作品タイトル不明
実は信憑性がなくもなかった
部屋の中にはあらゆる書籍や植物片が散乱していた。
「散らかっていて申し訳ありません」
恐縮した様子で机の上を整えるリックに勧められた椅子へと腰かける。
庶民的な部屋の中、一つだけ浮いた豪華な椅子は俺の為に用意されたものだ。
しばらくすると品のいい大人し気な女性がお茶を運んで来てくれた。礼を言って微笑めば、細い肩が 大袈裟(おおげさ) なほどに跳ねる。
「はいーそこまで!義姉さんを誘惑しないで」
「誘惑……。お礼を言っただけだけど」
「でもカイザーさまは刺激が強すぎるんだよ。 主(おも) に外見的に」
それってただの言いがかりじゃない??
妹の言葉に目を白黒させる若夫婦を他所に溜息を一つ。
「人様の奥さんに手を出すつもりはありません」
「ロリコンだから?」
「リオ……」
ワザとらしくコテンと傾げられた首に額を押さえた。
「悪ふざけはほどほどにしてくださいね?」というリフ様の一言にすぐさま「ごめんなさーい。冗談です」とてへっと謝る姿は可愛らしいが笑えない。
マジで誤解されたらどうすんの?
お願いだから、外でその手の冗談はやめてね??
俺の人権問題に関わるから!
社会的地位が 冤罪(えんざい) で揺らぐから!!
彼女の後方では兄のリックと奥さんのレノアさんが「リオ!?」「リオナちゃん?!」と顔面蒼白で大慌てだ。
「大丈夫だよ。カイザーさまこれぐらいで怒らないし」
「そういう問題じゃない!」
ペコペコと頭を下げる若夫婦に疲れたように首を振る。
リオの気安い言動に、リックたちは未だに慣れないようでわりとよく見る光景だった。
まぁ、この程度で怒るつもりはないけどさ……自身も充分ロリ枠に入りそうな少女からのロリコン発言はマジでやめて頂きたいです。
そんなリオの発言は先日マオたちと対面した 所為(せい) だ。
「カイザー様はマオのだから!」発言が尾を引いている模様。
「この生成なんだけど……」
おふざけは置いといて、真面目な話をリックと交わす。
差し出した紙を覗き込み、真剣な表情でなにやら紙に書き出していくリック。……全然わからん。
「相変わらず凄いですね。天才的です」
「天才は天才なんだけどね……」
直接顔合わせをしてくれたらめっちゃ助かるんだが……いかんせん ラピス(天才様) は重度の人嫌いでいらっしゃる。
「君の方も随分と専門知識を身に着けたね。頼もしいことだ」
元から専門知識を有していたリックだが、それはあくまで現世での知識。
平民であるリックはこの世界特有の魔物だの植物だの由来の知識はほぼ持ち合わせていなかったのだが、ここ一年ほどでそれらも瞬く間に身につけた。
「全てカイザー様のお蔭です。仕事や生活面はおろか、専門知識を学ぶ支援までして頂いてお礼のしようもありません」
「その点ならただの投資だから問題ないよ」
脅されていたとはいえ、悪事に加担することとなったリックは現在執行猶予中の身だ。
ジャウハラの件で国に貢献したこともあり、投獄は免れ家族との生活も可能。国に居場所を把握されていることと、月に一回程度の出頭要請はあるもののそれ以外はわりと自由。
元々事業を手伝ってもらう下心もあったから、専門知識を身に着けてもらうのだって言葉通り投資に過ぎない。
むしろ『緑の指』の『異能』を持つリオまで釣れて、 俄然(がぜん) 計画の先が見えてきた。
夏休みは去年と同じくジャウハラにも訪れた。
時間の関係で船旅ではなく、今年は去年来れなかったベアトリクスも一緒だ。
短い期間だがアイリーンの故郷のラトゥミナにも訪れた。
そして秋が訪れ、冬がしんしんと色を落とし。
ルクセンブルク邸にて新たな住人を二人迎えた。
「こっちがラピスで、こっちがカマル」
紹介をすれば、向けられる視線に居心地が悪そうにラピスが小さく頭を下げる。一方のカマルはといえば興味深そうに周囲を見渡していた。
「あまり人と触れ合うのが得意じゃないから、適度に距離を保ってあげて」
苦笑いしながらの言葉は特に否はなく受け入れられた。
まぁ、ウチの人間……通常の使用人たちはともかくとして、影はランやソラを除いてわりとそーいう奴ら多いしな。
「兄上、その二人はどういった者達なんです?」
代表するようにガーネストが問いかけた。
「んー大枠でいうと私の友人かな」
「「友人……」」
「ラピスはエーデルシュタインの生徒でもあるんだよ。ちなみにベアトリクスの同級生」
「はっ?覚えがありませんが……」
「同級生ですの?!」
驚くマイエンジェルズ。
だよね、俺も最初びっくらこいた。
そしてガーネスト、覚えがないって……まさか全校生徒把握してたの?
流石(さすが) は生徒会長。弟が超優秀。
「それからジャウハラの件で色々と協力してくれた天才学者様の正体です」
「「「「「?!」」」」」
ガン見にラピスが非常に居心地が悪そうなので、さりげなーく彼の前へと立つ。
すると、トトトと近づいてきたマオが俺の脚にくっつきながら小さな鼻をすんすんと鳴らして彼らを見上げた。
彼らを……正確にいうならラピスの隣に佇むカマルを。
「いっしょ?」
「あ、マオだ」
「マオのことしってる?」
「カイザーと一緒にいたし」
…………なにやらこの二人は波長が合う気がするぞ。
ジストみたいに敵意剥き出しでなく、興味深そうにカマルに話しかけるマオたんと普通に応じるカマルくん。
そしてやっぱり同族ってわかるんだね。
だったら 何故(なぜ) にジストは俺を魔王と勘違いしやがった?という今更な疑問が沸々と再燃します。
「あー……、カマルはマオと同じく魔族なんだ」
「「「「「魔族?!」」」」」
え?なんで?!って視線をこっちに向けられても困ります。
「やっぱりカイザー様も魔族なんじゃ?!」
「違います」
「「ちがうよー」」
リリアの叫びに俺と魔王コンビの返事が被る。
「でっ、でもでもでもでもっ!!魔人ってそうそういるもんじゃないですよね?あの強面のお兄さんだってちょくちょく来るし、遭遇率高すぎませんっ?!そもそも影の皆さんも含めて人外疑惑多すぎですし!どーなってるんですかルクセンブルク公爵家?!!」
チッ……。
リリアのくせに意外に的を射たことを言うじゃないか。
その点に関しては俺も常々疑問に思ってんぜ。
「カマルは今は人型だけど、普段は基本的に虎スタイルだから」
「私の発言流された?!」
ほら、とカマルに振ればポワンと白虎に変化するカマルくん。
うわぁー!とおめめキラキラさせたマオがそっと手を伸ばしている。
他の女性陣はそれなりの大きさの肉食獣にちょっとビビっているが、カマルは大人しいから大丈夫だよー。
そしてリリアはスルー。
魔王コンビはほのぼのしているが、その他の面々はそれなりに色々と驚いているようだ。
だよね。
学園で一度も見かけたことないのに生徒だの、果ては国にすら正体把握されてない学者だの、魔人で虎さんだの 吃驚(びっくり) 情報連発だもんね。
あ、ちなみに卒業後でなく冬休みを迎える前のこの次期に二人が我が家にお引越しになったのは、ラピスが卒業に必要な出席日数と条件をクリアしたから。
まぁ、元々授業出てねぇーけどな。
「知らないこととか風習が違うこととかも色々あるかもだけど仲良くしてあげて」
にっこりと微笑んでそう告げる。
彼らが“アンジェスの皇子様”で“魔王様”なことはさすがに伏せた。
そもそも我が家にはすでに一人“魔王様”いらっしゃるしね。
あれ?
魔王様が居て、時折黒い竜が飛び立つ我が家。
ルクセンブルク公爵家って……巷で噂されるようにマジで魔王城??