軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二話 ナーガ様に会おう

温泉である。

コンロン山の周囲にはいくつもの温泉地があるが、この竜の里の温泉は伝説の隠れ湯として知られている。何しろ一般人はこの里に入ることがそもそも出来ず、時折来る竜騎士が入って外で自慢をする以上の情報がないのだから、まさしく正真正銘の隠れ湯なのだ。

◎東の竜の里ゼーガン 竜洞温泉

「なんと慎ましい。女性は慎ましいぐらいがちょうどいいんだよ」

風音は一緒に入っている、この里においては西白候と呼ばれる白竜ビャクの人化した姿を見ながらそう言いきった。エミリィもうんうんと頷いている。

「そうでしょうか」

そう返すビャクは白髪の細身で胸もスレンダーな長身の女性だ。どこかしら白蛇という印象もあるが、非常に美人さんであった。

「まあ、竜に胸の大きさは関係ありませんしね」

ビャクはそう言いながら、なぜか弓花にピトッとくっついていた。

「ビャクさん、なんでさっきから私にずっとくっついているんでしょうか」

最初は気のせいかなと弓花も思っていたのだが、少し離れてもまた近づいて来る。仕舞いにはピットリされた。

「あなたからでる竜気は私の竜気とよく馴染むのですよ。なんというか安心するのですね」

「安心するのはいいんですが、えっと胸とかに触らないでもらえますか」

「ハリがあってツンッと立っていて私の好みです」

「いや、勘弁してください。マジで勘弁してください」

弓花が本気で嫌がったのでビャクが謝る。

「冗談です……が、こうも人ばかりいる中であなたの竜気が居心地がよいのは事実なのです」

そう言ってビャクは弓花にすり寄ってくる。シャーシャーという声が聞こえそうだった。それをルイーズが興味深そうに見ている。

(竜って確か性欲とかないって聞いてたけど、何かしらの法則性があるだけなのかしらね)

まあじゃれ合ってるレベルだから放っておくことにする。あと見る限り人間の姿でビャクが弓花に絡んでいるはずなのだが、なぜだか白蛇が弓花をグルグルと締め付けているようにも見えていてあまり近付きたくなかったということもある。不思議なことだが。

「だいたい竜気っていうなら風音のでもいいじゃないですか」

たまらず口にした弓花の問いにビャクが風音を見る。その視線に風音が「え、あたいのからだ、ほしい?」とポッとなっていたが、本気で迫られたら「ギャー」と言いながら逃げること請け合いである。このこにはあまりそういう覚悟はないのだ。

「カザネ様の竜気は私には強すぎるのです。ナーガ様の同類では仕方ないのですが」

シナを作っているロリッ子を見ながらビャクはそう言った。ルイーズはその無用なポーズを取る風音を見て、絶望的なまでの色気のなさを見てため息をついた。少しはお化粧とか覚えさせた方がいいかもなあ……とか思った。化粧そのものと言うよりも女としての心持ちを覚えさせたい……とルイーズは思った。『あんな話』があった後なら尚更だ。

そして、その風音をティアラがよだれを垂らしそうな顔で見ていることにはもうツッコまない。手遅れになる前に、早いところ健全な男の子との恋を実らした方がよいなーとルイーズは半ば本気で思っていたのだった。

(でも、あれも予想以上に難物だったわね)

あれとは風音の弟の直樹である。彼がティアラの想い人候補なのだが、姉同様に相当の厄介さんである。

(まさか天然のタラシだとは……)

何しろ行く先々で女の影がちらついているのだ。女の扱いのコントロールもできてないような男にルイーズはあまり食指を動かす気にもならないが、当てられて惚れてしまう少女たちが多いことは事実だ。

ルイーズの血縁であるエミリィが直樹に惚れていることも積極的にティアラを押せない理由の一つでもある。そのくせ本人は非常に鈍く、しかも姉に惚れ込んでいるという厄介な状況でもあった。

(でもカザネ以外に興味がないわけでもないのよねえ)

直樹のルイーズへの反応を見る限り、姉以外の女性が眼中にないということもないようだ。というかあの男はボイン好きだ。乳はでかい方が良い派のようだった。なのであてがえば結構すんなり付き合ったりするかも知れない。弓花との破局と同じことが起こりそうな気もするが、とっとと男にしてやれば姉離れもするかもしれないな……と、そんなことをルイーズは考えていた。

そしてルイーズのそんな思惑を知らない風音はさきほどの神竜帝との会見を思い出しながら口を開く。

「あのナーガ様ってずーっと昔から生きてるクリスタルドラゴンなんだよね?」

「ええ、そうです」

風音の質問にビャクは頷く。

神竜帝ナーガ。東竜の里の長にして、最古竜の一体。そして形の上ではハイヴァーン公国の支配者である大公が仕えている主という立場でもある。

「さっきのはすごかったからねえ。クリスタルドラゴンって成長するとあんな風になるんだね」

さきほど出会った神竜帝ナーガという存在は圧巻だった。ビャクも嬉しそうに頷いている。他の女性陣も思いだしたのか同じようにうっとりしていた。それはレインボーハートを見たときのような恍惚感に包まれた感じに似ていたのだ。

そして風音は、さきほどのことを思い出しながら

「これから生まれる私の子供も、ああなるのかなあ」

と、そう口にした。

それは今より数刻前に決まったことであった。

**********

デイドナの街を去った風音たちは、その日の夕方にはコンロン山に着いていた。

そこには霧のような結界が広範囲に張られており、白竜であるビャクの手によってその結界の一部が解かれることで風音たちは竜の里へと入ることが出来た。

なんでも普通に進んでいくと次第にこの魔法の霧が濃くなり、元の場所に戻ってしまうのだという。その結界は例えドラゴンといえども決して入り込めないほどに強固なもので、広域型の結界の中では最高位の術式だとビャクが説明してくれた。

そして風音たちが竜の背から見た里の光景だが、まず山々に竜たちがいるのが確認できた。その場に佇んでいたり、座っていたり、飛んでいたりしている。そして平野の部分には畑や中華風な建物が立ち並び、そこには人間……おそらくは竜人たちが暮らしているのが見えた。

そんな光景を通り越し、そのまま先へと進んでいき、風音たちは東の竜の里ゼーガンの中心にある大竜御殿へと降りたった。

◎東の竜の里ゼーガン 大竜御殿

「でっかいなあぁ」

大竜御殿に降りた風音がまず口にしたのがそれだった。

中華風な建造物ではあるが、恐ろしく大きい。まるで巨大化させた建造物のような造りだった。

「ドラゴン総出で造ったものですからね。まあ人間用ではありませんので致し方ないかと」

人化したビャクがそう言って「こちらです」と先に進み、風音たちもそれに続いていく。

「久方ぶりなので緊張しますね」

「ベンゼルさんは来たことあるんだっけ?」

風音の言葉にベンゼルが頷く。

「ここに来たことがあるのはベンゼルとジンライくんくらいかしらね」

「ワシも用があって少し訪ねただけだがな。ここの温泉は格別だぞカザネ」

「ホントにっ!?」

目を輝かせる風音にジンライがにんまりと頷く。孫とお爺ちゃんの空間がそこに出来ていた。なお実の孫たちはこの状況におっかなびっくりといった感じである。

「ほへー。竜騎士ってさっきの降りたところで叙任式をするらしいけど、建物の中にまでは入らないって聞いてるぜ。俺、スゲーとこに来てるなぁ」

ライルが周囲の何もかもが物珍しい感じで眺めている。竜騎士に挫折した過去があるだけあっていろいろと感慨深いものがあるらしい。

「ぶっとい柱ねえ。あ、長胴の竜さんが上に巻き付いてる」

エミリィの言葉に、直樹が柱の上を見るとそこには確かに東洋型の蛇のような竜がいた。こちらをちらりと見て頷いたので直樹もとりあえず頭を下げておく。

「我々のような長胴族にとってはこうした柱は椅子のようなものなのだ。巻き付いていると落ち着くのだな」

「なんだか私、さっきからチラチラと見られてる気がするんだけど」

弓花がこわごわとそう言う。それをビャクがわずかばかり微笑んでその理由を応える。

「それはあなた自身から湧き出ている竜気もありますがその腕輪と、そちらのカザネの竜気のせいでしょうね」

「これ?」

弓花が竜結の腕輪を見る。神狼化も今日はしてしまったため、弓花は何かあったときのためにドラゴンベア戦後に風音の竜気を注入してもらっていた。なのでその腕輪は今は冷気と虹色の竜気を帯びていた。

「虹色の竜気は神竜帝ナーガ様と同じもの。この里のどの竜も発せぬ竜気を纏わせている人間が珍しいのは致し方のないところでしょう」

「なるほど。そういうもんなんだ」

弓花も頷く。風音は「へー、ナーガ様ってのはつまりクリスタルドラゴンなんだぁ」と感心していた。

「ええ、恐らく知性を宿したただ一体のクリスタルドラゴン。我らの象徴です」

そう応えるビャクはどこか誇らしげであった。

そしてしばらく歩いた先から何やら明るい波動を感じるとティアラが、

「レインボーハートと同じ輝きですわ」

とつぶやいた。それはここにいるだれもが同じ感想だった。その様子をビャクは何も応えず先に進み、ついに大竜御殿の神竜帝の間へとたどり着いた。

そしてそこで風音たちは虹色に輝く巨大なドラゴンと対峙したのだった。