作品タイトル不明
ガチでリアルなやつだった
「踊って頂けますか?」
本日何度目かわからないお決まりの言葉。
真っ直ぐに背を伸ばし、こちらを見上げながら微笑んで告げられたお誘いに「よろこんで」そう微笑んでその手をとった。
ターンに合わせてクリーム色のドレスの裾がふわりと舞った。
俺の視線が髪飾りに向いたのに気づいてか、ダンスの相手は口元に笑みを浮かべる。
「この恰好、覚えていらっしゃいますか?」
上目遣いでそう尋ねてくるということは、気のせいではないのだろう。
クリーム色のドレスに花を模した髪飾り。
もちろん全く同じドレスというわけではないが、イザベラ嬢の装いに思い浮かべたのはちょうど二年前の卒業パーティーだった。
「今日のドレスは絶対にこの色にしようと決めてましたの。この髪飾りもカイザー様がくださったお花に似ているでしょう?」
「よくお似合いです」
「ありがとうございます」
はにかむように笑って、なにかに気付いたようにぱちりと瞳を開いたイザベラ嬢が顔を寄せて「ベアトリクス様が見てますわ」と 囁(ささや) いた。
チラリと視線を向ければ、なるほどめっちゃ見てる。
ダンスのお相手くんが戸惑ってるからちゃんと前を向いてあげて、ベアトリクス。
そしてわざと挑発するような笑みを浮かべて身を寄せてくるイザベラ嬢は確信犯。相変わらず仲がいいんだか悪いんだか。
今日はベアトリクスたちの卒業パーティだ。
そして俺にとっても。
いやぁ、卒業式も無事に終わって良かったぁー。
「カイザー様」
ふいに声を落としてイザベラ嬢が名を呼んだ。
「私、婚約が決まりましたの」
静かな声でそう告げる。
一瞬驚き、見返せば小さく目元だけで彼女は笑った。
「お相手は縁戚の方ですわ。穏やかで、優しい方。以前から面識はあったのですが、先日プロポーズされました」
「そうですか。おめでとうございます」
「ご存じでしょうけど、私……カイザー様が好きでした」
祝福の言葉をかける俺をちょっと睨みつけて、イザベラ嬢はワザとらしく唇を尖らせた。
予想外の言葉に足がブレそうになるもなんとかキープ。
「イザベラ嬢……」
「ふふっ、まさかこのタイミングで告白されるとは思いませんでした?」
楽し気に笑うイザベラ嬢はご機嫌だ。拗ねた表情は演技だったらしい。
「困らせてしまってごめんなさい。だけどきちんと告げておきたかったんです。“いい男の人”に散々憧れてきましたけど、私にとって本当の初恋はきっとカイザー様だったから。あの日、貴方が言って下さったでしょう?「叶わなくとも、恋が実らなくても自分自身に胸を張る為に足掻くべきだった」って。私、たくさん足掻きましたわ。人を見下して、足を引っ張ってばかりのあの頃より、今の方がずっと楽しいし、胸を張れます」
「見ててくれたんです」とはにかむような表情で彼女は笑った。
「彼、最初は私のこと苦手だったそうです。……当時の私は卑屈で高慢ちきでしたもの。だけど……ジャウハラの件や薬草のことで必死に走り回る姿を見て、好きに、なってくれたそうです」
薄っすらと頬を染めて、恥ずかしそうにそう告げる姿は可愛らしかった。刺々しい、意地悪な笑顔よりもずっと。
「ご婚約、おめでとうございます」
もう一度、心をこめてそう言った。
曲が終わりに近づく。
ペースが落ちていく音楽に合わせるようにもう一度彼女が顔を寄せた。
「叶わなくても、実らなくても、私にとって大切で掛け替えのない初恋でした。好きにならせてくれて、ありがとうございます」
晴れ晴れとした笑顔で告げたイザベラ嬢は、唇の端を持ち上げその笑みを不敵に変えた。
「そして今度のこの愛は、死ぬ気で守り通してみせますわ」
「はい」
音楽が止まり、栗色の髪で花が一輪、 余韻(よいん) のように静かに揺れる。
「あっ、でもダンスはまた付き合ってくださいね?恋心は封印しても、憧れはまた別物ですもの」
覗き込むように茶目っ気を含めて上目遣いで告げられた言葉には、苦笑いしながらよろこんで、と。
「ついでにエスコートしてくださいな。ベアトリクス様たちにも婚約の報告をしたいですし」
エスコートに差し出した手をじっと見て、その手を取るどころかぎゅっと腕に抱きつくようにくっつくイザベラ嬢。
「ベアトリクス様がものすごい見てて面白いですわ。……お家でもずっと一緒なんだから、ちょっとぐらい貸してくださったっていいのに」
ねぇ?とものすごく同意しにくい質問を投げ掛けるイザベラ嬢は、とっても活き活きしてて楽しそうだが…………妹がめっちゃガン見してくるんですけど。
完全なとばっちりじゃない俺?
あと婚約者からも睨まれそうだから止めて頂きたい。
そうして戯れるような言い争いに、突然の報告への驚きと祝福。
ひっきりなしのお誘いに踊りあかして卒業パーティーも無事に終わった。
卒業証書を読み上げ、渡せば、受け取ってすぐにくるくると丸められた。
ぱちぱちと手を叩く音の中、ご本人は欠片も興味がなさそうだ。
「卒業式ぐらい出ればよかったのに」
「いまさらじゃない?」
まぁ、確かに「アイツ誰だ?」状態ではあるかもしれない……。
ベアトリクスが卒業ということは、実は密かに同級生でもあるラピスも卒業だ。
必要な出席日数を果たしたあとは図書室登校すら放棄している彼は、当然のようにサボった。
とはいえ、今日は二人の卒業の日。
去年のガーネストの時と同様、使用人たちがお祝いの準備をしてくれている。
なので図書室に引きこもりと化しているラピスも引っ張り出してみた。
夕食まではもう少し時間があるので、準備の邪魔にならない部屋でだべり中。
ガーネストやベアトリクス、マオにカマルのほか使用人数人と珍しいことにハンゾーたちもいる。
そして壁際で号泣しているリリアも……。
「やったっ!ついに卒業っ!!ベアトリクス様を守り切ってみせたわっっ!!フラグ・消・滅☆!!!」
天を見あげガッツポーズしてるメイドは号泣しながらもいい笑顔だ。
そしてその喜びはわかるが奇人扱いは御免なので知らんぷり。
事情を知らない他の面々も奇行丸出しのリリアをスルーしているところからも、彼女の普段が窺えるというものだ。
リリアが変なのは通常運営だしね。
「そういえばカイザー様。カマルはなにか仕事をさせるのですか?」
ふと首を傾げてリフが問いかけてきた。
突然でてきた自分の名にカマルがこてんと首を傾げて人化した。
視線が俺へと集まる。
……が、正直ノープランだ。
「や、特に考えてなかった」
もともとラピスをスカウトしたときはカマルが魔人だってことも知らなかったし、普通にアニマルセラピー要員として見てたしな。
だが他の使用人たちの手前、なにかしら仕事を与えた方がいいのだろうか?
「おしごと!」
はいっ!!と元気よくカマルが手を挙げた。
「じたくぼーえいぐん、するっ!!」
じたくぼーえいぐんの意味を掴めず一瞬フリーズし、やがて脳内で「自宅防衛軍」と変換された。
それはもしや…………。
「じたくぼーえいぐん、ってなんですの?」
「自宅の警備員。お昼寝したりしてお家を守るんだって」
ベアトリクスとカマルのやり取りで確信した。
「なぁ、それって誰に聞いたんだ?」
そして同じく自宅警備員の正体に気付いたソラが突っ込む。
「生徒が話してたー」
よし、確実に転生者の生徒だな。
そして自宅警備員ってのは要するにニートだろ。
「却下」
「ええーなんでー??」
「なんででもです」
ぶーぶーと喚くカマルくんの意見は大却下です。
別に絶対に仕事与えなきゃいけないとは思っていないのだが、なんとなくそれを職業として認識されるのは受け入れがたい。
そして我が家の警備を実際に担当している影たちが、寝ながら警備を?と真剣に頭を捻っているのだが真相を教えるべきだろうか?
「……いいんじゃない?」
「えっ?」
ぽつりと零されたラピスの賛成に 吃驚(びっくり) して彼へと視線を向ける。
「自宅の警備、カマルは向いてると思うけど」
……え?本気で言ってる?
「カマルなら侵入者の感知もできるし、なにかあった時すぐに連絡も可能だよ。この屋敷の警備は万全だろうけど人手が手薄な時だってあるでしょう?」
「それってもしかして魔術でってこと?」
「うん。学園でも僕はいつも図書室に居るのに学園内のこと知ってたでしょ?結界内の様子を窺うことも出来るし、カマルなら瞬時に移動もできる」
思わず「マジでっ?!」って叫びそうになって慌てて口を押さえた。
驚愕の視線を向ければ「カマルすごい!」とえっへんと胸を張るカマルくん。
いや、マジでスゲーんだけど。
「もしや……図書室にもその結界が?」
「ハンゾー?」
「いえ、何度かあの部屋に入ったときに、以前は感じなかった違和感を感じたので」
ハンゾーの言葉にラピスを見れば「普通は人間が気付けるようなものじゃないはずみたいだけど……」と驚いていた。
や、ハンゾーはある意味、普通の人間じゃないんで。
そしてカマルは無事に自宅防衛軍に任命された。
お昼寝しながらでも屋敷内の異変を察知でき、なにかあればすぐに通報、さらにはカマル単体なら転移も可能で即座に現場に駆け付けも可能。
ガチで優秀な〇コムだった。