軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五十七話 病院に行こう

◎首都ディアサウス クライルヌス病院

「師匠、大丈夫ですか? 痛くないですか? お世話しましょうか?」

横に置いてあった尿瓶を持ちながら尋ねる弓花にジンライは「大丈夫だ」と全身を包帯に包みながら答えていた。全身締め付けられたような状態だったらしい。10年分若返っていなかったら危なかったかもしれない。

「我慢しなくてもいいんですよ。ほら、師匠の頼みならやれますよ私!」

そう言って今にもズボン下ろしそうな勢いの弓花にジンライは焦りながらも「大丈夫だ」と再度繰り返していた。直樹が止めていなければ、ジンライの下半身は弟子に晒されていたかもしれなかった。

そんな病室内の一幕。

風音たちはノーマン神殿から出た後はジライドに案内されてジンライの運ばれた病院に来ていた。が、今病室にいるのは弓花と直樹だけである。風音とルイーズは病室に入った後、すぐに外に出てしまった。なおジライドは医者と話をしていたのでその場にはいなかった。

「ぬう。気持ちが悪い」

「あれは一般人でも気付くレベルよねえ。ユミカは必死すぎてどうでもいいみたいだけど」

病院の廊下に座り込んで落ち着けてる風音にルイーズが苦笑しながら、そう口にした。

「なんかジンライさん、丸一日か二日、シンディさんの口の中でくちゃくちゃされてたみたいに凄く臭った。アレは酷いよ」

今回のジンライの臭いは明らかにキツかった。普通じゃなかった。なので、さすがに気分が悪くなったのですぐに部屋を出て『犬の嗅覚』スキルも今はオフにしている。

「あー言い得て妙かもしれないわね、その例え。具体的にナニがあったか言ってあげましょうか?」

「若い女の子には耳に毒だと思うので遠慮します」

ルイーズの問いかけに風音はキッパリと断った。熟年カップルの稽古話など聞きたくないのである。そしてそこにジライドがやってきた。

「む、どうしたのだ?」

その問いかけにルイーズが肩をすくめて、

「あなたのお父さん、ちょっとハッスルし過ぎちゃったみたいで臭うから出てきたの」

ジライドもルイーズの言葉には「ああ」という顔になった。

「母上も騎竜たちも随分と落ち着いた様子だったのだが、父上が頑張ってらしたのか」

ジライドはすっかり父への信頼は取り戻したようであった。チョロい。

「それでジンライさんの様子はどうなの?」

「うむ。癒術で骨自体は殆ど繋ぎなおしたと聞いた。明後日に再度癒術院で術をかけるようで、このまま当初の予定通り一週間ぐらいで退院にはなるようだな」

「早いねえ」

全身骨折で一週間とか……とは思うが、瘉術は元より戦闘用に開発されたもので骨折、切り傷などに対して強力な効果を持つ術が多い。もっともさすがに一週間というのはこの国でも最高位の瘉術師に対応してもらっての話であって一般的なものではない。普通はもっと時間をかけて癒術と自然治癒を交ぜてじっくりやっていくものなのだ。

その後はようやく落ち着いた弓花をなだめつつ病院を出た。そしてお昼の食事をレストランですませた後、弓花はジンライの言葉に従い、ジライドに連れられてバーンズの槍術道場へと行くこととなった。

ジンライが相手のできぬ一週間の間に『両手を用いた槍術を会得せよ』との師匠からのお達しがあったのだ。ジライドはさすがに無茶だろうと口にしたが、弓花の成長度合いから言えば決して無理な話ではないとジンライは考えている。弓花も師匠の期待に応えようと張り切っていた。

そんなわけでレストラン前で弓花、ジライドと別れた風音たちはお次は冒険者ギルドの隣接の酒場に足を進めていた。ライル、エミリィとそこで待ち合わせをしていたのである。

◎首都ディアサウス 冒険者ギルド隣接酒場

時間は昼時、酒を飲んで騒ぐには早い。だが、普段であれば食事をとりながら軽い談笑に花を咲かせているはずの酒場が風音たちが中に入った途端にシュンッとボリュームのつまみを落としたように静まり、その場にいた全員がビクッとした表情をして、そのまま顔を伏せてしまった。

「???」

その様子に風音たちは首を傾げる。確かに怖がられるようなことをした記憶は多々あるが、さすがに初めての街でそんな反応をされたことはなかったし、風音たちが不審に思うのも無理はなかった。

なんだろうと思いながら風音たちが酒場に入っていくと、奥のテーブルに座っていたライルとエミリィが「こっち!」と声を潜めながら手招きをしていた。周囲の様子をえらく気にしながら。

「親父のドア磨きがどうも広まったらしい」

「あーーー」

風音たちは手招きされたテーブルの相席に座って、ライルとエミリィからこの状況の説明を受けていた。

「まあ父さん達が漏らしたわけじゃないみたいなんだけど。ただ二日続けて色んな施設からドアを借りて磨いてたらしくて、それで昨日のあの騒ぎでしょ。鬼殺し姫のドア磨きは有名だからすぐに結び付いちゃったらしくてね」

オレンジソーダを飲みながらエミリィが渋い顔をしている。

「あの騎竜が大暴れしていた件もあんたらを歓待するためにハイヴァーン総出で出迎えたって話になってるんだけどさ」

「……うわーお」

風音だけでなくルイーズも直樹も呆然としていた。あの竜たちにムチャクチャ睨まれてたんですけど……と風音は思った。主にジンライがだが。

「それと、これデマかもしれないんだが、あんたらクリスタルドラゴン倒したって本当か? あんたらだけで?」

なぜそこでその話がでるか疑問だったが、風音は頷いてアイテムボックスからレインボーハートをこっそり取り出した。

「ほれ、この通り」

「うわぁあ」

ライルが信じられないという顔で風音達を見る。ライルとエミリィは大闘技場の後の風音たちの行動は知らなかった。ドンゴルの街に行ってヨークと会ったことまでは聞いていたがクリスタルドラゴンを退治していたとは耳に入っていなかった。そして周囲には見られないようにスッと風音はアイテムボックスに戻した。さすがにこのアイテムは他とは希少性が違うので人目は避ける必要があった。

「今、ドンゴルの街に冒険者が100人ぐらいいるらしいんだけど」

「そりゃあ、多いねえ」

おそらく招集を多めにかけてしまったのだろう。何人が来てくれるか分からないし、情報伝達の発達してない世界では実際の数など現地に行ってみなければ把握もできない。特にクリスタルブレスは回復手段が限られるために敬遠されがちで呼び掛けてもキャンセルの可能性が高い魔物だったのだ。数を多く招集するのは止むを得ない。

「そんであんたらが、ランクA〜B100人で挑まないといけないような竜と1パーティで挑んで圧勝したって話になってるんだけど」

「それは大袈裟過ぎるよ」

クリスタルドラゴンは予定通りに勝利したからそう見えたかもしれないが、冒険者100人はただの結果論ではある。

「ま、そりゃあビビるわね」

ルイーズが周囲を見ながら、そう口にする。

「何げに知り合いに拒否られててショックなんですけど」

直樹がどうも知り合いらしい人物をチラッと見ているが、顔を落としたまま上げない。拒否というかそもそも直樹がいるのを認識できていない可能性があった。

「いつものことじゃん」

「姉貴ってホントに俺の評価低いよねえ」

普段は姉の冗談(と思うことにしている)を笑ってかわせる直樹もちょっとブルーになっていた。

「ま、ひとまずその問題はおいておこう。きっと時が解決してくれる」

そう風音は言うが残念だが悪評は広がるばかりだろうことは今までの結果が証明していた。もしくはさらなる悪評が上乗せされるのだろう。

「それで今日ここに集まったってことはなんかクエスト受けるのか?」

ライルの質問に風音は首を横に振る。

「今受けてる依頼でね。ここのギルドマスターの人に会わないといけないんだよね」

「ここのギルドマスターっていうとベンゼルさんに?」

ライルの問いに風音は「いや名前は知らないけどさ」と返した。

「今回は話を聞くだけだし人数は必要ないけどね。ただ2人には今後の予定も知ってもらいたいし一緒に話聞いてもらおうかなーと思ってさ」

その言葉にルイーズも同意する。

「ま、一応仲間って言っておかないと危ないかもしれないわね」

「それ、どういうことだよ?」

ライルが訝しげな視線でルイーズと風音を見る。

「んー、ここではちょっと話せない……よね?」

風音の問いにルイーズが頷く。

「言霊が残るかもしれないし、ベンゼルのところで話をするのが一番いいわね」

ゆっこ姉の 真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット) ほどではないにしても、その場で話した内容を後で収集する魔術なども存在しているし、ギルドマスターの部屋などにはそうしたものを防ぐ手段が用意されているはずだった。

「そんじゃ、とりあえずギルドマスターさんとこに行こっか」

そして一行は酒場を出て、受付嬢に話してそのままギルドマスターのいる二階へと案内されるのだった。なお「いきなりギルドマスターに面会とか、なんてやつらだ」とか声が聞こえてきたが気にしない。もうどうにでもなれである。