軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

断罪なき未来

音楽に合わせて色とりどりのドレスが咲き乱れる。

軽やかな調べは滞ることなく会場は華やぎに包まれていた。

乙女ゲームでは定番の卒業式での断罪。

攻略対象者の半数が一学年上ということもあり、『亡国のレガリアと王国の秘宝』のストーリーはヒロインたちが入学した年からガーネストたちが卒業するまでの二年間がメインで、悪役令嬢ことベアトリクスの断罪も彼らの卒業式で行われた。

……が、卒業式はつつがなく終了し、その後も卒業パーティーも至って和やかに進んでいる。

ターンをしつつ視線でマイエンジェルを探し、幸せいっぱいの表情でダイアと踊るその姿にほっと心の中で息を吐いた。

断罪されるようなことはしていないとはいえ……“強制力”という 一抹(いちまつ) の不安もあっただけに無事に迎えられた今日の日が殊の外よろこばしい。

このまま何事もなく終わることを願ってくるくる、くるくる。

いやさ?以前イザベラ嬢と踊った例外を除き、基本学園でのパーティーではダンスはお断りしている俺だが今日だけは別。

去年、卒業生の女生徒に「最後に一曲だけ……お願いします……」ってお願いされてさ。

薄っすら涙まで浮かべられちゃったら断れないじゃん?

……で、一人踊ったらその後も断れないよね。

そんなこんなで卒業パーティーではお相手して貰えるって噂が広まっちゃったみたいで、さっきからガーネストたちの同級生からひっきりなしにお声がかかる。

もちろんそれは俺だけじゃない。

あっちこっちで「最後の想い出づくり」に必死な皆さま。

最後っていっても、人によっては社交界のパーティーでは普通にご一緒するけどね……。

薄く頬を色づけた少女たちとのダンスを重ねながら視線だけで会場を見渡す。

恋しい意中の相手や、慕っていた先輩の卒業に涙ぐむ後輩たちの姿はあれど不穏な空気や険悪な雰囲気は微塵もない。

ヒロインであるリリー嬢は、幾分ぎくしゃくとした動きでアレクサンドラとダンスをしている。

顔を合わせてはお互い真っ赤になり蒸気をあげて……となにやら大変そうだ。

ゲームのストーリーではヒロインを自国へと連れ帰ったアレクサンドラだが、実際は彼の方がジュエラルに残ることにしたらしい。

同盟国であるジュエラルとの結びつきを強め、また外交的な役割で自国の役に立つ為にそう決めたらしい。もちろん、オカンことシリウスも一緒だ

もう一人のナディア嬢は友人たちとグラス片手に談笑している。

その中には菓子を頬張るメラルドの姿もあった。

いつの間にかメラルドだけ「メラルドくん」呼びだし、貴族らしい堅苦しさがないからか他の面々に接するときよりも言葉遣いも自然で素に近い彼女な気がする。

もっとも……そこに恋愛感情があるのか、ただの可愛い後輩に対する気安さなのかは謎だけど……。

元(・) 悪役令嬢のベアトリクスも天使で幸せそうだし。

これは一先ず、ハッピーエンドでいいのかな?

「おかわり!」

スプーンで皿の中身を掻っ込み、高らかに告げたのはジストだ。

すぐさま置かれた料理を、もぐもぐ頬張る姿は好物を前にした子供のようだ。

「はぁ、喰った」

非常に満足そうなジストに、自らの口元をトントンと叩き「ついてる」と教えてやる。

一見強面な黒竜サマは、我が公爵家の料理がお気に召したのかときどき顔を出しては飯を 強請(ねだ) る。

褐色の肌に硬質そうな灰色の髪、近寄り難い雰囲気と魔族だというその事実に……最初は怯んでいた使用人たちも今では普通の客人扱いだ。

マオは相変わらずジストが嫌いみたいでフーフー 威嚇(いかく) してるけど。

「最近は魔物や人間に可笑しな動きはないかい?」

「ああ、俺の知る限りではな」

強面な男前が運ばれてきたショートケーキを前にほわりと喜色を浮かべた。

いそいそとイチゴにフォークを刺す姿は外見と落差がありすぎる。

この外見詐欺めと、自分のこと棚上げな台詞を飲み込んだ。

食べるだけ食べ、満足して去って行ったジストの姿を見送りながらふと思う。

アイツ、ストーリーにほぼ関わんねぇうえに微塵もヒロインたちに興味抱かなかったな、と。

まぁ、ガーネストもダイアもサフィアも他所で勝手に恋愛してたし、メラルドやジストは「恋愛?なにそれおいしい?」状態。

ヒロインとまともに恋愛してたの、実はアレクサンドラだけっていうね。

そして竜が飛び去る公爵家。

ご近所さんにどう思われているんだろう?

ますます魔王疑惑が深まりそうなので、 是非(ぜひ) とも人型で帰還してほしい。なんなら馬車用意するから。

どどーん!と効果音が聞こえそうな立ち姿。

腰に手を当て、仁王立ちでいまにも高笑いを浮かべそうなナイスバディーな美女が居た。

「お待たせ致しましたわ!!」

いや、待ってないです……思わずそんな言葉を飲み込んだ。

代わりに引き攣りそうな笑みを湛えて「お久ぶりです」と一先ず挨拶をする。

「まさかの本当に来た……」

げんなりした表情で額を押さえるのは、そんな彼女の親戚でもあるアレクサンドラだった。

「本当の本当に来られましたね」

問題児が増えたね。

シリウス、乙!

「まぁ、なんですの?その反応はっ!……っと、そんなことよりもラン様っ!!ラン様はいずこですの?!」

密な 睫毛(まつげ) に彩られた魅惑的な瞳をキョロキョロと 彷徨(さまよ) わせる美女の正体は、もう一人の悪役令嬢ことアイーシャだ。

「ランならいまは 任務(おしごと) 中ですよ」

アイーシャが目に見えてしゅんとした。

「その……アイーシャ様はいつまでジュエラルに?」

「ずっとですわ」

…………ずっと?

「あたくしもアレクサンドラ様と同じく、ジャウハラの為にもジュエラルに根を下ろすことにいたしましたの。わからず屋のお父様なら沈め……説得済みですし、なんの問題もありませんわ!!」

思わずアレクサンドラたちを見れば、沈痛な顔で頷かれた。

そしていま、沈めてって言いかけたよな?

「それと、あたくしのことは呼び捨てで構いませんわ。愛しのラン様のお仕えする方々ですもの。この身も配下に加わりましょう」

いや待って、あなた一応王族……。

困惑する俺の裾を細い指先が 躊躇(ためら) いがちに引いた。

その動きにアイーシャの視線がベアトリクスへと向かう。

「あら、貴女は?」

まさかの元悪役令嬢コンビの対面。

マジマジと見つめられ、キュッと裾を掴む力が強まった。

まぁ、初対面でこの迫力美女に向き合えばそうなるよねと、可愛い妹の頭をそっと撫でる。

「妹のベアトリクスです。ベアトリクス、彼女はジャウハラの王族のお一人でアイーシャ様だよ」

「“ランがお仕えする”カイザー様方の妹君で、ルクセンブルク公爵家の姫君です」

「初めまして。アイーシャと申します。なんて愛らしい方かしら。是非仲良くしてくださいませね」

流れるようなリフの一言で、アイーシャの態度が激変した。

今日もリフの手並みが鮮やか。

値踏みするような視線から一転、にこやかに話しかけてくるアイーシャにベアトリクスは戸惑い気味だ。

それでも恋愛話で盛り上がり、そこそこ仲良くなったようだ。

そして……もう一人のお色気おねーさんはというと。

無事に元気な男の子を出産した。

待望の世継ぎの誕生に王国は沸き立った。

「この子が『異能』を持っていようといまいと構わないわ。この子こそが私たちの大切な宝物だもの」

抱き上げた塊は温かく、ほんのりとミルクの香りがする。

ウトウトと眠っているその頬をつんつんと突く。

「可愛いだろう?」

「確かに可愛いけど、早くも親バカ全開だね」

ドヤ顔のティハルトを見て腕の中の幼子へと「ねー?」と笑う。

「まぁその点は予想してたから問題ないわ。っていうか、二人とも赤子の扱い慣れすぎだから」

どこか呆れたアイリーンの声。

ぶっちゃけ新米ママより幼子の扱いに慣れてる俺らですがなにか?

「ね、乾杯しましょう?」

「お前はまだ酒はダメだぞ」

間髪入れないティハルトの言葉にアイリーンが赤い唇を「わかってるわよ」と尖らせた。

「 ノンアルコール(お茶) でいいわ。乾杯したいの。ティハルトとカイザー様と。この子の未来に。王国の行く先に」

そうして持ち上げられた、もう湯気も消えたティーカップ。

肩を竦めて倣うように繊細な取っ手に指を掛ける。

「親愛なる 親友(我が友) にして敬愛なる王と聡明にして麗しき王妃に」

口にしたのは、過去にも何度か紡いだ言葉。

「戦友にして伴侶たるわたくしの半身と愛しき友に」

「我が最愛と 永久(とわ) の 親友(とも) に」

宙に集う三つのカップ。

「この子の未来と王国の未来に」

「「「乾杯」」」