軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

男にはわからない美へのこだわり

「どっから色仕掛けが出てきたのか逆に聞きたい……」

「だって、ねぇ?」

いや、顔見合わせて「ねぇ?」じゃなくてさ。

お色気争いは君ら二人で充分間に合ってますよ。巻き込まないで……。

「新店舗を開こうかと思っているんだ」

お姉さん方は無視して、俺はティハルトへと向き直った。

「リリアーナのか?」

「それとはまた別件で」

すかさずティハルトが聞いてきたのは、リリアーナの盛況ぶりをよく知っているからだろう。

「そっちも第二号店の出店依頼とかはあるんだけど……手が回らないから見送りで。新事業が軌道に乗ったら考えるかも知れないけど」

ちらりと視線を投げ掛ければ、心得たリフがすぐさま頷き動いてくれる。

テーブルの上に手にしたいくつかのケースや瓶をセッティングし、そのまま後ろへと下がった。

「化粧品……?」

同じものではないとはいえ、ケースや瓶の形に見覚えがあるのだろう。

アイリーンが首を傾げてそう口にした。

そしてそれはそのものずばり大正解だ。

「うん。化粧品を扱う事業をはじめようかと思って」

「なるほど、それで女性を味方に……ですのね。ですがカイザー様、それはそう簡単なことではありませんわよ?」

「アイーシャの言う通りよ。生半可のものじゃそれこそ上流階級の女性は納得しないわ。なんたって美容に命を懸けてるもの」

美意識高そうなお姉さんコンビの発言はむちゃくちゃ説得力があった。重みが違う。

年若い女の子たちも難しい表情で頷いているところを見ると、やっぱり女性的には関心の高い話題なんだろう。

こんな美人揃いなのに、なにを気にすることがあるのかと男としては思ってしまうが……。

一方、男性陣はといえば……。

「そもそも 化粧品(そんなもの) で味方につけるっていうのは難しくないか……?」

こっちはこっちで女性の美への拘りを侮ってやがる。

「生半可なものじゃ難しい。それは重々承知しているよ。だけど……生半可なものでなく、確かな効果を実感できる代物なら評価を得ることは可能だろう?」

自信満々に俺は笑みを浮かべた。

伊達(だて) に前世女系家族で育ったわけではない。

他人や彼氏には絶対に見せないだろう、家ならではの女性の本音も散々聞いてきた。

「お兄様の考えた商品は本当に素晴らしいんですのっ!」

ソファから身を乗り出すようにベアトリクスが拳を握りしめながら声を上げた。瞳が実にきらっきらっしております。

ベアトリクスには先日色々説明済みだしな。

そして「早く試供品をっ!」とおねだりもされている。拗ねられもしたけど……。

「例えばカイザーお兄様の 御髪(おぐし) です。ご覧ください!!」

視線が一斉に俺の頭部へと向いた。

じっと黒髪を見つめ、 顎(あご) に手を当てて真剣な表情をしたアイリーンがおもむろにソファを移動すると隣へと座った。伸ばされた手が無造作に髪紐をほどき「あっ」と思わず声をあげた。

途端、ぶわりと甘い香りが漂う。

無言で髪を指で梳いたアイリーンの瞳がクワっと開かれ、ビクッっとする。こわい。

「勘違いじゃなかったのね。確かにいつもより一段と艶々な気はしてたのよ」

マジか、気づいてたんだ。観察眼すげぇな。

「で、これもその商品なの?」

「あ、ああ。潤いと艶を与える効果がある」

他には?と圧の籠った真剣な瞳で見られて説明を続けた。

つか、近いうえに目がマジすぎない?

「ダメージ補修効果もあるから、枝毛やうねりなんかも防いでまとまりやすくなるかな。これとは別にサラサラな質感に仕上がるのや、湿気なんかによる広がりを防げるのとかも考案してるけど……」

発言の途中で両手をガシッと掴まれた。

「ちょうだい!ダメージ補修で広がり抑えるやつ!」

「私も使いたいのに、お兄様はまだ使わせてくださいませんのよ」

全力で寄越せアピールしてくるアイリーンに、ベアトリクスまで不満そうに頬を膨らませはじめた。

「や、まだ試作中だから。ある程度検証は重ねてるとはいえ、最終テストが終わるまでベアトリクスに使わせるわけにはいかないと言っただろう?」

「でもお兄様は使用してるじゃないですかっ」

「だから最終テストだってっば」

それなりな長さもあるから丁度いいかなと思ったんだ。

もし傷んでも切ればいいしね。

容姿的にも長い方が似合うってんで貴族らしさを演出するために伸ばしてたけど、俺自身としてはなんのこだわりもねぇし。

むしろ社交界フェードアウトするなら短い方が楽なぐらい。長い髪は乾かすのに時間かかるんだよ。

「ご自分で実験しないでください」

静かな声でリフにも注意され、うっと言葉に詰まる。

既に散々怒られたあとだったりする。

「でも結果的に、リフも太鼓判を押すぐらいだから効果は確かだよ」

ね?と振れば、アイリーンやアイーシャたちの真剣な瞳がリフへと向いた。

「潤い効果はかなりのものと思われます。 櫛(くし) 通りも滑らかで少しも絡まりません。ただ……髪質によってはヘアアレンジが難しくなる可能性もございます。カイザー様は元々 御髪(おぐし) が艶やかなこともあり余計ですが、艶々しすぎていつもの髪紐が使えないぐらいでございました」

一言断わりを告げ、リフが俺の髪を一房手にとり三つ編みするも髪はするすると解けてしまう。髪紐もいつものだと止まらなくて、別の物を使用してたりする。

「あとは香りもちょっと改善が必要かな?花の蜜を使っているからか、いい香りなんだけど少し香りが強いんだよね」

「……もしかして香水使ってない?」

うん、と頷けば半眼で見られた。

いつもと違う香りが珍しかったのか、家を出るまで抱きついたマオたんに首元ですんすんされてました。

「素でフローラルの香りがする殿方ってなんなの……」って呟きはスルー。

「とりあえずテストが終わったら、ダメージ補修で広がり抑えるのは貰うとして」

「あたくしはカイザー様と同じ艶々のがいいですわ」

「で、他にはどんな商品があるのかしら?」

食いつきがめちゃくちゃいい。

「まだ化粧品関係は直接肌に塗るものだから試作段階が多いけど……例えばパック。化粧品、乳液、美容液成分が配合でパック機能もあって、しかもそのまま寝れるのとか」

女性陣の瞳がかっ開かれた。

お馴染のパック機能もあるオールインワンだ。

前世ではどこの店でも簡単に買えるお手軽美容用品だったけど、この世界では当然ない。

パックといえば白い液体?を顔に塗りたくったり、フルーツの輪切りを貼ったりが一般的。当然そのまま寝れるわけもないし、時間もかかるし色々大変みたいだ。

「それってリリアさんの発案ですか?」

転生組のリリー嬢の瞳も輝いていた。

オールインワンを知ってるだけにその便利さもよくわかっているんだろう。

「ええ、彼女の意見も大きいですね。他にも部下に薬草だの効用に詳しい者や、美容品の製造知識が在る者もいますので」

「ついにオールインワンがっ!」

『よっしゃっ!これで面倒な寝る前の儀式から解放される』

小さくガッツポーズを決めるリリー嬢に、アレクサンドラたちが「オールインワン?」と首を傾げた。

「あっ、そ、そのほらっ!全部の機能が一つに入ってるからオールインワン!だなって」

「まぁ!リリアも同じ言葉を使ってましたわ。お二人は気があいますのね」

えへっ?と首を傾げて誤魔化すリリー嬢を見て、この世界の美容相当面倒くさかったんだなと密かに同情した。

前世も今世も男の俺にはわからない世界の話だが、この世界に美容はとにかく手間がかかるらしい。

先のパックもそうだが、細かいところでもそれは色々あるらしい。

ベアトリクスたちみたいに最初からそれが当たり前なら、面倒ながらもまだ仕方ないと思えるのだろう。だが楽して効果があるものを知っている転生者からすれば、その苦労はまた桁が違う。

前からリリアが時々「オールインワン欲しー」とか呟いてたんだよね。

あの子マジ転生者って隠す気ないからな。

そんなリリアの 愚痴(ぐち) を聞いて新規事業思いついたから、ある意味リリアの発案でもある。

商品化できないかなー?って構想は以前からあったけど……専門外すぎてどうにもできなかった。リックやラピスを勧誘できたことで一気に実現性を増した計画だ。

「水分を蓄える性質がある素材を使うことで肌の潤いを保つ化粧品。形状記憶により肌を引き上げシワやたるみを解消する効果のあるジェルや、表面でなく内面から潤いやハリ、透明感をサポートする栄養剤など。色々考えて試作中です」

自分で説明しててなんだけどさ?

女性陣の表情が真剣すぎてめっちゃ怖いんですけど…………。

リフ、説明代わって?