軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五十五話 お母様に会おう

ティアラの母であるケイラン・エルマーの所在はすぐに判明した。エルマー家はバーンズ家と同じハイヴァーンでも名家であり、そこの家長の長女であるケイランが現在いるか否かの情報も調べればすぐに確認がとれた。

そして風音たちが街に着いた翌日にはティアラは母親と会う約束を取り付けたのだった。

また当のケイラン・エルマー本人だが、彼女は現在迷っていた。浮気をキッカケに一度実家に戻ったことはまあ良しとしても、状況が動きすぎている。父王が病に倒れ、自分はいつの間にやら王妃となっていた。そして夫アウディーンから届いたあの手紙である。そんな状況のときに父マイセンから告げられた突然の報告にケイランは驚きの顔で問い返した。

「娘が来ているのですか?」

驚きの顔のケイランにマイセンも喜びの顔で頷いた。

「ジライド将軍経由でな。この時期に娘をよこしたのだ。恐らくツヴァーラ国王陛下もお前に戻ってきてほしいのだろう」

そう口にするマイセンは明らかにケイランがツヴァーラに戻ることを望んでいた。浮気一つで戻ってきてしまった娘が再びツヴァーラに戻れるかと不安だったマイセンとしてはこれは非常に嬉しい話だったのだ。そして何より今までほとんど会ったことのない孫ともこれからたっぷりと会えるのだ。頬もゆるもうものだった。

もっともケイランにしてみれば父の考えとは逆の話なのではないかと考えていた。アウディーンは自分に三行半を叩きつけに、娘をよこしたのではないかとそんなことを考えていた。

ともあれ、娘の来訪を拒絶するなどありえぬし、会わぬわけにもいかぬとケイランは立ち上がる。ティアラはマイセンにとっても孫娘ではあるが、身分の違いは大きい。ひとまずはマイセンには外れてもらうようケイランは父に申し出た。マイセンは孫娘と会いたいのか少しゴネたがツヴァーラ王族としての話があると言われれば拒否はできない。そしてケイランは娘と久方ぶりの再会を果たすこととなる。

「お久しぶりですねティアラ」

「ええ、お久しぶりですわお母さま」

マイセン家の来客室。そこにいるのはティアラ、ケイラン、そしてティアラの腕に抱かれたメフィルスである。

『久方ぶりよのケイラン』

「え?」

突然の声にケイランは目を丸くした。その声には聞き覚えがあった。

「こ、国王陛下?」

義理の父にしてツヴァーラ前国王。葬儀は早々に行われたため、ケイランは帰国の機会を逃してしまったが、女癖をのぞけば敬愛する人物ではあった。そのメフィルスの声がティアラの腕に抱かれたぬいぐるみから聞こえてきたのである。

ケイランはメフィルスのルビーグリフォン化のことを聞いていない。故に娘がその年でぬいぐるみを持ち歩くようなこになってしまったのだろうかと最初にあったときに懸念していたのだが、そのぬいぐるみと思っていたモノから聞き慣れた声が届いた。

『ふうむ。現在の国王はお前の夫であろう。余のことは遠慮なくお父様と呼んでくれて良いのだぞ?』

ぬいぐるみが両手を広げてそう言った。

「え、はい? 本当にこくお、いえお父様なのですか?」

ケイランはメフィルスは病で亡くなったと聞いていたが、ぬいぐるみになっていたとは聞いていない。驚くなという方が無理な話であった。

『ま、色々あっての。こうして姿を変えて生きながらえておる。今はティアラの修行に付き合っているところよ』

「修行?」

ケイランは首を傾げる。国としての機密の問題もあるため、このハイヴァーンにいるケイランにはディアボとの戦いなどについては一切が伏せられていた。彼女は彼女で一般的に伝えられている話以上のことは知らなかった。

「はい、お母様。わたくし、ルビーグリフォンと契約しておりますの」

驚くケイランにティアラはここにいたるまでの経緯、そして道中の旅のことを話し始めた。

「それは……大変だったわね」

自分の誘拐から始まり、このディアサウスに来るまでのティアラの話を聞き終えたケイランは、とりあえずそう答えるだけで精一杯だった。それほどにティアラの話した物語、そう本当に物語のような話はケイランには刺激が強く、とても現実とは思えない内容だったのだ。メフィルスの存在がなければ、とても信じられなかった。いや、聞いた今でも信じられたとは言い難い。

「あなたが悪魔やドラゴンと戦うようになってるなんて、こうして聞かされても信じられないわねえ」

呆然と呟くケイランに対し、ティアラは「えへっ」と舌を出して笑った。

「わたくしも自分で話していて、ちょっとそう思います」

『まあ、ここまでの話は紛れもない事実ではあるな』

メフィルスがそう答える。ケイランはそのメフィルスを見て「お父さまがそう言うのであればそうなんでしょうね」と口にする。まったくもって夢のような話である。そしてケイランはティアラがここに来た目的を確認しようと向き合った。

「そう、ではあなたはお父様から私に伝言を預かってきたわけではないということなのね」

「はい。わたくしも旅に出てからはほとんど連絡も取っておりませんし」

ティアラの言葉に安堵したケイランだったが、だがしばらく前に届いた手紙を思い出し顔を引き締めた。

「では、これは知らないかもしれないわね。あの人ね、どうも新しい女性に目を付けて夫人にしたいみたいなのよ」

その言葉にティアラとメフィルスがピクッと肩を震わせた。

「どうも愛人などではなく正式に……という話の手紙ももらっているのだけれど書いてあることがよくわからなくて」

「手紙ですか?」

ティアラの怪訝な顔を見てケイランが頷く。

「ええ。なんでも年若く、身長が低くて、胸はなく、女性というには幼い子に見えるかもしれないとか書いてあるのだけれど、これって子供ってことよね。わたくしがいなくなったことであの人がおかしな心の病を煩ってしまったとしたら、わたくしはどうしたらよいのかと思って」

『ま、病気といえば病気かもしれんが』

メフィルスがため息を 吐(つ) く。

『その手紙に書かれている女性の名はカザネでよいのかの?』

「ええ、そうですお父さま。ご存じなのですか?」

『それは先ほど話した余たち白き一団のリーダーのことよ』

その言葉には当然ケイランは面食らってしまう。だがそのケイランにティアラがグッと右手を握りしめてしっかりと声を挙げた。

「大丈夫です。カザネはわたくしが守りますので!」

「???」

ケイランはティアラの宣言に混乱する。

『余もあれには恩義がある。もし生きていたならば余が娶っても良かったのだが』

「お爺さま、それじゃあお父様と一緒じゃないですか」

『何がいかんというのか。あれの良さはお前が一番分かっておろうが』

「ですからわたくしがずーッとカザネと一緒なんです。お父様のものにもお爺さまのものにもなりません」

『言っておくがお前も言っておることはそう変わらんのだからな』

「むううう」

祖父の言葉に渋い顔をする娘の様子を見て、ケイランがクスッと笑う。

「お母様?」

「なるほど。そのカザネという人がお父様だけはなく、あなたやお爺さまのお気に入りでもあるわけね」

ケイランの言葉に、ティアラは迷いなく「はいっ」と答えた。

「そう、あなた女の子のお友達ができたのね」

ケイランはそう言って遠い目をする。ハイヴァーンで生まれ、政略結婚でアウディーンに嫁いだケイランには想像もつかない道を歩んでいるのだなと娘をまぶしく感じた。無論、夫の浮気癖以外はそこまで不満を感じた人生ではないが、だが羨ましいと思ってしまうのは仕方のないことだ。

「外に出てから色々とあったのでしょうね」

「はい。本当に色々と」

それはティアラにもハッキリと口にできる。

「だったら、好きな男の子なんて私にはかなわなかったことだけど。あなたはどうなのかしら?」

「好きな……男の子ですか?」

途端に直樹の顔が思い浮かんだ。そしてみるみるうちに顔が赤くなった。

「あらあら、いるみたいね」

どうも再会してから圧倒されっぱなしだった娘に一矢報えたと思ったケイランはコロコロと笑った。

『ふむ。まあまだお手手も繋いでない上にライバルも多いがな』

「お爺さまったら。違います。お仲間ですよ、ただのお仲間!」

そのメフィルスとティアラのやりとりに益々笑いが止まらないケイランだった。

「ま、ツヴァーラはお爺さまとあの人を見れば分かるとおり、そっち方面では寛容ではあるからね」

源流をたどればタツヨシ王の例がある。あれを引き合いに出せば市井のものと恋愛をすることすら許される国である。まあ、愛人の言い訳に使われることの方が多いのだが。

「もう、お母様までっ」

ティアラがむくれて言うのをケイランもメフィルスも笑ってみていた。

「ま、娘がそこまで頑張ってるっていうのに、わたくしがウダウダやってるのは格好が付かないわね」

ケイランはそう言って強く頷いた。その様子をティアラとメフィルスが「なんだろう?」という顔で見ている。

「よし、わたくしは国に戻ってあの人の尻をひっぱたくことに決めました」

「お母様?」

首を傾げる娘にケイランは優しい顔で答える。

「それに浮気は許せないけど。そのカザネさんがわたくしとともにいるのであればなんとも楽しくなりそうですしね。ティアラ、もしカザネさんにあの人と添い遂げる気があるならば仲良くありましょうねと伝えておいてね」

「それはないと思います」

即答する娘の様子にさらにケイランは笑顔をこぼした。