軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

押し売りではない

教材やノートの間にチラリと見覚えのあるロゴが覗いた。

「カイザー様?」

首を傾げた拍子にさらりと髪が揺れ、俺の目線を追ったサフィアの頬が「あっ……」と小さな声を上げるとともに薄桃に染まった。

恥ずかしそうに荷物を抱え直す姿が微笑ましい。

バッチリ見えちゃったけど。

そしてそんな彼の珍しい姿に、頬を染めるこっちを盗み見ていた女性と……一部男子生徒。うん。

「何にするかはもう決まりました?」

「いえ……まだ」

周囲に聞こえないようにこそっと聞けば、戸惑ったように首を振られた。

彼によくお似合いの美少女の姿が脳裏に浮かび、そしてそんな彼女が大いに喜びそうな“あるもの”の存在を思い出す。

「サフィア様のクラスって明日の2限は自習ですよね。ご予定とかあります?」

確かベアトリクスがそう言っていた筈だ。

この時期、自習や特別授業のクラスは多く、それこそ三年のガーネストたちなんてまともな授業はほとんどない。

不思議そうながらも首を振られた。

「なら明日のその時間サボっちゃいません?」

教師ならざる発言だ。

でもまぁ、自習といいつつ課題もなければ図書室とか移動もOKの自由時間。実際にはおしゃべりをして過ごす子が多いみたいだし問題ないだろう。

「お勧めがあるんです。宜しければパンフレットとか持ってくるので、明日音楽準備室にいらっしゃいませんか?」

そんな約束をしたのが昨日の三限、音楽の授業が終わりサフィアと立ち話をしていた時だ。

一限終了の十数分前。

音楽準備室に訪ねてきたガーネスト、ダイア、アレクサンドラ、シリウスの四人。

「すみません兄上。アレクがあんまりにもウザかったもので……」

うん、あれはウザいね。

最近わりと目にする、初恋に悩めるアレクサンドラはぶっちゃけメンドイ。同感だ。

「授業は平気なのかい?」

「一限の語学は課題を提出したら退出OKですし、二限目は自習なので」

「本当にいつもご迷惑をおかけして申し訳ありません。ですがアレク様が……ここ数日ホワイトデーのお返しに 鬱陶(うっとう) しいぐらい悩んでおられまして……」

ウザいとか 鬱陶(うっとう) しいとか、アレクサンドラの扱いが雑。

まぁ、悪いのはキノコ生やしそうなアレクサンドラだが。マジでゲームのキャラどこいった状態だ。

「タイミングがいいような悪いような……」

どういうことですか?という問いに、腕を組んだままソファの上の紙袋に目をやった。

「ちょうどサフィア様にその話をしようと呼んでたんだ。なので少なくともダイア、君は邪魔」

気安さもあってそんな軽口を吐く。

渡す相手の兄貴がいるとか絶対気まずいよね。

えっと口々に驚く声。

事情を知ってるリフも困り顔だ。

「サフィア様もカイザー様にご相談を?」

「いいえ。完全にこちらのお節介です」

そんな話をしている間にも一限終了のチャイムが鳴り響く。

あぁ、サフィアが来ちゃう。

「とりあえずダイアだけでも居なくならない?」

「嫌ですよ。僕もちょうどベアトリクスに贈るものの相談をしようと思って来たんで」

そしてこっちは想い人の兄貴だろうが全然気にしやがらねぇな。

そしてその間もうだうだと「あれは本命チョコだろうか?」「お返しはどうすれば……やはり指輪か装飾品……」だのヘタレ王子がうるさい。

婚約指輪並みのガチな指輪は重いからやめとけ。

ダイアたちみたいに婚約成立してんならともかく、どう考えても告白が先だろ。

トントンと響いたノックに大変申し訳ない気分になる。

リフに迎え入れられ室内に入った途端、中にいた面々を見て一瞬固まったサフィア。

マジでごめん。

完璧善意の行動だったのに裏目に出たわ。

「本当にすみません」

ぎこちないながらも、いいえと首をふってくれるサフィアの前にもコーヒーが置かれる。リフの淹れた香りのいいそれを一口飲んで、脇の紙袋を引き寄せた。

「それは?」

まず取り出した数枚のパンフレットに疑問の声が上がった。

見慣れたロゴなのに見覚えがないからだろう。

それもそのはず。

「リリアーナの売り出し前の次回作パンフレットです」

そして机に並べるのはその現物。

「あ、もちろん押し売りするつもりはありません。この中から選べということではありませんし、ですがリリアーナの今期のホワイトデー用ギフトをお考えならコレとコレらはその、あまりお好きでないかと……」

サフィアが持っていたのと同じホワイトデー用のパンフレットからいくつかを指させば、覗きこんだダイアがああと声をあげた。

「ナッツ系のクリームはシェリル駄目なんだよね」

おい、こら。

人が一応気を使って名は伏せたのに……。

「もしそちらがお気に召したのなら、中身を一部だけ変えることも出来ますよ」

「え……?あの、その?」

キョトンとするサフィアに「どうしました?」と首を傾げれば「カイザー様」とリフに呼ばれた。

「サフィア様は『リリアーナ』のオーナーをご存じないのでは?」

ぽんっ、と手を打つ。

なるほど、それはそうだ。

「大人気店の『リリアーナ』はカイザー兄上が立ち上げられた店だ。今や貴族平民問わず騒がれる商品やラインナップを取り決めておられるのもな」

そう言うガーネストは新作パンフレットをガン見している。

同じく知っていたダイアもベアトリクスへのお返しの吟味へと余念がない。

驚きを露わにするのはサフィア、アレクサンドラ、シリウスの三人。

「はっ?オーナー??」と瞳が雄弁に物語ってる。

うん、公爵家の嫡男なのに教師はしてるわ、その上に店持ってんのかよって話だよね。

まぁ細けぇことは気にすんな!!

「実はそうなんですよ。なので融通はききますよ。あっ新作は開けて自由に味見してください。で、一番のお勧めはコレです」

続いて取り出したのは数段になった小さなケース。

包装された菓子の箱とは違い、細かく区切られた空間には色とりどりのパーツが並んでいる。

「こっちは完全受注生産で売りに出そうとしてる新作なんですけど、パーツを使って世界に一個のオリジナルアクセサリーを作れるんです。これは100%喜ばれるんで 是非(ぜひ) どうぞ」

シェリルちゃんを知ってるからこそ断言できる。これは絶対に喜ぶ。

現に前にチラッと話題に出したら、ベアトリクスもシェリルちゃんもめっちゃ食いついてたし。

女の子ってこういうの好きだよね。

しかも好きな相手の手作り。喜ばないわけがない。

見事に釣れた青少年たち。

お目当てのサフィアだけでなく、なんかいっぱい釣れてるけど。

めっちゃ真剣な表情で小っちゃなキラキラを覗きこんでいる絵面はなかなかレアだ。

「兄上、俺も作っていいですか?」

「もちろん」

ちゃんと確認とってくれるだけガーネストは真面目でいい子だね。

どこぞの王子らは完全に使うビーズ類の選定に入ってるしね。作る気しかねぇよ。お前ら用に持ってきたわけじゃねぇんだけどな。

だけど意気込みとは逆に、なかなか作業は進まないみたいだ。

ちなみに実際の売り出しでは……事前に専用の用紙に好みのパーツ番号を記入して、専門の職人さんたちが仕上げたものを商品につけてくれます。数パターンのデザインから好きなのを選んで、さらに一部のパーツを選択していくことで組み合わせは無限大的な。

なのでここまで一から作成!って感じじゃないんだよね。

「どう作ればいいかわからん」

「フィーリングでいいと思いますけど。まずはブレスレットかストラップかを決めて、あとは好きそうなデザインや色でイメージを固めてく感じですかね」

コーヒーを置き、幾つかのパーツに手を伸ばす。

大小の赤系のビーズに差し色に金を混ぜ、可愛らしいパーツをポイントに加えていく。

もう一つはキラキラと輝く飾りを多めに上品さを残しつつ華やかに。

こんな感じ、とテーブルに置いたのは二本のストラップ。

「こっちがマオで、こっちがベアトリクスをイメージしてみました」

「素晴らしい出来栄えです。マオもベアトリクス様もさぞお喜びになられるでしょう」

褒めてくれるリフと反対になんか青年らが 項垂(うなだ) れてるんですけど。

「ハードルがあがった」とか「普通に売り物みたいですね」って言ってるし一応褒めてくれてるっぽい。

「こんな感じでいかにも女の子らしくするのもアリですし、逆にシンプルにして互いの誕生石だの瞳の色だのを使ってお揃いもいいですね。ストラップなら身の回りのものにつけて日常使いも出来ますし」

むしろそっちのが喜ぶかもしれない。

自習の2限だけでは終わらなくて、 何故(なぜ) か放課後にも集合された……。