軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十話 殺人現場に行こう

「やべえな」

闘技場の中央で直樹は一言そう呟いた。

何がヤバいと言えば目の前の対戦相手である。

(強い……だけじゃない。あの剣、魔剣というか憑依剣か)

憑依剣とは魔物や召喚体、悪魔などのなにかしらが取り憑き持ち主に力を与える剣のことである。召喚器として使える場合もある。

(となればあれが噂の悪魔使いかな。身体能力の強化は当然してるとして、なんか能力もあるかも)

そう考えながら直樹は歪曲剣デュランという剣をアイテムボックスから取り出した。

これは剣の周囲の光を歪ませ、実際の剣の間合いを誤認させる剣……と見せて、実際の剣の長さも変わるようにできている奇剣と呼ばれるゲテモノ魔剣の類だ。風音の粘着剣もそのカテゴリに入る。

中央に行くと審判より刃傷防衛の術を受ける。これがかかることである程度の斬撃でも切り裂かれないし、また当たった場合の判定にも使われる。打撃武器にも効果はあるが斬撃ほどの効果は期待できない。なお、その術がジンライが闘技会を嫌う理由でもあった。ジンライは安全圏での戦闘など邪道と断じている。もっとも達人クラスならば術も破るほどの剣撃を放てるし、絶対的に安全というわけでもないのだが。

その術式の処理が終わり、開始前の剣と剣とを重ね合わす際に直樹は歪曲剣の歪みを最大にして相手の警戒心を煽っておいた。対戦相手が嫌そうな顔をしたが構うことはない。勝負なのだ、これは。

「始めっ」

そして両者が配置につき、審判の合図で戦闘開始となる。

(先手必勝ッ!)

まずは様子見……などとは言っていられない。ただでさえ身体能力に差がありそうな相手だ。速攻で叩くと直樹は考え、歪曲剣を叩き込む。それを相手の男は「ちっ」と舌打ちしながら、打ち合う。

(やはり力が強い)

直樹はレベル上げは筋力と俊敏力をメインに上げているが、だが相手はそれ以上だ。故に悪魔の底上げが関わっていると直樹は判断する。

「やり辛いッ」

相手がどうにも苛立ちながら剣を振るう。

直樹はその歪曲剣でそれを受け止め、そのまま受け流す形で逸れて、そして背後に回って横に薙いだ。

その刃が相手の腕に届くと同時に男の身体が歪んだ。

「なにっ?」

一瞬にして男の身体が消え、そして背後から気配が迫る。

「食らえよっ」

(ちぃっ)

幻術か光術か、だが今は現実への対処だ。直樹が振り向き様に斬りつけ、そして刃傷防衛の術が反応し勝敗が決まった。

「バカなっ」

そう叫んだのは対戦相手の悪魔使いだ。

「悪いな」

直樹はそう言って『二本』の剣をアイテムボックスに仕舞った。

歪曲剣デュランと『最初から』握っていた透過剣ミリアナ。ただ消えるだけの剣だが、操者の魔剣で剣を飛ばす際にも8本の剣のなかで見えぬ剣が一本だけ紛れているのは脅威であろう。

直樹は最初から透過剣ミリアナを持って入場し、相手の注意を逸らすためにわざと変わった特性をもつ歪曲剣を持ち出したのだ。途中で姿が消えたときには直樹は焦りはしたが、だがミリアナの存在に気付いていなかった悪魔使いはカウンターで透過剣を喰らって敗北したのである。

**********

「なんと卑怯な……」

「まあ、戦いとは騙された方が悪いからな」

風音の容赦のない言葉にジンライは苦笑いしてフォローする。あんなものを特訓中は見せもしなかったなと、ジンライは直樹のしたたかさに感心している。実戦で挑めば危ういのはこちらかもしれぬと。

「ま、勝ったんならいいやね。それじゃあ、私はちょっとルイーズさんとこ行ってくる」

そう風音が言って観客席から立ち上がる。

「直樹が勝ったのに?」

弓花が首を傾げて風音に尋ねる。

「負けた悪魔使い、殺されるんでしょ?」

その言葉に弓花もティアラも「あっ」と声を上げた。今の男は悪魔使いと認定されていなかったのだ。運営側でも、その後襲われることが想定されていない。

「待て風音。ルイーズ姉さんは今は中央だ。この闘技場の運営のところにいけ。他の悪魔狩りも一緒に待機してるはずだ」

「うん、分かった」

風音はそのまま、闘技場内へと駆けていった。

**********

風音が闘技場内を走っていると途中、あの老人剣士ゲンゾーとすれ違った。

「あっ」

風音が声を上げてゲンゾーを見る。だがゲンゾーは風音を見て、少し驚いた顔をしてから「なにか?」と尋ねた。

「何かじゃないでしょ。あんた、もしかしてさっきの男を狙って?」

そう言われてゲンゾーも状況を察したようだった。

「なるほど。そういうことか。ならば遅かったな」

ゲンゾーの言葉に風音が警戒感を顕わにするが、ゲンゾーはそれに反応せず一言こう口にした。

「ヤツは、ジョーン・ハルパーはすでに殺されていたよ。何者かにな」

◎リザレクトの街 南闘技場 東側通路

「あーあ、やられちゃったわね」

ルイーズがため息をついてその亡骸を見る。

南闘技場の東門より通じる通路に斬殺された1人の男の亡骸があった。

「わたしが見たときにはすでにな」

そのルイーズの横にいるゲンゾーはそう答える。

時間は風音とゲンゾーがすれ違った時より少し経過していた。

風音はゲンゾーと共に運営に悪魔使いのジョーンが死んでいることを連絡し、現場に同行した。そしてルイーズもその後に合流したのである。

「既に死んでいた……ね」

ルイーズが風音を見ると、風音は渋々といった風に頷く。

『犬の嗅覚』で探ってみてもゲンゾーの剣からはジョーンを斬り殺した血の臭いはしない。最初に擦れ違ったときにわずかにジョーンの血の臭いをゲンゾーから感じたが、その前に殺人現場にいたことを考えれば、そのときの臭いがついたと考えてもおかしくない程度のものだった。

「君達には目の敵をされているようだがね。我々は悪魔使いだ。ここ最近どうも敗者の悪魔使いが殺されていると聞いたので、様子を見に来たらこの様だったのだよ」

「そう。あんたがやった、わけではないのね」

ルイーズの言葉にゲンゾーは「心外だな」と笑って答えた。

「むしろ君達の関与を疑ったくらいだよ。ソルダードの悪魔狩りはそれはもう酷い有り様だったらしいからな」

その言葉にルイーズは苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向いた。風音はその言葉の意味が気になったがルイーズの辛そうな顔に、何の話なのかを聞くのが躊躇われた。

「私としてもこれ以上、仲間を失うのは辛いのでな。次はこんなことにはならないよう願うばかりだ」

周囲の視線が強くなったがゲンゾーにとってはどこ吹く風である。

「それでは私は行っても良いかね?」

その感情のこもらない声にルイーズが苛立ちながら「どうぞ」と答えた。

「ああ、そうだ」

そして通り過ぎようとしたゲンゾーを風音が呼び止める。

「何かね?」

「お爺ちゃんってさ。ジャパネスの人?」

風音の言葉に老人の表情が固まる。

「え、なに?」

その反応に風音の方が逆にキョドった。

「ああ、いや、すまん。もう2年も孫にはあってなくてな。お爺ちゃんて呼ばれるのが懐かしくてな、つい」

老人は「すまん」と言って目頭を押さえる。

(うーん。普通のお爺ちゃんみたいだなぁ)

風音はさきほどまでの印象がまるで嘘のようなその老人の姿に、思わず拍子抜けする。

「それでジャパネスの人間かだったな。『その通り』だよ。私はニンジャなんだ」

「あ、そうなんだ」

風音はその服装が確かに軽装で動きやすい恰好なのを見て納得する。

「この闘技会が終わったら故郷に戻ってな。早く孫に顔を見せたいのさ。だからこんなところで殺されるわけにもいかんのでな」

「うーん、そりゃあそうだね。お孫さんと早く会えるといいねえ」

その風音の言葉にゲンゾーは強く頷いて「そう思うよ」と答えて去っていった。

そして風音もルイーズに挨拶をしてから仲間たちの下へと戻っていった。その途中、胸のところに大きな穴がポッカリ空いたような気がして不思議に感じていたのだが、その理由に風音が気付くことは、ついにはなかった。