軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

朽ち果てた玉座と王冠

カーテンの隙間から流し見る風景に感慨はない。

指を離せばひらりと揺れたカーテンが世界を閉ざす。腕を組み、瞳を閉じて背もたれに背を預けた。揺れる振動、馬車が走るのは母さんの故郷だ。

だが一度も訪れたことのないその地に懐かしさなど在りもせず、縁戚が跡を継いだ領地とはもはや関わりすらない。

目的地はそんな母さんの故郷を越えた先。

今はもう 何処(どこ) の国でもない、地図の上では何も存在しない荒れた大地。

「 此処(ここ) が……?」

そこは、朽ちた神殿のような建物だった。

騎士の一人が古びて色あせた紙を広げる。

「これは例の 廃墟(はいきょ) の 瓦礫(がれき) の下から発見した地図です。この×印が此処で……」

地図に置かれた指が×印から真っすぐに動き、細い線を辿り一際大きな×印へと続く。

この場所はジュエラルの国境ギリギリの位置で到達点は国を出た先。地図には道らしき線が描かれているが、アンジェス亡き今、国の外に広がるのは見渡す限りの大地のみだ。

「事前の調査で神殿内の地下に入り口を発見しました。方向はこの地図とも適合します」

「つまり隠し通路があると?」

「はっ!前回のことがありますので、詳しい確認は出来ておりませんが恐らく」

やたら畏まってくれる騎士から借りた地図をじっと見る。

前回のこととは、例の実験施設のような拠点が崩壊し廃墟と化したことだろう。その教訓を活かし、人員や能力者を揃えての再調査が今日。

……で、そんな危険性もある調査にのこのこ参加を申し出た高位貴族が俺、と。

「必ずお守りします」と力強く誓ってくれる誠実な騎士さんに申し訳なさが募る。

のこのこしゃしゃり出た自覚がある分「お貴族様の物見遊山かよ」って邪険にされるより罪悪感が刺激されます。すんません。

俺のことはリフやハンゾーが守ってくれるんで、お気になさらず!

一足先に下見に降りてたディーク副団長たちが戻って来てざっと作戦会議。場所が地下ということもあり、崩れたとき用に『土』や『防壁』系の能力者を均等に配置しつつ、神殿の地下へと降りる。

中途半端に朽ちた柱や彫像が微妙にホラー。

扉を開いたのは『解除』系の能力者だろうか?

騎士達が石の扉を押し開けた向こうには……先が見えない深い闇。灯りにぼんやりと浮かぶ通路は何処まで続いてるのか全く見えない。地図を見る限りは相当長い距離がありそうだ。

光源が乏しいこと以外は歩きやすい通路を連なって歩く。

「あの神殿のような建物は一体……?長らく放置されていたようですが、誰かこの通路の存在を知る者などはいなかったのですか?」

「それがなぁ、奇妙なほど誰もあの神殿のこと知らねぇんだわ。まぁ、用がなきゃわざわざ訪れないってのはあるんだろうが。それにしてもやたら人の記憶に残ってねぇ」

「周囲の人間にも?」

「ああ、最初はわざと隠してんじゃねぇかと思ったぐらいだ」

距離も曖昧になりそうな通路をどれくらい歩き続けただろう。先頭を歩く騎士が暗闇の先になにかを発見した。

近づき、灯りを向けたそこに転がるのは…………物言わぬ、白骨だった。

***

その少し前、ある場所にて。

「だれか、来た」

ぴくり、と隣の存在が反応する。

「人、いっぱい」

「どこ?」

「あそこ」

「……」

「どうする?」

問うてくる彼にゆるりと首をふる。

どうもしない、その意思表示に彼はコクリと頷いた。

「……カイザー」

驚きを含んでぽつりと呟かれた名前。

きゅっと手の甲に重なる温もり。

寄り添うように、守るように、いつも側にあった温もりがそっと肩を寄せた。

***

「酷ぇな、こりゃ」

思わず、といったディークの声に同意する。

進むほどに増える、物言わぬ屍。壁や至る所につけられた獣の爪痕や争った跡。もはや赤でなくなった変色しきった血の跡に、年数が経ち白骨と化した屍たち。

辿り着いたのは、そんな場所だった。

通路の先にあったのは、広々とした空間だった。

通って来たのが仄暗い地下通路ではなく、通常の入口から入ったなら立派な屋敷や施設と見紛うばかり部屋があった。調度や生活に必要な全てが整えられた空間は、それなりな人数の人が住んでいたとみて間違いない。

此処で何があったのか。

抉るような獣の爪痕から魔獣でも侵入したか、それとも飼ってでもいたのかとも考えたが……とてもそれだけとは思えない。

何故なら残された傷痕には明らかに人同士で争った剣によるものも多い。

「仲間割れでもしたか?」

零れ落ちたディークの問いに答えてくれる生者は存在しそうもなかった。

手がかりを探しいくつもの部屋をまわる。

簡素な部屋。書斎に、なにやら器具が沢山置かれた実験室。やたらと豪華な部屋や広間。どこもかしこも荒れ果て、此処で起きた争いの激しさを物語っていた。

奥へ進んでいくと、一目で質の良さを感じさせる調度が設えられた部屋の書架が不自然に前にせり出していた。床に続く血痕と、血塗れの本。奥へと続く隠し通路。

その先に、一つの亡骸があった。

他の死骸とは違う、明らかに上位の者の出で立ち。

うつ伏せに倒れた亡骸はまるで『王』の 亡骸(なきがら) だ。

朽ちてボロボロになった白いファーのついた真紅のマント、なにより亡骸が戴く王冠こそがそう思わせた要因だった。

背中に突き刺さった剣。

神殿の隠し通路と同じような石造りの扉のある方向へと伸ばされた手。

身体を引きずったような血の跡。

その光景にざわざわと周囲が騒めいた。

だけどそんな周囲に気を払う余裕もなく…………俺の視線はただ一点へと向けられていた。視線を逸らすことができない。

ディークたちが亡骸を改める姿を呆然と見遣る。

石が擦れる音が響き、騎士により石造りの扉が開かれると……長い、長い階段が 其処(そこ) にはあった。

「どうかなさいましたか?」

心配そうに覗きこむリフにいや、と首を振って脚を踏み出す。

一段、また一段と長い階段を下る。

もう俺には予感があった。

確信にほど近いある予感が。

それに向かって一歩、一歩と脚を踏み出す。

そして、其処にあったのは_____________。

地下とは思えぬ程に光に満ちた空間。

魔術か、それともなんらかのファンタジー技術によるのかはわからない。光に満ちた其処は神聖な場所だった。

荘厳な、だけど、同時に酷く朽ち果てた…… 空(から) の玉座。

知ってる。

俺はこの場所を知っている。

繰り返しプレイした乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』のオープニング映像で何度も目にした 空(から) の玉座。

王が座る代わりに、たった一つの王冠が鎮座していたあの玉座の間だ。

さっきの亡骸、あの男が被っていた王冠こそゲームで目にしたそれだった。

ならば、あれがアンジェスの皇子____?

虚ろな 眼窩(がんか) を覗かせる物言わぬ白骨。

かつてそこに輝いていただろう瞳の 色彩(いろ) はわからない。けれど……。

飛び交う光の筋が画面に煌めき、光は宝石となり王冠へと嵌る。

攻略対象者たちの瞳の色を模した宝石たち。

オープニング映像では唯一つ描かれなかった、物議を 醸(かも) した中央に嵌る宝石。

それは、

俺の瞳と同じ 満月のような黄金の輝きをしていた。