作品タイトル不明
スポンサーがVIPすぎる……
一週間ぶりに訪れた『リリアーナ』では前回以上の大歓迎を受けた。
室内には雇われ店長のアランとルーシェさんの他に、お姉さんたちが数人。
「素晴らしいっ!!素晴らしいですっ!!!」
いつもは冷静なアランの瞳は、いまや 爛々(らんらん) と輝いていた。
いまにも興奮のままに捲し立てられようとしていた言葉たちは、しかしその口から迸ることはなかった。
「アラン」
決して大きくはない声。けれど静かな笑みを携えたその一言の威力は絶大。
「商人たるもの冷静さを失ってどうするの?お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。ですがアランの興奮もわからないでもないのです。それほどカイザー様の作られた化粧品は素晴らしいものですわ」
夫でもあるアランを名を呼ぶだけで鎮静化させ、頭を下げつつ微笑むルーシェさん。
流石(さすが) はリフの妹。つよい。
「いや、アランのお眼鏡に適ったなら嬉しい限りだ」
「そんなっ、お眼鏡に適うどころではありません」
「早速だけど、モニターをしてくれた方達の使用感を聞いてもいいかな?」
そういって俺はずらりと控えたお姉さんたちに目を向けた。
先日、ついにオールインワン化粧品の試作品が完成したのだ。
「出来たらすぐ持ってきてね!」とアイリーンたちから要請は受けていたが……まさかいきなりあんなVIPたちに試させるわけにはいかない。
数度のテストを重ねたのち、モニターを募った。
屋敷の使用人やリリアーナの売り子さんたちに声をかけたところ、超高級化粧品が試せるということで希望者殺到。
今日はその感想を聞きに訪れたのだ。
「正に素晴らしい商品の一言に尽きます。保湿力の高さ、なにより翌朝の肌のハリ感や手触りに驚きました。肌の化粧のりも抜群で、いつもより薄化粧でも綺麗に見えるんです」
「洗い落とさずにパックが完了なのも画期的です。楽なのにこんなに効果があるなんて!」
「これ一つで全部叶うなんて夢のようです!!」
ルーシェさんの発言を皮切りにお姉さんたちからも次々に感想があがる。
中には「少しべとつきがあるのが気になって……すみません」なんて申し訳なさそうに告げてくれる人もいるが、 忌憚(きたん) のない意見は大歓迎だ。
相手が目上であろうと、しっかりと意見を言えるって凄いし信頼できるよね。
『リリアーナ』に引き続き、化粧品事業もアランたちの商会の手を大いに借りる予定なので頼もしい限りです。
軌道にのってる『リリアーナ』の店長は他の社員に引継ぎして、アランが新店の店長もしてくれるんだ。
経営どうしよっかなー?って悩んでたらリフが提案してくれて、アランも二つ返事で食いついてくれたんだよね。
マジで優秀な周囲の人材に大感謝です。
モニターさんたちの意見をメモろうとしていたリフに、ルーシェさんが紙の束を差し出した。
「兄さん、こちらを。アンケート用紙を作ってみました」
手渡されたそれを覗き込めば……様々な項目の満足度を点数化したチェックリストと感想・要望などを書き込む欄が埋まったアンケート用紙だった。
なにこれ、めっちゃわかりやすい!
我が家の某メイドに「すっごくいいです!楽チン!肌が絶好調でノリノリな感じでトレビアーン!!!」とお気に召したということ以外は、いまいち伝わらない感想を告げられたばかりなので尚更そう思う。
「このアンケート用紙ってまだ余ってますか?」
もらった。
「 概(おおむ) ねご満足いただけたようで良かったです。メイドたちにも大好評で「お手頃ラインでの販売も!」と要望が多かったので……」
笑みをつくり喋っている途中で、ルーシェさん含めお姉さんたちの瞳がギラリと光った。
「「「 是非(ぜひ) お願いします!!何卒ご検討を!!」」」
正直、製品の感想聞いたときよりも熱い熱量でお願いされまくった。
「オールインワイン最高ー!!カイザー様っ!!もっとお安いのも作って下さいっ!!これよりお安くって、平民用の安価版より効果は高いの欲しいです!私でも手が出せる範囲の高品質ラインも作ってくださいー!オールインワン使っちゃったらもうあんな面倒なお手入れに戻れないですよーー!お願いしますっ!私の美少女フェイスを守るためにも!!」
必死の表情で 縋(すが) りついてきたリリアを思い出し、ちょっと遠い目になった。
なお、俺をガクガク揺さぶっていた手はリフによってぽいっと放されたし、リリアはマーサに拳骨を受けていたが。
でも拳骨を落としたマーサたちからもお願いされた。
「善処します」
お姉さんたちには、引き攣った笑みでとりあえず元日本人らしい回答をしてみた。
「カイザー様天才っ!!!」
ぎゅぎゅぎゅっと痛いほどに握りしめられた両手。
すぐ目の前にある美貌はいつにもましてお肌つるっつる……な、気がする。たぶん、きっと。
「近い近い」
上気した頬もたいそう色っぽいアイリーンに引き攣りながらそう告げた。
いまはここに居ない旦那さんに怒られるのは嫌だから、ちょっと離れてくれるかなー?
華やかなサロンにはアイリーン、アイーシャに皇太后さまとなかなかに強烈なメンツが勢揃いしていた。
誰もが大変いい笑顔でにこにこしている。
隣にはマイエンジェルことベアトリクス。彼女のさらに隣にシェリルちゃん。
お膝のうえにはプリティー魔王ことマオたんです。
ベアトリクスとマオは濃すぎるメンツに頼んで着いてきてもらった援軍だ。
この女傑メンバーに放り込まれるのは俺のメンタルが点滅しそうだったので。
シェリルちゃんはベアトリクスに誘われて、新化粧品に興味があったのか来てくれた。大歓迎です。
ちなみに……ガーネストにも一緒に来るか聞いたけど、引き攣った顔で首を横に振られた。
だよね。気持ちはわかる。
「ダメー!アイリちゃん離れてー」
「あら、ここは親友として偉業をたたえる場面よ?マオちゃんだって大人になったらこの感動がわかるわ」
腕を突っ張っておむねぐいぐいするマオの頬をアイリーンがつんと突く。
幼児特有の柔らかくってつるもちな肌は化粧品いらずの手触りだ。
「ええ、これは革命です!!」
胸の前で両手を組んで感激!の目を向けてくるのはアイーシャだ。
ベアトリクスやシェリルちゃんも肌のコンディションはもちろんのこと、オールインワンの手軽さが気にいったようで大絶賛できゃきゃしてる。
お互いのほっぺを触りあってるのが可愛いね。
モニター期間中メイドたちが毎日大興奮で話題に出すものだから「私も早く使いたいです!」って拗ねられてたしね。機嫌を直してくれて良かった良かった。
「予想以上の品質よ。品質に関しては文句のつけようもないわ」
『カイザー君、グッジョブ!!』
やたらと力強いお心の声も合わせて有難うございます。
「でもねぇ……」
頬に手を当て困った声を出す皇太后様は俺と同じ年のティハルトの母親にはとても見えない。ぶっちゃけ高品質化粧品なんて要らないんじゃね?ってぐらい若々しい。
「素晴らしい商品すぎて奪い合いになる気しかしないわ」
ほぅと溜息を吐きつつ、「でも私たちの分はキープしててくれるわよね?」というお言葉には一も二もなく頷いた。
ええ、皇太后様や側妃様分はキープさせて頂きますとも。
俺は長いものには巻かれる主義だ。
「当然親友のわたくしの分もよね?」
やたらと親友を強調してくるアイリーンさん。
わかったからいい加減離れよっか?
あと手、放して。痛いから。
「素材の関係で受注生産の数量限定発売にしようとは思っていますが……価格帯を分けて何種類か生産することも検討しているところです。いまの商品だと本当に高位の者しか手を出せませんから」
希少素材多用してる関係で効果は凄いけどお値段もバカ高い。
あれだけ懇願もされたし、普通の貴族や、ちょっと富裕層あたりでも手を出せる価格帯の商品も検討中だ。
「オールインワン以外にも栄養ドリンクだの色々と考えてはいるんですが……ただ最初からあまり手を広げすぎるのも、万が一失敗した時が怖いですし……」
製品に自信がないわけじゃないけど、事業失敗したら目も当てらんないからね。
軌道に乗るまでは様子見かなぁ……と思っていたところで意外な声が上がった。
「そのことだけど。カイザー君の事業に投資しようかと思っているの」
さらっと零された発言に思わず「はっ?」と声を上げそうになった。
しかも聞き間違いでなければ側妃様たちのお名前もあがりませんでした?
「ああ、王家の財源じゃなくて私たちの個人資産だから安心して?ねっ、だからその代わりエイジング化粧品をドンドン開発して欲しいのよっ!!」
「えーならわたくしも投資しようかしら。スポンサーなら商品入手も確実よね!」
「あたくしも資金ならございましてよ!」
「ちょ、ちょっと待って」
「ということで、早速商品の要望なんだけど…………」
まさかのこの国の女性陣トップたちがスポンサーになった。