軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

やってみたら意外に出来るものらしい

あちらこちらからグッサグサと視線が突き刺さる。

視線に物理的威力があれば、 惨殺(ざんさつ) 死体が出来上がっているだろうってぐらいに好奇を帯びた視線が痛い。ついでに 不躾(ぶしつけ) な心の声も。

半信半疑な人達もいるけど……思ったより噂を信じてる奴らが多いのはなんでだよっ?!

あと、生きてたのか、とかバケモノ見る系の驚愕も多数あります。

「出血が多かったですしね。それと、伯爵家の惨劇が伝わっているので余計なのでしょう」

「なるほど」

ガーネストの説明に納得した。

腹もだが、腕からの出血はわりと酷かった。直前にワインを飲んでたから、血流がよくなってたこともあるかも知れない。

コンパクトのお陰で臓器は外れたし、毒は武器に塗る毒としては適してなかったうえにリオの能力で効果の高い解毒が成された。

いきなり家に現れたソラにわけもわからん状態で王城へ『転移』させられたらしいし……彼女たちには今度謝罪とお礼をせねば。

だが、そんなことを知らない人達からすると……あんなに大出血で、しかも伯爵夫妻たちは絶命してる毒を喰らってなんでピンピンしてるの?!状態なわけですね。

そこでまた俺の魔王説が復活するわけだ。おぅふ。

広い円卓にはお偉いさんたちが勢揃いしていた。

車椅子で大注目されつつ重役出勤した俺らも座についた。

交わされる議題に時折参加しつつ時が過ぎるのを待つ。

そしてついに例の話題が上がってしまった。

「陛下っ、先日の一件について詳しい説明を求めます!!夜会でのクトゥルフ・アシュトンの口にしていたことは事実なのですか?!我々は知る権利があるはずです!」

「前ルクセンブルク公爵夫人がアンジェスの末裔であるというのは本当ですか?カイザー様はアンジェスの血を引いておられるのか?!」

「アシュトン家の惨劇に、それからアンジェスの皇子とみられる亡骸や王冠が発見された件についてもご説明をっ!!」

口角に泡を飛ばし捲し立てる貴族たち。

中には椅子を蹴り倒し立ち上がるオッサンも。元気だなー。

「静まれ。アシュトン伯爵家の件は現在調査中だし、クトゥルフは拘留し取り調べ中だ。裁判ののち刑は追って発表される。アンジェスについてはそもそもあれは疾うに滅んだ国。遺跡の調査結果については後日発表もあるだろうが、仮令その血を継ぐ者が居ようと、王冠が見つかろうと歴史的観点の価値はあろうが我が国の在り方にはなんら関わりがないということは理解せよ」

一国の陛下のお言葉にも「なにを悠長なことを」だの「 隠蔽(いんぺい) されるつもりか」など血気盛んな皆様はヒートアップに余念がない。

国会の生中継を思い出すね。あれほど寝てる人はいないけど……。

「で?お前はアンジェスの皇子だったのか?話題のご本人様」

「まさか。事実無根の言いがかりに驚いていますよ」

ティハルトからの問い掛けにいつもの笑みを保ったまま肩を竦める。

「ですが貴殿はあの男の言う通り“黄金の瞳”の持ち主ではありませんかっ?!」

「それにヘレネ様の件だってある!」

やれ『異能』を持たないだの、王冠を公開すべきだ!だの、やんややんや喧しい。

「確かに私の瞳は金ですが、それが皇子の証明となっては……世界中に幾人もの皇子が誕生してしまいますね。条件は“『異能』を持たない金の瞳の男子”ですか。該当者はそれなりな数ですよ?」

クスリっと首を傾げれば、瞳の件をあげた貴族の顔が真っ赤に染まった。

…………ちょっと待て、その赤い顔は 憤慨(ふんがい) だよな?

屈辱ゆえだよな?

不自然に逸らされた顔に思わず心の中で突っ込んだのは、そのオッサンが女遊びが激しいどころか一部顔の綺麗な男にも手を出している噂を思い出してしまったからだ。

うん、憤慨だ。

馬鹿にされて激怒したに違いない。

「 詭弁(きべん) だ!」コールは黙殺した。

うるせぇ!詭弁じゃねぇ、ただの事実だ!!

「だ、だがっ!!ならば 何故(なぜ) カイザー様は『異能』をお持ちでないのです?そのことはどう説明されるおつもりか?!」

別のオッサンの追及には「さぁ?」と返した。

実は『異能』持ってるけどね。

むしろ神殿での判定で『無能』判定された理由は俺も知りたい。成長してから突然『異能』が発現するとか聞いたことねぇもん。

「私の母上が『異能』を持っていなかったとして、なにか問題が?貴方方は『無能』の私のことを散々平民との間に出来た不義の子扱いしてきたではないですか。同じようには考えないのですか?どこかの代で平民の血が混ざっていた。そう考える方がアンジェスの末裔だなんだを持ち出すより余程簡単でしょうに」

嫌味を混ぜて応戦すればオッサンsが答えに詰まった。

不敬をしてきた自覚はあるのだろう。

「しかし貴殿がこの場で否定しようとも信じる輩は居よう。 此度(こたび) の件のようにアンジェスを信仰するものには狂信的な者も多い。【皇子】の存在にそういった輩が団結することは脅威だ」

落ち着いた声でそう告げたのは侯爵家の当主だった。

幾つかの声が彼に追従した。

「仰ることはもっともです。ですが私自身が言い出したならともかく、言いがかりをつけられた身としては否定することしか出来ぬのもまた事実です」

そう返し、車椅子から立ち上がってティハルトへ向け跪いた。

「この身はジュエラルの臣下たるルクセンブルク公爵家の前当主ヴィクター・フォン・ルクセンブルクとその妻ヘレネの息子であり、亡国アンジェスと一切の関わりがないことをルクセンブルク・フォン・カイザーの名に 於(お) いてここに誓います」

ゆっくりと首を垂れる。

私的な感情から喚く奴らはどうでもいいが、侯爵たちのように事態を憂う貴族たちの発言にはこっちだって誠実に対応する意思がある。

そのうえで出来ることは否定だけなんだけど。

「必要とあらば、 宣誓(せんせい) を行いましょう」

「「「なっ?!」」」

た(・) だ(・) の(・) 言(・) 葉(・) では納得できないだろう。

だが 宣誓(せんせい) ならば別だ。

誓ったことを覆すことは出来ないし、なにより偽りを見抜く嘘発見器。

「なにを仰るのです兄上?!」

まぁ、ガーネストが驚きの声を上げるのも無理はない。

宣誓(せんせい) は罪人が二度と罪を犯さないことを誓ったり、冤罪をかけられた者が無実の証明に行うようなものだからあまりイメージのいいものではない。

「言葉だけでは信用できない方も多いだろうからね。別に構わないよ。私はアンジェスなど興味もなければ関わる気もない。侯の仰るように下らぬ輩の旗印に利用されるのに比べれば、その程度不名誉でもなんでもない」

そのまま立ち上がろうとすればガーネストが手を貸してくれたし、こっちが移動するまでもなく車椅子が移動してきた。

ほんと皆めっちゃ過保護じゃね?もう怪我ほぼ治ってるよ?

さすがに俺が 宣誓(せんせい) を持ち出してくるとは思わなかったのだろう。場にざわざわとした動揺が広がった。

「必要ない」

よく通る声が騒めきを打つ。

「家名による誓い、確かに聞き届けた。下らぬ妄言に踊らされる輩の為に、お前が不名誉を被ることはない」

「ですが陛下っ?!」

「なんだ?いいか、勘違いするな。議題にこそ上がったが、疑惑の根拠は一切なく、あるのは犯罪者の妄言だけ。本人が否定したうえにまだ食い下がるのであれば……そなた自身になにかしらの疑惑が浮かんだ際には、証拠などなくとも 宣誓(せんせい) に立たされる覚悟はあるのだろうな?」

冷えた視線を向けられて凍りつくオッサンs。

口をあわあわさせて言葉を失うオッサンsを見て「いいぞ親友!強気な王様っぽくてカッコいいぞー」と大拍手。

あっ、 勿論(もちろん) 心の中でよ?

不満そうな連中を置いといて議題は次へ移り、面倒な集まりは 漸(ようや) く終わりをつげた。

…………が、すぐに解散といかないのがこの集まりの面倒臭いところだ。

貴族にとって繋がりや情報収集は必須。上層部や当主格、それに連なる貴族が多く集まる面々が顔を合わせたら挨拶だの雑談だのが交わされるものだ。

親しい貴族家の当主がご子息なんかが体調だの聞いてきてくれるのはまだいい。

キレた場面見られてめっちゃ気まずいがまだいい。

好奇心しかないミーハー共や掌返してすり寄ってこようとする小物共がウゼェ。

そしてそんな小物の一人から聞き捨てならない言葉が聴こえた。

『こうなったら、ベアトリクス様にでも……』

ああ゛?

聴こえた名前に、思わずヤーさんみたいな声を上げそうになった。

俺らから望む答えを引き出せないから、ベアトリクスに接触しようってか?いい根性だコノヤロウ!とスッと瞳を細めてデブ子爵を見あげる。

なお見上げるのは俺が車椅子だからであって、デブより背が低いとかじゃない。勘違いしないように!

「くだらない妄言には本当に迷惑しております」

あくまで会話の延長のように、だけど周囲にも通る声で告げる。瞳は笑っていないだろうけど、薄っすらと微笑みも浮かべたまま。

「あのような派手な事件があった後ですから多少騒がれるのもわかります。ですが私に対する 戯言(ざれごと) ならともかく…………我が公爵家や家族に迷惑がかかる事態があれば、許す気はありません」

以前リフやハンゾーがやってた、怒りで体感温度を-5℃下げる技をマネしてみた。

「手を出すのなら、それなりの覚悟はして頂かなくては。…………もっとも“それなり”程度で足りるとは思えませんが」

言い切り、あえての笑顔をにっこり向ける。

脅しじゃないですよ、雑談ですよアピールするように柔らかな笑顔だ。これ、温度差で逆に怖いと思うんだよね。

初めての挑戦だから彼らほど温度を下げれなかったかも知れないが、デブの喉がヒクっと引き攣ったし、周囲も不自然に沈黙が降りたからそれなりに効果はあったぽい。

やったね、 牽制(けんせい) 成功!