持つ大盾が完全にそれを防いだ。その様子を見て苦々しそうにビャクが尋ねる。

『何者だ貴様は……』

そして漆黒のリビングアーマーは静かに告げた。

『 憤怒(イラ) のジルベールと言う。漆黒結界の守り手だ』

そのジルベールというリビングアーマーを見て風音がうめいた。ジルベールの持つ盾に見覚えがあったのだ。

「天鏡の大盾ゼガイ……!?」

それは英霊ジークも所持している完全魔法防御の盾だ。ドラゴンのブレスとて無効化する凶悪な能力を秘めた、ゼクシアハーツでも至高の盾と呼ばれたものである。あれを出されると通常の戦闘では物理戦に持ち込むか物理属性の魔術を使わざるを得なくなる。

「やばい。ビャクさん、そいつに魔法攻撃は効かない。ブレスだって無効になる」

『なんと厄介な』

その風音たちのやりとりを見てリビングアーマーが感心している。

『この盾を知っている。博識だな』

『くっ、カザネ様。お先に行ってください』

「大丈夫?」

風音の問いにビャクが微笑む。

『ナーガ様をお願いします』

その言葉に風音は一瞬迷ったが、頷いて、黒い球体に向かって走り出した。

『行かせぬぞ』

『ドラゴンを舐めるな!!』

背後の激突する音を聞きながら風音は魔法殺しの剣を取り出す。

「うりゃあっ!!」

風音がその黒い壁を切り裂くと、切り裂いた先に確かに大竜御殿が見えた。

「スキル・突進!」

そして久方ぶりのスキルを使って風音はその中に飛び込んでいった。

「うぉっと!」

ズサッと石畳の上を滑ると風音は後ろを見た。

(やっぱり一瞬だけだったか)

すでに黒い壁の傷は完全に消えている。外では戦いが起こっているだろうが、だがその音も遮断されているようだった。

「ともかく急ごう。直樹とジンライさんに……旦那様もいるもんねえ」

ビャクの言葉が重くのしかかる。弟優先は変わらないが、他にもやらなければならないことはある。神竜帝ナーガを相手にどれほどの助けが出来るかは分からないが、だがビャクはそのためにあのジルベールとかいうリビングアーマーに挑んだのだ。

そして風音はチャイルドストーンからユッコネエを呼んで飛び乗ると、そのまま大竜御殿の中に進んでいった。