軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不思議ちゃんと構ってちゃん

「久しぶりっ!」

元気に扉を開いて声を掛ければ、ちらりとこちらを見た視線はすぐさま手元の本へと戻された。

「反応うっす!だけどそのそっけなさが懐かしい。いや~、帰ってきたって感じするわ」

だが、そんな「しーん……」な沈黙に怯む俺ではない!!

むしろ本へ視線を戻す寸前、小っちゃな声でおざなり感満載とはいえ「久しぶり」って返してくれただけ上等だよね。

最初の頃ならきっと返答どころか下手したら視線すらくれなかったやも知れん。うん、仲良くなった!

「カマルもただいまー、久しぶりだな。相変わらずもっふもふっ!」

両手の荷物を床へ置き、ついでにカーペットの引かれた床に直座りして…………いざ、もふもふターイム☆うぉぉ!癒される。

そしてそんな絶賛もふもふされ中なカマルくんですが、一瞬挨拶みたいにこっちに押し付けてくれた鼻先は今や持ってきた荷物に向かってフンフン、クンクン。

俺よりお土産が気になってしゃーないですか、そうですか。

そんな沈黙に怯む俺ではない!!とか言ってみましたが、いい加減凹みますよ?いじけるよ?

二人(一人と一匹)とも反応薄過ぎじゃない?構ってよ!!

駄々っ子みたいになりながら、関心を引き付けるべくお土産を取り出す。

まぁ、ハナからカマルの関心はそっちだったが……。

お菓子や食べ物メインのお土産を次々取り出すも一匹はともかく、もう一人の反応は薄い。礼儀正しくお礼は言うものの反応うっすい。

ふふふ、だがコレはどうかな?

満を持して、最後の紙袋へと手を入れた。

「じゃ~ん♪」

効果音と共にとりだしたソレに彼の意識が向くのが分かる。明らかに引けた興味に、してやったりと口元に笑みが浮かんだ。

取り出したのは数冊の本。

「なにが喜ぶかなー?」と考えたところで、彼が一番興味を引きそうなものが本だった。

ただ……あらゆる書籍を読破してそうな彼だ。読んだことのない本なんて当然ながらわからないので、希少本・とにかく他国へ出回ってない本を探して貰ったから中身が面白いかは保証出来ないがな。

お土産としてなにかが間違ってる気がしなくもないが、気にしたら負けだ。

手を伸ばして本を受け取り、ぺらぺらとページを捲る妖精さん。

「「…………」」

降りる沈黙。

ぺらぺらと本を捲る音だけが響き、お腹いっぱいになったのかカマルがくあっと欠伸をしてカーペットへと寝そべる。

「えっ、待って?!さっきより相手してくれなくなってねぇ?ちょっ、無視??お土産話とか積る話とか聞いてくんねぇの?ねぇ!!ねぇってばっ!!」

完全なる読書タイムとお昼寝タイムに入った二人だった。

真の仲良しへの道は、まだまだ遠いようである。

灼熱の国で過ごした暑く、熱くて、慌ただしくも波乱に満ちた夏は過ぎ、賑やかな文化祭を終えた学び舎は色づく紅葉を散らした秋のように僅かなもの哀しさを孕み、やがて冬が来た。

今年も残るところあと半月。

慌ただしい一年が過ぎ去ろうとしていた。

室内の暖気と外気の気温差に白く霞む窓の外を、ぼんやりと眺めながら季節の移り変わりに想いを 馳(は) せる。

季節は冬。ゲームではほとんどの問題が解決済みの季節だ。

学園モノで、しかも攻略対象者の約半数が一学年上ということもあり、 物語(ストーリー) はヒロインたちが入学してから始まり攻略対象者が揃う今年がメインだった。

共通ルートであるジャウハラ編も終了し、あとはクリスマスのデートイベント、バレンタインの告白イベントに卒業イベントなど。乙女ゲームの 醍醐味(だいごみ) である恋愛イベントが残るだけ。

誰を選ぶかによってその後の学園生活が変化したり、ラブラブなショートストーリーが展開したりはするが危険なモノは特にない。

もちろん、 此処(ここ) はもはやゲームの世界ではなく現実だとそう認識してはいるが……、 物語(ストーリー) を思い起こしてしまうのは仕方のないことだ。

ゲームでは既に 悪役令嬢(ベアトリクス) のプチ断罪(嫌がらせがバレて糾弾&婚約破棄)も済んでいた。

けどウチの可愛い 天使(ベアトリクス) が嫌がらせなんてする筈ないし、第一ダイアとは婚約もしてないがな!

それでもなんでか前倒し的な感じで、イザベラ嬢に断罪チックな吊し上げ喰らったが……。

現状ジャウハラとの友好は強固だが、不安要素がないわけじゃない。クレインに 大臣(ワズィール) にサヴィアス、悪事の主犯者たちが次々に亡くなり全容の解明が出来ないのだ。他に関係者が居ないか両国が捜査を進めているが……。

それとゲームの 物語(ストーリー) とはもはや関係ないが、かつて合宿で遭遇した裏家業さんたちが探してたどっかの拠点。

崩れ落ちた 廃墟(はいきょ) の捜索は続けられていたらしく、 瓦礫(がれき) の下から発見された地図から新たに怪しい場所が見つかったそうだ。

年の瀬でクソ忙しいこの次期だが、あの場で見つかった前世の世界の文字・“ CLONE(クローン) ”のことが気掛かりすぎるので俺も同行させてもらうことにした。

だって気になる。むちゃくちゃ気になる。来週明けに出発予定です。

つらつらと色んな事に想いを 馳(は) せながら人気のない廊下を歩いていると、渡り廊下の手前、窓に凭れるように立つ少女の姿を見つけた。

「……ジュリア嬢」

いつかのデジャヴのようにその名を呼ぶ。

「どうしてこんな場所に?」

その言葉も、いつかのそれによく似ていた。

だけど一つだけ異なるのは……あの日、占いの最後のカードを渡す為に彼女が待っていたのと違い、今回の遭遇が偶然であること。

「ごめんなさい。体調が悪くて遅刻したんですけど……もう一限は終了間際ですし。授業を中断するのも申し訳ないので、チャイムが鳴るまで待とうかと思って」

「体調はもう平気なのですか?」

「ええ、軽い貧血なので治まりました」

そう告げるジュリア嬢は顔色も悪くなくほっと息を吐く。

そうだ、と思い付きポケットから出したモノを彼女の掌へと落とした。

「これは……飴玉?」

色とりどりの包みの正体はご明察の通り飴玉。

低血糖とかなら甘いモノがいいかなと思って。あ、でも糖分取り過ぎはダメな場合もあるんだっけ?食べられなかったら誰かにあげてー。

「甘いモノ……お好きなんですか?」

小首を傾げて不思議そうに問われ、ハッとする。

そうだよね、成人男性、しかも貴族があんまり飴ちゃんポケットに忍ばせてないよね。

「あー、嫌いじゃないけど……持ち歩いてるのは人にあげる用?」

若干(じゃっかん) 疑問形になりながら答えれば、マオやメラルドたちを餌付けしてる姿を思い出したのか納得したようだ。飴玉も「ありがとうございます」と受け取ってくれた。

落ちた静寂。

紫に赤が混じり込んだ不可思議な色合いの瞳が俺を見上げる。

じっと見つめられて思わず肩が小さく揺れた。

「 混沌(こんとん) としてる……」

託宣(たくせん) のような言の葉。

その瞳が見抜くモノを、その言葉が指すモノを知らない。

だけど、微かな不安だけが胸を過った。

スカートのポケットに手を入れた彼女が何かを差し出す。

「……鏡?」

差し出されたソレは、シンプルな銀色のコンパクトミラーだった。そこそこ年代物に見える表面には剣を守る二対の翼を持つ蛇が 模(も) されている。

渡された意味が分からず首を傾げていると、いつかのように彼女は告げる「差し上げます」と。

「 飴(コレ) のお礼です」

「いや、ただの飴ですし。お礼なんて要りませ……」

「お守りです」

淡々としつつ強い声が言葉を遮る。

「お守りです。肌身離さず身につけてください。どうか……混沌に呑みこまれてしまわないようお気をつけて」

鳴り響くチャイムの音と共に、背を向けたジュリア嬢は去って行った。

ぽかん、とその背を見送り、そして鳴り響くチャイムの音にはっとして慌てて脚を動かす。

教室から出てくる生徒たちに見つかると面倒くさいからね。

そそくさと辿り着いた先はお馴染の図書室。

「こーんちゃ!」(意:こんにちは)

ゆるーい挨拶を向ければ、まねっ子なのかカマルが右手を軽く上げて出迎えてくれた。机を挟んで妖精さん(仮)の向かい側の椅子に座って、また何やら書き 綴(つづ) ってる彼の手元を覗きこむ。

うーむ、わからん!

集中してる彼の邪魔をしない程度にカマルと 戯(たわむ) れていると、一段落したのかペンを置いた彼が顔をあげた。

「今日で授業終わりだからさー、 暫(しばら) く会えないし、挨拶代わりに寄ってみました」

受け持ちである音楽の授業は今季最後なので、明日からは生徒たちより一足早い冬休み。年末年始やら誕生日やらのパーティーに事務仕事、オーナーの企画と大忙しだが。

あれ、休みって一体??

「そういえば、ティハルト……国王陛下がお前を気にしてた」

「…………」

「だよな。断っといた」

無言で不満オーラを発する姿に苦笑いして告げる。

わかりやすく拡散するオーラに心の中で「この人嫌いさんめ」と呟いた。

「正式な要請でないし、面会は断れたけど……ジャウハラの治療薬なんかの件で功績を称えて褒美がでるっぽい」

「いらない」

「おっ?友達特権で陛下に交渉してみたんだけど?名誉や褒章より、貴重な文献や書物がいいなーとか」

「……いる」

素直でよろしい。

「……で、だ。 諸々(もろもろ) 、今後の論文とか発表するにも、姿は見せないとしても名前は必要になってくるわけですよ。ってことで、名前教えて。ないなら付けよう!」

あえて軽いノリで提案する。

以前「ないし必要ない」と拒絶されたのが微妙に尾を引いてたり……。

時折人に対して深い拒絶を見せる彼に、どこまで踏み込んでいいか測りかねて若干ビクビクしていたが……特に気を害してなさそうな反応に内心ほっとする。

考えるように数秒宙を見つめる妖精さん(仮)。

「……カマル」

名前を呼ばれたカマルがコテンと首を傾げる。だけど彼の視線はカマルではなくこちらへ向いたままだった(前髪で見えないけど)。

「……って待てっ。今のカマルって、カマルを呼んだわけじゃなくて名前かいっ!却下!!人の名前を使うんじゃありません」

「人じゃなくて虎だけど」とかってツッコミは聞かねぇからな!

なに不満そうにしてやがる。

あっ、おもむろに本開いて……目についた単語名前にする気だろ?そうはさせねぇ。

「面倒臭い……。なんでもいいでしょ」

「よくないでーす。なら妖精さんにするぞコンニャロウ」

「別にいいけど」

「いいのかよっ?!」

即答に思わず怯んだ。

いや、確かにいいよって言われそうだなって前に思ったけど……。本当にいいのか……。

「じゃあ俺が決める。決めていい?」

興味なさそうに頷いた彼と、どこかキラキラと期待の籠った視線をむけてくるカマルを前に、脳をフル回転させる。

……が、妖精さんの単語だけが頭をぐるぐる。

「し、宿題でっ!」

猶予(ゆうよ) をください。

「休み明け、次に会う時までに考えとくから」