軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

飼い主になった覚えはない

腰にガッシリしがみ付いたワンコもといメラルド。

「やめないでください~!!もう一年、せめてもう一年伸ばしましょうよ~!!」

「却下」

「ええ~~!?なんでですかぁ!」

えぐえぐ駄々をこねるメラルドの訴えは大却下だ。

そもそもなにをゴネているかというと……今年度で俺が教師を辞めることだ。

冬休みも終わり、今年度もあと数カ月。

それが意味するところと言えば、ベアトリクスたちの卒業だ。

元々俺が学園の教師として潜り込んだのはひとえに可愛い可愛い妹の破滅フラグが心配で仕方がなかったからだ。

ベアトリクスが卒業するいま、ここに残る意味はない。

そもそも音楽を担当していた教師が産休に入るかわりにこの立ち位置をGETしたわけだが、その教師も復帰予定だしお役目御免なのだ。

そのことを話した途端、メラルドの背後にわっかりやすく「ガーン!」の文字が浮かんだ。

そして盛大にゴネ中だ。

「手合わせしてもらえないし、それに赤点取ったらどうするんですか!ベアトリクス様たちも居なくなっちゃうんですよ?下手したら卒業できないぃぃぃ」

「普段から勉強しなさい」

いや、マジで。

留年だけは回避して!

騎士団長が胃を痛めそうだから頑張れ!

「手合わせも勉強も同級生に頼めばいいだろう?君は友達が多いんだから。なんなら公爵家に遊びに来てもいいから」

「毎日行ってもいいですか?」

「駄目に決まってるだろう」

毎日ってなに?

しかもその期待に満ち満ちた瞳は絶対勉強じゃなくて手合わせ目当てだろう。

ガチで留年しないか心配だ。

「卒業してからもまたお勉強会をいたしましょう?」

自分たちはもうテスト関係ないのに勉強会開催してあげるベアトリクスたちがマジ天使すぎる。

まだ不満たらたらながらも、渋々納得したらしいメラルドの頭をわしゃわしゃと撫でた。駄々をこねられたところで、学園長とは正式に話もついてるしもう決定事項だしな。

それにしても……と腰に懐くメラルドをまじまじと見下ろす。

そう、 見(・) 下(・) ろ(・) す(・) 。

正確な時期はわからんが、ゲームではヒロインの卒業間際にぐぐーんと身長が伸び、攻略対象者の誰よりも背が高かった筈のメラルド。

脱仔犬を果たし、多くのゲームユーザーたちから「私の仔犬ちゃんが~~」と嘆きを誘ったメラルドの身長が俺よりも小さい。

「少し身長が伸びた?」

はてな?と思いつつ無難に話題を振ってみた。

デカくはないが、ここ数カ月着実に身長を伸ばしているメラルドだ。

なにしろゲームのあれが一気に変わりすぎだっただけで普通に成長期ではある。なのでいまは特別小さいわけではないのだが……ただ普段の行動がアレすぎて、仔犬っぽさが抜けない。

「なんかこのごろどんどん伸びます。まだ伸びてますよ。身長に牛乳ってあんま関係ないんですかね?飲まなくなった今の方が伸びてますし」

「牛乳?」

「もともとあんま好きじゃないんで」

しかもよく聞くと牛乳やめた理由は俺だった。

そーいや昔、身長の低さで悩んでたコイツに「骨格からして君は大きくなりそうだし、焦って大きくならなくても小柄な今だからこそ身に着けられる動きもあるよ」的なアドバイスしたわ。ゲームで完成形知ってたしな。

そっか、ゲームのメラルドは牛乳効果に成長期が重なって一気にデカくなってたのか。んで、いまはやめてるから成長が穏やか、と。

……まさかのところで関与してました。

ある程度で止まるのか、それとも最終形態はあの高身長になるのだろうか?

ま、どっちでもいいけど、とりあえず。

「そろそろ腰に突撃してくるのはやめて」

え?なんで?みたいな顔してんじゃねぇよ。

なんでいっつも突進してくんの?ワンコの特性なの?

俺はお前の飼い主でもなんでもねぇんだけど。

徐々にデカくもなってきてるし、いつか腰をやりそうでマジこわい。お願いやめて。

廊下で騒いでしまったために無駄な注目を浴びながら、止まってしまった足を再開して目的地の食堂へと向かう。

ガーネストたちが卒業するまでは彼らとベアトリクスたちの五人で食事をとることが多かったが、この頃はメンバーはまちまちだ。

マリア嬢たちベアトリクスのお友達メンバーが加わることもあれば、サフィアやメラルドが加わることもある。

今日はベアトリクスとカトリーナ嬢の他にサフィア、メラルド、リリー嬢にナディア嬢が一緒だった。

女子たちの中に男が一人っていうのも微妙に気まずいし、こうして時々サフィアたちが加わってくれるのは正直助かる。

「あの教師、毎日女生徒はべらかしてんな」とか思われてもいやだしね。

辿り着いた食堂で頼んだメニューはサイコロステーキ。

今日は肉の気分だったんだ。うまうま。

「カイザー様は今後はどうなさるんですか?」

優雅な動作でナイフとフォークを操りながら、そう問いかけてきたのはサフィアだった。

さっき道すがら教師を辞める発言が出たこともあるだろう。

……つい廊下でそんな話題を出したため、ワンコにへばり付かれる羽目になったが。

ちなみに、「ベアトリクスも卒業するし」の一言に「え……?そのために教師になったの?やっぱりそうなの?」って目を彼ら彼女らにされたのは気づいている。

可愛い弟妹が心配すぎて教師になりましたがなにか?

「やっぱりあの話は正式にお断りに……?」

少しだけ声を潜めて窺うように聞いてきたサフィアの言うあの話というのは、ティハルトが押し付けようとしてきたお仕事だ。

「ええ、要職に就く気はありませんので」

きっぱりはっきり宣言しお肉をパクリ。

うむ、ジューシー。

なんか最近やたらとティハルトが爵位だの役職だの押し付けてこようとするんだよね。

この前も新たに打ち出す政策の主要メンバーに組み入れようとしやがったから、全力でお断りした。そういや、サフィアのお父上もあれに絡んでるもんな。

不思議そうに見てたリリー嬢たちだが、ベアトリクスからさらっと説明されて驚いたように声をあげた。

「ええっ!陛下直々の 推薦(すいせん) を断っちゃったんですか?!」

「新たな政策の主要メンバーとか、すごく名誉なことなんじゃ……」

名誉は名誉なんだろうけどね。

俺、そういうの興味ないから。

当主は弟に譲ったし、城の要職は断って、教師は辞職。

……で、サフィアの最初の質問、今後どうなさるんですか?に繋がるわけだ。