作品タイトル不明
候補の9割以上が暗黒系
一見強面な男前がヒクリと引き攣った。
「おい、それは何だ……?」
アメジストの瞳が固定されているのは、テーブルの上に無造作に置かれた直径10センチほどの結晶。…………の山。
「クリスタルドラゴンの鱗です」
さらっと答えたリフをギョッとした目で見たジストは後ずさった。
我が家の料理人たちの料理が気にいったらしいジストはたまにふらっと訪れる。それは別にいい。
マオは相変わらずジストが嫌いみたいで猫みたいにシャーシャー威嚇するか、どっかに引っ込むが、それ以外は特に支障はない。
今日は後者でカマルたちのとこだ。
魔族だろうと使用人たちも慣れたもので(まぁ、我が家に魔族二人いるし……)いまや普通の客扱い。
ちなみに、黒竜姿で敷地内に降り立つのはご近所から苦情が来そうなので禁止してる。
「なんでそんなものがあるんだっ?!しかも大量に!!」
「毎回突然の訪問なので仕方がないでしょう?すぐに片付けますのでお掛けください」
「そういうことじゃないっ!!」
うん。俺もジストに賛成。
ジストが問題にしてるのは机の上が散らかってることじゃなくて、なんでそんなものがあるのか?ってことだからね。
そして正解はハンゾーさんたちがとってきてくれたからです。
いやぁ、例の化粧品の件でさ。
希少素材わんさか使おうと「本当にそんな素材を使っているのか?」って疑いも出てきそうだし、悪質な類似品もでそうじゃん?
だから品質保証っていうか、原料以外にも見えるカタチでプレミアをつけようかって案がでてさ。
魔物素材って綺麗なのもあるから、瓶の蓋だのスパチュラだのに使おうってことになったんだ。
……で、影の皆さんがとってきてくれました。
名前にクリスタルってつくだけあって光を受けて輝く鱗は美しく、その希少性からも下手な宝石よりも高い価値を持つ。
なんで希少かって、そりゃあ仮にもドラゴンの鱗だからだよ。
冒険者ギルドに依頼を出すなら間違いなくSランク。剥がれた鱗を採取するだけでもドラゴンの生息地に近づかなきゃいけないから命がけ。
それを普通に生体から何枚も採取してきたからね。
そんなもんを持って帰って献上されたときはぶったまげたわ。
アインハードが俺の剣を作ってくれたのと同じ竜素材を偶々入手してさ。剣を作るには足りなかったから、小刀を作ってハンゾーに渡したんだけど…………戦闘能力をカンストさせた感が否めない。
アインハードからも我が家にまた一人魔族が増えてたことも含めて、「カイザーお前……世界征服でもしてぇの?」って珍しいマジ顔されたからね。
いやいやいやいや、周りがオカシイだけでそんな野望はありません。
……とはいえ、ビビりたおす強面チキンを見て悪戯心と欲がちょっと疼いた。
「ちょっといま、美しい希少な素材を集めていて」
にっこりと思わせぶりにジストを見て一瞬言葉を止める。
ひぃ!と心の声を零す彼から視線を逸らさず僅かに首を傾げた。
「そういえば……君の鱗もとても綺麗だよね?」
「ひぃぃ!!」
心の声に留まらず悲鳴を漏らしたジストが椅子ごとガタリと後ずさった。
冗談だってば。
「確かに。希少性もさることながら、美しい漆黒はカイザー様のイメージにもピッタリですし」
顎(あご) に手を当てて呟いたリフに見られたジストは顔面蒼白だ。
俺もおちょくっといてなんだけど、獲物を狙うマジな目が怖すぎるんで止めたげてリフ?
「ちょっと外で竜化してみませんか?」
「この流れで誰がするかっ!」
「大丈夫です。一瞬ですし痛くないですよ」
「お前ら怖すぎるんだがっっ?!」
結局、涙目のジストに「今度自然に剥がれたとき持ってきてやるからやめろ」って 懇願(こんがん) されてガチで鱗がもらえることになった。やりぃ!
第ゴニョゴニョ……回、ルクセンブルク会議~。
またしても開催です。
でも前回と違って今回は和やかな雰囲気です。
本日の議題は新事業のブランド名。
「すでに出店している『リリアーナ』と違い、今回の事業は王侯貴族をターゲットとし、貴族へのアピールも兼ねています。ですのでブランド名はカイザー様を連想させるような名前が相応しいです。なにか意見はありますか?」
司会のリフが言う通り、理想は俺を連想させる名前だ。
ほら、 鬱陶(うっとう) しい奴らを黙らせるために社交界のご婦人方を味方につけちゃおう作戦だしね。色々あって目的忘れかけてたけど、本来の目的そこだから。
経営者が誰なのかわからないと意味がない。
んでもって、これが意外とネックだったりする。
ほら、リフとかこーいうの得意そうじゃん?
オシャレな案を出してくれそうだぜとか期待したんだけど……なんか俺をやたらとイメージ上方修正してるっぽいリフさんってば、仰々しい名前ばっか出してくるんだよね。
……ってことで、皆さんにご協力願ってみた。
「はいっ!!」
「誰か意見はありませんか?」
「なんで私を無視するんですかリフ様っ?!」
元気よく手を挙げたリリアを華麗にスルー。
立ち上がって抗議するリリアをちょっと面倒くさそうにリフが見た。
そんな表情にはちっとも気づかない転生メイドはふふんと自信ありげに腰に手を当て、もったいぶるように一瞬黙ったあとで口を開いた。
「『王国の秘宝』とかどうですか?」
渾身のドヤ顔に落ちた沈黙。
「……まさかのまともです」
ぽつりと呟いたリアンの呟きが全員の心情を物語っていた。
「いいわね!」とベアトリクスに褒められたリリアは有頂天だし、リフも却下するでもなくメモをとり、他のみんなも 若干(じゃっかん) リリアを見直した目で見ている。
……パクリだけどな。
ゲームタイトルを堂々パクったリリアを、呆れた目で見つつ心の中でツッコんだ。
あと俺は攻略対象者でもアンジェスの皇子でもねーから王国の秘宝じゃないし。
そもそもブランドコンセプトが自分で『秘宝』とか 謳(うた) っちゃうの痛すぎだから却下。
うんうん唸りながら可愛い弟と妹も真剣に考えてくれるのは嬉しいんだけどさ?
やっぱりなんかイメージ上方修正気味なんだよね。
あとさベアトリクス。あんま乙女趣味なのは……お兄ちゃんちょっと恥ずかしいかなー。
自分自身も腕を組んで考えるものの、いい案がちっとも浮かばない。
まぁ、散々考えて浮かばなかったからこそ、みんなの協力を仰ぐことにしたんだけど。
「お兄様のイメージといったらやっぱり黒とか月かしら?あとは高貴で美しくって……」
「おつきさまー!」
「やはり気品のある気高い名前がいいですよね」
「兄上を連想させる名前……」
「…………」
「あっ、魔王 印(じるし) とかどうですかー?」
とりあえず最後のリリアの案は大却下で。
和気あいあいと議題に参加してるラン以外は黙り込んでいる影のなかで、ソラへと視線を向けた。
「ソラはなんかない?」
他のみんなと違って俺を過剰に崇めない彼ならいい案がないかと思って。
ふられたソラは難しい顔をしつつも、真剣に考えてはくれているようだ。
「あ~…………アンジュ、とか?」
「……却下」
「……だよな」
お気に入りのお人形と同じ名前に「あんじゅ!」とマオがぱっっと表情を明るくさせてるけど却下で。
ブランド名として名前の響き的には有りなんだけどなー。さすがにこれ以上アンジェスとの関連を 囁(ささや) かれそうな名前は無しだろう。
やめて、リフ。
案の一つに書き出さないで。
「……ん~、なにしてるの?」
「なまえ、決めてる!カイザー様っぽいの!」
「なまえ?」
「化粧品のブランド名を考えてるところ」
いままで虎さんスタイルでお昼寝してたカマルが起きた。
マオとラピスの説明に、少年の姿でパチパチ瞬きをしたカマルがじっとこちらを見る。
「あっ!『闇の貴公子』!!」
「はい却下!」
「ええ~なんでー??」
ブーブーむくれるカマルくんの意見も大却下で。
なんで?ってそりゃあ俺が「闇の貴公子だー!ぶふっ!」ってされるからですよ。
現に今も数人肩を震わせて笑いを堪えてらっしゃるしね。
ソラとリリアは堂々と噴き出してんじゃねぇよ。
そしてベアトリクスは視線を逸らしたガーネストたちに「なんですの?」って聞かないの。
あっ、リアンがベアトリクスの視線に負けて説明し始めた。
ああ~……俺とガーネストの孤児院での渾名がバラされた。ほらリアン、ガーネストが「裏切者っ!」って顔して睨んでるよ?
かなりグダグダになってきた中、ほっぺを膨らませてむくれてるカマルの隣へと視線を移す。
「ラピスはなにかないかい?」
「…………」
一応席にはついていたものの、議題に興味も参加する気もナシです感満載で本へと視線を落としていたラピスの顔があげられた。漫画メガネで表情は隠れているものの、露骨に面倒くさい表情を浮かべてるのは気づいてるからな。
「私を連想できて、ブランド名として馴染みがよくてあまり仰々しくないものがいいのだけど」
特に後半大事です!
その気持ちを込めてじっと見つめる。
ラピスもソラと同じく俺に過剰な幻想とか抱いてないし、なにより博識だから 一縷(いちる) の期待を託して。
貴族仕様の外面装着中な笑顔を胡散臭そうに見ながら、考えこむようにラピスは数秒黙った。
「……ブラック・スワンとか……?」
「…………」
今度はこっちが数秒黙った。
ちょっともの言いたげな視線を向けるも、ラピスは素知らぬ顔でスルー。
思う所がないわけではないが……ブランド名としてはいいかもしれない。
少なくとも『魅惑の……』だの『至高の……』だのより通りも良ければ抵抗感はない。
「ブラック・スワン……黒鳥か。いいかもしれないな。兄上によく似合う」
「優美で気品もありますし、妖艶さや強さも合わせ持ちますしね」
「響きも綺麗で可愛いものね。あっ、リフ!ちょっとそれ貸して!」
わっとみんなも盛り上がり、パンっと手を叩いたベアトリクスがリフから紙とペンを受け取る。
「見て!それならこんなロゴはどうかしら?」
ペンを置き、掲げられた紙には描かれていたのは……。
ちょこんと王冠をいただいた黒鳥のイラスト。
「いいんじゃないか」
「高貴さを出すのに月桂樹のモチーフを加えてはいかがですか?紋章みたいで素敵だと思います」
「私もランに賛成です。ロゴならイラストを黒のシルエットにするか……全体を黒くして金の箔押しのロゴもいいですね」
「「黒に金がいいと思う(わ)!」」
ブランド名とロゴが決定しました。