軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過保護が絶賛加速中

「あーん、してくださいませ」

「あーん」

差し出される果実にぱくりと口をあける。

「美味しいですか?」

「おいしぃ?」

微笑んで頷くことで二人に応える。

喋ると果汁が溢れちゃいそうだからね。

うん、ジューシー。さすがは公爵家で出されるイチゴ。質が違うぜ。

現在、俺はベッドの上で可愛い子ちゃんたちにご給仕を受けている。ここ最近の恒例です。

毒も抜けきり、王城での療養から自宅へと戻ったのは少し前。傷こそまだ完全に癒えていないが経過は良好。

だが……心配させまくった代償か、みんながめっちゃ過保護です。いやマジで。

休めコールが 凄(すご) いし、トイレ行くのさえ運ばれそうになったときは断固拒否した。

ハンゾーたちよ、時には怪我人に歩かせることの方が優しさの時もあるんだぞ。

利き腕を怪我してることもあり、食事の介助をしてくれようとする気持ちは大変嬉しいのだが……なんせ経験皆無な子たちだ。

アツアツをスプーンで突っ込まれて「アチッ」ってなったり(当然平気なフリをした)量が多すぎて口の中がいっぱいだったり、逆に少なすぎてえっらい時間かかって冷めちゃったり。

そもそも左手は無事なんでスプーンなら使えるのだが、ベアトリクスもマオもやたらと張り切ってお世話してくれるので断りづらい。

そんな現状を見かねたシェフたちが用意してくれたのが、可愛いピックが刺さったデザートのフルーツたち。

これなら食の平穏も保たれつつ、彼女たちの役目もなくならない。ありがとう、トーマスたち!!

ちなみに左手のみでも食べれるように作ってくれた今日の昼食は、ガーリックライスonサイコロステーキ。

うまうまっ。

しかもこの世界のニンニク、香りはするのにお口が臭くならない優れもの。あれか、やっぱ乙女ゲーム由来の世界でニンニク臭はNGでしたか。

至れり尽くせりの療養生活だが、難点をあげるなら暇なことだろうか。

毒抜き期間は多少のダルさも残ってたし、絶対安静のため薬を盛られ……げふん、薬に睡眠導入効果も含まれていたからいくらでも眠れたが、いまはそう一日中寝てられない。

無聊を慰めるために影たちが一風変わったものを入手してきてくれたり、マオが絵本を読んで寝かしつけようとしてくれたり(読み手が眠っちゃうのもご愛敬)するが、ぶっちゃけ暇だ。

と、いうことで。

「そろそろ私も仕事を手伝うよ」

「仕事のことなど気にせず兄上はゆっくりお休みください」

「も、もう充分休んだし。いい加減……」

「なにを仰ってるんです。まだ怪我は治りきっていないではありませんか」

切り出した提案は気遣いにより断られ、食い下がるも最後まで言う前に却下された。瞬殺。

さらに言うなら数日前にも同じような遣り取りをした。その時はガーネストだけでなく全面一致で「お前の仕事は寝ることだ(意訳)」とばかりに却下されたがな。

別に動き回って仕事をするつもりはないし、書類仕事ぐらいは平気なのにと思いつつ、心配かけた自覚はあるから大人しく引き下がったのだが……そろそろいいんじゃないだろうか。

今こそ地味な特技を活かすとき!!

実は俺、両利きである。いや、基本的には右利きだし、剣とか力が必要な動作は利き腕だけど文字書いたりは両方使えるんだよね。

幼い頃、両手でペンを持てれば書類仕事が2倍の速さで出来るのでは?!と思って取得した特技だ。

…………取得した……んだけど。

動かせる手が2本あっても、肝心の頭は1つだって現実を突きつけられて崩れ落ちたのは懐かしい思い出だ。

まぁ、速度倍は叶わんかったけど地味に役立つことはあるからいいんだけどさ。

そして、右腕が使えないいまこそこの特技を使う時!!

反論の突破口を探しつつ、密かに燃えていると意外な助け舟がもたらされた。

「宜しいんじゃないでしょうか」

「いいのか?」

ガーネストが訝し気な視線をリフに向けるのもよくわかる。俺とリアンも同じ視線を向けてるし。

なんせ過保護筆頭だもんね。

「ええ。さすがに眠るのも限界のようですし。負担にならない程度のお仕事をして頂いた方が動きも少ないですし、夜もぐっすりと眠れるかと。簡単な書類を仕分けして簡易のデスクをお運びいたしますね」

「「「…………」」」

要(よう) は、下手に動かれるぐらいなら大人しくする 餌(えさ) を与えとこってことですか?

あと、お仕事はこの部屋なんですね。

疲れたらすぐ寝ろ、ってことですね。

リアン……覚えとくといいよ。

こうやって主人を掌くるくるするのも従者の必須スキルだぞ。

でも出来ればリアンには、今のままの素直なリアンでいて欲しいな。

「私も出席しよう」

「なっ!その必要はありません!!ルクセンブルクの当主として俺が出るのですから、他家に異論など言わせはしません」

「まだお身体も万全ではありませんのに……」

まぁ、本音を言うならガーネストやリフの言葉に頷きたい。

本当は行きたくない。寧ろこのまま引き籠りへの道をひた走りたいなって思う今日この頃だ。

なんでって、そりゃあ恥ずかしいからだ。

普段のキャラを失って、人様の前でブチ切れた件が恥ずかしくて仕方ない。

しかも一人や二人じゃない。よりにもよって王城の夜会。目撃者の人数は推して知るべし。

ましてや変な噂つき。その噂が真実かどうかなんて関係ない。

貴族は人の噂が大好きなのだ。

現在の カイザー(俺) の噂がどうなっているのかを思えば、もう人様の前に出たくないとヒッキーに憧れても仕方ないと思う。

余談だが、うっかり願望を口に滑らせた結果……。

「ねー“フェードアウト”ってなぁに?」

悪気皆無なマオたんがリフにお首傾げて問いかけた。

慌てて両手で口を塞ぐ俺。首を逸らして不思議そうに見上げるマオ。

なんで俺じゃなくて時間差でリフに質問するんだマオ?!

「マオ?その単語はどうして急に出てきたんです?」

笑顔の圧にたらりと汗が伝った。

思わず緩んだ手をどけてマオが素直にリフに答える。

「えっとねー「いっそ身罷ったことにしてフェードアウトすればよかった」って。みまか、る?もわかんない」

結果、むちゃくちゃ怒られたのは言うまでもない。

絵本に集中してたマオが聞いてたとは思わずうっかり漏れたんだよ。「恥ずかしくてもうお外出れない!!」の心境だったんだよ。

ガーネストやベアトリクスにもチクられてしこたま怒られました。ご、ごめんって。

そんな本音を言うならお外に出たくはない俺なのだが、そういうわけにもいかないよね、当然。

現在、貴族たちの間では俺のことがめちゃくちゃ噂になってるらしい。

貴族たちっていうか、国中、耳の早い者なら他国でも……何それコワイ。

まぁ、噂の内容はブチ切れたことじゃなくてデマの方だが。

検索ワードがこの世界にあればきっと一位を独占状態。うれしくなー。

そんな中、年も明け王城で貴族たちが集まる議会でその件が議題に挙がるそうだ。

アンジェスの狂信者は世界中にそれなりにいるからな。

しかもその狂信者の一人が大国の王の暗殺未遂を企てた事実もあり、【アンジェスの皇子】発見疑惑は軽視できることじゃない。信憑性はともかくとして、娯楽として騒ぐ貴族たち以外でも危惧の念を抱くような内容なのだ。

今回は体調の件もあるから出席を強制されてはいないし、ガーネストは行かせる気はなかったようだが……。

「私自身が行かなければ、余計な噂が独り歩きするだけだろう。もっとも、私がなにを言ったところで聞く気があるかはわからないけど」

下手な噂が広がる前に早めに否定はした方がいい。それが聞き入れられるかは別にして、否定したっていう事実は重要だ。

くだらない噂はともかく、公爵家に不利なことでも言われたらたまんないし。

その重要性は当然当主のガーネストも理解していたので、不承不承ながらも納得してくれた。……が。

「ではせめて、お身体に障るといけませんから車椅子を準備しましょう。リフ」

「はい。畏まりました。病み上がりともなれば、従者が控えていても不思議ではありませんね。車椅子を押す者も必要ですし、私とハンゾーがお傍につきましょう」

「ああ、陛下の許可はとっておく」

や、普通に歩けるんですけど。

車椅子とか目立ちません?

護衛をつけるための理由付けですか??

俺の言葉は無視ですか。

シカトなんですね、わかります。