作品タイトル不明
プレゼンしてみた
それはもうすっごい食いつきだった。
あまりにも興味津々で細かいとこまで聞かれるから、途中説明をリフに代わってもらった。
分かりやすく淡々と説明をこなすリフと、それをマジ顔で聞きつつ質問やら要望やらをしれっとぶち込む女性陣。
圧強めの女性陣にも気後れせず、説明を続けながら商品要望なんかをさらさらメモる俺の従者が超優秀です。
いやぁ、こんなこともあろうかと連れてきてよかったわ。
一方、化粧品ごときでご婦人方を味方につけるなんて……と半信半疑だった男性陣はその食いつきっぷりに驚いている。引いてるともいう。
まぁ、元より容色に優れている彼女たちがそこまで気にするものなのか、っていう驚きもあるのかも。
熱狂する女性陣に置いてけぼりな感じでお茶を飲んだり、世間話をすること 暫(しば) し。
ようやく質疑応答が一段落したようだ。
薄っすら頬を染め、キラキラした瞳のアイリーンたち。
どうやらサンプルにと持ってきた、いくつかの試作品の効能も含めご満足いただけたようだ。
すでにめちゃくちゃ発注しようとしてるけど、まだ製品化してねぇから。試作段階だから。
美容用品に精通しているアイリーンやアイーシャに、「今後、女性視点の意見を聞くことがあるかも知れないからよろしく」と伝えれば、拳を握りしめ「任せて!(お任せください!)」と力強く返された。
大変心強い一方、無茶な要求されそうだな……と 若干(じゃっかん) の不安が残る。
人選……間違えたかな?
「皇太后様にもいずれご意見を伺ってみたい」と零せば超絶乗り気なアイリーンに「呼んでくる?」と言われ慌てて首を振った。
「え~、遠慮しなくても平気よぅ。お義母様も全力で食いつくと思うわよ?」
「何気にお前は母上のお気に入りだしな」
お気に入りなのはきっと日頃の貢物の効果だよ。
米だの味噌だの横流ししてるしね。
「お約束もしてないからね。その件はまた後日にして……リリー嬢にナディア嬢。失礼ながら貴族ではなく平民の視点からご意見を頂きたいのですが構いませんか?」
「平民視点、ですか?」
「例えば先ほど説明した、オールインワンのような手軽にスキンケアができる商品をどう思いますか?需要はあると思います?」
「そりゃあ思いますよ!すっごい便利ですもん!」
当然!とばかりに声を弾ますリリー嬢の横で、なにやら考えこんだナディア嬢は小さく手を掲げた。
「それは……平民も顧客に設定することを視野にいれてらっしゃる、ということですか?正直、難しいのではないかと思います」
「えっ?なんで?私なら超欲しいですけどっ?!」
「ええ、リリー様。欲しがる人はたくさんいると思いますわ。ですが貴族の方ならともかく、お値段がその……。きっとお高いでしょうし……」
「あっ!!そっか」
困り顔で眉を下げたナディア嬢の言葉にリリー嬢がぽんっ!と手を打った。
他の面々も理由を聞いて納得顔だ。
俺はといえば、実に理想的なナディア嬢のお答えに思わず笑みを浮かべた。そういう実情にあった意見を聞きたかったからこそ、彼女たちを今日呼んだのだ。
「こちらに関しては私の事業とは別案件なので、価格はそれなりに抑えられると思います。ちなみに1カ月分の化粧品代として、お幾らぐらいなら需要があると思いますか?」
「そうですね……」
その後も幾つか質問を重ね、その度に俺は頷き、後ろではリフがメモをかきかきしていた。
座ったままリフの計算式を覗き込み、彼を見れば一つはっきりと頷かれた。
前へと向き直り、元々そんなに崩れていなかった姿勢を一度治す。そしてティハルトに向き合い、次いでアレクサンドラやサフィアにダイアたちへと視線を向けた。
ここでようやく今日彼らを集めたもう一つの本題だ。
「国際共同事業に化粧品産業など 如何(いかが) でしょう?」
この展開は予想していなかったのか、ティハルトたちの瞳が見開かれた。
リフが素早く用意した資料を彼らへと配る。
書かれているのは薬草や魔物素材、そしてそれらの原産地など。
ここ最近、国家間で行う共同事業の話が持ち上がっている。
なぜそんな話が突然持ち上がったかというと、先のジャウハラでの一件が原因だ。
人為的に起こされたスタンピード。
その詳細は両国のトップの判断もあり 公(おおやけ) にはされておらず、同盟関係も保たれている。もちろん水面下で賠償だのなんだのの動きはあるが、 概(おおむ) ね平和的な解決をみせた。
そこで話題にあがったのが今回の話だ。
今回のようなことが起こらない為にも、周辺国、ならびに同盟国との結びつきを強めるための国際共同事業の発案。
ジャウハラやアイリーンの祖国であるラトゥミナもその一つだった。
そして……そんな思惑で持ち上がった計画のため、肝心の事業内容が決まってなかったりする。
「もちろんただの案だから、そう難しく考えなくていいんですけど」
「そんなことありません兄上。画期的な提案です」
いまいちヤル気のない俺とは反対に、我が弟はヤル気満々だった。
まぁ、この前この話を出した時からめっちゃヤル気出してたからね。
「陛下、まずは2枚目をご覧ください。化粧品の主原料となる薬草などです。いままであまり目を向けられていなかったそれらを活かせれば、ジャウハラの食料難の解決にもつながり………………」
そしてそのまま熱量高めでプレゼンまでしてくれるガーネスト。
細かい説明や専門的な数字を問われればリフも補足で答えてくれるし、優秀な弟や従者らがいると実に助かります。
時折説明には加わるものの、途中お茶菓子のマカロン食べたりややぶん投げてる。丸投げじゃないからまだいいだろう。
国際共同事業に化粧品産業を推した理由。
それは自分用の事業のためにラピスやリックたちと検証を進めるうえで、かの国たちが原料の産地に適していると気づいたからだ。
「こちらの素材はともかく、これは我が国でも栽培可能なのでは?確か……北の方の領では栽培されていたと思います」
資料の一部を指してそう告げるサフィア。他領の特産ともいえない生産物までしっかり把握しているらしい。優秀過ぎか……。
そして「確かに」と頷いてる王族兄弟も把握してらっしゃるんですね。
俺は今回の件で調べてもらってはじめて知りましたけど。
「さすがにお詳しいですね。それについては4ページ目をご覧ください。同じ作物でもラトゥミナで採れるものは保湿性が高いんです。こちらについても同様ですね」
二種類の成分が表示されたグラフを示してそう告げる。
ジャウハラは雨が少なく、灼熱の太陽にさらされた地。
ラトゥミナは凍地を抱える厳しい寒さにさらされる地。
両者ともに作物は育ち難く、魔物など生物の生態系もジュエラルとは異なる。
その一方で、熱帯地方、寒冷地だからこその植物や生物もある。
そしてサフィアが指摘したようにジュエラルでも栽培可能な薬草などでも、その成分に違いがあったりする。
「例えば……植物は光合成によって糖分や栄養分を生成します。ですが低温下では根の養分吸収を抑え、水分含量を減らし、代わりに糖分や栄養分を体内に蓄えて低温状態に備えたりするんだそうです」
だいぶ前から戦線離脱し、お菓子を頬張っていたメラルドに「何語ですか?」みたいな顔された……。
いいから、お前はお菓子食っとけ。
「つまり通常より糖分や栄養分が多くなるわけですね。同じ様に雨が少ない地では水分をあまり必要としない植物が多かったり、保水力が高かったりするんです」
少量で水分を蓄えられるとか、もう化粧品にぴったりすぎる。
その他にも、ジャウハラやラトゥミナだからこそ栽培可能な植物や、珍しい魔物素材もいくつかあった。
夏に両国を訪れたのはそれらの調査を兼ねてだったりする。
ジャウハラやラトゥミナからそれらを輸入し、かわりに食料なんかを輸出する。
工場を建設することで雇用を生み、製品を売り出すことで国に金が入る。
その資金を国政だの新事業に充てる。
自分の事業プランを練る中で、ふとおまけで思いついた提案とは要はそういうことだった。