軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十七話 竜角を見よう

◎デイドナの街 冒険者ギルド事務所

「は、はははは……」

ベンゼルは冒険者ギルドの事務所の中で乾いた笑いになっていた。

今の彼の役回りは街全体の指揮をとることだ。領主が死亡しているため、住民との折り合いをつける必要もあり、いろいろと動き回り、今もひとりで状況を整理して、またすぐさま出なければならない。だが、彼は笑っている。それにしてもよくもまあというくらいに報告に上がってくる戦況が良すぎるのだ。

「朝はルイーズさんに睨まれてビビりましたけど、これだけの戦果が上がるのを知っていたのだとするなら、どうも最初から試されていたようですね」

それは風音にデイドナの街の救出作戦を依頼する際のルイーズとのやりとりのこと。確かにベンゼルも無茶を頼んでいる自覚はあったが、だがフタを開けてみればこの結果だ。あの鬼殺し姫と言われている少女は軍隊に匹敵するような存在のようだった。

「どうもランクSの称号を与えることも検討した方が良さそうかも知れませんね」

そうベンゼルは口にする。ランクSの冒険者というのは単純なランクAの上の存在というわけではない。ランクSとはただひたすらに強いか、或いは特殊な能力を持っているか問わず、どのような方法であれたった一人で戦術規模の成果を上げることができる者に与えられる称号なのだ。首輪やマーキングなどと揶揄されることもあるが、部分的にではあるがギルドマスターにも匹敵する権限すら与えられる。

そして、他のランクとは違い、ランクSへの昇格試験はない。国ごとにいるギルドマスター複数名による推挙でのみ、それは与えられるのだ。

それもミンシアナとツヴァーラのギルドマスターと連絡を取り合えばどうにかなるだろうなとベンゼルは考えている。そして再び下の階に降りて職員たちと打ち合わせに入ろうと思いイスから立ち上がったところで、入り口のドアの前に一人の少年がいることに気づいた。

「君は……?」

ベンゼルは呆然とした顔でその少年を見た。それは黒髪、黒目の少年だった。

そしてそれがベンゼルがこの世で最後に見た光景となった。

◎デイドナの街 近隣 コンロン山方面

「ふう、危なかったぁ!」

風音はそう口にして一息ついた。

『這い寄る稲妻』でドラゴンベアたちの群れを突っ切ったのだ。数十というドラゴンベアを轢き殺し、跳ね上げたが、だがヒポ丸くんの勢いもさすがに数の暴力の前には削がれてしまった。そこからどうにか体勢を持ち直し、再度走り出して離脱したのが今である。

叡智のサークレットでもこちら側に追いかけてきているドラゴンベアがいないのは確認済み、ひとまずは安全は確保できた。

「さすがにあの数じゃあ、突っ切るのは難しいか。こいつが進化してなかったら危なかったかも」

そう言いながら風音はヒポ丸くんの左右から前に突き出ている凶暴な黒岩竜の角を見た。その角は今までとずいぶんと姿形が変わっていた。以前に比べて細く平べったくなり、より尖鋭化されていた。さらに左右の角の先端は今や繋がっており、まるでヒポ丸くんから突き出た巨大な矢尻のような姿へと変わっていた。魔物の素材は闘いの経験を積むことで進化する。どうやら黒岩竜の角にもそれは適用されるようだった。

そしてヒポ丸くんが牽いているサンダーチャリオットもレベルが上がり変化していた。まず全体的に流線形になって、車輪が頑丈に大きく太くなった。また姿が大きくなったがその消費量は依然と変わらぬままに抑えられているようだ。

だが今回のレベルアップでもっとも進化したのは外でない。内装がよりゴージャスに変わっていたのだ。シャンデリアが垂れ下がり、装飾はより洗練され、冷暖房らしき魔法具が完備され、座席そのものの素材やクォリティも一段階上がっているようだった。

(もっと戦闘に特化してくれればいいのに)

そう風音は思ったが、ともあれ、今のままでも十分にサンダーチャリオットは活躍している。以前と消費魔力も変わらないのだから文句をつける筋でもない。

そして風音は叡智のサークレットの遠隔視を用いて、戦場の様子を確認することにした。

(デイドナの街の前では弓花たちが予定通り戦闘中か。量産型の投石チームも魔物の波に押し潰されないようにバランスをとって動いてる)

すべては予定通りにことが運んでいる。

「けど、敵の層が思ったよりも厚い。『這い寄る稲妻』も後一回ぐらいにしてティアラたちのところに合流するかな」

ドラゴンベアたちが想像と違って、あまり死を恐れずに向かってくるのだ。その様子から確かに操られている可能性は高そうだと風音は思う。そして操っている主と思われるのはドラゴンベアの群れの中心にいる黒い巨大な魔物だが、それをイモータルマシラのように単独撃破するのは難しそうだった。いくら『這い寄る稲妻』でもこの群れの中心部を突っ切って黒い魔物まで倒し切るのは無理だろう。

ならばセオリー通り順繰り敵を削っていくべしと風音は比較的層の薄い群れのポイントを狙って再度ヒポ丸くんを走らせた。

◎デイドナの街 近隣 パラムの街方面

「テメーラ、タツヨシくんを守れー!」

グロリアスのかけ声にソードフィッシュの面々が一斉に返事を返しながらドラゴンベアの群れとの戦闘に応じていた。その彼らを身を挺して護るようにフレイムナイト10体とクリスタルゴーレムのナイトーさん6体が配置され、こちらも善戦している。ドラゴンベアの足止め程度の活躍だが、殴られても炎を浴びても倒れぬ盾代わりとして非常に重宝されているようだった。

そして彼らの後ろでは量産型タツヨシくんAとBがせっせと投石を行い、ドラゴンベアの数を確実に減らしていく。その石を運んでいるのは4体のナイトーさんたちで、量産型タツヨシくんの横でじっとしているのがティアラ、ルイーズとジンライだ。

「ティアラ。あんた、感受性が強いんだからフィードバックは最小にね。繊細な操作なんてこの場では求められてないわ。継続して操り続けることこそが重要と知りなさい」

「はいっ」

しっかりと戦場を見ながら口にするルイーズの言葉に、必死な形相で召喚騎士を操り続けるティアラが頷く。玉のような汗が頬を過ぎて、顎から垂れて、地面にピチャンと落ちる。

「まったく、張り詰めすぎない。敵はまだまだいるんだから」

続くルイーズの言葉にティアラは再度頷く。その横ではジンライがじっと動かずに周囲を警戒している。悪魔の気配はない。だが油断はできない。

その様子を遠方からグロリアスが不満げに見ているがジンライは気にしない。今この場においてジンライとルイーズだけは『別の存在』と戦うことを前提にしている。それがこの戦場における、白き一団の最大限の譲歩だった。

(何に狙われてるんだか知らないが、厄介そうだな)

グロリアスは巨大な戦斧を振り回してドラゴンベアを片付けながらそう考える。このドラゴンベアの襲撃の裏に悪魔の存在がある……そう聞かされたグロリアスは半信半疑だったが、だがこの戦場の空気が普通のものではないと今では理解できている。

(どれだけ殺しても退くそぶりもねえ。確かに目の前のこいつらはオカシイ)

グロリアスは熟練の冒険者だ。ドラゴンベアとも何度も戦っているし、癖や習性も分かっている。元よりベア系統の群れは普通2~5体程度なのだ。こんな集団で襲ってくるようなことはない。その上、今のドラゴンベアは異常に統率がとれている。グロリアスの常識からすればそれも有り得ない話だった。

もっとも、そんな異様なドラゴンベアの群れではあるが、だからといってグロリアスは負ける気がしなかった。あの鬼殺し姫の能力は確かに強力で、未だに戦力上では負けているはずなのに、一方的にこちらが攻め立てているように思えてくる。

今も目の前で紫色の雷光がこちらに向かって突進してきている。リザレクトの街で発見された魔物と同じ名前の『這い寄る稲妻』とかいう技なのだそうだが、ゾッとする威力だ。今だって、この分厚い敵の群れの中を止まることなく突っ込んで……

「ん?」

魔物の群れの中で光が消えた。グロリアスの表情が固まる。

(止まった?)

そのグロリアスの後ろで、ジンライが叫ぶ。

「あのお調子者め。だから油断するなといっておろうに」

「か、カザネーーーー!!?」

ティアラも不安げな顔で、光が止んだ先を見ている。

(おいおい、嬢ちゃん。あの中でまさか囲まれて)

そうグロリアスが思った瞬間だった。ビュンッと光がグロリアスの頭の上を真横に駆け抜けたのは。

「は?」

それを見て、目を丸くする。そして戦場の中心から巨大な何かが現れた。

「よし、無事だったか」

グロリアスの後ろでそう言ってジンライが頷いているが、グロリアスは「マジか」とつぶやいた。

最初の光で多くのドラゴンベアが切り裂かれて倒れる中、戦場の中心で巨大な石の化け物がその手に巨大な剣を携えて立ち上がりつつあった。

ストーンミノタウロス。ダンジョンなどでも厄介な敵として知られる剛力の魔物が突如そこに顕現したのである。