軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九十話 相談をしよう

おっぱい。有史以前よりその存在はあらゆる生命を魅了してきた。

何故おっぱいが好きかと聞かれれば、そこに頂があるからだと人は言う。

おっぱいとは夢であり希望だ。そして男たちは夢を掴むために生きるものなのだ。故におっぱいとは弾力を持った柔らかいものであるわけだ。だがここにその男たちの夢と相反するおっぱいがある。いや、それはもはやおっぱいと呼べるか否か定かではない。そんなシロモノだ。

それがいわゆる貧乳、ぺったんこ、洗濯板などと呼ばれるモノ。本来の意義を失ったそれは確かに揉めないだろう。その突起を眺めて楽しむこともできない。であればそれは残念なモノなのか?……否である。

貧乳とは人が新たに手に入れた夢であり、愛なのだ。

わずかにでている突起と、薄いからこその敏感さ、そして小さいことを恥じらう少女の顔。まっ平らな地平にあるピンク色の二つの小さな頂こそが俺たちが手に入れたフロンティア。永劫の 理想郷(アルカディア) だ。

そう熱く語る男たちにトンファー使いアンガスがトンファーキックを放っていく。鳩尾に入るそれに男たちがうめき倒れていく。そして誰もそれを止めなかった。気持ちが悪いと思ったので。

「よく分かんねえがガキ共の近くにはいてほしくねえ連中だな」

「まったくでさあ。相変わらず兄貴のトンファーさばきは見事でしたぜ」

「トンファー持ってる意味がまったくねえ。最高だぜ」

「おいおい、照れるぜ?」

そう言いながら、アンガスたちは去っていく。

「なにあれ?」

目の前の光景に呆然としていた風音が一言呟く。

「お前に救われた連中がな。お前が乳がないってことを気にしてるみたいだったからってんで、ああして小さい胸も悪くないってことを世に広めて貧乳が恥ずかしくない世界を作るって息巻いてんだ」

「余計なお世話すぎる!?」

無駄に壮大な構想だった。そして風音はトンファーキックで倒れている連中が目が覚めて顔を合わせるのもイヤだったし、クリスタルドラゴン討伐後の状況も聞けて目的も達していたので、そのまま帰ることにした。あと、そんな未来があるのなら、それもまた良いのではないかという思いも確かにあった。これから大きくなる自分には関係ないがエミリィには必要だろうと考えながら。

なお、帰りに「大体私はまだ成長期なんだよ」とブツクサと言っていた風音は、エイブラが(俺の娘(10歳)の方が胸も身長もあるんだよなぁ)と思いながら見送っていたことには気付けなかった。

◎ドンゴルの街 ダインホテル

「うむ、素晴らしいトンファーさばきだった」

「オッサンもやるじゃねえか。俺のトンファーパンチをよけたヤツは少ししかいねえぜ」

「でも兄貴のトンファーダイブも凄かったっす」

「トンファーとか使えねえって思ってたけど、やっぱり思ってた通りでしたわ。さすが兄貴、トンでもねえお人だぜ」

「おいおい、あんま誉めるなよ。照れるぜ。チクショウがっ」

風音が買い物をいくつかしてホテルのロビーにはいるとそこにはアンガスと取り巻きとジンライと弓花がいた。

(なんで仲良くなってんだぁああああああああ!!!!!!!)

風音が心の中で叫ぶがどうにもならないこともある。

「む、カザネか。今戻ったのか」

そして戻ってきたところをジンライに見つけられてしまう。黙って素通りしたかったが仕方がない。

「う、うん。ちょっと買い物をね」

「お、こっちの小さい人があの噂の鬼殺し姫ですかい」

「おお、聞いてた通りだぜ。すげーぜ」

「確かにな。噂に違わぬ……っぷりだぜ!」

そう言う三人の視線は明らかに風音の胸に向いていた。その視線が情欲ではなく憐れみに染まっていたことは言うまでもない。アンガスが小さく貧乳と口にしていたが気にしない。もう知らない。

「うう、よろしく。風音だよ」

「俺はトンファー使いのアンガスだ。お兄さんって呼んで良いぜ!」

「兄貴のお供のドッポと」

「ジョージだ。よろしくな」

ドッポ、ジョージ。ネズミのような顔立ちの二人である。問題はないはずなのにもやもやする名前だった。

「さきほど、修行中に出会ってな。一戦戦わせてもらったが、凄まじい腕前だったぞ」

ジンライがそう言う。

「師匠も辛勝だったし、私も竜人化までしたのに負けちゃったよ」

てへへ……と弓花が笑う。(マジか!?)と風音が思うが、こと戦闘においてこの二人が冗談を言うとは思えなかった。信じられないことに目の前のおかしな男はやはり実力はあるのだ。

「なーに。あんたの槍さばき見事だったぜ。俺もこのトンファーがなければヤバかった」

「もう。一体どれほどトンファーに打ち込めば、あの域に行けるんですか」

弓花が尊敬の眼差しでアンガスを見ている。

「へっ、惚れるなよ」

「しびーぜ、兄貴。トンファー背負い投げ、サイッコウでした」

「弓花の姉さんもすごかったぜ。その槍とトンファー(笑)のドツキアイとかマジリスペクトだぜ」

ドッポ、ジョージの煽りに弓花が「もう、よしてってば」と照れている。実力者同士通じ合うモノがあるらしい。

「聞いてたよりも全然分かる連中じゃねえか。噂ってのはアテにならねえな」

アンガスがそう言って「へっ」と鼻をすする。

その様子を風音はなま暖かい目で見ながら、部屋へ戻ると言ってその場から離れた。背後では笑い声が聞こえてくる。ああ、これが疎外感か……と思いながら、風音は部屋へ戻るのであった。

そんなおかしな人物等との遭遇もあったドンゴルの街であったが、翌日には次の予定地であるオルボアの街へ風音たちは何事もなく向かうことになる。だが、順調な旅路ではあったはずなのに風音と弓花の表情は晴れない。それは前日からゆっこ姉と連絡が取れなくなっているためだった。

◎ハイヴァーン公国 ドラゴンロード オルボアの街方面

「マズいかもしれない」

そう風音が切り出したのは、首都ディアサウスと東の竜の里ゼーガンがあるというコンロン山をつなぐ道『ドラゴンロード』の途中のことだった。

風音の話によれば、昨日の夕方に『心臓ヤバイ。七つの大罪、超ヤバイ。来る。黒い悪魔たちが』というメール(ジンライたちには文字情報の伝達魔術だと伝えてある)が来ていたらしいとのこと。かなり意味深な文章に、何故疑問に思わなかったのかとの質問がルイーズから出たが、

「いや、30分くらい前にも『これから逆ドッキリを仕掛けまーす』とか来てたし、なんかの冗談かと思ってたんだけど」

まさかその内容がディオス将軍に化けた悪魔に対する炎柱魔法陣を仕掛けることを示していたことなど知らない風音がそう答える。

「とりあえず返信をしたんだけど返事が未だにこないんだよね」

風音の横で弓花がそう答える。なお返事の内容は秘密である。お通じのこととかちょっと言えないので。

「返事がこないのって珍しいことなんですの?」

メールというものがイマイチ理解できないティアラがそう尋ねる。

この時代の人間の連絡と言えば手紙が主だが、数週間から数ヶ月単位でのやり取りが普通だ。軍事目的や重要性の高い情報の伝達等ならば飛竜便などの利用もあるが、一般市民どころか、王侯貴族であっても手紙のような日常のやりとりにそこまでの即応性を求めるものではないのが、この世界での常識だった。

「大体一日に10通ぐらいはやりとりしてたかなあ」

「同じく」

風音と弓花の返事に直樹をのぞく全員が驚きの顔をする。

呆れるルイーズが「よくそんなに連絡することあったわねえ」と返す。

ちなみに蓄魔器の進捗状況とかマジメなメールもあるが大体は『おはよう。ちょっと眠い』『こっちもネムネム』とか『パスタ、少し芯が柔い』『タラスパ食べたいわー』とかそんなんばっかしである。それを聞いてルイーズたちがさらに呆れたのも無理もない。ジェネレーションギャップというには開きすぎている文明の差がそこにはあった。

ともあれ、状況の整理をすれば、ゆっこ姉が(死んでいないのはウィンドウの機能で分かっているため)現時点では何かしらの理由で返信ができない状況にあるということと、メールの内容がマジメなものだとすれば非常に捨ておけないものだということの二点が挙げられるだろうとルイーズは言う。

「そのまま素直に考えれば悪魔がアレを狙ってるってことよね」

ルイーズの言葉に風音と弓花は頷かざるを得なかった。なぜ自分たちはお通じのことだと思ってしまったのか。普段バカなことばかり書いて送りあってたツケがここに出ていたのである。

もっとも風音たちができることは、どのみち変わらない。横に並んで飛んでいるベンゼルの騎竜ライエルに併せて進むしかないのだ。ドラムスの街までは今日を含めて4日かかる。気の抜けぬ旅路になりそうだった。