軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十八話 空へ飛び出そう

そして風音は宙を舞った。

(やっばああ!?)

空中に投げ出されながら風音の顔は蒼白になる。周囲を見れば、鱗姿の熊の群れがこちらに飛びかかってきている。

(かわいくない。全然かわいくないんだよーーー!!)

別にこの状況下では毛が生えていてもかわいいと思えるわけもないだろうが、コンマ的な時間の流れの中の一瞬の思考である。大目に見てあげてほしい。

そう、ただいま風音は大ピンチである。簡単に言ってしまえば『這い寄る稲妻』が保たなかったのである。ドラゴンベアたちは数の利を利用して『這い寄る稲妻』の突撃に次々と飛び込むことでその動きを無理やり止めたのだ。そしてその衝撃に風音は御者席からポーンと飛び出した。

(あああああああああ、死んじゃうーーーーー!!!!)

そう心の中で叫び、現実でも「うわぁああああああああああ」と声を上げながら、しかし身体は条件反射的に全周囲マテリアルシールドを放った。一瞬風音の身体が発光し、そして発生した不可視の壁が襲い掛かるドラゴンベアに激突し弾き飛ばす。その吹き飛ぶ魔物たちを後目に風音は『身軽』のスキルによって四つん這いで着地し、そのまま背後も見ずにサンダーチャリオットの召喚を解いた。

「ユッコネエ、来てっ!」

併せて風音はチャイルドストーンからユッコネエを呼ぶ。

吹き飛ばされたのとは別口のドラゴンベアが近付いてくるが、サンダーチャリオットの中で待機していたタツヨシくんドラグーンが不滅のスコップで突き刺してそれを撃退する。ヒポ丸くんも黒岩竜の角を突き刺して攻撃している。

「にゃああああああ!!!」

ユッコネエも正面から迫ってくるドラゴンベアをその爪で切り裂いていく。

そのユッコネエとタツヨシくんドラグーンとヒポ丸くんに護られながら、風音は魔法短剣フェザーを取り出して急ぎファイアブーストをひとつ装填した。

(魔力はギリか。一回きりしか使えないけど、しゃーないね)

そうして決意した風音は魔法短剣を水平に構えてファイアブーストを発動し、全身を回転させながらメガビームを撃ったのだ。

そして、光の刃が全周囲に放たれる。

メガビームはウィンドウのステータス上では魔力消費量350という並の魔術師の持つ魔力の二倍を必要とする驚愕の高コストスキルだ。光線系のダメージは対象物への照射時間によって決まるため、わずかに照射されただけではそれほどのダメージにはならない。だが、メガビームほどの高出力ならばドラゴンベアを一瞬で焼き切ることが可能なのだ。それがローリングすることで360度に放射された。若干角度を上に向けたのでジンライたちの頭上を通り抜けたはずだが、当然近くのドラゴンベアたちはそうはいかなかった。

上半身と下半身が、或いは首と胴が、その中間付近が焼き切られたドラゴンベアたちがドサドサと倒れていく。

それを見ながら風音は安堵のため息を漏らす。

「はっはー、ヤバかった!ヤバかった!マジヤバかったぁあああ!!」

そして風音は冷や汗をかきながら、そう叫んだ。メガビームは出力が高いが、反射に弱い、霧系防御に防がれるなどの奇妙な属性弱点があって迂闊に使用するとカウンターで大ダメージを食らう恐れもあった。考えなしに撃つのはギャンブルのようなものだったのだ。

「にゃにゃにゃああ!!」

だがひと息ついた風音にユッコネエが慌てたような鳴き声をあげる。

「なんだいユッコネエ……って、ギャアアアアア!!!」

風音が叫ぶのも無理はない。仲間の死骸をかき分けて我先にと魔物たちが風音に向かって走ってきているのだ。どうやらドラゴンベアたちは現状における最大の障害を風音と認めたようだった。全く嬉しくない評価だが、当然の結果であるとも言える。

(魔力は底。でもこっちにはこれがある!)

そして風音はアイテムボックスからマナポーションを一本取り出した。ディアサウスの道具屋で2本購入していたが、これはパラムの街でベンゼルに頼んで接収させたものである。

残念ながらパラムの街には一本しかなかったようだし、回復するのは自前の魔力である205のみ。魔力消費350のメガビームはもう撃てないがあいつを呼ぶには十分な量であった。

「スキル・ストーンミノタウロス!」

迷いなく風音が愛用の杖『白炎』の先を地面に付けてスキルを発動させる。地面から土と岩で出来た腕が飛び出し、風音はアイテムボックスから3メートル魔剣を出すと、それに手渡した。

その姿を見ても止まらぬドラゴンベアたちであったが、完全に顕現したストーンミノタウロスが、ドラゴンベアたちに向き合うと凄まじい勢いで3メートル魔剣を振り下ろした。

3メートル魔剣の能力は持ち上げるときに重量を軽減するというものである。それを利用して風音はストーンミノタウロスに、魔剣を高速で上下させて攻撃させるように命令を下す。『微塵切り』と風音が命名したそれは名の通りの攻撃で、わずかな間にドラゴンベアがミンチへと変わっていくのだ。

そしてストーンミノタウロスに露払いをさせながらユッコネエの背にまたがり、風音は戦場を駆け抜ける。タツヨシくんドラグーンが乗ったヒポ丸くんも共に走る。

「なーご!」

途中、ユッコネエは「ムチャすんな」的な鳴き声で風音を非難した。それには風音も平謝りだ。

「ごめんよ。行けると思ったんだよー」

それは本当にギリギリの状況だったのだ。

(ああ、紅の聖柩と蓄魔器の魔力は使い切っちゃったし、もう今日は撃てないなあ)

ともあれ、危機は乗り切った。すでにメガビームの攻撃で層の薄くなった魔物の壁を突き抜けることは難しくなく、その先にはパーティ『ソードフィッシュ』とジンライたちがいた。そして風音はジンライのもとへと向かうと、

「ジンライさん。交代よろっ」

「任された!」

風音の要請にジンライが吠えた。目の前の餌を前にお預けを食らっていた犬のように、ジンライはそのまま獲物に向かって走り出したのだ。

「ユッコネエ、ジンライさんを乗せちゃって」

風音の言葉にユッコネエが「にゃー」と鳴き、ジンライのもとに走り出す。ジンライが「応ッ!」と声を上げて跨がり、戦場へと駆けていく。

その後ろにはストーンミノタウロスとヒポ丸くんに乗ったタツヨシくんドラグーンが続いていく。

「ふいーー」

その一行を見送ると風音は一息ついて、ルイーズの横に座った。

「ご苦労様」

「うん。苦労した」

ルイーズの言葉に風音は頷く。風音は続いてアイテムボックスから不滅のタオルを出して汗を拭い、一緒に取り出した砂糖入りレモン水入りの水筒をがぶ飲みする。途中でレベルも上がったので、ついでにボーナスポイントも割り振っていく。

「にしてもジンライさん、すごい勢いだったね。あの勢いならひとりで全滅させちゃうんじゃない?」

「かもしれないわね」

風音とルイーズは苦笑する。そして風音はもうひとりにも声をかける。

「ティアラもご苦労様」

「カザネェ、もう無茶は止めてくださいな」

そこには大粒の涙を浮かべたティアラがいた。先ほどまで声を出していなかったのは、風音の無事な姿を見て気が緩んで腰が抜けていたからだ。

「ゴメンゴメン。うん、今回はかなり怖かった」

風音としても猛反省である。馬車から投げ出され、ドラゴンベアに一斉に襲われかけたときは本当に終わりだと思ったのだ。だが今は反省しているばかりではダメなのだ。叡智のサークレットの遠隔視で戦場を確認し、戦っているグロリアスに声をかける。

「グロリアスさん、このままデイドナの街の方に移動しよう。弓花たちががんばってるけどちょっと戦力不足みたい」

予想よりもデイドナの街の兵たちの能力は高くないようで、弓花たちの活躍はあるものの現在押され気味のようだった。

「おうよ。了解した、鬼殺し姫ッ!」

グロリアスは戦斧でドラゴンベアの首をはね飛ばしながら風音に向かって叫び、そしてパーティの仲間たちに声をかける。量産型タツヨシくんたちも併せて移動しつつ、投石を続けていく。

(さてと、そろそろあの大物が動き出しそうかな)

風音は群れの中心にいる巨大な黒い魔物を見る。

「ルイーズさん、あれの中にもしかしている?」

「微妙ね」

ルイーズは悪魔の気配をある程度察知が出来る。ディアボ程の技量でもなく、そもそも隠す気もない悪魔の気配を見逃がすことは無い。そのルイーズのセンサーは、悪魔の気配を確かに感じているが、だがどうにも微弱だ。

「まあ本命じゃあないでしょうね」

魔物としてはかなりの脅威ではあるが、だが悪魔本体がついてはいないとルイーズは判断する。

「いったい何を狙っているのかしらね」

そう口にするルイーズに風音も考え込む。

(しかし私たちは今はみんなここにいるし、今のところ、狙われてる気配もない。なら敵の狙いはいったい?)

「ルイーズさん、ベンゼルさんって今街の中にいるんだよね?」

風音の言葉にルイーズが頷く。

騎竜ライエルは今はデイドナの街を飛び立ち、ある場所に向かっている。それにより実質的にはハガスの心臓の移送においてのベンゼルの役割は終わっているとも言えた。

だがそれは内情を知っている風音たちから見てのことだ。

「もしかしたら狙われてるのってベンゼルさんなんじゃあ」

風音の言葉に、ルイーズはデイドナの街を見る。

ギルドマスター『ベンゼル・ボイラー』。風音たちの認識では彼はオブザーバー的な立場であり道先案内人でしかない。だが対外的に見れば、中心点がベンゼルであると見られてもおかしくはない。それを指摘する風音だが、ルイーズは首を降る。

「リーダー、最初に言われてるでしょ」

ルイーズの言葉に風音は「むう」と唸る。

ベンゼルは最初に自分の身は自分で守ると宣言していた。それは危険な依頼を受けた風音たちへの負担を考えたものでもあるが、そもそもがベンゼルは伊達にギルドマスターであるわけではない。今でこそフィールドワークから離れているが彼はフリーの竜騎士で、その能力は決して低いものではなく、相棒の騎竜ライエルがいなくとも悪魔相手に遅れは取らない筈であった。

「分かったら集中してあたしをしっかり守りなさい」

ルイーズは笑いながらそう言った。そして心の中ではベンゼルの無事を祈っていたのだが、すでにその祈りが届かないのだということを彼女たちはまだ知らなかった。