軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五十六話 神様と会おう

◎首都ディアサウス ノーマン神殿

「働けと言うのですか。私は神様ですよ。今更労働をする意味もないでしょう」

「あるだろ! あるんだよ、この馬鹿神。お前が動かねえと、こっちに苦情がくるんだよ。神様が来ねえから不作だとかなんとか必ずあるだろ。毎年毎年誰が対応してると思ってやがる!」

「その話は前に何度も聞きましたよ。まったくボキャブラリに乏しい男ですね。大体行ったら行ったで怒る人なんですよ、そういうのは」

「うっせえ。ゴチャゴチャ言ってねえでさっさと行けっつってんだよ!」

ノーマン神殿。ハイヴァーン首都ディアサウスにあるこの地域一帯の神ノーマンを奉る神殿に風音たちは来ていた。理由は闘技場で死んだまま運ばれたノーマンに再会するためである。なお、ティアラは母親に会いに、ジンライ、ライル、エミリィは未だ実家にいるため、この場にいるのは風音、弓花、直樹、ルイーズに案内役のジライドだけとなる。

そして案内された神の座と呼ばれる部屋の前で佇む風音たちの耳に聞こえてきたのが、先ほどの会話であった。

「レゾンも相変わらずねえ」

ルイーズがそう口にする。レゾン・ヴァンダー、かつてメフィルス、ジンライ、ルイーズらとパーティを組んでいた武装神官だった人物。今はこのノーマン神殿で司祭、主にノーマン本人の世話をしているらしいと風音たちは聞いていた。

「なんか、神様がスゴい扱いされてない?」

部屋の中から響く会話を聞いて弓花がそう言うが、風音としてはノーマンの働きたくないでござる的な感じの方が気にかかった。だがもっと気にかかったのはプルプルしている案内役の司祭だった。50歳前後に見えるその司祭は自分の身内の恥部を晒されて必死に羞恥に耐えてるといった感じだった。間違いない。

「しょ、少々お待ちを」

司祭はそう言って、ひとりドアの中に入ると、二回ほど何か鈍い音がした。その後、司祭は部屋から出てきて、風音たちを中へと案内した。

◎首都ディアサウス ノーマン神殿 神の座

「お久しぶりです皆様方」

「おう、よく来たな。って、ルイーズ、おめえもいるのかよ」

風音たちが部屋にはいると、大理石でできたやたら神聖そうな石の座に座っているノーマンと、司祭服を来た柄の悪そうな中年の男がいた。どちらも頭にたんこぶができていた。

「どうも。完治おめでとうって言えばいいの?」

「ええ、それで良いのではないでしょうか」

風音の問いにそう口にするノーマンは以前と同じようにまるで感情のないような表情であった。だが先ほどの会話を思い出す限り、これは感情のない機械のような存在……というわけではないようである。

(まさか、ただのものぐさ野郎なんじゃ……)

そう思う風音の考えは恐らく当たっていた。この神の座という大層な名の付いた部屋の中は、なんというか汚かった。雑然としていた。読みかけの本とかが転がっていて、食べかけのサンドイッチがテーブルの上でパサパサになっていた。

「ニート?」

弓花がそう口に出してしまうのも仕方のないことだろう。

「失礼な。私は私で神様としての仕事を全うしています」

そして聞こえたのだろう。ノーマンは弓花の言葉に反論する。

「仕事を全うしているつもりならさっさと神殿から出て巡礼してきやがれっ!」

その横でレゾンがキレていた。

「神様が引きこもりだっていいじゃないですか。そういう神話だってありますよ。大昔のですが」

「昔は昔、今は今だ。テメェが神殿でねえと色々と困るヤツも多いんだよ。俺とかマトゥの爺さんとか、パンプ司祭とかな」

「みんな私の信徒じゃないですか!?」

ノーマンの抗議の声が木霊する。どうにも微妙な空気が流れていた。

「うーん、前と印象違うよね?」

風音の呟く言葉にノーマンはレゾンから風音に視線を変える。

「私は特に何も変えてませんけどね。見る人によっては普段の私は神様っぽく見えるらしいですよ。ねえ?」

ノーマンの問いにレゾンが頭をかきながら答える。

「あーまあな。詐欺みてえなヤツだからな。まあ、それで信徒が増えるんなら俺としちゃあ別に構わねえんだがよ。あと働け」

「そう言われましても。ほら再生したばかりだと結構身体もだるいんですよ。神様だって体調崩したら寝込んじゃいますよ」

ノーマンの言葉にレゾンが舌打ちをする。

「チッ、嬢ちゃん。騙されんなよ。このクソガキャ、単に動きたくねえだけのアホだからな」

「うん。そんな感じがするのは今のやり取りで分かるけど。とりあえず、レゾン・ヴァンダーさん? 挨拶だけでもさしてもらって良い?」

風音の言葉にレゾンは、彼女たちが部屋に入ってからの自分とノーマンのやり取りを思い出して、最初以外はまともに会話のやり取りもしてないことに気付き、顔を紅潮させる。そんな基本的なことを子供に指摘されたのが恥ずかしかったのだ。

「ぷふっ、あんたってホント頭に血がのぼると周りが見えなくなるわねえ」

「うっせえ」

レゾンはそう言って顔をプイッと横に向けた。風音は面白いおっさんだなあと思って見ていた。

そして風音たちとレゾンとノーマンはお互いに名前と自分の簡単な紹介をして、ようやく落ち着いて話す雰囲気となった。といっても、風音たちが今回ここにきたのはただノーマンの様子を見に来ただけであったので話すこと自体はあまりないのだが。

「ま、大闘技会では色々と大変だったみてえだな。このガキも時たま殺されることはあるが、悪魔にってのは初めてだったもんでよ。こっちもちょっとビビってたんだわ。幸いにして特に呪いもかかってなかったし普通に復活できたけどな」

レゾンは大闘技会以降のノーマンのことをそう話した。

リザレクトの街の大闘技会でゲンゾーに殺害されたノーマンは、そのまま神聖騎士団に亡骸をこの神殿まで移送されていた。そしてこの神の座に座らせて神本体と接続させることで肉体を復活させたのだということだった。

「便利な話だねえ」

死亡しても復活できるとはゲームのような話だった。

「ま、そういう仕事ですし、私にできることなんて限られてますけどね。基本私は本体の影響範囲内を見て回るだけの存在ですし」

「それってなにかの役に立つの?」

風音がノーマンの言葉に首を傾げる。

「まあ警備員みたいなものですかね。といっても他国からの侵略を防いだりとかそういうのではありませんが」

「じゃあ何をしてんのさ?」

いまいちこの神様もどきのしていることが分からない風音の問いにノーマンは相変わらずの無表情のまま答えてゆく。

「ナーガラインのチューニングの下調べです。この地の魔力の流れを正常にするための作業です。私の役割はそれを人間の視点で見て本体である神の微調整の手助けをするという感じですね」

話を聞いてもよく分からなかった。風音がルイーズを見ると、ルイーズは仕方ないなあという顔をして補足する。

「ま、魔力の流れが乱れると天災が起こりやすくなったり、魔物がたくさん出たり、ダンジョンが活性化したりと色々あるのよ。それを抑えるのが神様で、それを調べるのがこっちの神様の一部的存在なお子さまノーマンくんね」

「さすがですね。ルイーズさん、昔とまるでお変わりない見識の広さ」

「あらあら誉められちゃったわ。何かサービスしようかしら」

「では今からでも少し」

「するんじゃねえよ!」

レゾンがズボンのベルトをカチャカチャするノーマンをブン殴った。

「冗談ですよ。私の身体年齢は子供ですしね」

殴られた箇所をさすりながらノーマンがそう口にする。

「頑張っても勃たないのかしら?」

「頑張ってみましょうか?」

「頑張るな!!」

レゾンにアイアンクローを決められたノーマンの顔がメキメキとなっていた。ノーマンが「痛いです」と言っているが、レゾンは放さなかった。

「そういや、お前等。こっち来て早々に早速やらかしたとか聞いたんだけどよ。どうなんだよ? 昨日の飛竜の騒ぎ、お前等だろ?」

レゾンの言葉に「あらやだ」とルイーズが笑う。

「やーねえ。やらかしたのはシンディの方よ。あたしらは平和的にって考えてたんだけどねぇ」

風音、弓花、ジライドは「元々はあんたがやらかしたからだろう」という目で見ているがルイーズは気にしない。

「まったく、あのこったらホント迷惑よねえ」

だがレゾンは風音たちの視線と聞いた情報から大体の事情を把握している。

「はっ、迷惑なのはお前の性格だ、この馬鹿が。お前はいつもこの国で面倒ごとばかり起こすんだ。先々代王の愛人ってだけでも厄介な立場だというのに」

「ま、今は縁もゆかりもないって事になってるけどねえ」

(愛人……ああ、それでその子供から、シンディさんや今の大公様が生まれたってことか)

横で聞いていた風音が、ルイーズとシンディの関係に合点が行ったと頷いた。

そして少し話した後は、特に用事があるわけでもないので挨拶をしてそのまま去ることとなった。その際、ルイーズはレゾンに対して後でジンライとメフィルスを連れてまた会いに行くと告げ、レゾンはメフィルスの名を聞いて噴いた。ツヴァーラ前王は世間一般的には死んでいると認識されているし、レゾンも真相は知らなかったので突然のその名前に驚いたのであった。

そして帰り際に「ノーマン饅頭をおみやげにどうぞ」とノーマンから饅頭を渡された。どうにも掴めない神様であった。