軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十三話 激闘をしよう

さて、一般部門の準々決勝である。

召喚試合の決勝はすでに風音とカルティの対決と決まっていた。

今回の風音の快進撃は、一般試合以上に実力者が揃わなかったことに起因しているのだが風音はユッコネエとともに場を盛り上げるために色々と隠し芸めいたことをしていたし、本日はタツヨシくんシリーズ総出の応援団を用意したりと周囲を大いに沸かすパフォーマンスも見せていた。もっとも対戦者が「あれもいっしょに戦うのか?」と顔を青くして見ていたのだが。

ともあれ、今は一般部門の準々決勝である。弓花は緊張した面持ちで会場へと足を運んでいたのだが、

「何してるのあいつ……」

会場を見ると風音がタツヨシくんシリーズとユッコネエに弓花の応援をさせていた。風音自身もどこで手に入れたのか応援団員っぽい服装でフレーフレーとやっていた。ノリノリである。

(まあ、ユッコネエは可愛いからいいか)

風音とタツヨシくんシリーズは無視である。衣装を用意するのにかなり頑張っていたのだが。

そして、反対側。西門からはミナカが歩いてくる。愛用の刀だけではなく、西洋剣も持っていた。

(あれが風音の言っていた雷を自分に当てる魔剣か)

何に使うかは分からないが、どうやら奥の手を見せる気はあるようだった。

(とはいえ、神狼化は一日一回だしなあ)

相手がやる気だからと言ってこちらも乗るべきかといえばそういうわけにもいかない。ここは神狼化は使わない。この後のゲンゾー、そして明日のヴァニル、使う相手はその二人に対してだ。優勝する気であるならば、その条件は必須。ここは自らの力だけで勝たなければならないと決めていた。

弓花がそう考えながらも中央まで進み、ミナカと向かい合う。

向かい合うミナカの瞳は昨日のような、牙を隠した笑みではない。全力でかみ殺そうとする肉食獣の双眸だった。

(おっかないなぁ)

だが弓花はそれを軽く流す。その視線には慣れている。冒険者として魔物と向かい合うならば、常に魔物はこちらを殺す気でやってくる。殺気の籠もった視線で怯える頃合いはとっくの昔に通り過ぎていた。

そして弓花とミナカは手に持つ槍と刀の先を重ね合わせ、双方位置についた。その両方が構えたのを審判は確認し、

「はじめっ」と手を挙げた。

その言葉に、最初に反応したのは弓花だ。

「ッ?」

ミナカの間合いから一気にバックステップで下がったのである。

それを居合いの構えで待ちかまえていたミナカは追いかけられない。

(抜刀術でしょ。それは見せてなかったよね。けど、私は知ってるよ)

元より剣速の鋭さは折り紙付きのミナカだ。その抜刀の間合いにノコノコ入るつもりはない。だから下がった。そしてミナカは知らないが、ジンライの槍術には中距離用の技も用意されている。

「雷神槍ッ!」

弓花が構え、『竜骨槍』を一気に投擲した。

「いきなりっ、武器を?」

ミナカはその愚行に驚愕した。が、ここでやられればお終い。構えを解くには遅すぎる。ならば迎撃するのみ。瞬時の判断が、ミナカの腕を動かし、居合い切りが竜骨槍と激突する。

(なんて威力ッ)

正面からの投擲にピンポイントで刀を合わせられるミナカの腕も神懸かっているが、弓花の雷神槍も元々竜種などを迎撃するために作られた技。その威力は絶大だ。

(だが雷属性ならば)

その点においてミナカは幸運だった。これが風や炎を纏ったものだったならばこれで終わりだったかもしれない。いや、それでも切り抜けるつもりではあるが、もっと厳しい展開になっていたに違いない。

用意していた雷の魔剣は不要になったが、まあ良しとしよう。

ミナカが心の中を空にするように静め、与えられた雷を受け入れるイメージを広げる。そしてミナカは弓花の雷神槍の雷を吸収し身に纏った。

「いただきましたっ!」

ミナカは雷の力を失った竜骨槍を弾き、弓花に向き合う。が、目の前には白銀の刃。

「おかわりはないよ」

師匠から頂戴した竜骨槍を早々に投げた弓花は、アイテムボックスから素早く愛槍のシルキーを取り出し、ミナカに対し突きを放ってきたのである。

「小賢しいッ」

それをミナカは刀で弾く。それは先ほどよりも明らかに速かった。

(速度上昇技?)

身に纏う雷の効果だろうか。ミナカの動きがさらに機敏だ。

「我が身は雷。我は雷光の如くあり。故に我は汝を滅ぼすだろう」

静かにそう口にするミナカの瞳は先ほどのものとは違う、達観した、俯瞰的にものを見ている瞳だった。

それはジャパネスにおいて風神化と対をなす雷神化と呼ばれる状態。全身に雷を纏わせ、最高速度を上げ、自身の精神にも影響を及ぼし反射速度も上昇させるライドウ家の奥義。同時にその意識をトランス状態にしてしまうそれは一種の神降ろしに近い。

(なるほどね)

だが弓花は焦らない。それはすでに予想できていたこと。相手がそれを『使う気』でいたならば強制的に引き出してしまおうと考えての雷神槍だ。キッカケが雷ならばと当ててみて、そして弓花の予定通りに奥の手を出してきた。

それは相手のペースで使われるぐらいならば、こちらから使わせてしまおうと考えてのものだった。

(速度は上昇、意識がおかしい? 雷の付与攻撃はないか)

弓花は槍の間合いで牽制しつつ、ミナカの様子を確認する。速度が上昇し反射速度が上がっている感じで、ステータス強化系のようだった。

だが弓花はその対処法を、自分のステータスを大きく超えた相手を日々倒し続けている師匠から学んでいる。

「いきますっ」

槍を受け続けていたミナカが、唐突に前へと踏み出す。慣らしは終わり、本格的に仕掛けるつもりらしい。

(けど、少し遅い)

弓花がジンライより学んだ槍術は片手で扱える技が前提だ。そして今弓花は右手だけで槍を扱っていた。であれば左手は?

弓花はスキルウィンドウを開いていた。そしてそこにあるスキルを左手で操作し発動させる。

途端に、弓花から周囲の景色、風景、声援などの音、それらすべてが消え、すべてはシンプルに繋がっていく。ジンライから学んだ槍術では『心』、一般にはフローなどと呼ばれ、そしてスキルとしては『ゾーン』と書かれた集中し入り込んだ状態。スキル登録されたそれを弓花は発動させた。

ジンライとて入るのが難しいそのスキルを弓花はウィンドウの機能によって発動させることができる。これが神狼化ではない弓花自身の奥の手。自身を最高値へと高める奥義。そして弓花の銀の槍がミナカを襲い、ミナカの雷の如き速さの刀が弓花に応酬する。

そこより先は絶え間ない刃のぶつかり合い。斬撃の嵐がその場を支配する。

その戦いに観客席からは驚愕の声があがり、ジンライですらも息を飲むほどに二人の少女のせめぎ合いは苛烈なものだった。

だが戦いはいずれ終わる。その終わりの合図はミナカの方からだった。唐突にプツン……と何かが切れたのである。

(マズい。雷神化の効果がッ)

それは雷神槍によって与えられた雷の力が終了した瞬間の感覚だった。そしてその状況がゾーンに入っている弓花には手に取るように把握できていた。弓花のゾーンは感覚こそ研ぎ澄まされるが、身体能力が向上するものではない。故に互角に見えて実速度において勝っていたミナカの攻撃に受け身にならざるを得なかったが、今それが逆転したのだ。

雷神化の解けたミナカは通常の状態への意識的な移行ができていない。雷神化と同じつもりで動くからズレが生じる。それを突くことは今の弓花には容易く、瞬間的に一歩踏み込んだ。

「勝者ユミカッ」

そして審判が手を挙げ、そう宣言した。

「負けた…… 私が?」

ミナカが自分が地面に倒れているのを見て、誰に対してでもなくそう問う。

弓花がいつものパターンである『転』でミナカを倒し、そのまま槍を突き付けたのである。

そしてミナカは地面にたたきつけられた身体のダメージでその場から動けない。

そのミナカに弓花が手を差し出した。ミナカはそれを眺めて「負けたわね」と言いながら手を握った。

「訓練中とはまったく練度が違っていたし、侮るべきではないと思い直して雷神化まで準備してたけど」

ミナカは立ち上がり、弓花を見る。

「完全に上を行かれたわ」

「単なる実力の差……だとは言わないよ。これでも頭使って追い込む準備してたんだから」

そう話す弓花にミナカは笑って「みたいね」と返す。それは戦士と言うよりはやはり冒険者の思考だな……と思いながら。

そして場内からは多くの拍手が鳴り響いた。

◎リザレクトの街 中央闘技場 観客席

「芽吹く友情、そして愛情。百合の花が吹き乱れる」

風音がそっと呟いた。特に意味はなく、ただ思ったことを口にしたのみ。流言飛語の類いである。

「何を言ってるんですの?」

横で不思議な顔をしたティアラが尋ねる。

「なんでもないよ。天の声が聞こえただけだから」

本当になんでもないのだ。この少女は頭に浮かんだフレーズをそのまま口にする癖がある。妙な鼻歌とかもそこから来ている。

「ふむ。危なげない勝利だったな」

ジンライがそう口にする。ジンライの予想であればもう少し接戦となると考えていた。両者の実力差はほとんどない。それを崩したのは弓花の放った雷神槍だろう。ミナカは雷神化になれることを焦らず、もっと慎重にいくべきだったのだとジンライは思う。

(しかし、やりおる)

なんにせよジンライは弟子の成長を頼もしく思っていた。このまま行けばそう遠くないうちに自分のところにまで迫るだろうと。

「そんじゃあ、私ちょっと行ってくるね」

弓花が退場したのを見て、風音はティアラたちにそう言った。

「ユミカに会いにいくんですの?」

「ううん。そうじゃなくてちょっと人と会う約束してるんだ」

「人?」

「ああ、人ではないかも。神様だって言ってたから」

そう言って風音はその場を後にした。