軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三話 子供を作ろう

◎東の竜の里ゼーガン 大竜御殿 神竜帝の間

「ナーガ様。ただいま戻りました」

ビャクは神竜帝の間の中に入ると、その場で頭を垂れて、主へと報告を行う。

『ご苦労だったなビャクよ』

そして向かい合う先から声が響いた。

(あーすげえのがいるんですけど)

その声の主を見て風音はまず驚いた。そしてゴージャスという言葉が頭に浮かんだ。

風音たちの目の前にいたのは全長が20メートルほどの巨大なドラゴンだ。それも全身が水晶で出来ていて、宝玉のような瞳に巨大な七色の角を突き立て、流れるような髪はまるでグラスファイバーのようで七色に光り輝いていた。

そして全身を覆うのは虹色の竜気だ。風音はこれが自分の竜気と同じと言われたことを思い出し、まったく別物だと感じた。これに似たものがあるとすれば、今もアイテムボックスの中に入っているレインボーハートの輝きくらいだろうと。

『して、汝らがアオ殿から依頼を受けた冒険者たちだな』

そう口にするナーガに、風音たちもビャクにならって頭を垂れた。そうせざるを得ない威光がそこにはあったのだ。

『悪魔の妨害もあったと聞く。長きに渡る旅、まことにご苦労であった』

それは世辞ではないだろう。最後の悪魔の襲撃に成竜10体を送ったのはそれほどにナーガが事態を深刻に捉えていた証だった。

『それでは頼んだ代物を渡していただけるかな。それでそなたらの任務も終了となろう』

その言葉に風音は頷き、アイテムボックスから黒竜ハガスの心臓を取り出した。

その姿を見たことがない直樹、ライル、エミリィとベンゼルの目が丸くなる。通常の竜の心臓のふた回りは大きいのだ。驚くなという方が無理だった。

それを風音はビャクに渡し、受け取ったビャクがナーガの元へと向かい手渡した。ナーガはソレを見て頷く。

『確かに黒竜ハガスの心臓、受け取った。ここに白き一団のクエスト達成を宣言しよう。見事であった』

その言葉に風音たちからフウッとひと息付いた音が聞こえる。ようやく肩の荷が下りたというヤツだった。

(ハガスってあれだよな? あのおとぎ話の?)

(なんてもの、持ってたのよカザネは)

そんな緩んだ空気の中で、兄妹がこそこそと話していたが、ジンライがひと睨みしたことで黙った。そして静まった後にナーガが言葉を続ける。

『して褒美だが、報酬の金額はミンシアナの冒険者ギルドに預けてあるとのことだ。また悪魔襲撃の件もある。追加の報酬も用意させるよう手配しよう』

そのナーガの言葉に風音はさらなる期待の眼差しを向ける。報酬はそれだけではないはずなのだ。そして、それにナーガも頷く。

『他にはこの地にあるグリモアフィールドの使用許可であったな。まあ、アオ殿の推挙であれば問題なかろう。後でビャクに案内させよう』

ナーガの言葉にビャクも頷いた。

そのやりとりにやはり実際の依頼を聞いていない直樹たちは首を傾げるが、風音はにんまりとしていた。だが次のナーガの言葉は風音にも予想外のものだった。

『それとこちらから提案が一つある』

ここまでのやりとりは想定通り。だが、その提案というものには風音の想定の外のものだ。何の話だろうかと風音が首を傾げるとナーガはそのまま言葉を続けた。

『クリスタルドラゴンのレインボーハートを持っていると聞いた』

「うん。持ってるけど」

そんな話まで伝わるんだなーと、風音が思っていると、続いて爆弾発言が投げられた。

『カザネよ。我と子を成していただきたい』

ビャクを除いた全員が一斉に吹いた。そしてビャクがゴホンッと咳払いをしてナーガを睨んだ。

「ナーガ様、突然そう言われても彼女らも困るでしょう。最初から話をするべきです」

『ふむ。面倒だな、人間というものは』

「ドラゴンでも同じです。種族間の違いでごまかさないでください」

『……面倒だな』

風音にはナーガに対する威厳が急激に落ちていったような気がしたが、とりあえずおいておこうと思った。

『つまりだな。我と汝の竜気でもって転生竜の儀式を行いたいのだ』

「私と?」

さらに疑問が膨らんだ風音にビャクが声を掛ける。

「転生竜の儀式については知っていますか?」

「んーアオさんから少しは。確か竜の心臓を使って新しい竜を生み出すんだよね?」

風音の言葉にビャクが頷く。実際風音もレインボーハートで転生竜を生み出せないかと思ったこともあったのだが、ルイーズの『乗れるまでにすごく時間がかかる』発言により諦めていたのだ。

「そうです。基本的には竜の心臓があれば、術式を展開し一対の竜の竜気を心臓に混ぜ合わせることで新たなる竜を生み出すことが可能です」

そこでいったん区切ってビャクは「ですが」と続けた。

『クリスタルドラゴンとは他のドラゴンとは似て非なるもの。推論の上ではレインボーハートを用いた転生竜の儀式は、同種である虹色の竜気同士を混ぜ合わせなければ転生させることは叶いません」

「つまり、どゆこと?」

「現在我々や西の竜の里などに所属している竜族の中でクリスタルドラゴンは神竜帝ナーガ様ただお一人」

その言葉に風音はそうなんだ……と思ったが、風音たちが倒したクリスタルドラゴンは生まれてすぐに人を襲ったし、希少価値の高さから知性が付くまでに狩られてしまうことの方が多いのは少し考えればすぐに理解できた。

「なので仮に完全なレインボーハートを手に入れたとしてもクリスタルドラゴンの転生竜を生み出すことは出来なかったのです。今までは」

そしてビャクは風音を見た。

「ですが同じ虹色の竜気を持つカザネ殿がいるならばそれが可能となります」

「そうなの?」

風音の確認の問いにビャクが頷いた。どうやら虹色の竜気を持つ風音とナーガにしかクリスタルドラゴンの転生竜は生み出せないということらしい。

『それにこれには汝にも得なこともある』

「とく?」

風音が首を傾げた。さきほどから首を傾げまくりであった。

『汝と我の間に子が生まれるということは、汝は我の妃となるということ』

「なんですとっ?」

この年で奥さん、この年で子持ち、恐るべき展開に風音が戦慄する。

『無論、それは竜の理の中でのこと故、汝がその後に人との間に契りを結ぼうと子を成そうと問題はない……が』

ナーガの眼が細まる。

『権力者に婚姻を迫られた場合、これを理由に断ることは可能ではあるな』

「なんですとっ?」

風音の脳にさらなる衝撃が走る。どうやら目の前の竜の王様はずいぶんと風音の事情に詳しいようだった。

『確かに汝は人としてはなかなかの力を持っている。だが国というものは侮れぬ。ひとたび婚姻を迫られれば断ることは容易ではないだろう』

風音が唸る。確かにアウディーンやジークに迫られた場合、権力というものが存在している以上断りきるのは難しいかもしれない。最悪、国外逃亡は可能だろうが、当然それまでの関係性は崩れるし、その国に戻るのも難しくなるだろう。だが断る理由があるのならば、堂々としていられる。正直に言えば、風音にとって一番頭の痛かった問題が解決する。

『本末転倒という言葉を知っておるのかな、あやつは?』

「しっ、メフィルスは黙ってて」

そんなルイーズとメフィルスの言葉は風音には届かず、風音はひとり考える。

(まあ王様やあのジークを避ける手段が手に入るのは良いことだけど、といっても子供か。子供……)

そう思いながら風音は裏で倒れている直樹を見る。何か衝撃的なことがあって気を失っているようだった。手のかかる……という点ではそこの転がってる弟も子供と同じみたいなものだなと思った。

(ま、嫁を断れるとかそういう打算的なことを考えるのはよしとこう)

それを理由に生まれてくるのでは悲しすぎるし、それを理由に産もうとするのは卑しすぎるだろうと思い直す。

(それにレインボーハートは稀少なアイテムとしか考えてなかったけど、そこから生まれる命があるなら、それはそれで良いのかもしれないし)

そう風音は考える。産んだ命に対する責任というのは発生するだろうし、自分の子供というのは想定外も良いところだが、風音は子供が嫌いなわけではない。むしろお母さんには憧れている。

「ちなみにそのお子さんはどうなるの?」

風音がチラッとナーガを見ながら尋ねる。

『それはこちらで育てよう。それに人の理とはまた違う故、母親という立場をそれほど考え込む必要もあるまい』

(育児権放棄させられた……)

風音は少し悲しくなった。

「竜の親子関係というのは人とは違うものです。カザネにはこのナーガ様の同族を生み出す手伝いをする……そのように考えていただきたいのです」

そうビャクが口にする。

「ナーガ様は長きに渡り、同種の存在がいないことを大変お嘆きのようですので、仲間を欲しておられるのです」

『仕方あるまい。未だに我は同族というものを見たことがないのだ。青だ、赤だと同じ色の仲間をすぐに見つけられる汝等とは違うのだ』

「申し訳ございません」

そう丁寧にビャクは謝罪する。

『して、どうだカザネよ。我が子を、我が同族を生み出すのに手を貸してはもらえぬか?』

そう言われてカザネは頭をかいて「うーん」と言った。

「その子に会わせてはもらえるの?」

その風音の言葉にナーガはゆっくりと頷いた。

『我がつがいとなれば、この里においては汝は皇后という扱いになろう。であれば里に入ることも我が子と会うことも自由ではあるな。無論、先ほど言ったとおり汝をその立場に拘束するつもりもない』

風音はそれを聞いて、少し考えたあと頷いた。

「うん、分かったよ」

そう口にする風音の瞳を見ながら(迷いはないか)……とナーガはその意思が確かなものだと判断し、こう告げた。

『ならば頼もう、我が妻カザネよ』

そしてこの瞬間に、風音とナーガの婚姻が成立した。それが風音たちが温泉に入る数刻前のことであった。