軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十二話 一捻りをしよう

◎リザレクトの街 宿屋サンバン 夜

「あ、ミナカさん」

「カザネ、こんばんは」

風音が部屋を出て一階の酒場に降りるとミナカが1人でテーブルに座っていた。正確には部屋を出たところ、ミナカの匂いが下からしたので風音は気になって降りてきたのだった。

「どったの?」

「いえ。明日のことを考えていたら、ちょっと眠れなくなっちゃって」

ミナカの言葉に風音は「まあ、そうだよねえ」と頷く。明日は午前にベスト8決定戦、午後には準々決勝に準決勝が続いている。負けなければ準々決勝には弓花と、準決勝ではゲンゾーと、そしてそれに勝っても翌日の決勝にはヴァニルがいる。

風音がテーブルの反対側を「良い?」と尋ねる。ミナカが頷くと風音は冷やし果汁を注文してミナカと向き合った。

「そういえば今回はさ。ジンライさんは強敵はみんなヌマの大闘技会の方で準備してるって言ってたけど、実際には強い人多いよねえ」

「ええ。名だたる選手がいらっしゃらなかったのは事実ですが、ですが恐るべき強敵は多くいらっしゃいます。特にユミカさん、同年代で実力に差がない相手なんて私初めてお会いしました」

その言葉に風音はニンマリとしながら

「弓花はジンライさんと毎日やりあってるからいつだってへこんでるけどね」

と、答えた。

「それは羨ましい限りです。私はここ3年旅をしていましたがずっとひとりでしたし」

そのミナカの顔は本当に羨ましそうな顔だった。それを見て風音は気になったことを尋ねる。

「パーティは組まなかったの?」

その言葉にミナカは寂しそうに首を横に振る。

「助太刀という形では入りますが、固定のパーティにはほとんどありません。精々が同じ街にいる間だけですね。冒険者の方というのは強くなるためではなく、日々の糧を得るために戦ってらっしゃるので、目的があわないことも多くて」

「ふーん。ジンライさんもちょっと前まではそんな感じだったらしいね」

自由に動くために冒険者ギルドのランクもBで止めているとも聞いていた。今の風音たちはランクAではないが、指名依頼によって行動が制限され続けている。そしてランクAとなると、そのような状況が続くことも多いらしい。

(そういえばランクB昇格受けろって言われてるんだっけ)

冒険者ギルドとしても、風音と弓花をこれ以上ランクCに留めておきたくはないようだった。一足跳びでAに受けてももらいたいようだったが、C以降の昇格の条件は厳しいのでそうもいかないらしい。

(まあ、今忙しいしなあ)

と、風音は(また今度ー)という感じでその件は頭の中から追いやった。

「ジンライ様ですか。あの方も恐ろしい使い手ですね。ほとんど歯が立たなかった」

「最近ますます強くなっているみたいでね。ルイーズさんも感心してた」

恐るべきジジイである。

「あのゲンゾーってお爺ちゃんもジンライと同じくらいデキるってジンライさん言ってたしなあ。弓花に勝っても大変だよね」

「ふふふ。ユミカに悪いですよ。それは」

「まったくよ」

背後から声が聞こえた。

「あら、ユミカ」

「やーやー親友。おひとりで寂しかったのかい?」

「ま、ティアラは早々に寝ちゃったしね。直樹もどっか行っちゃってるし」

直樹は今日の反省をふまえてひとり特訓中である。

「つか、匂いでわかんだから私が降りてたことも分かってたはずよねえ」

つまりさっき名前を出したのは故意である。弓花は風音のほっぺを摘まんでにゅーっと伸ばす。

「むー、さびしんぼを誘ってあげようと入りやすい話を持ってきたんだよー」

「そりゃどーもー」

パチンと風音のホッペを話すと弓花もテーブルについた。

「そりゃあね。あのゲンゾーって爺様は確かに強いけど。師匠ほどじゃあないわよ」

「ま、ジンライさんが負けるのってちょっと想像できないもんね」

「そゆこと」

そう言いながら弓花は風音に出された冷やし果汁をチューチューとストローで飲む。そして風音が「私のー」と取り上げた。

「ケチくさい」

「自分で頼め」

そのやりとりにミナカがクスッと笑う。

「仲よろしいんですね」

その言葉に風音と弓花が相手を見ながら

「腐れ縁だしね」

「だねえ」

と言った。そして弓花はミナカを見て

「まあ、明日戦うことになるかも知れないけどそのときはよろしく」

そう言って手を差しだし、

「こちらこそ」

と、ミナカもその手を握り、握手をした。その後、いくつかの雑談をして風音と弓花が部屋に戻っていくとミナカはまた1人になった。そして呟く。

「よろしく……か」

握った手を見る。あの感触は確かに『やっている手』ではあったが、だが何年もという年輪は感じさせないものだった。確かに技量の高さは認める。だが、あれはここ最近使うようになった手だった。

(急激に成長している……とすれば恐るべき才能ですが、だがまだ甘いようですね)

そうミナカは心の中で断じた。戦士たるもの、刃を向ける相手にあれほど爽やかに相対できるものではない。そうミナカは考えている。さきほどはミナカも抑えていたが、だが弓花はナチュラルにああして対応してきた。

(その心は未だ戦士とは言えない。であれば、私にも相応に勝機はあるか)

未だ見せていない奥義をゲンゾー戦まで温存しておくか否か。それがミナカの課題だった。

◎リザレクトの街 中央闘技場 昼

本選三日目。通常試合ベスト8、召喚試合ベスト4を決める午前の部の試合も終了。昼食の時間も過ぎて、風音も本日二戦目の準決勝の試合を危なげなく勝ち抜いていた。

「はーい」「タッチ」

パーンとティアラと手を叩き合う。風音と弓花のやり取りを見てティアラもやり方を覚えたようだった。

「おめでとな、姉貴」

「サンキュー」

直樹も昨日の敗戦のショックから立ち直り、まだ本調子ではないがとりあえずは笑えているようだった。

「まあ、どっちかっていうと朝の相手の方がキツかったかな。水属性だったし」

朝戦ったのはウォーターゴーレム。水属性のチャイルドストーン召喚体だった。今回戦ったのはタウロスナイトというケンタウロス型の鎧系通常召喚体だ。シルフィーナイトもそうだが純戦闘系の召喚体は自分で操るナイト系が最近の流行であるらしかった。

「ま、十年単位くらいで流行り廃りがあるからねえ。今はこれってだけなわけよ」

と言ったのはルイーズ。ここ三日間はミナカのケアに宿屋に訪れるだけで基本運営などに泊まり込みで悪魔対策に追われていたらしいが、ようやく今日は仲間に合流できた。だがその表情は険しかった。

「35人死んだわ」

そうルイーズが口にする。

「全部悪魔使いなの?」

風音の問いにルイーズが苛立った顔で頷いた。

「間違いないわね。一般選手に負けたヤツも殺されてるし、試合で負けた悪魔使いは悪魔の宿った武器を折られてるんだけどね。その使い手も後で衰弱死してる」

ルイーズの吐き出すような声に一同は口を挟めない。

「運営は運営で悪魔使い同士の抗争ってことで見て見ぬ振り通すつもりだし、来た悪魔狩りってのが本家の使えない連中ばかりで『悪魔使いなんて勝手につぶし合ってればいい』とか言ってくんの。アホかと。そんなの防げてから言えっての。自分の無能をひけらかすんじゃねえよ。あのバカどもが」

「あールイーズ姉さん、喋りがヤバいです」

ジンライの忠告にルイーズが「あら、ごめんなさい」と謝って冷やし果汁を飲み干した。

「うーん、ルイーズさんが大変だってのはなんとなく分かったよ」

「そうなの。大変なの。しかも連中、あたしが本家の娘だからって変に色目使ってくるし気持ち悪いし。あんな使えないやつらなんてお断りだっての。超かわいそうなの、あたし」

そう言いながらギューと風音を抱きしめる。風音はルイーズをいいこいいことさすりながら(こりゃ相当ストレス溜まってるなあ)と溜め息をついた。

「ま、あたしがここにいるのももうお役ゴメンだからなんだけどね。残りの悪魔使いは二人だし」

ルイーズの言葉に全員がまた静まった。その二人とはヴァニルとゲンゾーのこと。なお、風音が見たミナカを追っていた4人の男のうち、身元の知れなかった最期の男はゲンゾーと試合で戦い、剣を折られて衰弱死していたのが泊まっていたホテルで確認されている。

「剣を折ったときに相手の悪魔の力を吸収してるみたいでね。勝った方が負けた方の力と魂を奪ってるみたいなのよ」

ルイーズの説明に風音は以前聞いた悪魔の説明を思い出す。

「ええと、悪魔ってのは魂の集合体なんだよね。この間の説明通りなら勝った方が負けた方の魂を従えてるってことだよね」

風音の問いにルイーズは頷く。

「でしょうね。おそらくだけど今大会自体が悪魔たちが吸収し合うような、何かしらの儀式に使われたとしか思えないわ」

「それでルイーズさん、どうするわけなの?」

今大会で勝ち残り、その悪魔使い二人とも戦うかもしれない弓花の問いかけにルイーズは肩をすくめて皮肉そうな顔で告げた。

「なーんにもしないわよ。今のところ一般人の被害も出てないし、悪魔使いを殺したのが力を奪うためならその容疑者はあの二人か、そうでなければもう死んでるだろうし、証拠もないから犯人特定は不可能だしね。あとは決勝で勝った方を要監視対象にするだけってことで話は終わったわよ」

それは悪魔使い同士の中で終わるものならば、もはや放っておくということだった。

「そういう意味では弓花も安全と言えば安全かな。わざわざメインディッシュの前に問題を起こすことはしないだろうし」

風音の言葉に弓花は「だといいけどね」と答え、それにジンライは「油断はできん」と渋い顔で指摘した。

「まあまあ、師匠。今はまずはミナカとの戦いを第一に考えなきゃいけないですし」

弓花の言葉にジンライも頷く。

「その通りだ。あれは強いぞ」

「分かっています。ただ彼女は私を自分より下に見ていますので、そこが狙いどころかなーと」

そう弓花は言った。実のところ、弓花はミナカの心中は察していた。そして敢えてそれを見て見ぬ振りをしていた。勝つために。

訓練中も普段よりもギアを落とし神狼化もしなかったし、そうした弟子の心中を察してジンライも何も言わなかった。あと直樹が口滑らしそうだったので「パンツばらす」とだけ伝えた。直樹は震え上がった。

元々、弓花は自分が上であるなどと考えてはいない。毎日師匠のジンライに負け続けているし、親友は訳が分からんがなんだかすごい。直樹には勝てるが所詮直樹である。あれが本気で弓花に勝ちに来るとも思っていないので当然の結果と考えている。だからミナカの実力を知ってここまで予防策をとり続けてきたのだ。

そして、その慎重さこそがこれまでの戦いで最前線にいるにも拘わらず、弓花が常に余力を持っていられた理由でもあった。

それは付き合いの短いミナカには分からぬ弓花の性質である。