作品タイトル不明
俺はがんばった!
「では、賛成の方は挙手を」
その言葉に、ずらっといくつも挙がった手。
ジトッとした視線を向ければ、気まずそうに僅かに逸らされる顔がいくつか。
「裏切者!」感はあるが、我が弟をはじめまだ可愛げのある若者は百歩譲って許すとして……。
「決まりだな」
ふてぶてしくそんな一言と共に会議の終了を告げる可愛げ皆無などこぞの王と、にっこり笑ってひらりと手を振ってくる王妃には言いたいことが山ほどある。
……ということで、会議が終わってすぐふてぶてしい王様ことティハルトを別部屋に引っぱりこんだ。
ようは、「ちょっとカオ貸せやコラ!」である。
「な・ん・で、私が国際事業の責任者に収まってるのかなぁ?」
「決まったことだ。諦めろ」
「諦められるか?!」
わざわざ圧をかけて発言してるにも関わらず、しれっと流すティハルトが腹立たしい。
同盟国との連盟で行う国際事業は化粧品事業に無事決まった。
つい先日立ち上げたばかりの『ブラック・スワン』が発売一カ月前にも関わらず前評判で予約殺到、社交界の評判をかっさらっていることもあり、これはわりとすんなり通った。
……が、俺が責任者とか聞いてない。
しかもただの責任者じゃなくて最高責任者とかいうヤツですよ。
「提案はしたけど私は 公(おおやけ) に関わるつもりはないって言ったよね?」
「言ったな。了承した覚えはないが」
コノヤロウ。
しかもさぁ……。
「もしかして……ガーネストたちも知ってた?」
うっ……と肩を揺らして気まずそうに縮こまるガーネスト。
「……すみません。ですがやはり兄上が一番適任だと思いまして……」
やっぱりかぁ、とガックリと項垂れる。
そんな姿にますます謝る弟に対してはティハルトのように突っかかる気は起こらないが……ショックはショックだ。
「ちなみにベアトリクスたちも……?」
「…………はい」
だよね。
なんとなくそんな気はした。
我が家の面々は俺が田舎に引っ込むのは反対派。
「まぁまぁ、いいじゃない。こっちだってカイザー様に任せっきりにする気はないし、『ブラック・スワン』のことだって優秀な部下たちがいるから、かかりきりにならなくて平気なんでしょう?」
「メンバーだって厳選してやっただろう。甘い汁を吸おうと群がってくる奴らを蹴散らすのは大変だったんだぞ?」
「知らないよ。自業自得だろう」
恩着せがましいティハルトの言葉はあっさり切り捨てる。
だが実際に大変だっただろうことは簡単に想像がついた。
国際事業に携わるプロジェクトメンバーには他にガーネストやサフィア、王妃であるアイリーンなど旧知の顔ぶれが多い。もちろん他にも大勢いるが、全体的に若く、ルクセンブルクと関係性の悪くない貴族がほとんどだった。
ジャウハラの関係者としてアレクサンドラやアイーシャもメンバーの一員だ。
気兼ねしない人選は俺を携わらせるうえでの配慮なんだろうが、そもそもプロジェクトメンバーに入れてくれとか頼んでないし。むしろ断ったのに!
「ほら顔合わせが始まるぞ?とっとと移動しろ。俺も他の仕事がある」
しっしっと追い払うような動作にイラッとしつつ、実際に顔合わせの時間が迫っていたので慌ててガーネストたちと移動する。
この報復はいつか絶対にしてやるからな……!
いよいよ発売数日前に迫った『ブラック・スワン』の化粧品は社交界のご婦人方の話題を独り占め。
特にいままでにないオールインワンは話題性も抜群だ。
「カイザー様お話しを……」
「踊っていただけませんか?カイザー様」
「今度ぜひ我が家のお茶会に……」
「あら、それなら当家にお出でくださいなカイザー様」
「カイザー様……」
「カイザー様」
ひっきりなしにかかる声とお誘い。
瞳を爛々と光らせた淑女の皮を被った狩人たちに囲まれた哀れな獲物の心境だ。
さながら黒鳥ならぬ黒ウサギですね。
熱気が強すぎて心の声がガンガン響いてダブルで頭が痛いです。
もはや精神攻撃かなにかでしょうか?
正直、夜会に出たことをかなり後悔している。
……とはいえ、この絶好の宣伝の機会を逃す手もねぇんだよな。
「髪を降ろしたお姿も本当にお美しいですわ。なんて艶やかで美しい髪……」
「それに甘くていい香り。これはもしかして噂の……?」
扇子の影からじっとりと熱を帯びた視線を向けてくるご婦人たちに内心怯みつつ、首を動かせばさらりと揺れた髪が花の蜜の香りを漂わす。
「はい。花の蜜を使用したトリートメントとなります。使用感に合わせて3種類ご用意があり…………」
そのままプレゼン開始すれば、他の商品に関してもひっきりなしに質問が飛ぶ。
「今日も黒のお召し物がよくお似合いですわ。 蠱惑的(こわくてき) な黄金の瞳と相まってまるで夜の王そのもの……」
はい、アンジェス絡みの探りはサクッとスルー致しますよー。っていうか、探られてもなんもねぇから。
隙のない笑顔で 躱(かわ) し続ければ、なんとか去っていってくれた。
つっかれたー。
あの伯爵夫人、噂話大好きで超絶面倒くせぇんだよなー。
下手にあしらうとそれはそれで噂を拡散されるし。
「先程ベアトリクス様ともお話しさせていただいたのですが、いつにもましてお美しくてらっしゃいましたわ。お肌も透明感があって滑らかで、まるで美の女神のようでしたわ」
おっ、このご令嬢わかってんな。
マイエンジェルを褒められて機嫌は急上昇です。
まぁ、俺の妹が可愛くて美しいのはこの世界の 摂理(せつり) だけどな!
「お美しいエリザベート様にそのようにおっしゃって頂けて妹も光栄でしょう。妹もここ数カ月は『ブラック・スワン』の化粧品を愛用しているのですよ。看板商品は既に予約を終了しているのですが……他シリーズのオールインワンの販売も検討しておりますし、商品をお試し頂けるサンプルの提供なども行う予定なのでご興味がおありでしたら 是非(ぜひ) 」
当社比150%マシの笑顔にか、提案にか知らんが……頬を上気させて食いつくご令嬢。
そして周りのご令嬢やご婦人も入れ食い状態で大量です。
いやぁ~、予想以上に予約殺到したんだよね。
皇太后様やアイリーンにゴリ押しされて、当初の予定より販売数増やしたのにまさかの予約開始即日にはけるっていうね。
販売前から商品を横流ししてた王城メンバーや、ベアトリクスたちがお茶会とかで宣伝してくれてた効果も大きい。いまも視界の端でご婦人方に囲まれてる姿が見えるし、大いに広告塔としての役割を果たしてくれているのだろう。
そしてそれは俺も同じ。
「素敵なブローチとカフスですね。見たことがないほど漆黒の色味が強くて綺麗……」
宝石マニアで有名なご婦人のうっとりとしたため息に、にっこりと微笑んで手袋をした手を胸元のブローチへと添えた。
艶めく漆黒に虹色を帯びた透明の輝きが寄り添うそれは、シャンデリアの光を受け煌めく。
「こちらは宝石ではなく魔物素材ですよ」
「魔物素材?」
ご婦人方には耳慣れないだろう“魔物”の単語に驚きの声が漏れた。
「中央が黒竜の鱗で、周囲を囲むのがクリスタルドラゴンの鱗です」
「ド、ドラゴン?!」
「ほ……本当に?」
驚く彼女たちにええと穏やかに微笑む。
中には完全に冗談だと思って「やだっ!」とか「まぁ」とか笑ってる方もいるけど純然たる事実です。
ジストの鱗はブラックダイヤモンドやオニキスに劣らず美しく、リフのお眼鏡にバッチリ適った。なので当初の目的はどこへやら、すぐさま俺の装飾品に加工された。
「お兄様みたいで素敵!」とベアトリクスやガーネストの装飾品にも。お揃い。わーい!
「宝石に勝るとも劣らない美しさでしょう?『ブラック・スワン』の商品のスパチュラや瓶の装飾にも使用されております。ああ、イヤリングなどに加工してセット販売もいいかもしれませんね。もちろん数量限定の受注販売になってしまうでしょうが…………」
「そ、それはいつ販売予定ですの?!」
「もうご予約はできるのかしら?!」
おーおー!食いついてらっしゃった。
上流階級って他の奴らが持ってない品とか“希少”って言葉大好きだからね。
無事に宣伝を果たせて喜ばしいかぎりなんですが。
ちょっと勢いが怖いので、もうちょい離れてくれませんかーー?
あっ、淑女の皆さまがたの輪の後ろで、以前やたらとちょっかいかけてきたオッサン当主の顔が引きつってる。それまで毎回嫌味を言ってきてたのに、学園でジストにブチ切れたやらかし以来全く近寄って来なくなったオッサンだ。
別に素材採取のために黒竜やクリスタルドラゴン狩ってきたわけじゃないから、安心するといい。
ってか、淑女の皮を被った狩人の皆さま本気でちょっと怖いんですけど……。
「 折角(せっかく) なのでカイザー様にも広告塔になって頂きましょう」
我が有能な従者ことリフさんにキリッとした顔でそう宣言され、
肌のコンディションは抜群、
髪の毛もうる艶さらさら~をアピールすべく肩や背に流した状態、
衣装はもちろん、希少素材アクセサリーで飾り付けられ夜会にぽいっされた。
リフさーーん!!
役目は充分に果たしたんで!!
そろそろ逃げてもいいですかーーーー??!
ここには居ない従者に向け、心の中でそう叫んだ。