軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十一話 情報を探ろう

悪魔に狙われているかもしれない……ということはパーティ内に緊張が走る出来事ではあったが、だからと言って風音たちにできることは今のところはなかった。

そもそも悪魔といえど完全な神出鬼没というわけではない。大概は人に紛れて行動するものだし、単体ならば転送魔術も使えるが、そうであっても風音たちを捕捉できるかと言えばまた別の話だ。ヒポ丸くんとサンダーチャリオットという移動手段を持つ風音たちの行動は非常に早い。風音たちの目的地を知っている者も限られており、ルートはルイーズの温泉目当てで設定されたものでこのパーティとベンゼル以外は知りようもない。なので早々に捕捉できるモノではないだろうというのがルイーズの回答だった。

かと言って油断できるわけでもない。すでに追われていることを前提に考えるべきだともルイーズは口にしていた。

悪魔の狙いは何かといえば、ハガスの心臓であろう。元々風音たちへの依頼は黒竜ハガスの心臓を東の竜の里へと運ぶことだ。それをクリアしてしまえば悪魔に追われる理由もなくなる。なので今から悪魔の待ちかまえているかもしれないミンシアナに戻るよりは竜の里に予定通り進む方が良いとはその場の人間の一致した考えだった。

そして馬車はオルボアの街へと辿り着いた。

ここは直樹がミンシアナに行くまで、そしてライルとエミリィが最近まで拠点にしていた街である。周辺の魔物のレベルが若干高く、中級の冒険者が拠点にしやすい街なのだと風音はエミリィから教えられていた。

◎オルボアの街 冒険者ギルド事務所

「あら。ナオキくん、いらっしゃい。大武闘会では魔物相手に大活躍だったって聞いているわよ。ライルにエミリィも久しぶり。それに初めての人たちもいるのね」

風音たちが冒険者ギルドの事務所に入ると受付嬢のフラムが声をかけてきた。まず直樹の名前が最初にあがったことにフラムに気があるライルが若干へこんだ。

「姉の風音です。弟がお世話になってます」

そして元気よく返事をしたのは風音である。

「うん?お世話に?姉?」

10歳くらいの女の子に弟がお世話になっていると言われてもフラムには覚えがなかった。ここ最近小さな男の子と出会った記憶もない。

(それにナオキくんといっしょってどういう組み合わせかしら?)

混乱しているフラムを見かねて直樹が前にでる。

「ええと、こっちの人は俺の姉なんだ」

だが直樹のその言葉に、フラムの混乱は増すばかりである。

「え?え?え?」

「お姉ちゃんです」

「弟です」

フラムは冗談かと思って直樹を見るが、直樹は首を横に振る。

「本当にナオキくんのお姉さんなの?」

直樹が頷いた。間違いなく姉である。

「見た目はああだけど、鬼殺し姫って呼ばれてる。名前くらいは聞いたことあるだろ?」

その言葉にフラムが固まる。

(あ、あのハイヴァーン軍部やアウターファミリー『オルボス』と繋がりのある……)

ゴクッとつばを飲み込んだ。そして改めて風音を見る。

(確かに子供の姿に白いマント、それにやたらイカツイ足の防具)

聞いている鬼殺し姫の特長と一致していた。

冒険者ギルドの受付嬢だけあってフラムは情報を耳に入れるのが早い。

ここ最近でもレインボーハート強奪未遂事件はレインボーハートを餌に、軍とアウターのまとめ役である『オルボス』ファミリーがクリオミネの街のアウターファミリーをハメたのではないかという話が広まっており、その話もいち早く聞いていた。それは一度広まってしまった風音たちのレインボーハート所有をボカすためのハイヴァーン公国の情報操作の一環ではあったが、もちろん風音たちの悪名もさらに伝達されていった。

(まさか久々に会ったナオキくんがそんなダーティな環境の人になっているだなんて)

フラムは鬼殺し姫率いる白き一団が権力をカサに着て色々やらかしてると噂されているということも聞いている。その噂の内容はある意味では事実なので否定しようもない部分も多々あるのだが、そう考えてしまえば将軍の子供であるライルとエミリィがこのパーティにいることも自然に思えてくる。或いは将軍に対する人質的な意味合いもあるのかもしれないとフラムは戦慄した。

そしてフラムは諦めたようにこう口にした。

「ナオキくん、遠い人になっちゃったんだね」

「おいフラム?」

その言葉に直樹が不安げな顔でフラムを見た。

確かに今現在の直樹たちはかつて3人でパーティを組んでいた頃のただの冒険者とは違う。今や彼らは悪名高い白き一団の一員だ。

だが、そうだとしても親しい知人から距離を置かれることに直樹はなれてはいないし寂しいと思ってしまう。

と、そんな微妙な空気が流れる中で後ろにいるベンゼルがゴホンッと咳払いをする。そしてフラムは直樹たちの背後にいる男を見て目を丸くする。

「ぎ、ギルドマスター?」

フラムはベンゼルを当然知っていた。冒険者ギルド職員認定試験の際に首都のディアサウスに訪れ、そして認定書をベンゼルより直々に貰っているのだ。だがギルドマスターが突然直樹たちと一緒にいることにさらなる驚きを隠せなかった。

「なぜギルドマスターがこのようなところにおられるのですか?」

フラムにしてみれば会社の社長様のような立場の人物である。こんなへんぴな場所にいることが信じられない。

「彼らのクエストに僕が必要なようなのでね。それとここに来たのは連絡掲示板を使うためだよ」

「あ、はい。それならばいつも通りに稼動していますが」

連絡掲示板とは千年前の大戦期から冒険者ギルドで使用されているロストマジックの類である。自然界の魔力の流れであるナーガラインを介して、掲示板に書いた文字を同種の術式の別の掲示板に表示させるモノだが、現在ではその術式の根幹が失われて久しく、まったく同種の術で使い勝手の悪い掲示板を量産することしかできないらしい。だがこの世界の情報伝達手段としては遠く離れたところまで連絡ができるので重宝もされている。

(掲示板ねえ。ゲーム中だといろんな街で閲覧したり書けたりできたものだけど)

風音はそれが何かを知っている。ゼクシア・ハーツでは、この掲示板を用いて近隣の街にいるプレイヤーに協力プレイの募集などを呼びかけていたのだ。それが今ではギルド内の連絡用に限定して使用されていた。

もっともこの連絡掲示板はゲームの時よりもずいぶんと使い勝手が悪いようだった。ナーガラインの調子次第で文字の伝達がされなかったり、されても随分と経ってから届いたりするらしい。届く距離も限られているので、伝言ゲームのようなやりとりでどうにか遠方の情報を探れる程度のものだということだった。

「とりあえず一晩粘って、僕はともかくミンシアナの情報を探ってみるから、カザネさんたちはゆっくり休んでいてね。いざという時に動けるように」

そう言ってベンゼルはギルドの奥へと入っていく。フラムが他の職員を呼んで慌ててついて行く。

「あーテンパってるフラムさん可愛いなあ」

ライルが去っていくフラムの後ろ姿を見ながらそう呟いた。

「あの手のは理想を求めながら、結局現実的なところで手を打ってくるわ。少し良いとこ見せてから誘っちゃえば結構なびいたりするかもね?」

ライルの肩をポンッと叩きながらルイーズがそんなことを口にする。ライルが「マジで!?」という顔をするが、ルイーズは「ま、今はよしときなさいね。そんな余裕ないし」と言いながら、風音の方を向いて声をかける。

「そんじゃリーダー。あたしもちょっと探ってくるわねん」

「うん。お願いするよー」

風音の返事にルイーズが「了解」と言いながらひとりギルドの事務所を出ていった。悪魔狩りのキャンサー家の威光はこうした街でも機能するらしく、悪魔関連の情報を集めておくらしい。有益な情報が得られる可能性は低いが、念には念を、ということらしい。

そして翌日ベンゼルよりもたらされた情報は風音たちを困惑させた。その内容はミンシアナにオーガの大群が攻め入った……というものだったのだ。