軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十一話 遠隔操作をしよう

◎リザレクトの街 南闘技場

「ちくっしょう」

直樹がうめき声を上げてその場に崩れ落ちる。すべての力を使い果たした直樹は既に剣を振るう力もなく、その倒れた姿でも尚立ち向かおうという意志だけが彼に剣を握らせ続けていた。

だが勝敗は残酷である。その姿を戦闘不能と判断した審判は手を挙げて宣言する。

「勝者ヴァニル!」

そして歓声が爆発した。それは圧倒的な力を見せた白銀の鎧の男ヴァニルに対してであり、最後まで戦い続けた直樹に対してのものだった。

そして倒れている直樹の前で白銀の鎧の男は「なかなかであったな、少年」と言って笑って去っていった。

◎リザレクトの街 南闘技場 観客席

「直樹、負けちゃったかぁ」

風音の前で「姉貴の見てる前で負けるわきゃねえだろ」と言っていた弟が倒れていた。

「あれは仕方なかろう」

ジンライも唸りながら答える。何故自分が参加していなかったのかと激しく後悔中の爺さんである。今回の対戦も今にも飛び出さんばかりに目を見開き観戦していた。まあ、ジンライでなくともそうなるぐらいの試合ではあったが。

本選二日目、直樹は白銀の鎧の男ヴァニルと対戦することとなった。実力はジンライに匹敵すると思われ、下馬評もヴァニルの勝利がほとんど確定しているように言われていた。だが、その評判に対して直樹も意地を見せたといって良い戦いっぷりではあった。

戦闘開始から5分、魔剣を次々と変えながら、様々な手を使いながらも攻撃し、最終的に打ち合うしかなくなって尚、猛然と斬り掛かり、ヴァニルの剣に耐え、攻め続けた。その絶え間ない斬撃の鋭さは会場を静まらせるほどであったが、だがそこまでである。そのすべてをヴァニルは抑え、掠らせもせずに直樹に打ち勝った。地力の差は歴然だった。

そして最後には直樹はヴァニルがトドメを下すまでもなく、力尽きて倒れたのだ。だが、最期の一滴まで絞り出すほどに戦った直樹をあざける声はなかった。僅かの時間にすべてを込めた若い戦士に観客たちは拍手を送り続けた。

「うん。まあ、無事で何よりだよ」

その様子を風音は心底安堵した風に笑う。直樹にとっては心底不本意ではあろうが、風音にしてみれば直樹の勝敗など二の次だった。家族が無事であることがもっとも重要で、だから負けたことを大して気にもしていなかったのである。

相手が白銀の鎧の男ヴァニルであることを聞いた時の風音の青い顔を知っているジンライは、その風音の安堵を仕方なしとは思うが「そのこと、ナオキには言うなよ」と釘は刺しておく。風音がブーと頬を膨らませたが、男には男の意地があるとジンライは言う。姉のそんな反応を見れば直樹は傷つくだろう……とジンライは風音に軽く説き伏せた。

「まあ、なんにせよ、あのヴァニルって人はこのまま決勝戦まで残るだろうね」

ジンライの言葉に渋々頷いた風音は、白銀の鎧の男の話題に話を変える。

「そうだな。後はユミカ、ゲンゾー、ミナカの3人の誰かであろうよ。やはり急だったようで例年よりも集まりは悪いようだしな」

ジンライが言うには、本来であればもっと有名な強豪が揃うハズなのだがとのこと。なお、名の知れた強者も何人かは参加しているのだが、昨日にミナカが1人破り、今日の午前にそれぞれヴァニルとゲンゾーが打ち倒してしまったらしい。そして本日の午後の部でゲンゾーが死神ゼンガーというヌマの闘技場でも名の知れた男と、明日の準決勝ではヴァニルが斧魔神ゴーゴルという猛者と戦うらしいが、恐らくゲンゾーとヴァニルが負けることはないだろうとジンライは語った。

「その分、ニューフェイスの粒は大きかったと見るべきだろうがな。お前たちが過剰に騒ぎたてられたのも、運営側が目玉がなくて困ってたせいもあるのだろうよ」

「世知辛いね」

風音が苦笑する。

「この界隈で大きな大会は二つあってな。実力者ならば三ヶ月後のヌマ共和国の大闘技会に絞って調整しているところだろう。もっともそれが迫っているから、なるべくかち合わないようにさっさと大闘技会を開いたんだろうが」

時間が経てば経つほどヌマの大闘技会と近付いてしまう。運営も苦肉の開催だったのだろう。すべては戦争が起こりかかったせいである。

「それはそうとカザネ、ワシの記憶が確かならお前の試合ももうすぐじゃあないのか?」

確か召喚試合の午前の部があったはずだとジンライは記憶している。

「もうすぐというか今やってるよ」

「なに?」

さすがに風音のその返答にはジンライも目を丸くした。

「情報連携の特訓も兼ねてね。今ユッコネエと繋げて会場に行かせてる」

そう口にする風音の視線はユッコネエの視線とも繋がっており、それはどこか遠くを見ているようにジンライには感じられた。

◎リザレクトの街 中央闘技場

「にゃっ」

注目株である鬼殺し姫ことカザネが出場する召喚試合には自然と観客の数も多くなる。だが風音の姿を見に来た彼らの前には風音はおらず、いるのはユッコネエ一匹だった。そして騒然とする会場の中心でユッコネエが二本足で立って審判にプラカードを見せていた。

「ええと、『弟の試合を見に行かないといけないので今回はユッコネエに全部お任せします』?」

審判のプラカードを読む声にユッコネエが「にゃあ」と答える。闘技場中央の声は魔術で増幅され観覧席にも伝わるようにしているのでこの声は会場内に響きわたっている。

そしてユッコネエは次のプラカードをめくる。

「『なお、ユッコネエにそのまま戦いも任せちゃうので気を付けてね』ですか」

「にゃっ」

「何が気を付けてだ、何が」

バカにされてると感じたのだろう。対戦相手の召喚師が叫んだ。それを見たユッコネエがプラカードの一枚を取り出した。

「にゃ、にゃ」

「あーはいはい。これを読めばいいのね」

ユッコネエが出したプラカードを審判が読み上げる。

「ええと、『貴様等、全員皆殺しだ』?」

会場が一瞬静まる。

なお南闘技場の観客席で風音が「あーー」と叫び、その場にいたジンライとティアラとメフィルスがビクッとしていた。

「にゃ、にゃにゃにゃ」

ユッコネエが慌てて別のプラカードを出した。どうやら相手の台詞に合わせて答えられるように複数用意していたらしい。しかしさっきのはいったいどういう状況で使うつもりだったのだろうか。謎である。

「了解。こっちね。うん『基本ユッコネエに任せると加減できないからちょっとヤベエ』……と。ああ、やばいんだね」

「にゃっ」

審判の言葉にユッコネエが、片手を上げて答える。

「やばいそうです。それじゃあ始めてもよろしいですか」

「いいからさっさとしやがれ」

対戦相手がそう叫ぶが、どうにも腰が引けていた。

何しろ、この対戦相手グラリオの召喚は通常召喚で、自分と感覚を共有させるシルフィーナイトという騎士型だ。速度優先でユッコネエとは相性が悪くないとはいえ、昨日の戦闘のように切り刻まれ焼かれてしまっては当面は感覚共有特有の幻痛で苦しみそうだった。

とはいえ彼もここへは戦いに来た戦士である。深呼吸一つで、気を鎮め、そしてグラリオはシルフィーナイトを呼び出す。

それを見た審判が手を挙げ「始めっ」と叫んだ。

「先手行かせてもらうッ!」

そう言ってグラリオはシルフィーナイトを走らせる。シルフィーナイトが俊敏でもグラリオ自身は普通の人間であり、その動体反応も普通の人間のそれである。ユッコネエがスピードでかき回してきては苦戦は必至。だから先手をとって決めるとレイピアを突き出す。

「にゃ!」

その速度にはユッコネエも目を細めて迫る敵を睨み付ける。だが動かない。ユッコネエはじっとシルフィーナイトが迫るのを見続け、

そして、そのまま貫かれた。

「やったっ!」

グラリオがそう叫んだのも無理はない。レイピアは見事にユッコネエに命中……したかのように見えていたのだから。だが現実は違う。貫かれたはずのユッコネエの姿がグニャンと曲がり、そのまま消える。

「消えた?」

グラリオがそう叫んだ。それは火属性の魔物が使う、熱の歪みを利用した『蜃気楼』と呼ばれるスキルである。自分で動いて戦うユッコネエは使う機会が少ないのだが、こういう場面では役に立つスキルだ。

「それじゃあ、やつはどこに……ハッ!?」

本物のユッコネエはいえばシルフィーナイトの真横に立っていた。そのまま真っ赤な爪を持ち上げて、

「にゃにゃっ」

ズシャッとシルフィーナイトを縦に切り裂いた。

「ぐあああああッ」

そしてグラリオは召喚体からの痛みのフィードバックでその場で呻き、倒れた。

「勝者ユッコネ……いや、カザネッ!!」

その審判の言葉にユッコネエは立ち上がり、前足を振った。そして会場が大歓声に包まれた。

◎リザレクトの街 南闘技場 観客席

「ふーーー」

風音が息をついてその場に座り込んだ。

「大丈夫ですの?」

ティアラが心配してそう尋ねるが風音は「うーん。二本足で立つのはキツいって」とだけ呟く。二足歩行アピールはユッコネエには不評のようである。

「まあ猫だからな」

ジンライはそう口にした。まあ猫である。立つ猫というのは時々いるが、ユッコネエは大きいし、普通の猫よりも立つのも大変なのだそうだ。それにユッコネエは誇り高き猫戦士であり可愛さアピールは不本意でもあった。

「それで勝ったのか?」

「まあね」

ジンライの質問には満足げに風音がピースする。

「見てみたかったですわね」

「午後の部がまだありますよ。ベスト8を決める勝負がね」

残念そうなティアラにジンライはそう答える。その言葉にティアラもそうですわねと言って気を取り直した。

「そういえば、情報連携の特訓と言っていたな」

ジンライはさきほどの風音の言葉を思い出す。

「これだけ離れていても届くものなのか?」

「この街の中ぐらいなら平気だねえ。ずーと集中してなきゃいけないからしんどいし長時間は厳しいけどね。まあ繋がる数が少なければ結構保つよ」

ジンライの問いに風音はそう答えた。

「なるほどな」

ちなみに風音はタツヨシくんシリーズを街外周一周とか走らせたりして色々と特訓しているらしい。現在は諜報用の小型タツヨシくんも作ろうかと考え中である。