軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五話 ワッショイをしよう

それに最初に気付いたのはベンゼルの騎竜であるライエルだったのかもしれない。

ライエルはドラゴンベア討伐戦において戦いには参加していなかった。確かに竜であるライエルがドラゴンベア討伐に参加すれば戦いは有利に運ぶだろう。だがベンゼルはより確実な道を選んだ。つまり、すぐさまコンロン山へとライエルを向かわせ東の竜の里に救援を求めたのだ。そして、風音たちの想像以上の活躍もあり、竜の救援も良い意味で間に合わなかったわけだが、ドラゴンベア討伐は完了した。その間にライエルがどこにいたかといえば、コンロン山に全速力で飛んだことで疲れ切って倒れていたのである。ライエルが目を覚ましたのはそれから半日経った後だった。

目を覚ましてライエルがまず確認したことは主であるベンゼルの存在の有無である。残念なことにベンゼルはそばにいないようだが、少し離れたところにいるのは竜騎士契約でベンゼルと魂を繋げているライエルには把握できた。そして感じたベンゼルの魂の波動が静かなことに僅かばかりの懸念を持つが、だが疲れているのだろうと結論づけ深くは考えなかった。

どうやらベンゼルは北の封印宮に向かったらしい。それはこの里の守り手の北黒候ゲンの住まうところだ。ライエルはすぐさまベンゼルに会いに行こうとその場から飛び立った。

その後、見るも無残な姿でライエルは発見されることとなる。だがライエルの行動は結果としては間違いではなかったのかもしれない。何故ならばライエルの魂は確かに主の元へとたどり着くことだけは出来たのだから。

◎東の竜の里ゼーガン ドラゴニュートシティ

「むう……」

風音は困惑していた。

風音たちは大竜御殿から山を下ったところにある温泉を堪能した後、コンロン山の中腹にある竜人族の住まう街であるドラゴニュートシティに入っていた。

大竜御殿にも人の住まえる場所はあるにはあるが、そこは非常に質素な部屋である程度の身分の者を泊める場合にはこちらの街へと案内するのだそうだ。

ドラゴニュートシティは中華風の建物が建ち並ぶ街で、風音が想像していたよりも随分と栄えている印象があった。竜人たちも人族と大差ない姿のようだ。竜人化した弓花のような姿になるのは、かなり血の濃い竜人のみで、この街にいるのはかなり血の薄まった竜人たちなのだという。もっとも風音にとって、そうしたことは別に問題ではない。

ワッショイ、ワッショイ

グラグラと揺れている。

ワッショイ、ワッショイ

風音の乗っている御輿が揺れている。

ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ、ワッショイ

(……お祭り騒ぎすぎる)

風音は愕然としながら手で顔を覆い、下を向いていた。目立っている。異常に目立っている。

「見ろー!我らが神竜皇后陛下が感動のあまりむせび泣いておられるーー!!」

「わざわざ人化し、この竜人族の前に降りてくださったのだ!もっと、もっとお喜びいただくのだー!!」

周囲の男たちのかけ声とともに、様々な発光色の爆竹が放たれ、赤いラインで彩られた猿と竜の面を付けた者たちが踊り狂う。

なぜこうなった……風音が思うことはそれである。

どうやらナーガとの婚姻は予想以上の速度でこの竜人族の街に伝わったらしい。

そしてルイーズから聞いた話によれば竜人族というのは竜族への信仰が異常に強いらしい。ましてや風音は彼らにとっては最高神とでもいうべきナーガの初めての奥方である。

ちなみに風音が周囲から聞いた内容をまとめると、風音はどうやら異邦の地からやってきた竜の姫で、今は皇后となった自分の姿をここにいる竜人族に見せて差し上げるためにわざわざ人化の術を使って接してあげているらしい。そうだったんだ、知らなかったぜ……と風音は己も知らぬ新事実に驚愕していた。

なお仲間たちは後ろの馬車に乗っているが、直樹は色々と厄介そうだったので、大竜御殿に置きっぱなしである。ジンライが付き添って説得すると言ってくれたのでそれを信じるしかなかった。それとベンゼルはこの街に慣れているそうで、街についてからひとりでライエルの元にいったようだった。

「にしても騒ぎ過ぎじゃあないの?」

風音は隣で一緒に御輿に乗せられているビャクに尋ねる。

「そうですか? いつもこんなものですが……いえ、確かにいつもよりも人は多いかもしれませんね。まあそれほどの違いはないかと」

ビャクにとってはいつも通りのことらしい。

風音はここに来て自分が色々と勘違いしてたらしいことに気付いた。形式上というのは確かに竜族の間ではその通りの意味を持つのだろうし、その中でしか生きていない彼女らにはその認識で十分だったのだろう。だが風音は竜族以外の世界に生きているのだ。それをもっと考えておくべきだったとようやく気付いたのである。

(あーもう、どうしよー)

風音、絶賛困惑中であった。

だが直後にまったく別のことに風音たちは困惑することになる。

それは彼女らの視線より上にある場所で起こった。

◎大竜御殿 客室

「つまり、姉貴はツヴァーラの王とミンシアナの王子に迫られていたんですか!?」

風音がワッショイ困惑中している頃、大竜御殿に残された直樹はジンライの言葉に愕然としていた。それはジンライがここまで直樹に伏せられていた風音の求婚話をついに明かしたためである。

バトルマニアジジイ的な部分の印象が強いジンライだが、実のところそこそこ弁は立つし、頭もかなり良い。それはまったくない才能を埋めるために考えに考え抜いて二槍流という独自の槍術を生み出したほどであり、そもそもがジンライが人間のスペックで魔物を凌駕することが出来るのもその知による部分が大きい。

そしてジンライは婚姻に狂乱する直樹を理でもって説得しようとしていた。すなわち風音が打算的だと考えないようにした部分、王族の求婚の拒否可能という側面を押し出したのだ。

「うむ、ツヴァーラの王は好色で有名でな。愛人を囲い、ついには奥方に逃げられたのはお前も知っておろう」

直樹もティアラの母親がハイヴァーンにいるのは知っている。まだ見ぬツヴァーラの王を思い、直樹はギリッと歯ぎしりをした。姉がそんな男に性的な目で見られていたとは思いもしなかったのだ。姉を性的な目で、なんかそれエロいな……などと思ってたりはしない。純粋な怒りが直樹を支配していた。

「それにミンシアナの王子も年に似合わずマセたもので、カザネとき……」

「き?」

「いや、ともかく風音を狙っておったのよ」

風音とキスした……というのは止しておこうとジンライは思った。ヤバイ線を踏みそうだと感じたのだ。それは一流の戦士のみが持つ危機感知能力だった。

「でも姉貴は何で俺に相談してくれなかったんだ。水くさい!」

その直樹の愚痴の答えを、賢いジンライは瞬時に導き出す。恐らく騒ぐだろう。うるさくなるだろう。暴れるだろう。ウザいだろう。キモいだろう。頭脳明晰なジンライの脳裏に確かな答えがいくつも浮かんだ。そして、それらを吟味しながらジンライは適切な言葉を紡ぐのだ。

「ふむ。お前に心配をかけたくなかったのだろうよ」

マーベラス。完璧な答えだった。直樹も「そっかあ」と頷いた。完全に信じ切っている。

「納得いったか?」

「ああ、姉貴とあのドラゴンはとりあえず形だけの付き合いで、俺と……いや、人間同士での結婚には関係ないんだな」

「ふむ。まあ、分かればよい」

明らかに別のことを言おうとしたのがジンライには分かったが、とりあえずはそれで良しとした。ジンライだって風音について直樹と話をするのは疲れるのだ。正直、もう終わりにしたかった。

「さて、落ち着いたのであれば、ワシ等も温泉に行くかな」

「了解。さっさと姉貴に追い付きたいし」

その言葉にジンライは苦笑する。ジンライにも姉はいるが、特に仲が悪いということもないが良いわけでもない。まだ生きてはいると思うがここ数十年会ってはいなかった。邪な思いがあるとはいえ、ここまで姉を慕う弟を見て自分との違いに笑ってしまったのだ。

(久々に村に帰ってみるのも悪くはないかもしれんな)

ミンシアナに帰る前にエルスタの浮遊王国に行く予定なのだ。ならばよれるかもしれないとジンライは考え、風音に相談してみようと思った。

その時である。

「あれ?」

部屋から出ようとした直樹が立ち止まった。

「どうした?」

それをジンライが尋ねる。部屋の中にも外にも特に何もないようだとジンライは考えたが、直樹は不思議そうな顔をして北の方角を見て答えた。

「なんだ……?」

次の瞬間には直樹とジンライは闇に包まれた。いや、二人だけではない。大竜御殿そのものが突如闇に喰われた。それは外から見れば恐らくは黒い球体に覆い尽くされたように見えただろう。

◎大竜御殿 神竜帝の間

『ナーガ様、これは!?』

南赤候スザが不審げに周囲を見渡す。そこは闇の因子を帯びたフィールド。それがこの大竜御殿を完全に覆っているとスザの知覚が伝えている。東青候セイも右手の巨大な槍を竜の巨体で構えて回りを見渡す。

『チッ、完全に取り込まれたな。とんでもねえパワーだぞ、こりゃ』

セイが軽口のようにそう言うが、目は笑っていない。明らかな異常事態に緊張感を高める。そのふたりを見ながらもナーガは近付いてくる気配に気付いた。

『ふん。客が来たようだな』

そしてナーガが口を開く。その視線の先の闇の中からカツンカツンと大理石の床を鳴らしながら男が一人歩いてくる。三体の竜がその人物を見た。そしてその姿にはセイもスザもナーガも見覚えがあった。

『ベンゼル、なぜ貴様がここにいる?』

スザが唸った。スザの記憶が確かならばベンゼルは風音たちとともに竜人族の街に降りたはずである。そして戻ってくる、或いは戻ってきたという知らせは受けていない。

「なぜって、おかしなことを聞きますねスザさん」

『貴様……』

さもおかしそうに笑うベンゼルにスザの怒りがこみ上げてくる。だが見上げたベンゼルの目を見てスザの心は凍り付いた。その目の奥にあるものに本能的な恐怖を感じたのだ。

そして、そんなスザの様子を後目にベンゼルはナーガを見て、こう口にした。

「ハガスの心臓、もらいにきましたよ?」