軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

渾名は『魔王』

震えながら 縋(すが) りつく華奢な身体をそっと抱きしめる。

悲し気に顰められた眉、潤んだ瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだった。

「お兄様……」

「ベアトリクス……」

言いたいことありありな瞳で、ジトッと見てる 背景(ダイア) のことなんて気にしませんよー。気にしないったら気にしません。

一か月ぐらい前にも同じシーンあったとか、そんなことも気にしません。

二度目だろうが何度目だろうが、可愛い可愛い妹と離れ離れになるのは後ろ髪を引かれて仕方ないんだよ。

「むしろお前が魔王じゃね?」と言いたくなるような我が親友にして国王陛下にこき使われ、 怒涛(どとう) の仕事を熟した俺は、再びジャウハラへ戻らねばならぬのだ。

し・か・も!

「 ジャウハラ(あっち) も 暫(しばら) く大変だろうからな。お前ら、滞在期間延長しろ。一瞬で帰って来れるなら、滞在を伸ばしても問題ないだろう」

そんな人使いの荒い王サマの言葉で滞在期間延長。

船旅での帰国は約十日。余裕をもって二週間は見込んでいたので、その分働いてこいってことですね。鬼か。

グッバイ、船旅……。

いつまでもエンドレスリピートしそうな別れを惜しみつつ身体を離す。いい加減にしないとティハルトがブチ切れて乗り込んできかねない。

「とっととアイリーンを連れ戻せっ!」ってな。

「滞在は伸びたけど、帰りは一瞬だから船旅では無理だった食材なんかも持って帰れるよ。ジュエラルにはない美味しいフルーツやお菓子も、お土産を山ほど持って帰るから楽しみにしてて」

「はい、楽しみにしてますわ。でも沢山のお土産よりもお兄様やガーネスト、みんなが無事に帰ってきて下さることをお待ちしています」

早く戻ってきてくださいねと微笑んでくれるベアトリクスが尊い。

あまりの天使っぷりに、再び抱き寄せてエンドレスリピートに入りそうになったよ……。危ない危ない。

ジストに乗ってジャウハラへ。

実際には黒竜姿のジストに乗り、ソラが『転移』してるだけだが。

周囲がジストの能力と勘違いしてるのは 敢(あ) えての放置です。切り札は幾つでも隠しておきたいし、身近に能力者が居ると知られれば……某親友に便利に使われまくる気しかしない。

なによりリフの『異能』もそうだが、便利すぎる『異能』持ちは他所の貴族から引き抜きかけられやすいのだ。だからあまり公にしたくないんだよねー。あげない。

「怖い怖い!!」「やだやだやだやだ、無理ですってばっ!」とジストに乗ることに尻込みしまくりだった 第三王子(マティス) と交換にアイリーンをジュエラルへと連れ戻す。

「着いたよ」

声に恐々と瞳が開かれる。

「すごい、本当に一瞬」

瞳を閉じていた一瞬で変わった景色に驚き、丸くなった紫紺の瞳は次いでたった一人を捉えた。

捕まっていた手にきゅっと力が籠る。大股で近づいてくるその人物を前に身動き出来ぬ彼女を支え、その身体を丁寧に地へと降ろす。

「約束通り、 二(・) 人(・) を無事連れ帰ったよ」

アイリーンの顔を、そしてそんな彼女の神秘的な曲線を見て……言葉もなく立ち尽くす親友へと声をかけた。

そっと背を押せば、両手をそっとお腹に重ねた彼女の鮮やかな唇が開く。

「ただいま」

「……っ、このバカ」

唇を引き絞り、色んな感情を押し殺したティハルトがアイリーンを抱きしめる。荒々しい衝動をもって、それでいて壊れモノを扱うように抱きしめられたその腕の中で、アイリーンは「ごめんなさい」と長い睫毛を伏せしおらしく謝った。

けれどそのしおらしさは一瞬。

「反省はしてます。だけど後悔はしてないわ」

だって……と 嫋(たお) やかな繊手がティハルトの手を己の腹部へと導く。

「一緒に戦うって決めたもの。わたくしたち二人の為に。この子の為に」

揺らぎない鮮やかな紫紺は、強く美しい母親の瞳をしていた。

さて、美男美女の美しくも感動的な再会シーンではあるが…………目の前の親友sは人前であることをお気づきだろうか?

黒竜におっかなびっくりながらも王妃を出迎える為に集まった臣下も大勢いるんですよね。

まぁ、人前だからって自重する二人じゃないか。知ってた。

つい数時間前、ダイアに向けられてたようなジトッとした目を二人へ向ける。

あっ、言っとくけどベアトリクスとイチャラブしてたのは個室だから!人前では一応自重してるから。ダイアたちは居たけどさ……それはまぁ、身内みたいなモンだし。

それに俺らのは健全な兄妹のラブだし!ラブラブカッポー(死語)のイチャつき見せつけられるよりは、居た堪れなさとか少ないと思うんだ。

そしてその居た堪れなさを感じてる同志たちの視線が、こちらに向いてるのは 何故(なぜ) ですかね?

理知的で温厚そうな第二王子の視線が「そろそろ止めてください」と雄弁に語っている。

アイリーンと共に帰国したメイドたちからも(こちらはイチャイチャに辟易してというよりアイリーンの身体を心配してなのだろうが)同様の視線が注がれていたりする。

自分たちで止めればいいじゃん!!

一番近くに居るからですか?と思いつつ、声を掛ければティハルトに 若干(じゃっかん) 睨まれた。理不尽!

「積もる話も言いたいことも沢山あるだろうけど、まずはアイリーンを休ませてあげて。その後、私や騎士団長達の分もたっぷりお小言お願いね」

体調を気遣う言葉を出せば、はっとしたティハルトが流れるようにアイリーンを抱き上げた。なんて自然 且(か) つ絵になる光景。異世界の王子(もう国王だが……)恐るべし。

俺のお姫様抱っことは大違いだぜ。なんせ俺の時はまさかの抱き上げられる側だったからな……しかも二回。

やや遠い目でそんなことを思いながら、しれっと要望を織り込ませるのも忘れない。

マジで叱っといて。

ついでに皇太后様も。

それから数週間。

ジャウハラでの事後処理を熟し、愛しい我が家に無事帰宅しました。

全力で帰国を喜んでくれるベアトリクスに、宣言通りに山ほどのお土産を渡してジャウハライベントはなんとか終了。

余談だが……、帰国に際してもう一人の元悪役令嬢・現恋する乙女なアイーシャが涙でハンカチを濡らしながら「きっと、きっとお父様たちをぶちのめ……説得して、あたくしもジュエラルへと参りますわっ!」ってランに泣き縋ってたのが印象的だった。

本気で国を出る覚悟らしい。

意外に乙女思考なお姉さんは超一途だった。

……それはそうと、「ぶちのめして」って言いかけたよな?絶対。……アイーシャの父、逃げろ!

なお夏休みはとっくに終わっている。なのでガーネストたちは慌ただしく学園生活へ戻ったし、俺もなんだかんだで忙しい日々を過ごしている。

教師にオーナー、公爵家当主の補佐的なのから王族ファミリーのパシリ的なのまで……二足のわらじならぬ何足履いてるの??な多忙かつ穏やかな日々だ。

あれ……?俺ってもしかして 仕事中毒(ワーカーホリック) ??

以前と変わらぬ日常。

いや、一番変わったことと言えば……。

「カイザー様が魔王だったって本当?」

「やっぱり!」

「黒竜が使い魔なんだって!」

「黒竜……って去年の文化祭の?」

「たった数人でスタンピードを鎮圧したらしいぞ!!」

魔王扱いがいよいよ本格化したってことですかね?

学生たち、そーいう噂話はもっと本人に聞こえないとこでやりなさい。や、聞こえてないつもりなんだろうけど、丸聞こえだから。

まぁ、それでもこうしてわいわいと 囃(はや) し立ててる学生たちはまだいい方だ。こうやって気軽に話題に上げられるってことは、本気で信じちゃいない証拠だし。

一部の貴族のオッサン、特に当たりが酷かった奴らなんて……最近じゃ蒼い顔でぺこぺこ・そそくさ逃げ出す始末。ガチ怯えられて困ってます。

「怖くないよー。ほら、怖くなーい」とお得意の微笑みを浮かべれば浮かべる程に「ひぃ!」ってされる。どうしろと?

そんなことを思いだしながら、ふぅ、と溜息を吐きつつ両手に荷物を抱え無人の廊下を歩く。

久しぶりにふわっふわのもふもふに癒して貰おうと心に決めながらたん、たん、たんと地下への階段を下りていった。