作品タイトル不明
活用方法が斬新すぎやしませんか?
いつものごとくふらりと訪れたアインハードはニヤニヤと笑みを浮かべて言った。
「よぉ!カイザー、モテモテみてぇだな。羨ましい限りだぜ」
玄関ホールになんとも言えない空気が流れる。
わりとアインハードに懐いているマオは、がっしりした脚に抱きついていた腕を離し……ぷいっとそっぽを向いた。
「ベアちゃんとこ行く」
方向転換して歩き出すマオの頭を宥めるように撫でれば、一度足を止めて俺を見上げたマオはほっぺを膨らませてもう一度ぷいっと顔を背けた。
そしてそのままたったっと軽い足音を残して去って行った。
「なるほどな。それでマオはご機嫌ナナメってわけか」
来るなり酒を所望したアインハードはグラス片手にからからと笑う。
「そりゃあ好きな男に女が群がってんのは面白くないわな。いっちょ前にやきもちか。でもまぁ可愛いじゃねぇか」
「笑いごとじゃないよ」
はぁと溜息が漏れた。
なんなら頭を抱えたい。
人生何度目かわからない、モテ期到来。
アンジェスの皇子疑惑の後も擦り寄ってくる貴族らは居たが、『ブラック・スワン』が社交界の話題をかっさらっている中、またも話題の人にトレンド入りしている俺の元にはお誘い殺到。
お茶や招待はまだしも、婚約の申し込みも殺到中だ。
「そうです!笑いごとではありませんわ!」
尖らせた瞳でアインハードを睨んだのはアイーシャだった。
彼女が 何故(なぜ) ここにいるのかは言わずもがな。
お目当ては当然のように“愛しのラン様”である。
そして見掛けに似合わず一途な恋する乙女の彼女にとって、恋心を笑うのは許せない所業であるらしい。
ワインセラーのある部屋には俺やアイーシャの他にもガーネストやハンゾーたち影も集まっていた。今日は仕事の話があってアインハードを呼び出したのだ。
化粧品の材料には薬草などの主原料の他、魔物素材なども使われる。
『ブラック・スワン』に使われるのは入手困難素材ばかりなので主に影たちが担当してくれるが、国際事業では冒険者たちに依頼を出す予定だ。
純粋に人手も足りないし、そうすることで冒険者たちにも仕事をまわせる。
アインハードを呼んだのはその為だ。
長年冒険者をしており、第一線を退いたあとも指導だのなんだのでギルドや冒険者にも顔が広いアインハードは話を聞くのに最適の相手だ。
ちなみにアイーシャは「国際事業のことならあたくしも関係あります!」と意気揚々と乗り込んできた。
彼女は少しでも理由を作ってはちょくちょく我が家に乗り込んでくる。
「別に予想出来なかった展開じゃねぇだろう」
アインハードの言葉にリフたちは苦笑いだ。
「ここまでとは思わなかったんだよ」
げんなりしながら呟いた。
商機は感じていたし、話題になれば擦り寄ってくる貴族たちがいるのはわかっていた。予想外だったのはその数だ。
「まさか売れ残りの私に、ここまで縁談が殺到するとは思わなかった」
「「「…………」」」
なにその沈黙。
二十代後半の貴族男性で婚約者なしって充分売れ残りだからね?
買い手がなかったわけじゃなく、お断りしてたからっていうのは置いといて。
よくもこんだけ婚約もしてない未婚女性が居たな……ってぐらい釣書が送られてくるのには驚いた。
「適齢期は過ぎてるってもまだ若ぇんだし、お前の容姿と立場ならそんなモンじゃねぇ?ネックだった『無能』まで逆方向に価値爆上がりだしな。つーか、あ~……。たぶん今の状況じゃ済まねぇぞ?」
「どういうことですか?」
不穏な言葉にへ?とすぐさま反応出来なかった俺の代わりに聞き返したのはリフだった。
顎(あご) をすりっと撫でながらやや同情した目がこちらを見る。
「あれだけ騒がれたからな。民間や他国でもカイザーの話は出回ってんだよ」
「皇子とか魔王とか?」
混ぜっ返すソラの言葉に「おう、竜に変身できるとかな!」とアインハード。
それもう第三者だし。
リリアと同じ勘違いが他にも居たよ……。
「あと、えれぇ美形で人間離れした美しさだ、とかな」
無言の視線が多数向いた。
「若い娘っ子らは頬を染めて騒いでっけど、お 伽噺(とぎばなし) の王子様と一緒で本気で信じてるわけじゃねぇ。噂なんて話半分だしな。でもこれから国際事業で他国の貴族とも絡み増えんだろ?」
「噂でしかなかった兄上のお姿を実際に目にすることになる、ってわけか」
いやん。
他国からも縁談くるとか勘弁して―。
そんなことを思っていれば、アイーシャが「あたくしにお任せください」と豊満な胸を叩いた。
「物理的な排除などはラン様方にお任せするとして。美形に群がる小娘どもはあたくしがあしらって見せますわ!婚約されてるからってガーネスト様たちだって安心できませんもの。カイザー様はもちろん、ガーネスト様とダイア様にも手出しなんてさせませんわ!」
おーほっほっほっ!と持ち味の古典的芸風を披露してくださるアイーシャさん。
だけどそんな彼女を冷めた目で見る者は誰もいない。
……約一名、アインハードが 若干(じゃっかん) 呆れているが。
「なんて頼もしいんでしょう!宜しくお願いしますね、アイーシャ様」
「ラン様っっ!!このアイーシャにお任せ下さい。ルクセンブルク公爵家に仕える配下として、ラン様の為にも立派にお役目を果たしてご覧にいれます」
輝く笑顔のランに、一転、アイーシャが乙女モードに移行した。
頬を染め、瞳を潤ませながら宣言するアイーシャに、他の影たちも小さく拍手したり、リフもにっこりいい笑顔だ。
やー、実際これがかなり助かるんだわ。
しつこく絡まれても、相手が高位の女性とあってはあまり手酷い対応も出来ない。
公(おおやけ) の場じゃリフやハンゾーらは手が出せない。
その点、アイーシャは話が別だ。
ジャウハラの王族の血筋と見事な美貌とプロポーションを持つ彼女は女の闘い(舌戦)が大得意。
正直めっちゃ助かっている。
部下の恋愛事情に口出すほど 野暮(ヤボ) じゃないし、進展具合は知らんが確実にお仲間認定はされている。ランも至って好意的。
んでもって、このお役目にて彼女はウチの可愛い子ちゃんたちからの信頼も厚い。
相手の信頼を得つつ、外堀もコツコツ埋めていくとは……やるな、アイーシャ。
だが、他国の王族を「配下」扱いはあれなので「配下」を自認・公言するのはやめてくんねぇかな?
夕飯を食べてまったりしてると、マオがよじよじとソファに、そして脚へとよじ登ってきた。
ぽすん、と俺の胸を背もたれにしてまったり。
ぽっこりお腹をさすっているので、どうやら食休みらしい。
昼間はぷいっと逃げられたが、いつの間にかご機嫌は治ったようだ。
「カイザー様とガーくんは明日もお城?」
首をひねって見上げてくるマオの身体をそっと支える。
あんまりそっくり返ると頭の重さでグラッとする、幼児あるある。
「ああ、ギルドに寄ってから登城して、午後には帰ってくるよ」
「女の人は?」
幼児に聞かれる質問としては異例なそれにヒクッと引き攣りながら「いません」と答えた。
くつくつ笑っているアインハードに今すぐ裏拳を叩き込みたい。
「マ、マオは明日はなにをするんだ?」
「ん~~?ハンゾーたちとおにごっこ!あととっくんしてーカマルとおひるね!」
ガーネストとマオの会話を聞いて、ちょっぴり遠い目をしてしまうのは仕方がない。
“とっくん”の的には大量に送られてくる釣書の絵姿が有効活用されている。
勿論、全部というわけではない。かつて色々仕掛けてきたり、散々貶していた癖に掌くるんして縁談を申し込んできた家のものだ。要は悪質だと判断された相手。
仄暗い笑顔のリフがまとめて火にくべようとしていたそれを「燃やすならください」と笑顔で引き取ったランがどうするのかと思えば…………鍛錬場の的の杭に顔がついてた。どこからか入手した当主らの似顔絵もセットで。
「命中率が格段に良くなったんですよ」
微笑みを浮かべるランや影たちの放つ飛針やクナイも、マオの魔術も確かに的確に急所を捉えていた。
あんな釣書の活用方法、はじめて知ったよ……。
「そういえば、アインハードは何日ぐらい滞在するんだい?」
「あー、どうすっかな。とりあえず一週間ぐれぇか?」
その答えにマオが膝の上でわーいと手を挙げた。
色んな場所や時には国を渡り歩くアインハードの滞在はまちまちだ。その日のうちに帰ることもあれば、長期滞在することもある。
遊び相手が増えてマオとしては嬉しいのだろう。
この時はまだ、このイケオジがやらかしてくれるとは思ってもみなかった。